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第十話 † Apostata

equality




 アステリア帝国はエイシア王国を滅ぼした連合国、その中核を成していたベイン大公国へ宣戦布告すると、その日のうちに侵攻を開始した。ベイン大公国は旧連合国に支援要請を出したが、ベイン大公国の同盟国二カ国が参戦しただけであった。これには訳がある、ティアリスの宣戦布告の公式文書の中にこうあったのだ、『ベイン大公国に支援した国は滅ぼす。』その一文だ、現にアステリア帝国にはその戦力がある、レイティス王国を半日かからず落としたのだから、ベイン大公国を落とすことなどわけはない、しかも戦争直後で戦力は十分ではない、一部の兵はエイシア王国から引き上げておらず、正面からぶつかるのは危険であった。

 だが、ベイン大公国には秘策があった。国王を含めて一部の人しか知らない兵器が…



 フェイク大公は広場に集まった国民に向けてメッセージを送った。


『誇り高き大公国の国民よ、ベイン大公国は悪しき帝国には負けることはない、

 我ら祖国の為に悪しき帝国に立ち向かおう!

 例え多くの血が流れ、大地が赤く染まり血の雨が降ろうとも、我らの心は悪魔にも負けない!

 共に剣を取って戦おう!エイシアを退けた時のように、今一度我らの意思を示そう!』


 広場に溢れ返った民衆の声が雄叫びのように響いた。広場を公国軍が隊列を組み行進する、彼等はそのまま最前線へと送り込まれることになる。だが相手は黒の天使達を始めとする軍勢、正面から戦って勝てる相手ではない。



 国境警備隊から伝令が来る、すでに帝国軍の先遣隊は国境を突破したという。報告内容は『魔族多数、数は不明、警備隊は壊滅、第三防衛線に接近中』辛うじて食い止めているようであった。

大公は軍政官に言った。

「第三防衛線に敵が来たら、あれを使え」

軍政官は黙りこみ、そしてその場を去った。




 大公国の第三防衛戦の手前では接戦が繰り広げられている、敵の先遣隊が多数と云っても高が知れている、数で勝る大公国軍に正面から戦を挑むのは無謀とも言える。敵の本隊が来ればその時は防衛線が崩壊するだろう、いつまで持つだろうか、軍政官は王宮の窓から戦場の方を見た。


 山脈の向こうが戦場であり、直接みることはできない、西日が山肌を赤く染めて、まるで燃えているかのように見えた。




『報告!アステリア帝国軍、第三防衛線を突破、戦闘は膠着状態。』その報告を聞いた大公は大笑いをした。


「今しばらく耐えよ!」


 大公の命令を受け、伝令の兵士はすぐさま最前線へと馬を走らせた。軍政官に向けて大公は「あれを出せ」と命令を下した。




 膠着状態が続き、見かねた帝国軍四将の一人、黒の天使ジークヒルデが黒い大鎌を片手に前線に踊り出た。敵の中に飛び込むと大鎌で敵を薙ぎ払う、公国軍の兵士を倒すうちに異変に気づいた。

「なんだ、こいつら…」

ジークヒルデは思わず声を漏らし、再び大鎌で薙ぎ払った。それは生気が感じられない生きた人形のようだった。黒の天使が使役するそれと似ているが、それらは魔物などではない、アンデッドと言ったほうが正確なのかもしれない、ジークヒルデの前にいるのは死者の群れだった。

「魂のない肉体など…無様ですね…」

 ジークヒルデは漆黒の翼を広げて大鎌に手を翳した。

「フェラムダルク」

 ジークヒルデは大鎌を敵軍に向けて勢いよく放つ、それは敵を次々に切り裂いて岩に突き刺さると消えた。既に空に舞い上がったジークヒルデは漆黒の弓を構えていた。

「まとめて消え失せなさい、、デイス エイル レイユ」

 ジークヒルデの放った矢は無数の雨のように敵に降り注いだ、戦場となった荒地に砂埃が舞い上がり視界を覆う、砂埃がおさまって視界が戻った時、敵の姿はそこになかった。だが少しすると敵は再び立ち上がり、襲い掛かってくる。

「なんだ…この魔力…嫌な感じ…」

 何かを感じたジークヒルデは戦場となっている平原を見渡した。




 フェイク公王は笑っていた。エイシアに投入する事はできなかったが、この戦いならその兵器を使える。それは公国内でも反対意見が多く、その為、闇に葬られ公に存在を知るものはいなくなった。


 だが、厳重な警備の中、錬金術師達によって極秘に実験を継続され大量に生み出された人間の複製、それがあの『死者の軍団』だった。




ジークヒルデは右手に漆黒の大鎌を再び召喚して地上に舞い降りた。

「全軍、目の前の敵を全て殺せ、神の教えに背く愚かな人間達に神罰を下す」

 リリスもそうだが、ジークヒルデにとって戦争などはどうでもいい、気は短いが好き好んで人を殺める訳ではない、 できる事なら大人しく降伏して欲しいと願っていた。だが彼らは自然の摂理から逸脱して生命を創り出した。創造は神のする事であって、ましてや人間が生命の創造主になることなど許してはいけない、そう考えれば帝国軍はベイン大公国を倒す正当な理由を得たことになる。


 ジークヒルデは何かが吹っ切れたように大公国の軍勢を倒していく、『魔導鏡』を使いティアリスにこのことを伝える、緊急を要するとき以外は使うなと言われているが、この場合は仕方ない、ティアリスにベイン大公国が作った『生命体』の存在を伝えると、ティアリスは不敵な笑みを浮かべてジークヒルデに言った『ベイン大公は終わった』、ジークヒルデは言葉の意味するところが分からなかった。




 人間に比べ、遥かに体力のある魔族、そして黒の天使、彼らからすれば長期戦は苦にはならないが、この際限なく沸いてくるモノのせいで思うように進めずにいた。地上は血の海になっていく、しかしその血は人の血ではない、この不気味な人形達の血だった。

「全軍、村まで一時後退、私が戻るまでラインを専守防衛せよ」

 『撤退』『後退』はジークヒルデの嫌いな言葉だが仕方ない、命令を出して自身は空へと舞い上がる闇の中を単身敵陣めがけて飛んで行く、地上も暗く明かりは見えなかった。敵の本陣はまだ見えない、ただ、地上からはアレの呻き声が聞こえてくる、死者たちよりも無気味だった。



 ジークヒルデは地上を見ながら敵陣へ向かっていった。、召喚にしろ何にせよ、こいつらが発生している場所があるはずだ、それを何とかすればこの均衡を崩せるはずだ。


 ベイン大公国は首都に近づくにつれて山岳地帯になっていく、山岳地帯から森林まで、戦場には隠れられそうな場所なら無数にある、それを探すのは骨が折れる、いっそ全て焼き尽くしてしまえたらと思った。

 ふと視界の片隅に微かに薄っすらと何かが見えた。木々の間を縫って慎重に近づくとそれは魔法円のようだ、だがそれは魔法円に似ているが天使やエルフ達、妖精が使うものではない、どちらかといえば人間の魔術士や錬金術士の使うものに似ていた。ジークヒルデは天高く上がると、地上を見下ろした。同じように魔法円が何箇所かにあるようだ、ジークヒルデはその魔法円に向けて手を翳す。

「全て焼き付くせ、『ダルクヴェイルフェラム フューフェイ』」

ジークヒルデの前に漆黒の魔法円が現れ、闇の炎が地上へと放たれた。地面に向かって一直線に落ちていく、地上にぶつかり漆黒の炎が森を覆い、周囲を死の世界に変えていった。木は枯れ、生物の肉体は腐り落ちていく、その後には変わりはてた亡骸だけが無様に転がっていた。

 ジークヒルデは不意に、何故ティアリスは世界を滅ぼさないのか、死の世界にしないのか、黒の天使なら容易ではないのかと考えた。そして何故人間は、此れほどの力を持つ黒の天使に刃向かうのか疑問に思い、理解できなかった。





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