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第九話 † 使徒  ~光の世界に復讐する者~

 アイシアが次の獲物に目標を変えた時、突然…ドンッと鈍い音がしたと思うと、アイシアは吹き飛んでいた。そして天使と共に倒れていた。先に起き上がったのはアイシアの方だ、アイシアは天使に馬乗りにって見下ろしていた。

「ユリシア…?」

 アイシアはユリュシアをそう呼んだ、それは外交官として紹介されたときに、ユリュシアでは呼びにくいというので『私は貴女をユリシアと呼ぶ』と宣言してから公の場でもそう呼んでいる。

 アイシアは立ち上がりユリュシアに手を差し伸べた。ユリュシアはその手をとって立ち上がる。エルダ達にしてみれば一種異様な光景だ、国はもとより種族さえ敵性はず、リンも理解できなかった。

「ユリシア、ここは戦場よ、貴女の来る場所ではない、貴女は戦場に来てはいけない。」

 アイシアの知っているユリュシアは外交官であり軍人ではない、ましてやアイシアのような戦闘慣れしているわけではない。

「アイシア様、私はフレイ王国の救援に来ました。しかし、私は貴女と剣を交えることは望みません、エイシア王国の同盟国として、貴国に剣を向けたことは許されないでしょう。しかし、私はこの戦いを終わらせたいのです、停戦を願いたいのです。」

「今更だな…」

 剣を握り直しユリシアの方を見る、その目は敵愾心に満ちていた。

「ユリシア、ここは戦場よ、そういう戯言は私を倒してからにしなさい」




 アイシアが突然斬りかかると、その剣をすかさず避け、左手に剣を召喚して握った。光の大剣、銀色に輝き、鏡のようにアイシアを映した。実力が分からない相手というと少し怖い気もするが、戦闘訓練されていない、自分よりは明らかに弱い相手、武官ではなく文官、殺すのは容易はずだ。一度間合いを開くとユリュシアに斬りかかる、ユリュシアは剣で受けると、その剣を弾いて上空へ逃れた。それを追って剣を構えなおすと追撃して斬りつける、わずかに届かなかったがユリュシアの振った大剣が頬を掠めた。剣に迷いは無い、本当に戦闘慣れしていないのだろうか、素早く間合いを詰めて斬りつける、剣の速さではこちらの方が上だが、ユリュシアは大剣をわずかに動かして攻撃を受けていた。

「本気を出しなさい」

 ユリシアの動きには迷いがないが、それ以上は何もない、ましてや傷つけてくる気はなさそうだ。受けた剣を弾き、左手を翳しす、『フェーレンダルク』魔力の解放でユリシアの身体を弾き飛ばす。

「ユリシア、殺すつもりできなさい!」

 その言葉に戸惑いを見せるが、ユリシアはすぐに態勢を立て直し空へ舞い上がった。

「本当の力を見せてもらいましょうか、ユリシア」

 素早くユリシアに接近すると胴を斬りつける、後ろに交わしたところに更に斬りつけ、反撃の隙を与えないようにして攻撃を加える。ユリシアは交わすか、剣で受けるか、それだけで精一杯のようだった。

 ユリシアの剣を弾いて斬りこむ、その剣はユリシアの左脇腹を斬った。服が裂け、血が滲む、更にユリシアを斬りつけると、それを避けようとしたユリシアの右脚を斬りつけた。

地上で見ていたリンやエルダ達のいる場所にその血が滴り落ちた。

「やめろ!もういいから!」

 リンが上空の天使達に叫ぶが聞こえていないのか戦いは終わらない、聞こえたとしてもどちらかが倒れるまで続くのだろう。ユリシアは反撃する力はなく、避けることさえままならなくなっている、最後の一振り、ユリシアはその剣を大剣で止めたが、ユリシアの剣は落下し、消失した。もう勝負はついている、これ以上の戦闘は無用だった。

「本気を出さないと死にますよ」

 攻撃する手を止める、『確かめたい』その一心だった。ユリシアがアイシアを睨みつける、その目を見てぞっとした。ティアリスと同じ眼だ、その瞳にティアリスと同じものを見た。『ダルクエシュヴァルト』ユリシアの右手には漆黒の剣が現れ、ユリシアはそれを握った。

ユリシアの翼はその付け根から黒く染まったかと思うと、白い翼に一瞬だが瞳のような模様が現れ、翼は漆黒に染まった。

 ユリシアが漆黒の剣で斬りつけてきたので咄嗟に剣で軌道を逸らす、だが思いの外強かった。距離をとるがユリシアの速さは鍛えられた黒の天使のそれより速い、攻撃の速さも力も黒の天使そのものだった。だが、このままではユリシアの身体は耐えられずに崩壊するだろう。

「ユリシア!」


 一度間合いを開いてユリシアの追撃を交わす。一瞬だが攻撃の手が止まる、ユリシアが苦しそうに声をあげた。離れて様子を見るとユリシアが翼を大きく広げ、その翼が元の倍以上巨大化した。その姿はティアリスそのものだ、だが、漆黒の翼は散り、風に飛ばされること無く地上に落ち、ガラスのように砕け散った。漆黒の翼の下から白銀の翼が姿を現した。だがそれは元の大きさよりは大きく、元に戻ったと言えるのかも分からなかった。

「守護天使…に…なった…」


「私はアスタルテの守護天使ユリュシアよ」

 アイシアもそれを見るのは初めてだった。上級の天使に昇華したかのように、下級天使のユリュシアが上級の天使の姿へと変わっていたのだ。



 エルダ達の上空に二筋の軌跡、白と黒の軌跡が並んで近づいてきた。リムネフェルとジュエルだ、右腕にアスタルテ皇国軍の徽章を印したリボンが見える。 アイシアでも三人相手では分が悪い


「イヴ イオルヴェイント エメルト ケイン ハリス イ ソント オウェルイオ」


 アイシアはユリュシアにそう言い残してその場を去った。

 リムはユリュシアの姿を見て一瞬戸惑う、白銀の翼は大きく、白銀の髪、右眼の瞳は赤く染まっていた。

「ユリュシア様…?」

 リムの声で何かから引き戻されるように我に返った。意識はあったし、何をしていたかも覚えている、それが自分の意思だったかというと分からなかった。アイシアの言葉も覚えている、それで我を失うことは無かった。

「ユリス…なの?」

 ジュエルが覗き込むように顔を見る、ジュエルは声を失った。ジュエルの中に残っていた記憶の断片が繋がっていく、それは不完全だが確かなものだった。

「説明したいけれど今は戦を終わらせることが優先。」

「私は停戦を願い出る為、ハリス国王のもとへ行ってまいります。リム、連合軍にその旨を伝えてください、それが私の外交官としてできる事です。」

 アイシアは一人で来いと言った。私はその言葉どおり一人で行くつもりだ、例え罠だとしても行かなくてはいけない。

「はい、どの様に伝えましょう。」

「手紙を認めましょう、それを渡して下さい」


 そう言うと地上へ舞い降りてフレイ王国軍の兵士から紙とペンを借りて簡単に内容を書き、それをリムに渡した。皇国の名の下に、両者が同じ席に座るようにと…

「ジュエルを頼みます。」

 リムはジュエルを連れてリュティスの下に戻っていった。それを見送るとエイシア王国の中枢、龍の城へ向かう、ティアリスのかつての居城であり、水の都の象徴。


 アイシアは城の最上階の屋根の上に座り、ユリュシアを待っていた。東の空には彼らの姿が見える、そして一つの陰がアイシアのほうへと近づいてくるのがみえる、それを出迎えるように、アイシアは飛び立った。それは間違いなくユリュシアだ、彼女の前に出て城の方を向くと城の入り口を目指して一気に降下していく、ユリュシアもそれを察したか後をついて降下してきた。彼女を城内へ案内する、兵士達が武器を構えるがアイシアが合図して制止する、特に今は戦時下といってもいい、国王ハリスのいる謁見の間だ、ハリス国王の前に跪く、アイシアもまた跪いた。

「ユリシア様をお連れいたしました。」

「ようこそエイシア王国へ、同盟国であり我らに従属していたにも拘らず、戦を仕掛けておきながら停戦を願い出るとは、どういうつもりか理解できませんが…。」

 ハリスはじっとユリュシアを見ている。

「返す言葉が見つかりませんか」

「はい…、申しはけございません。」

「さて、貴女の要求を聞きましょうか」

「はい、連合国を納得させる為に二つ、我が国から一つございます。」

「聞きましょう。」

「一つに、国王陛下におかれましては、この戦争が終わり次第身を引いていただき、連合軍監視の下に民主的な方法による新王の選出を願いたく存じます、これは連合国を納得させる為に仕方のない事と存じます。二つ、軍備の縮小を願いとうございます。これは、今回の戦争の一因として、貴国の軍事力の強大さが原因の主たるところだからです。以上二つ、約束して頂けるのであれば連合国も文句は言わないでしょう。」

「貴女の要望は」

「エイシア王国領南西諸島の領有を認めていただきたい。」

「あの島は我が国の領有するところだが、貴国との条約で中立地帯となっている、貴国に渡す理由はない。」

「連合国はエイシアを占領し連合国側の傀儡政権をたてるでしょう、そうなれば国自体の存続も危ぶまれる、心臓を奪われることに比べれば痛みは小さい。」

「脅しか」

「そう聞こえても仕方がありませんがベイン大公国の王ならやりかねませんよ、龍の心臓を抉り取るやも知れませぬ。」

「奴か…。話し合いの席には出席しましょう。それから、龍の尾は共同統治という事でどうだ。」

「はい、それで結構です。」

「では、そのように、あとは任せる。」

「はい、ハリス様のご期待に沿える様に致します。」

 ユリュシアが礼をして去ろうとした時、ハリスに呼び止められた。

「ユリュシア、少し時間があるならば、ティアリス様にお会いしませんか、もし、お望みならば話を通します。」

「お会いしとうございますが、今はこの戦を終わらせるのが先、ティアリス様には何れお会いしましょう。」

「宜しい。」

 ティアリスに会うことを無意識に恐れて避けようとしている、彼女に会ったら『壊れる』ユリュシアは何故かそう感じた。遑を告げてその場を後にした。


 ユリュシアが帰った後、ハリスが一息ついたところへ背後から黒の天使が姿を見せる、隠れていたティアリスが姿を見せた。

「振られましたね。」

 ハリスの悪戯な笑みにティアリスはムッとしたが、すぐにいつものティアリスに戻った。

「しかし何故、この戦争で負けろと?」

「負けろとは言っておらぬ、“軽くあしらえ”と言ったのだ、勝っても負けてもよい、仮に停戦したとしても、私の答えは一つしかない。」


「外交官としてもなかなか面白い子でしたよ、気軽に遊びに来るので、なかなか楽しませてもらいました。」


「それで、アイシアはどうしてあの娘を元の上級の天使に戻してしまったのかしらね。」




 ティアリスがクスッと笑い、ハリスを見つめる。アイシアは二人に声をかけれなかった。二人の間は冷たいピアノ線のようなもので繋がっているように感じた。ティアリスの言葉もどこか棘があって、言葉などで責められるわけではないが、アイシアはその視線だけで十分責められている気分だった。





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