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第八話 † 虚飾

 あれからエイシア本土の沖合まで接近したが、怖いくらいに敵に遭遇しない、総司令は『恐れをなして逃げたのだ』と言うが、レイティス王国にも匹敵する軍隊を持つ国が逃げるだろうか、レイティス王国に関して言えば、王都こそ陥落したものの、その軍隊は各地で未だに放棄しているという。それを考えればエイシアの戦力はこの連合軍と対峙し、退けることなど容易いだろう。


 予想通りエイシア王都に近づくと要塞からの砲撃が激しくなってきた。本隊は海側と半島の反対側の海岸に上陸した二隊による挟撃を行っている。

「数の暴力だな…」

 リュティスはブリッジからその様子を見ていた。

「珍しいですね、ここにいらっしゃるとは…」

 出港してから初めてリュティスはブリッジを訪れている、ラインハルトはいつもここで指揮をとっているが、女王がいるので少々緊張した面持ちである。

「いつも通りやってくれればいい」と、女王が言うが、そうは言っても気になってしまうから仕方ない。

「エイシアの艦隊はどうした?あれから見てないが、それに、港に一隻もエイシアの船がいないようだな。」

 ラインハルトは妙な胸騒ぎを覚えていた。今、後方から狙われたらどうなるか、半島の向こうにいる上陸部隊は大丈夫か、後続の上陸部隊はどうか、そして、ラインハルトはフレイ王国軍軍師にあって話がしたいと思った。


 ベイン大公国もヴァルトノア王国も戦功を上げることしか考えていない、いかに大きな戦果をあげるか、それだけであって連携がないのだ、命令は飛ぶが状況に相応しくないことが多々ある、意見しても聞こうとはしなかった。部隊を分けたのは失敗ではなかっただろうか、そんな考えが過ぎった。

「陛下、フレイ王国軍軍師に会いに行ってまいります。それからエイシアには黒の天使がいますので、誰かを援護に行かせてください」

「そうだな」

 黒の天使と戦える者、どちらか、あるいは二人か…。リュティスは、できることなら行かせたくなかった。後続の部隊がそろそろ来るだろう、そこにはリムがいる、戦闘慣れしている彼女を待ったほうがいいのだろう。そしてその会話はユリュシアが聞いていた。ブリッジの後方の扉が開き、天使はリュティスの前に跪いた。

「少しでもお役に立てるなら行きます、ジュエルは来させないで下さい、ジュエルが来たいと言ったらリムを待つようにと…。」

リュティスは鼻で笑って「悲劇のヒロインにはなるなよ」と言った。それは女王なりに了承したつもりだった。それを聞いてジュエルに気づかれないようにブリッジの外のデッキから天高く舞い上がった。




 上陸した連合軍は王都の近郊まで迫っていた。だが苦戦を強いられ、上陸してから既に三日目を迎えている、野営陣からの熾烈な攻撃や罠などで思うように進めていないのが現状だ、仲間の屍の上を通ってきたと言っても過言ではない、不慣れな海とは違う、上陸してしまえば互角のはずだった。

「さすが、軍事大国と呼ばれるだけのことはあるな…」

 この部隊を任された剣士エルダは呟いた。敵の王都を目前にして進軍が止まっている、分厚い城壁と鋼鉄の城門、艦隊からの砲撃でも殆ど崩れず、罅こそ入っているが崩れていなかった。道も林道で狭く、攻城兵器の準備もままならない、エルダは苛立ちを覚えた。


 気づくと若い兵士が城壁を登っていく、リンだった。ひび割れた城壁を器用に登っていく、聞くと『城門を開けてくる』と言って制止を振り切っていったそうだ。

「リン、やめろ!」

 エルダが止めるが彼は止まらない。

「何故行かせた!」

「止めたんですが…」

「行かせたら止めたとは言わん、お前達、援護しろ!」

「はっ!」

 エルダは配下の三人を呼ぶと、リンを追って城壁を登りだす、敵の抵抗がないのが救いだが油断はできない。

「リン!無茶をするな」

「待っていて下さい!」

リンは大剣を担いで登っていく、城壁の上に敵兵の姿はない、城壁の内側は味方の砲撃で既に破壊されている、これ以上破壊されるものが無いほどに瓦礫の山になっている、リンは周りを見回した。

「嘘だろ…」

リンが見たのは島の反対側にある都、全く似たような街、そしてその港にはエイシアの大艦隊が停泊していた。この城壁をこえて街に入り、北西に向かってまた城壁をこえなければいけない。

「エルダさん!敵は居ません、すぐ開けます!」

リンは城壁から飛び降りると城門を開く、エルダ達は丁度城壁の上に辿り着いた。重い鉄の扉が開く、エルダ達がリンと合流し、状況を確認した。

「敵は東地区を放棄したようだな、人影はないか…、伝令!総司令官に伝えろ『敵は東地区を放棄した可能性あり、西地区港湾施設にエイシア艦隊多数、西地区の被害はなし。東地区を制圧しつつ合流地点をめざす。』」

 伝令の有翼人の兵士は総司令官の旗艦へ向かって飛び立った。

「リン、次に危険な真似をしたら許さないぞ」

「すみません。」

「これは遊びではない、戦争だ、勝手な行動は慎め、お前一人の行動が部隊全体を危険な目に遭わせる事だってあるんだ。」

「はい。」

「分かれば良い、では、これより東地区を制圧します、第一中隊は右、第二中隊は中央、第三、第四中隊は左に、残りは私と来い、敵が潜んでいるかも知れないので注意しろ、それからトラップにもな、では合流地点で会おう。」


 その時、部隊が市街地に入ったのを見計らったように敵の砲撃が浴びせかけられる、エルダ達は一旦後退せざるを得なくなった。



 エルダの部隊は大隊規模はあったが、既に大半を失っている為、小隊規模になっていた。後発の陸上部隊が来ればもう少し楽にはなるのだろう、それには一刻も早く合流する必要があった。

 市街地は瓦礫の山でゴーストタウンと言っていい、人の気配は全くなかった。ついこの前までは栄華を極めた大都市だったのだろう、今は見る影もない、そうしたのは他ならぬ連合軍だ。

 各隊が予定通り進軍する、全ては順調、今までの道のりが嘘のようだった。東地区の中央広場に差し掛かったとき、エルダは広場を囲む建物の陰に人影がみえた気がした。停止…散開…、エルダは指示を飛ばし姿勢を低くして建物の陰に隠れると様子を見る、このあたりも建物は殆ど崩れており、隠れる場所はないといってもいい。

「弓を貸せ」

 矢の先端に赤いリボンを結び、配下の兵士から弓を受け取ると、それを上空めがけて放つ、矢は『ヒュー』という音を立て、風をきって蒼い空へ向けて飛んでいった。フレイ王国軍の信号用の矢だ赤は非常時、緊急時、支援が必要な場合などに使う、早い話が『こちらへ来い』ということだ、夜は錬金術で作られた発色性発光型の特殊な矢を使うが、滅多なことで使うことはない、そしてこの信号用の矢は落下の衝撃で簡単に砕け散るようになっている、それはこの矢を他国に使わせない為の細工だった。少ししてあの矢と同じ音『ヒュー』という音が聞こえる、第三、第四中隊のほうから矢が上がった。矢を見る、リボンはなし、同様に第二、第三中隊からも矢が上がる、リボンの色は青、青。エルダは最も近い第二、第三中隊が来るだろうと確信したが、エルダは援軍が来ないことを前提として進むことにした。

「中央広場か…注意しろ」

「了解」

 広場に入ったその時、エルダが立ち止まり、何かと思って前を見ると、向こう側から歩いてくる人影があった。翼…黒い…、長く黒い髪…、黒の天使。

「エイシア王国王女、黒の守護天使アイシア…、この先は行かせませんよ…」

 アイシアと名乗った黒の天使は広場の中央に立つと漆黒の剣を振りこちらに向けた。

「かっこいいなぁ」

「リン、感心している場合か、今こっちには守護天使はいないんだぞ…」

 エルダは剣を構えてアイシアを睨みつける、アイシアは不敵な笑みを浮かべ、剣を構えている。

「エルダさん、オレにやらせてください」

 リンが前に出ようとすると、エルダは剣を彼の前に出して制止する、エルダでも容易に勝てる相手ではない。

「無駄死にするだけだ、やめておけ」

「そうよ、その女の言うとおり、死にたくなければ私に刃向かわないこと」

「じゃあどうしろって言うんですか、どうせ死ぬなら戦って死んだ方がましだ」

 エルダは天に白い軌跡を見つけた…近い、味方なら気づいて来てくれるだろう、賭けではあった。

「信号、赤、黒、撃て」

 エルダの指示で兵士は矢に赤と黒のリボンを結ぶと天に放った。アイシアは矢を放った兵士に急速に詰め寄ると剣の一突きで心臓を突き刺した。

「おとなしく降伏しなさい、そうすれば命までは奪わないと言っているのです。」

 別の兵士がアイシアに斬りかかる、兵士の剣はアイシアの脇腹を斬りつけ、アイシアの血が滴り落ちた。アイシアはその剣を握り兵士をにらみつけると、先ほど兵士を刺した剣を引き抜いて、斬りつけた兵士にゆっくりと刺していった。

「痛いかしら、それとも苦しいかしら?」

 その兵士は泣き叫び、苦しみながら倒れた。アイシアはそうして向かってくる敵を容赦なく斬り捨てていった。地面が赤く染まっていく、彼らの剣では黒の天使に致命傷を与える事はできず、犠牲者が増えるだけだった。




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