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第六話 † 黒い宝石

Edelstein



 王宮に移り、内情を精査して情報を集めはじめてから数日後、ある程度の情報も纏まり、内情は正確に把握できてきた。そこから収支やら経費やらを計算していく、計算は苦手なのだがやるしかない、机に向かって数字と睨めっこする、これは本当に私の仕事なのだろうかと思うことまでやっている気がしていた。




 そこへ、ジュエルは突然入ってくると、何も言わずユリュシアの手を引っ張り王宮の外へと連れ出した。リムも何がおきたのか呆気にとられ見ているだけだった。本来ならユリュシアを守る為にジュエルを阻止すべきなのだろう、しかし敵ではないのでその時点ではどうするべきか判断はできない、リムは後を追って部屋を出る、もしユリュシアに何かあればリムネフェルはジュエルを排除するだろう。ユリュシアが手を引かれて着いた場所は人気のない場所だった。そこでジュエルは右手に闇の剣を召喚し握っていた。

「ジュエル…?」

 ジュエルはその剣でユリュシアに斬りつける、ユリュシアは一歩下がってそれを避ける、再びジュエルが斬りつけるがそれを交わす。

「私が貴女に何をしたの」

 彼女はそう呟き再びユリュシアを斬りつける、ユリュシアはとにかく避けるしかなかった。ジュエルは舞い上がりユリュシアに剣を突き刺す為に急降下してくる、ユリュシアは後ろへ飛んでそれを避けると、ジュエルの剣先は地面に突き刺さった。

「反撃しないの…?」

「するはずないでしょ」

「イヤァァァァ!」

 ジュエルは叫びながら剣を地面から引き抜き、両手でしっかり握るとユリュシアに斬りかかった。ジュエルが力任せに振るった剣は速く、避けるユリュシアの胸元を掠めて服を切り裂いていた。ジュエルが追撃して剣を振る、壁にあたって逃げ場がなくなったユリュシアは、右手に魔力を集めて彼女の剣を受け止めた。その時追いついたリムの剣はジュエルへ振り下ろされた。ユリュシアはジュエルの剣を引っ張り、身体を引き寄せてリムの剣を左腕で受ける、痛みはなかった。リムの剣は腕に当たる寸前で止まっていた。

「ヴェインシュ…」

 ユリュシアの言葉で闇の剣は消え、剣を受けた手からは血が滴り落ちていた。わずかに間に合わず手のひらが切れていた。ジュエルはユリュシアを見たままその場に立ち尽くしていた。

「リム、ありがとう、大丈夫だから。」

「はい、お怪我をされているようですが…」

 リムは剣を戻し下がって立っている。ジュエルは服の袖を引きちぎるとユリュシアの右手に巻きつけてしっかりと手首を押さえて止血をする、それでもまだ血が滲んできた。

「ごめんね、リムは私を守るのが仕事だから…」

「わかった…」

 ジュエルはユリュシアをじっと見ていた。

「どうしたの…?」

「リュティスは…私のお姉ちゃん…だから…とらないで…」

 思わずクスッと笑ってしまう、毎晩のように報告しに女王の私室を訪れていたので勘違いしたのだろう。


「とったりしないよ」

 ジュエルの頭を優しく撫でると、ジュエルは目を閉じて大人しくしていた。 

「服、買ってあげるね。」

「傷つけたのに…どうして優しくするの…」

「私は貴女のこと嫌いではないし、傷つける理由もないから。」

「そう…」

 ジュエルの表情からは何も読みとれない、ただ何となく分かってもらえたらそれでよかった。

「ユリュシア様!」

 兵士が大声を上げて走りながら呼んでいる。

「ちょっと行ってくるね、また後でゆっくり話しましょう。」

「わかった…」

「ユリュシア様!」

 ユリュシアは兵士の方へ歩いていく、建物の陰で見えなかったようだ。

「何事ですか、騒々しい…」

「こちらでしたか、リムネフェル様も、陛下がお呼びです。」

「私も行く…」

 後ろをついて来ていたジュエルが言うと、兵士は困った様子で「陛下がお呼びなのはお二方で…」と戸惑っていた。

「同席していいかどうか決めるのは女王陛下です。」

「はぁ…そう仰られるのであれば…」


 兵士は困った表情で敬礼し、伝えることは伝えたと言わんばかりに去っていった。




 謁見の間に入るとリュティスは何時ものように玉座に座って待っていた。

「ジュエルも一緒か」


 何故かジュエルはいつもと違いユリュシアの背中に隠れるように立っていた。

「差し支えなければジュエルの同席をお許しください」

「構わぬ…」

「有難うございます」

 リュティスは玉座を離れてユリュシアの傍に来ると小声で囁いた。

「謀反者が私を殺しに来るだろう…」

「私がお守りします、リムもいます、それにジュエルもおりますから心配はないかと…」

「そなたが私の味方でよかった…、今夜は私の警護をお願いします。」

「はい」



 その答えを聞いてリュティスは一歩下がるとユリュシアの手を見た。「その手はどうした」その手元を見てユリュシアに尋ねる、普段から外にもあまり出ずに机に向かっているのだから、怪我をすることなど滅多にないし、怪我はだいたい治癒魔法で何とかなってしまうのだ、わざわざ残すようなものではない。

「私が…」

 ジュエルが横から小さい声で言う。

「治さないのか…?」

「ジュエルが手当てしてくれたので大丈夫です。」

「そうか…、喧嘩するのはいいが、殺し合いはするな、私を守れる者がいなくなっては困る」

 リュティスは悪戯な笑みを浮かべて二人を見ていた。その手に巻かれたものはジュエルの着ている服と同じ生地で、ユリュシアの後ろに隠れているのは服を裂いて怒られると思ったからだろう。

「あの…言いにくいのですが、もし陛下がお許しになるのであれば、神都アルヴィトを…」

「今何て…」

「黒の天使が地上に作った楽園、アステリア帝国のブリュンヒルデと同じモノです。私の計算では現状維持した場合、国家としての機能ができるのは約二百日…」

「知らんのか、あれの為に多くの者が犠牲になったのだ」

「犠牲とは黒の天使の侵攻を食い止めようと戦いを挑んだ者達、直接の犠牲者はおりません、国家の存続を願うのなら多少の犠牲も覚悟は必要です。あとは陛下のお許しがいただければすぐにでも準備いたします。」

「少し考えさせてくれ…」

「はい、もちろんです」


 だが、神都を本来の姿とするのは容易ではない、アステリアのような広大な領土がない為、魔法円を形成するための広大な場所がないのだ。少なくともフレイ王国、エイシア王国、龍族の国、それぞれの一部の場所に魔法円を形成しなくてはならなかった。そのいずれも同盟であり、こちらから攻め取るわけにはいかなかった。



 その時、扉を激しく叩く者があり、扉が開かれるとそこに伝令兵が立っていた。

「陛下!連合からエイシア王国攻略の参戦要請です。」

「分かった…下がれ。」

 伝令兵は敬礼して部屋を出た。

「陛下、エイシアは同盟国です、裏切るのですか…」

「そうだ、一緒に滅びる訳にはいかないからな、それにこれはお前が来る前から決まっていたことだ。」

「それでは戦争に勝っても信用は失います、平気で裏切るような真似は…。」

「案ずるな、連合軍の連中は分かっておる、私の命令に従え」

 今更何を言っても変わらない、恐らくは止めるものがいることを予想して隠していたのだろう。だが、この戦争で『龍の尾』を押さえられれば、魔法円の一箇所は確保できる可能性はある、一時的なものでも良い。

「従います、それから、イシャル島を含め、近隣の海域を占有する利権をもらって下さい、最低でもその島だけ確保できれば完成に近づきます。」

 リュティスは不敵な笑みを浮かべるとユリュシアをじっと見た。

「そのつもりだ、神都を造るにしろ造らないにしろ、勝てば領地と金が手に入る、悪い話ではない。」



 軍事大国であるエイシア王国、これを倒すのは容易ではない、連合軍は既にフレイ王国に集結していた。





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