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第十六話 † 神を見る者

   唇滅びて



 アリス・ブラッドがティアリスの密命を帯び、単身アテア王国に来ていた。山岳地帯に閉ざされた地、有翼人が多く住み、唯一の街はイファの町、王もここの城に住んでいる。街の半分は城ではないかというほど不釣り合いな街だった。



アテア王国国王の前に立ったアリスは「降伏か滅亡か」と、国王に質問をした。王は彼らの強さを十分に分かっていた。大国を一夜にして滅ぼす。だが、アステリア帝国からの解放を望む者達がそうさせなかった。『解放軍』ウロボロスの旗を掲げ、国家奪還を目指す彼らは、アステリア帝国との徹底交戦を訴えていた。アテア王国にも解放軍が駐留している、降伏しても彼らが戦い、国は戦火に巻き込まれるだろう、どちらにしても戦う道しか見えなかった。

「我らが屈する事はない、例え私が降伏しようが、解放軍がいる限り戦いは起こる」

 それが王の最期の言葉だった。

「ならば死ね」

 アリスは魔剣ティルヴィングを抜いた。

「神よ私をお助け下さい…」 

 王は神に祈った。


「お前は己だけが助かれば良いと思っているのか…」


 黒の天使の言葉に王は凍りついた。


「“私の命はどうなってもいいから国の民の命は取らないで下さい”でしょ?そんな偽善者の言葉なんて聞きたくはないですけれどね。」


 四人の衛兵がアリスの前を遮るがアリスに触れた瞬間に彼らは弾かれた。王は硬直したまま玉座から動く事ができない。アリスは国王の頭を左手で押さえる、妖しく輝く魔剣は吸い込まれるように王の心臓を目掛けて突き進んだ、不思議と血が出る事はなく、銀色に輝いていた剣が赤く染まっていった。

 剣を抜くと暫くして赤く染まっていた剣は白銀の剣に戻っていた。王の亡骸の髪を掴む、その首を剣で刎ねた。

「私が神の使いだ…」

 誰に言うでもなく呟いた。衛兵の一人が意識を取り戻す、彼が見たのは無惨な王の最期の姿だった。

「お前の王は死んだ」

 アリスが手にしているのは悲痛な表情で最期を迎えた王の首だった。衛兵は逃げようとしたが、腰を抜かして動けずにいた。

「逆らわなければ殺さぬ、安心せよ。」

 衛兵はうろたえるばかりだった。

「貴様はそれでも軍人か!アステリア帝国と戦うつもりなら、このくらいでうろたえるな!」

 アリスは大声で怒鳴りつけ、国王の首を衛兵に投げつけた。衛兵はそれを受け、悲鳴ともなんとも言い難い奇妙な声を発した。だが主君たる国王の亡骸をぞんざいに扱うわけにもいかず、ただ泣き叫んでいた。

 “使者”はアリスの前に降り立つと剣を構えて睨みつけた。その切先は血を欲するかのようにアリスに狙いを定めていた。アリスも相手を睨みつけて剣を握りなおした。

「遅いご登場ですね、この国はもう滅びましたよ」

「偽りの黒い羽根…魔王軍気取りの小娘か…」

 姿こそ天使だが、そこから感じ取れるものは冥府の者の、それも高位の悪魔の感じだ、だが不思議と怖れは感じなかった。

「どう処分しようか悩んでいたんだよ、そいつをどう始末するかね。」

 ニヤリとして“使者”は剣を収めると、王の屍を足でどけて玉座に座り足を組んだ、全く何を考えているのか理解しがたいが、戦意はないのだろうか。

「物騒なものは仕舞いなさいな、隣へどうぞ、女王様」




 まだ太陽は天高くあり、暑く湿った空気は不快に身体に纏わり付く、アリスは兵士に命令して夜までにこの国の権力者という権力者を城に集めるように言った。

 夜になって貴族や元王族、大臣、騎士団長、国中の名のある者達が一堂に会した。何が始まるのか誰もわからない、一部の解放軍の者は機会を窺ってアリスを暗殺しようとする者もいた。

「私はアステリア帝国軍四将が一人、アリス。王は私が討ちました。この国はアストレア王国として私が治めます。ティアリスに従う必要はありません、私に従ってください。私に従えばアステリア帝国の影に怯えることもなくなります。異論があるものは国を出なさい、命までは取りません。刃向かえば容赦しませんが…」

 アリスの脅しのような話が終わり、誰もが沈黙していた。アリスが王宮に入る、それを誰もが見送り、その扉が固く閉ざさた。




連邦首都上空にはアディルの率いる帝国軍ディシル隊がいた。彼女達はアストレア王国国境から一夜にして首都までの主要拠点数箇所を破壊し尽くしたのだ、たった三人で…。人々が恐れた戦場の死神“ヴァルキュリア”がそこにいた。運命を変える者達、アディル、ディヴィア、シェリエと呼ばれた。数日前にアリスに反感を持ったアテア王国軍は王宮を奪い返すべく集結し進軍を開始した。だがアディルの剣の一振りは王国軍の前にあった都を一瞬のうちに業火に包み焼き尽くした。アテアの有翼人達も各々に得物を準備して戦いを挑んだがことごとく敗退した。ユースティア連邦への侵攻開始まで時間は残されていない、そうしているうちにアストレアの都には神聖都市『ランドグリーズ』が姿を現していた。




 白い羽根を持つ星の女神、アイリン・アステリアがテラスの椅子に座り寛いでいると、月の天使ヴェルス・アシュタルテが訪ねてきた。「何かご用ですか?」その問いかけにヴェルスは何を言うわけでもなくアイリンの背後に回ると腕を回して抱きついてくる「え…何?」振り向くと彼女の顔がすぐ近くにあり、息遣いまでもが聞こえてきた。

「何って、私を呼んだのは貴女でしょ、忘れたの?」

 そう言われるとそんな話をした気がする、大切な話があったのだ。

「そう、今はこんなことをしている場合では…」

「こんなことかなぁ」

 ヴェルスは首筋を甘噛みすると、彼女の手が胸元へと…その前に何者かによってその手は掴まれていた。

「そんなことばかりしてると、冥界送りにされちゃうよ」

 そう言ってヴェルスの手を掴んだのはセルフィだった。呆れながら見ているとヴェルスはアイリンから離れて服を直した。

「まったく…、貴女みたいなのは神界にはいらないのよ、冥界に落ちなさい」

 ヴェルスが去ろうとした時、アイリンは『月の門が人の手によって開かれた』そう告げると彼女は立ち止まった。

「貴女も管理者の一人でしょう、役目を果たせないなら出ていきなさい」

 セルフィの言葉を聞いてか聞かずか、彼女は何も言わず出て行こうとすると、二人の天使の少女とすれ違った。その一人とすれ違いぎわに目が合った。その天使は視線を逸らした。それが気に入らなかったのか、ヴェルスはその天使の頬を叩くと部屋を出て行った。セルフィはその天使を気遣うように「ヴェルスの使者を辞めなさい」と言ったが天使は拒んだ。



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