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そらみみの絵空事  作者: あき
幕裏会議
5/5

世間の”流れ”を考察しよう

「みてみて」


遣ってくるなり声を上げたもゆるに、各々が作業の手を止める。


「どうしたの?」


キョトンとした羊に、もゆるは手に持っていた包みを掲げて見せた。


「じゃーん。手に入れたよ」


それは長方形のパッケージで、良く見ればゲームソフトであることが一目瞭然だった。


「あ。良く手に入ったね、もゆるサン。しかも初回限定盤」


訳知り顔で頷いたのは蜻蛉だけで、他は不思議顔だ。


「何のゲーム?」

「どんなゲームでしょう?」


けれど蜻蛉の答えには、もゆる自身も驚いたらしい。

目を丸くして、パッケージと蜻蛉を交互に見る。


「意外だなぁ。カゲちゃんが詳しいとは思わなかった」

「そうかな?」

「うん。だってこれ、乙女ゲームだし?」

「おとめげーむ?」


驚いたように動きを止めた羊とは裏腹に、おっとりした絡繰の問いに答えたのは蜻蛉。


「女性向け恋愛シミュレーションゲーム、って知ってる? 絡繰サン」

「あぁ。なるほど」


でも、と絡繰は僅かに眉を顰める。


「それなら、もゆる君の言うように、君が詳しいのは意外ですね」

「そう? 結構、需要を知る上では便利な指標だと思ってるけど」

「需要の指標?」


キョトンとしたもゆるに、蜻蛉が肩を竦めてみせた。


「求められるヒーロー像、世界観、展開。所謂青年ゲームに比べて、乙女ゲームって設定が凝ってると思わない? 多分、女性の方が物語そのものに拘るからだと思うけど」

「あ、確かに。青年向けってハーレムっぽいイメージがあって、乙女ゲームって一人に絞って攻略する感じかも」


ふむふむと頷く羊の横で、もゆるもむむむと眉を顰める。


「そう言われると、乙女ゲームの世界観や設定は普通の小説並みにバリエーションあるもんね。ちゃんと仲良くなる過程とか、攻略相手の闇を取り除いたりとか、成長と変化があるし」

「背景とか音楽にも力入れてるよね」

「うん。恋愛がメインかもしれないけど、その他の要素多いもんね」


わいわいと言い合う羊ともゆるの横で、絡繰が微かに首を傾げた。


「けれど、蜻蛉君。便利な指標とは? 小説や漫画ではいけないのかな?」

「同一舞台背景において、攻略対象、つまりタイプの違うヒーローが複数出てくることで、傾向が見やすいってことない? 絡繰サン」

「例えば?」


興味深いというように先を促した絡繰に、蜻蛉が僅かに眉を顰める。


「えーと、話半分に聞き流してよ、絡繰サン。あくまで解釈のひとつってことで」

「うん」

「恋愛ゲームは、分析として、内容から、他時空型と現世型に分けてるんだけど」

「ストップ」


聞き慣れない単語に待ったをかけると、顔を向けた蜻蛉が肩を竦めた。


「あきサンも聞いてたわけ?」

「型の説明」

「ええと、つまり。他時空型は、境界を越える話。例えば、タイムスリップとか異界召喚とか転生とかがこのタイプで、冒頭と本編の生活空間が変わるもの。一方で現世型は、一貫して生活空間が変わらないもの。一般的な引っ越し、転校、進学、就職なんかをこれに入れてるんだけど。どちらの型も受動型と能動型を持ってて」

「自分の意志かそうでないかということかな?」

「そう。ただ、他時空型は受動型が多くて、選民思想の英雄タイプになってくるし、世界観が必要だから、ストーリーはどうしても凝ったものになると推測できる」

「なるほど」

「勿論、現世型でもファンタジーは、それなりにストーリーがあるとは思うけどね」

「へえ」

「で、ヒーロー像の方だけど、恋愛ゲームの攻略対象者は最低二人。最大は知らないけど、まあいくらでも増やそうと思えば増やせるから、それはどうでも良いか。この攻略対象者には、大体絶対条件がある」

「絶対条件?」

「必ず一人は、最初からヒロインに好意的ってこと」

「え、ちょっと待って、蜻蛉チャン。当てはめてみるから!」


すっと人差し指を立てて見せた蜻蛉に、いつの間にか話を聞いていたらしい羊ともゆるが考え込むように腕を組む。


「あ、うん。確かにそうかもー」

「好意にもいろいろあるけど、うん。大体あてはまるかな」

「それは良かった。そうすると、この時点で分岐点になる」

「分岐点?」


羊がうーんと首を傾げた。


「ずばり、どっちのタイプが好きかってこと。羊サンは?」

「え、うーん。そう言えば、最初から好意持たれてるより、最初はツンツンしてる方が押しのこと多いかも。不良とか、ライバルとか」

「ほえー。メェちゃんはそうなんだ」

「てことは、もゆるサンは、最初から好意のあるタイプの方が好み?」

「うん。考えてみると、そっちのタイプから攻略するよ。幼馴染とか先輩とか」

「なるほど」


ふむふむと頷いた絡繰に、蜻蛉は困ったように苦笑する。


「絡繰サン、あんまり感心しないでよ」

「興味深い考察でしたよ?」

「どうも」


でも、と蜻蛉は肩を竦めた。


「女性向けの恋愛ゲームがストーリーに凝るのは、後ろめたさの軽減効果を狙ってる、ってのが一番の理由じゃないか、とも思うんだけどね」

「後ろめたさ?」

「気恥ずかしさ、と言い換えても良いかな」


蜻蛉の言葉に、絡繰は考えるように腕を組む。


「それはつまり、ゲームのジャンルとしては特殊だから、ということかい?」

「御明察。一般向け、とは言い難いよね」

「確かに、店で買うには抵抗があるかもしれないね」

「え、そうかな?」


きょとんとしたもゆるに、蜻蛉が笑う。


「もゆるサンは平気でも、羊サンは違うでしょ?」

「うーん。知ってる人に見られたら、確かにちょっと、と思うかな」

「最近は、ネット通販なんかも発達してるけど、全ての消費者がそれを利用するわけでもないから、大衆化しようと思ったら、手の出しにくさを軽減する必要がある」

「それが、ストーリーの複雑化?」

「そう。ジャンルを増やして、本質を薄める。”恋愛”だけを押すんじゃなくて、そこに”冒険”や”魔法”、”ミステリー”なんかの要素を増やして、掛け算することで他のジャンルに興味のある人を取り込む」

「言い訳を増やしたわけか」

「その発言もどうかと思うけど、あきサン」


苦笑した蜻蛉は、けれどそれ以上は何も言わなかった。


「なるほど」


ふむふむと頷いた絡繰に、蜻蛉は困ったように苦笑する。


「だから、絡繰サン。あんまり感心しないでよ」

「興味深い考察でしたよ、これも」

「それは、どうも」

「確かに考えてみれば、古く、ゲームと言うものはプレーヤーと主人公が違う目線、つまりプレーヤーは横からゲームの中を眺めていることが多かったですね。その頃はまだ、主人公には固有の名前がついていて、プレーヤーと主人公は切り離されていました」

「そう。でも、だんだん主人公の名前がプレーヤーに託されたり、プレーヤーと主人公が同じ目線になるようになってきた」

「男の子と女の子が選べたりね」


はいはいと手をあげたもゆるは、そう言ってから、でも、と眉を顰めた。


「それって、ゲームだけじゃないよね。ドリーム小説ってジャンルもあるもんね」

「ドリーム小説?」

「えっとね、主人公の名前が変更できる小説の事だよ」


珍しい話を聞いた様に、絡繰が目をぱちぱちと瞬く。


「そんなものが?」

「うん。ジャンルとしては、確立してるんじゃないかな?」

「そうですか。完全な物語としてではなく、仮想世界、自分の投影ができる物語というわけですね」

「だから、指数としては面白いと思うけど」

「そっか。こうやって考えると、恋愛ゲームの攻略対象って、確かに興味深いね」


うんうんと頷く羊に、そうかもともゆるも頷く。


「世界観、設定、キャラクターの掘り下げ方。結構、小説の参考になる、と思うよ。今の人気とか、求められてるヒーロー像とか」

「なるほど、そういうことかぁ」


くるりとパッケージをひっくり返して、もゆるが唐突に指を折る。


「いち、に、さん、」

「どうしたんです? もゆる君」

「このゲームは、六人。最近のゲームって、攻略対象が多いのね。それって、戦略ってことだよね?」

「確かに、タイプが多ければ、それだけ沢山の女性の好みに合うかもしれませんしね」


不意に何か悪戯を思いついたような顔で、もゆるが顔を上げた。


「ね。カゲちゃんだったら攻略対象、どう作る?」

「ええと。もゆるサンのそれ、舞台は学校だったよね?」

「うん、そうそう」

「それなら、まず年齢で。良くあるのは、主人公が真ん中で、先輩後輩同級ってところだけど」

「でもでも、蜻蛉チャン。やっぱり学校設定なら、先生は捨てがたいよー」


はいはいと手を上げたのは羊だ。


「ごもっとも。学校内で完結するなら、王道枠は学生組と大人組になって、其処に付加価値をつける」

「付加価値?」

「そう。義兄弟、幼馴染、或いは因縁とかね」

「あぁ、なるほど」


納得する絡繰から、蜻蛉は羊に視線を移す。


「羊サンも何かつける?」

「勿論、役職!」

「役職?」

「委員会、部活、バイトに不良!」

「いいね。じゃああとは性格で。もゆるサン?」

「えー、うーん。じゃあ、俺様」

「羊サンは?」

「頭脳派とか?」

「絡繰サン?」

「そうだね。寡黙な芸術家タイプはどうだろう」

「じゃ、あきサンは?」


放り投げられた問いに瞬くと、こっちを向いた蜻蛉が悪戯っぽく笑った。


「ホスト系」

「あきチャン、意外なとこ責めるね」


楽しそうな羊が、蜻蛉チャンは? と蜻蛉に問う。


「あと足りないのは、可愛い系かな?」

「ね。折角だから、そらみみで流行に乗っかってみようよ?」

「流行?」


唐突なもゆるの申し出に、絡繰が微かに首を傾げた。


「一体何の話だい?」

「今の若者向け小説の最先端流行! つまり、ゲームの中×転生×恋愛ってこと!」

「それをお題に、書いてみようってこと? もゆるチャン?」

「そう! 次のプロジェクトだよ」


高らかに宣言して、もゆるが人差し指をピンと立てた。




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