世界を二つにわけるなら
「ねぇ、あきサンにとってこの世界って何と何?」
唐突にそう聞かれた。
本当に唐突だった。
だってホラー映画を見てる真っ最中。
「なにそれ、哲学?」
「いや、普通の問い」
「なら、先に普通の定義を30文字以内で」
「あきサンが質問を聞いて、思ったままに、思った通りに」
至極真面目そうな蜻蛉の口調に目を細める。
「なにそれ」
「なんだと思う?」
「意味わかんない」
嫌そうに目を細めると、蜻蛉は小さく苦笑した。
「因みに絡繰サンはね、”触れるもの”と”触れないもの”。だってさ」
「え?そういう話?」
これもまた、唐突に出てきた名前。
この部屋に時々やってくるうちの一人。
ふと思いついて、よく来る名前を挙げてみる。
「じゃあ、羊は?」
「まだ聞いてないよ」
「ふうん」
意外だと滲ませると、だって忙しそうでしょ、羊サン。蜻蛉は小さく肩を竦めた。
「さて、答えは?」
「じゃあ、”壊れる””壊れない”でいいや」
「で、は嫌いなんだけどな」
「はいはい。言い直すよ。”壊れる”と”壊れない”」
「そのココロは?」
「さあ?」
ホラー映画に視線を戻すと、つれないね。横で蜻蛉が小さく呟く。
聞こえなかったフリをして、音量を上げてやった。
ホラー映画が終わった後で、蜻蛉と入れ替わりにやってきた羊に、思い立って尋ねてみる。
「え?突然、何?あきちゃん」
「世界は何と何でできてるか。だって」
「え?うーん。蜻蛉ちゃんも難しいこと言うなぁ」
暫くうーんと唸ってから、羊はおずおず口を開く。
「”忘れたいこと”と”忘れたくないこと”、かなぁ」
「ふうん」
忘れたいこと、か。頷くと、途端に羊の表情が崩れる。
「今一番忘れたいのは、さっきのホラー映画のシーン!なんであんなに大音量でみてるの?ドア開けた途端、目に入っちゃって」
今日寝られなかったら、どうしよう。泣きそうな羊に、ばつが悪くなって目をそらす。
「しまった。”運”と”それ以外”か」
ぽつりと呟いた言葉を、聞きとめた人はいない。