6 素麺
「素麺が食べたい」
主人に言われ、当惑する。今夜はちらし寿司のつもりで、椎茸だって戻してしまったのに。
濃い味付けにして、細かく刻むつもりだったのに。
私はちょっと考えて、素麺の上に具を飾る事にした。五目素麺というものだ。
胡瓜に、錦糸卵、刻んだ海苔。ゴマも良い。
素麺は、熱湯の中に投入して吹きこぼれる直前に差し水をする。そして流水の中でよくもみ洗いをするのが、コシのある麺をつくる秘訣。
素麺に具材をもりつけ、冷やした出汁をかければ完成だ。
昆布と鰹で取った出汁が、とても良い味を出していた。
主人の器には豪華に飾り付けられた素麺。私の素麺には、海苔と錦糸卵を乗せる。
「なんだ? 胡瓜や椎茸は食べないのか?」
「ええ、歯の具合が悪くて」
「それは残念だな」
納得し、主人は箸を進める。
「ちらし寿司の用意をしたいたので五目素麺になりました。如何ですか?」
「美味い。お前は料理が上手だ」
嬉しそうに食べていた主人が、何かに思い当たったように、にやりと笑った。
「そういえばKがね、作家志望のあいつだよ。読んでくれないかと持ってきたものがあった。六編の、怪奇と銘打った小話なのだがね。これが全く怖くない。何が怪奇かと憤慨していたら、今日、その意味がやっと解った」
「何がです?」
「文字数さ。後で数えてみると良い。この文字数でね、なるほどと納得した。作者の思惑というものは、解けると実に爽快だ。今日の夕食のようにね」
私は、蒼白になっていた。
「な、何を?」
「これだよ」
そう言って主人は、箸で米粒大の白いものを摘む。
「この虫が湧いていたのは、素麺か? それとも椎茸かな?」
理由があって、エンドマークが入れられませんが、「夏の六編の小物語」完結です。
拙い物語を、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
和風小説企画。
その名を見た時から、胸が踊りました。
「和風」。古くは神代から現在まで、ずっと私たちの中に受け継がれている血が騒いだといいますか……。
私は、「今より少し、闇が深かった頃の物語」を描いてみました。
和風ファンタジーというジャンルが存在しませんので、ホラーという事になっておりますが、怖くないのはまぁ、仕方ないですね。怖いのキライなヒトですので。
主催者である伊那様に、このような機会を与えて頂き、ありがとうございました。
「和風小説企画」のサイトはこちら。
http://wafuukikaku.web.fc2.com/index.html
たくさんの和風作品が楽しめます。
そして、最後に。
りきてっくす様へ。
既に気づかれているかもしれませんが、無断でまねっこしてしまい、申し訳ありません。
これからも、楽しみにしております。
りきてっくす様の作品はこちら。
http://mypage.syosetu.com/18867/