3 風鈴
風鈴の音に、目が覚めた。
いつの間にか良い風が吹いている。それで、うたた寝をしてしまったのだろう。
今日も暑かった。
しかも過酷な場所で働いているのだから、身体は疲れ果てている。
風鈴の、澄んだ音色。
それはまるで、俺を呼んでいるようだ。
そちらに行けば、この苦しみから逃れられるのか。この、業火に焼かれるような暑さから解放されるのか。
駅長の手が、上がる。
「発車オーライ」の合図だ。俺は釜に炭をくべる。
「釜炊き」。それが俺の仕事だ。機関車を動かす為の、大切な仕事。
上り坂は、ひたすらに釜を炊く。乗客達は「がんばれがんばれ」と汽車を応援するが、その言葉は、本当は俺に言うべきだろうと思う。
この汽車を動かしているのは、俺なのだと。
りん、と、風鈴が鳴る。
(その大切な釜に何を入れた?)
機関士。
いつも、俺を馬鹿にしていた。自分は選ばれた人間で、お前はただの下働きだと。
りん、りん。
(そして、汽車はどうなった?)
機関士を、失った機関車。俺と乗客を乗せたまま、谷底に落ちて行った。
業火に包まれながら、俺は死んだ。
りん、りん、りん。
(思い出したか。ならば、共に行こう)
目を開けると、白い死に装束を纏った影が立っていた。
どこに行く? 地獄へか?
りん。
鳴っていたのは、風鈴ではなかった。杖についた鈴の音。
白い衣に笠、杖。それは故郷で何度も見た。旅の遍路の姿。
遍路は、笠を上げる。その下にあったのは、なつかしいおっかあの顔だった。
息子の罪を償う為に遍路の旅に出たおっかあも、道中で命尽きたのか。
同行二人。
二人なら、償えるのだろうか。身を焼くこの業火から、いつか――。