2 金魚
裕福な家に、年頃の娘がおりました。
美しい娘でしたが、呪われた子でありました。
透き通る、白い肌。白すぎる肌に、日の光は毒になる。
だから娘は、薄暗い室内で寂しい毎日を過ごしておりました。
そんな娘を慰めてくれたのは、赤い衣を纏った金魚でした。鮮やかな色の衣を翻す金魚。それはとてもとても美しくて。
愛らしくて。娘は大切にしておりました。
それでも、金魚は寿命が短くて。
お腹を上に、浮いている姿を見て、娘は泣きます。
呪われた娘。それを父親は大変に不憫に思っておりました。
娘よりも長生きする金魚は、どこかに居ないものなのか。
行儀見習いの千代は、13歳。
初めて見る立派なお屋敷に、戸惑っておりました。
そこに住むお嬢様のお相手をするのが千代の役目。千代を振り返ったお嬢様はとても美しく。
白い肌はしみひとつない。細い指で、琴を奏でます。その、音色の美しいこと。
野良仕事で荒れた千代の指とは全然違う。
千代は、小さな溜息をつきました。私の手は、働く為の手。お嬢様のように琴をつま弾く為にあるわけではない。
「千代、私はお前が羨ましいのよ」
と、お嬢様は言いました。
「私には、お前のようにしなやかに動く体がない。お前のようにお日様の下では生きて行けない」
そう言って、お嬢様は一枚の着物を千代に差し出します。赤い、絹の着物。
初めて触れた絹の手触りに、千代の憧れは募ります。
少しだけ、一度だけだから。赤い衣に腕を通します。
赤い衣を翻して、水中を舞う、金魚。
それはとても美しく――泣く事すら許されない罪人は、初めて太陽の下に出ました。
――私も、日に焼かれて金魚になる。