1 花車
四季折々の花々が、あちらこちらでほころんでいる。
朝顔、紫陽花、桔梗。おれは、品定めをするように周りを見回した。
夏祭り。浴衣の柄を競う、娘達。
「遅いよ」
ほおずきの浴衣の娘が手を挙げた。
「ごめんごめん」
笑いながら、通り過ぎた女。袖を彩っている、美しいヤマユリ。
無意識に、手が伸びた。
ヤマユリ。山に咲く、白い百合。不意に腕を捕まれた娘は、うろんな目をおれに向けた。
春菜は死んだ。
村の長の娘、おれの嫁になるはずだった春菜が、死んでしまった。
干ばつで、土地神の捧げものが足りなかったせいだ。だから、春菜は自らを土地神に捧げた。
春菜は、懐剣で自らの喉を突き、その身を捧げた。
おれは、春菜を守りきれなかった。
おれに力があれば、土地神に負けない力があれば。もっと賢ければ、苦境を乗り切る知恵があれば。人望があれば、春菜は!
おれは、泣いた。土地を呪い、干ばつを呪い、自分を呪って、泣き続けた。
「花をあげてくれんね?」
春菜のおっかあがおれに言った。一本のヤマユリが手渡される。
春菜が好きだった花。
「あの子の為に、花を捧げてくれんね? あの子も喜ぶで」
それは本当か。おれが花を捧げれば、お前は喜んでくれるのか。
おれに出来るのがそれだけならば、おれは花を集めよう。春菜の為に。
荷車を曳く足を、止めた。
四季折々の花を摘んだ、おれの荷車はとても重く、一度轍を取られると、なかなか動いてくれない。
それでもあらん限りの力を込めて曳くと、花が一本落ちた。
ごろんと転がったそれを大切に拾い、花車の中に戻す。
その白い花は、先ほどのヤマユリの柄の浴衣を着ていた娘に似ていた。