なろう読者になろう
怪文書。
誰か、読め。
小生は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の小説サイトを断たねばならぬと決意した。
小生には小説のいろはが分からぬ。
小生は、東京の大学生である。
YouTubeを眺め、Twitterのリプ欄で遊んで暮して来た。
けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
きょう未明小生は電子の砂漠を彷徨い、ソシャゲを越えエロサイトを踏み越え、普段は寄り付かぬこの「小説家になろう」にやって来た。
小生には嫁がいる。友人も多くは無いが数人いる。
この友人は、二次元上の或る律気な美少女を、遠くない将来花嫁として迎えると豪語している。
結婚式も間近かなのである。
小生は、それゆえ、ロキシーの姿を一目見んとてキャラの名前を参照に、はるばる「小説家になろう」にやって来たのだ。
先ず、サイトリンクを踏み、それから友人の嫁が出て来る作品の前にランキング上位の作品をぶらぶら眺めた。
小生には竹馬の友があった。
ヲタクンティウス(蔑称)である。
今は此の「小説家になろう」で、読者をしている。
その友の嫁を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
初めてお会いするのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
しかし、眺めているうちに小生は、サイトの様子を怪しく思った。
タイトルが余りにも画一化されている。
もう既に日も落ちて、ヲタ共が妄想に生き、萌キャラに精を出すのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、小説のタイトル全体が、やけに痛々しい。
のんきな小生も、だんだん不安になって来た。
そこで、Yaho○知恵袋をつかまえて、何かあったのか、10年前にちらっと覗いた時には皆が稚拙ながらも各々の小説家共が各々の表現を所狭しと広げ、サイトは賑やかであった筈はずだが、今は「ハズレスキル」だの、「パーティーメンバーへの復讐」などが蔓延っているばかりなのは何故かと質問した。
回答者は、現れなかった(暫く時間がかかるという説もある。)
仕方なく友人にDisc○rdで、こんどはもっと、語勢を強くして質問した(内弁慶はヲタクの固有スキル。)
友人はは答えなかった。小生はスタンプで友人のスマホをゆすぶって質問を重ねた。
「なぜ、なろう作家は悪役令嬢だの異世界チートばかり書くのだ?」
友人は、なろう小説家をはばかる口調で、わずか答えた。
「なろう小説家は、豚を肥やします。」
「どう肥やすのだ。」
「豚の欲望に忠実に小説を描いている、というのです。誰もそんな、欲望を持っては居ないと口先では言い張ります。」
「たくさんの豚を肥やしたのか。」
「はい、はじめはニートの男性読者を。それから、ファンタジー好きなヲタクを。それから、アニヲタを。それから、厨二病患者を。それから、ライト層のヲタクを。それから、現役主婦層を。」
「おどろいた。なろう作家は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。豚の欲望を、忠実に再現している、というのです。このごろは、ごく一般的な設定である所の追放ものも、お疑いになり、不倫ものやモブ悪役など今まであまり触れられて来なかったジャンルにも開拓が進んで居るのですが、そのくせ内容は最大瞬間風速に全振りしたスカッとジャパン顔負けの、画一化されたカタルシスの温床となっております。それもまたいい。余りにも設定がエスカレートすれば見向きもされないか、Twitterで十字架にかけられて、ネタにされて殺されます。きょうも、1人殺されました。」
聞いて、小生は激怒した。
「呆れたサイトだ。生かして置けぬ。」
小生は、単純な男であった。
疑いの目を持ったままで、のそのそサイトにはいって行った。
たちまち彼は、人気作品に捕縛された。
彼の欲望の奥底を調べられた。
小生の懐中からは叡智なお姉さんに飼育される冒険譚への憧憬が出て来たので、夜更けまでの時間を読書に費やしてしまった。
明け方の後悔は言うまでもない。
翌日小生は、ヲタクンティウスの前に引き出された。
「なろう小説でナニをするつもりであったか。言え!」
暴君ヲタクンティウスは静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。
その顔は蒼白で、眉間みけんの皺しわは、刻み込まれたように深かった。
「豚をなろうの手から救うのだ。」
と小生は悪びれずに答えた。
「おまえがか?」
ヲタクンティウスは、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。おまえは既になろう小説にハマっておる。」
「言うな!」
と小生は、いきり立って反駁した。
「なろう小説にハマるのは、最も恥ずべき悪徳だ。ヲタクンティウスは、小生の心を疑って居られる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、なろう小説だ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。皆なろう小説にハマる素養を持って生まれている。信じては、ならぬ。」
暴君は落着いて呟つぶやき、ほっと溜息ためいきをついた。
「わしだって、本当は格式高い長編小説を望んでいるのだが。(大嘘)」
「なんの冗談だ。西尾○新だって、森見登○彦だって、全部アニメで観たくせに。」
こんどは小生が嘲笑した。
「3行以上の文章が読めずに、何が読書家だ。」
「だまれ、下賤の者。」
ヲタクンティウスは、さっと顔を挙げて報いた。
「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、豚の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、なろう小説が読めなくなってから、泣いて詫わびたって聞かぬぞ。」
「ああ、ヲタクンティウスは悧巧だ。自惚れているがよい。小生は、ちゃんと金輪際なろうを読まぬ覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」
と言いかけて、小生は足もとに視線を落し瞬時ためらい、
「ただ、小生に情をかけたいつもりなら、なろうを禁止するまでに三日間の日限を与えて下さい。たった一つの作品に、評価をつけてやりたいのです。三日のうちに、小生は全章を読み終え、必ず、なろうを断ちます。」
「ばかな。」
と暴君は、嗄れた声で低く笑った。
「とんでもない嘘うそを言うわい。ジロリアンが二郎を断って生きられるというのか。」
「そうです。断って日常に帰るのです。」
小生は必死で言い張った。
「私は約束を守ります。小生を、三日間だけ許して下さい。作品が、小生の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この私の嫁にルイズたんという少女がいます。私の無二の嫁だ。あれを、人質として行こう。私がなろうにハマってしまって、三日目の日暮以降もなろうにハマっていたら、ルイズたんに謝らせて下さい。なんなら罵倒されてもいい。踏んで欲しい。たのむ、そうして下さい。」
それを聞いてヲタクンティウスは、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。
生意気なことを言うわい。どうせハマって戻って来れないにきまっている。
この嘘つきに騙だまされた振りして、放してやるのも面白い。
そうして身代りのルイズたんに、罵倒されるのを見るのも気味がいい。
人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りのルイズたんをhshs してやるのだ。
世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までになろうを断て。おくれたら、その身代りを、きっとhshsするぞ。ちょっとおくれて断つがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。ルイズたんの罵倒を聞きたくば、おくれて断て。おまえの心は、わかっているぞ。」
小生は口惜しく、地団駄じだんだ踏んだ。ものも言いたくなくなった。
最愛の嫁、ルイズたんは、深夜、ハルキゲニアに召された。暴君ヲタクンティウスの面前で、小生と嫁は、2時間ぶりで相逢うた。
小生は、嫁に一切の事情を語った。
ルイズたんは無言で首肯き、小生をひしと抱きしめた(気がした)。
小生と嫁の間は、それでよかった。
小生は、すぐに作品を読み始めた。
初夏、満天の星である。
ハルキゲニアのルイズに届け!




