プロローグ
今日は雲空、頭が痛くなるような、はたまたダルさを感じるような、そんなよくわからない天気。
暗い雲と明るい雲と少しばかりの青空、水平線の彼方で太陽に照らされた雪山のような流動的な雲、空にも一つの世界をかたどった、そんな空にもみえる。
私はそんなことを思いながら、空を見上げ、無駄を一つ増やしていく。
木々が朱色に染まり、落ちて、朱く、道を染め上げていく。
そんなことを思いながら私は窓を開けた、冷たい風とほんの少しの寂しさを感じて私は窓を閉めた。
東京のアパートの一室に私の部屋がある、広さは狭いばかりだが一人暮らしには申し分ないだろう。
私はしがない大学生、親とは既に縁を切っている、鷹が鴉を生んだとでもいおうか、互いが互いの天敵で、互いが互いと共存できない、そんな関係だ。
親のことを思い出すと頭が痛くなる、頭が痛くなるのは親のせいか、このよくわからない天気のせいか。
ふと思い出したかのように窓の外の空を見上げてみた、さっきよりも青空の割合が増え、暗い雲は自己の証明が完了したかのように姿が見えず、明るい空である。
こんな日には散歩でもどうだろうか、気晴らしでも少しは意味があるだろう、そう自分に言い聞かせ身支度を整える、ついでに本屋でも寄ろう、本を読むのは最近の日課...というよりもこの大変で気を遣うこの世界から目を背けるために読んでいる節もある、我ながら自分勝手な考えだ、もちろん、本は好きだ。
服を着替え、財布と携帯を持って外に出る。
本屋についたのはそこから1時間後、いつもの散歩道を歩き、公園で猫と戯れ、ベンチで休んで、自然に身を任せる。
「田舎だな」
不意に零れた言葉だった、確かに田舎だ、東京といっても西部の方だ、アパートから見える景色は緑の方が多いし、空気が澄んでいる。
わかっていたのに零れた言葉、寂しさでも感じているのだろうか。
こんなこともあったが無事本屋につくことができた、林の中に人知れず開いている、所謂知る人ぞ知る隠れ家だ、中に入るとやはり落ち着く、紙とインクのにおい、ほんの少し差し込む光の筋にほこりの粒子が舞い上がっている。
どうやら店主はまだいないようで、先に買う用の本でも選んでおこう。
ここには古文から現代のライトノベルまで多種多様な本がそろっている、その中でも私がよく買うのが現代小説、現代の言葉遊びや構成に千差万別で、似ているものはあろうと、やはり少しずつちがって書き人の癖が垣間見える、見ていて飽きないのだ、もちろん他のジャンルにも良いところはあるが、私は現代小説を好んでいる。
私の頭二個分の高さの本棚を見ていく、知っているものから初見の本まで多様的だ、だから本は面白い。
表紙の絵が綺麗な恋物語にお堅い筆者のノンフィクション作品、文豪達の不朽の名作たち、あゝなんて本は面白いのだろうか。そんなことを思いながら本の世界に身を置いて、静かな海を漂うように、ただ静かに、本を見ていた。
軽く一時間は超えただろうか、買う本も決まりあとはカウンターに行くのみである、そして向かおうとした、その時、ある本に目がとまった。
黒やこげ茶の皮でできた本たちが並ぶ中、一つだけ、白く、孤独に、光っているように見えた。
私は無意識にその本に手が伸び、抜き取って表紙を見る。
「白凛の花園」
珍しいタイトルである、白凛と言うのは確か「穢れなき白さ」という意味を持つがあまり一般的な言葉ではない、その花園、一面の穢れなき白さという意味だろうか。
そして表紙には白い花の園、同じ花だろうか、蒼天の空を花々が見上げている、一面の白、まだ何物にもなれていない、まっさらなキャンバスのようにも感じた。
その花々の上で、遠くを見た白いワンピースの少女、白い花束を抱えた少女は波が立たない月夜の海のような、静かで、綺麗で、きえてしまいそうな、そんな表情。
意外にも本はそこまで厚くない,30ページ程度だろうか。
私はひとまずあらすじだけ読んでみることにした、本文まで読むと時間が無くなる、私はあらすじを見た。
「白い花園、蒼い空、白色の花々が咲き晴れるこの土地に
この大きな空を見上げた。
小さな命がともされる、この花園、
何が、見えるのだろうか。」
詩のようだ、詩ではないのかもしれないがあらすじだけ見ると詩。
詩とも詩とも受け取れる、そんなものだと分かった。
私はその本も買うことにして家に帰ったら読もうと思った、なぜかここでは読んではいけないと思ったのである。
私はいつの間にか帰ってきていた店主に買う本を渡し、その後本を抱えて帰路についた。
少し寒い夕頃の地面は朱色に染まって、空は、暮色した空は、遠かった。




