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花岡夫妻の余生。最期は円満に。④

勝之さんが退院して、ケアハウスに戻ってきた。


玄関で勝之さんが帰ってくるのを待っていた祥子さんは勝之さんの顔を見て嬉しそうだった。


ふっくらしていた勝之さんは今回の入院で少し痩せていた。


勝之さんは事務所に来て


「帰ってきましたー。今日からまたよろしくお願いします。」と言って祥子さんと部屋に戻っていった。


勝之さんの体調の面もあり、祥子さんはその日の夜からは睡眠薬を飲むことで夜中の徘徊をしないようになった。


ある日の朝、勝之さんの怒鳴り声で施設内が響いた。


「お前いい加減にせえ!!もう何回も同じ事言わせるなや!!!」


祥子さんの物忘れのせいで何度も同じ事を聞いてくる祥子さんに勝之さんは限界だったようだ。


事務所内にある防犯カメラを見ると一階のエレベーター前に夫妻がいることがわかったので


私と相談員が走ってエレベーター前まで駆けつけた。


祥子さんは勝之さんに怯えた様子で涙目になっていた。


「お前・・・なんでこんなことになってしもうたんか・・・なんで認知症なんかになってしまったんや・・・」と勝之さんは声を震わせていた。


相談員が勝之さんに


「何があったんですか?ちょっと落ち着いて・・・」と言い、ロビーのソファーに勝之さんを座らせた。


「大丈夫ですか?体調も万全じゃないのに。良ければ話聞かせてくれませんか。」と言うと


「すいません、もうわし、限界ですわ。毎日毎日、毎回毎回同じこと聞いてきたり、言ってきたり。少し前に話したことも忘れて・・・そのうちわしのことや子供のことも忘れてしまうんやないかと不安になってしまうんですわ。」

と顔を俯かせて震えた声で言っていた。


私と祥子さんは正面のソファーに座り、祥子さんの背中をさすり続けた。


「お父さん、私は認知症ではないしお父さんのことや子供のこと、忘れることなんて絶対にありませんよ。」と祥子さんが言うと


勝之さんは涙を流し始めた。


「んにゃ、お前は認知症なんよ。こないだ病院に行って診断されたことももう忘れたんか。」と言う


「何言ってるんですか。私なら大丈夫ですよ。」といつもの可愛い満面な笑みで勝之さんの顔を覗いた。


鼻を啜りながら勝之さんは


「もうそのことも覚えてないんか!!!」とまた怒鳴り始めた。


相談員が「勝之さん!落ち着いて。大丈夫ですから。」と言い勝之さんの背中をさすり落ち着かせた。


勝之さんは自分の体調の不安もあってかなり神経質になっているようだった。


俯いた顔を上げた勝之さんは涙を流しながら


「もう大丈夫です、すんません心配かけてしまって。祥子、すまんな。部屋に戻ろうか」と言い立ち上がって祥子さんと一緒に部屋に戻って行った。


その日の夜だった。夜中に宿直者が施設内を巡回をしていると祥子さんが徘徊していた。


宿直者が声をかけると「お父さんが・・・お父さんが・・・」と泣きながら言っていた。


慌てて宿直者が部屋に行くと勝之さんは布団の中で亡くなっていた。


祥子さんは「お父さん・・・お父さん・・・どうして・・・どうして・・・」と泣き続けた。


次の日の朝、私は出勤すると事務所内が看護師やら施設長らが慌ただしくしていた。


「何かあったんですか」とコアラさんに聞くと


「花岡の勝之さんが亡くなったんだって。心筋梗塞だったみたい」と言われて私はかなりショックを受けた。


私が入社して、入居者さんが亡くなるのは初めてだったし、


昨日まで勝之さんと祥子さんとは関わっていたから急すぎてかなりショックだった。


勝之さんの遺体は施設近くの葬儀場にあり、今日の夕方に通夜が執り行われる。


夜中に娘さんがこっちに向かっていて、早朝に施設に祥子さんを迎えに来たらしい。


宿直者からの情報だと祥子さんも娘さんもいきなりすぎて憔悴しきっていた。


私もその日一日は仕事が手につかなかった。


思い出すのは祥子さんの優しい満面の笑みとその隣で顰めっ面の勝之さんの顔。


祥子さんが認知症になってからは喧嘩ばかりの二人だったけど、なんだかんだで施設内でも二人は一緒にいた。


今日も勝之さんの怒鳴り声が今にも聞こえてきそう・・・と思うと涙が出そうだった。



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