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花岡夫妻の余生。最期は円満に。③

 救急車で運ばれた勝之さんは、救急車の中で意識を取り戻した。


 病院で診てもらうとかなりの疲労からきたものだったらしい。


 毎日祥子さんの見守りによる寝不足とストレスからだろう。


 数日間入院して様子を見て退院することとなった。


 その間、祥子さんは一人でケアハウスで過ごすことになる。


 祥子さんは勝之さんが入院したことも忘れてしまうことがあり、夜中に勝之さんを探すように徘徊することがあった。


 宿直者は17時から8時までの勤務で、基本的に自立できている人たちが多く入居しているため夜は入居者の服薬チェックを行なってしまえば朝までゆっくり過ごすことができるのだが


 最近は祥子さんの対応で夜中も寝れないことが多く、朝8時に退勤する時には結構げっそりしながら帰っていく。


 二人の間に娘さんが一人いて県外だし仕事もしているのでなかなか会いにくることもできないらしいが、


 勝之さんが倒れた三日目にケアハウスに訪れた。


「こんにちは、お世話になります、花岡の娘です。」


「あ、こんにちは、お世話になります」


「今回は父がご迷惑おかけしました。今日は母を連れて父の病院に行ってきます。」


「わかりました、じゃぁ祥子さんお呼びしますね、少しお待ちください。」


 私はナースコールで祥子さんを呼び出した。


「祥子さん、娘さんが来てくれましたよ、降りてきてくださいね。」と言うと


「あっ、はーい。ありがとう。」と少し元気がない声の祥子さんが答えた。


 数分後に祥子さんが降りてきた。娘さんの顔を見ると涙が溢れていた。


 勝之さんがいなくて一人ぼっちですごく心細かったのだろう。


「祥子さん、行ってらっしゃい、気をつけてね。」と言うと祥子さんは


「はーい、ありがとう」と微笑んでケアハウスを出てタクシーに娘さんと乗り込んだ。


 祥子さんが娘さんと帰館したのは夕方だった。


 娘さんが看護師を呼んで欲しいと言うので看護師を呼ぶと二人は深刻そうな顔で話をしていた。


 祥子さんは疲れたと言うので部屋で休むよう促した。


 娘さんと看護師の話が終わり、


「すみません、ありがとうございました。これからも迷惑かけるかもしれませんがどうぞよろしくお願いします。」といいケアハウスを出て行った。


 看護師からの話だと、勝之さんは今回倒れたことをきっかけに色々と検査をした結果、


 以前患った胃癌が再発していて、転移も発覚したらしい。


 勝之さんは祥子さんのことも気になるので入院して治療はせず、残りの余生を二人でケアハウスで過ごしたいと言っているらしい。


「わしは昔の男やから祥子にはかなり迷惑をかけて生きてきた。若い頃は酒に溺れて手をあげてしまったこともあった。娘の恵子のことも全部、祥子に任せて恵子を風呂に入れたこともなかった。そんなこと、昔じゃ普通のことやったから最近までは何の罪悪感もなく生きてきたが、祥子が認知症になって祥子にもし何かあったら。とか色々考えているとこれまでの悪態に罪悪感が湧いてきて・・・今からでも祥子のために・・・祥子がわしのことがまだわかるうちに少しでも尽くしていきたいって思う。だから今は離れて生活は絶対にしたくない。年越しも、正月も誕生日も、祥子がまだわかるうちは二人で過ごしたい。」という勝之さんの意思を娘さんから看護師は聞いたらしい。


 それを聞いた私は胸が苦しくなった。


 勝之さんは祥子さんに心配かけたくないからと癌のことは絶対に祥子さんに知らせないよう徹底するように言われた。

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