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瀬川さん

 ある日、入居者の瀬川というばあちゃんが事務所にやってきた。


「財布が無くなった!部屋の鍵もない!大金が入っていたのに!一緒に探してちょうだいよ!!」と大騒ぎしだした。


 財布がなくなるなんて一大事すぎる!と思った私は


「大変じゃないですか!最後いつ使ったか覚えてませんか?」などと言って真剣に対応していた。


「いつも布団の隙間に入れてるのにさっき布団をめくったら無くなっていた。部屋の鍵もなくなったってことは誰かが勝手に入ってきて盗んだんだわ!!!」


 と瀬川さんは興奮していた。


「いやいや、盗む人なんていないよー、自分で無くしたんでしょ。お部屋をもう一回探してみてよ」と冷静に横からコアラさんが入ってきた。


「盗まんと無くならんでしょう!私は管理をちゃんとしてるのに」と声を大きくして少し逆ギレしていた。


 瀬川さんは90歳で、腰も曲がり、いつも押し車を押して歩行している。


「押し車の中に入ってたりしませんか?」と私が聞くと


「じゃぁちょっと中見て探してみてよ!」そう言うので私は押し車の収納部分を開けて色々と物が入っている中を漁って財布らしき物がないか探した。


 ガサゴソ探している横で瀬川さんはコアラさんに「この中に財布がなかったら部屋の中を探してちょうだい」と言っていた。


 押し車の中をどう探しても財布と部屋の鍵は見つからなかった。


「ほら、ないでしょう?二人でお部屋に来て財布と鍵を探してちょうだいね」と瀬川さんが言う。


 原則、入居者さんの部屋に職員一人だけでは入れないことになっている。


「はいはい、わかりましたよ」とコアラさんがため息つきながら瀬川さんと私と三人で瀬川さんの部屋へ行った。


「お邪魔しまーす」と言いながら三人で部屋に入ると


 瀬川さんの部屋はなんだか懐かしいおばあちゃんちの匂いがした。


「いつもね、この布団の間に財布を隠してるんよ」と言いながらをめくり、財布がないことを見せつけてきた。


「本当だねー、ちょっと失礼しますね」と言いながらコアラさんは冷蔵庫の冷凍室を開けた。


 すると緑色の財布が出てきた。


 コアラさんが「ありましたよー」と瀬川さんに財布を見せながら言う。


「えー!どうして冷凍庫の中に入ってるのー!あー、でもよかった。ありがとうね。本当にありがとう。良かった良かった。」と瀬川さんは涙を流した。


 そして財布を開けると中に部屋の鍵も入っていた。


 私は安堵した。でもどうして冷凍庫の中に・・・?


 瀬川さんの部屋を出て、事務所へ戻りながらコアラさんが「瀬川さんはねー、こうなのよ。自分で隠しておきながら自分で隠したのを忘れていつも事務所で騒いでるんだよ。こないだはエアコンの上、あとベランダの室外機の裏とか・・・よくもまぁ、自分でそんなところに隠せたなぁ。って思う場所ばかり・・・だからまたすぐ事務所に来て財布がない!鍵がない!って言い出すよー。でも本人は本当に忘れちゃってるから本人からしたら無くなったのって本当のことだからね。まぁあまり騒がずに冷静に対応してあげてね」と教えてくれた。


 そっか、本人からしたら財布がなくなったのは本当のことなんだよね。


 その日以来、瀬川さんの財布探しは私の担当になった。


 見つかる度に泣いて喜んで私に飴玉を2つくれるのがルーティンになった。

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