第一章:五時過ぎの聖域
午後五時。外来診察の終わりを告げる放送が流れると、病院は巨大な廃墟のように静まり返る。
僕たちは一階まで歩き、無人となった外来待合室へ向かった。高い天井の下、オレンジ色の非常口ライトと、赤いコカ・コーラの半自動販売機だけが浮かび上がっている。
僕は自販機の重い扉を開け、格子の中から二本の瓶を引き抜いた。栓抜きに引っ掛け、「シュポッ」と小気味よい音を立てる。
「はい、お疲れ様」
冷たい瓶を渡すと、彼女は大切そうに両手でそれを受け取った。
僕は持ってきたポータブルラジカセの再生ボタンを押す。テープには、僕が深夜放送から慎重に録音したニューミュージックが詰まっている。ノイズ混じりに流れる切ないメロディ。
「これ、リサイタルのチケット。やっと手に入れたよ」
彼女が見せてくれた二枚の紙。僕たちは、その歌手の曲を口ずさみ、まだ見ぬキラキラしたステージを夢見た。
ふと、彼女が静かな空間で『赤とんぼ』を歌い出す。保育科の彼女が子供たちのために覚えた歌。その清らかな声に、僕はこらえきれず彼女を抱き寄せた。自販機の明かりの下、僕たちは初めて唇を重ねた。瓶コーラの甘くて痛い刺激が、二人の間に残っている。いつか別れが来る。それでも、この場所だけは僕たちだけの聖域だった。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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