5話
俺は宿に帰ってきた。光に伝えて、ここで月姫さんと一緒に休んでもらっている。
「ただいま。」
俺はそう言って部屋に入る。
ダンダンダンッ!
光がすごい勢いで駆け寄ってくる。
「蒼さん!大丈夫でしたか!?」
駆け寄ってきた勢いを殺せず、そのまま俺にぶつかってくる。
「痛え!」
「いたっ!」
俺と光は倒れる。痛え!さっきやられた傷に沁みる。
「ああ!ごめんなさい!」
光は起き上がり、正座する。
「大丈夫。光は今ので怪我してない?」
「大丈夫です。へへっ。」
さっき見せてくれた笑顔。よかった。
「一応やつは撃退したよ。逃げられちゃったけど。」
「そうなんですね!でも、無事で何よりです!」
月姫さんと性格が真逆でなんか新鮮だな。
「おかえり蒼。」
月姫さんがひょっこり、その小さな顔を覗かせる。起きてたのか。
「ただいま戻りました。起きてたんですね。」
「そりゃあ、何かあったら私の出番だからね。」
あんなに酔ってたのに、そんなすぐ醒めるのか?
「何か無いように俺が行ったんですから、心配しないでください。」
「うん。心配してない。信じてたから。」
月姫さんがフッと笑う。
「でも、ずいぶん力を使ったんだね。蒼い月が出てるって騒ぎになってたよ。」
「はい!びっくりしました!とても綺麗で!」
あんだけでかく出せば、そうなるよな。
「それくらい相手も強かったんだ?」
「はい。新明で遭遇したやつと一緒で、黒いローブを着ていました。あいつよりは弱かったですけど。」
「なるほど。」
月姫さんも同じことを考えているはず。やつらの組織は情報の伝達が早いし、行動も早い。そこも加味して動かないと。
「光ちゃん、うちの蒼は強いでしょ?」
月姫さんは自慢げに言う。
「はい!かっこいいです!」
光は大きな目を見開いてキラキラ光らせている。
「だから安心してね。」
「はい!」
その後、みんなまだ眠くなかったので、俺らのビジョンを共有した。
今なお続いている違法薬物の犯人たちを捕まえ、根絶すること。
相手の情報、俺らの次の目的地、そして。
「黒いローブを着た相手とは余程の事情がない限りやり合わないで。戦うとしたら、三人で。作戦も立てた上で行くからね。」
『了解。』
光は思っていたよりも堂々としていた。覚悟を決めたのか。すごい子だ。
「せっかくだし、今日はこのまま三人で寝ようか。」
「はい!?」
いくらなんでも一緒の部屋は。まだ光もそこまで慣れていないだろうし。
「だめ?」
この人、自分が可愛いのを自覚しているな。そんな顔で言われたら、
断れる男なんかいない。
「私は全然大丈夫です!」
光は意外にも乗り気だ。まあ二人がいいならいいか。
「わかりました。俺はソファで寝ますからね。」
「一緒じゃなくていいんだ?」
月姫さんはニヤニヤしている。悪い人だ。楽しんでるな。
「一応男女ですから。そこは弁えますよ。」
「うん。そうじゃないと困る。」
やれやれ。全くこの人は。
じわじわ傷が痛む。まずいな。治療を受けるべきか。
ソファに横になると、俺はすぐ眠っていた。
ちょんちょん。
頬を突かれる。そうだ。気づいたら眠っていたんだ。
目を開けると、光が目の前にいる。
「おはよう。」
「お、おはようございます。」
少し顔を赤くした光が離れる。
「光はゆっくり寝れた?」
「はい。おかげさまで。」
目線が合わない。まだ慣れていないのか。
「いい感じのところ悪いけど、支度して出かけるよ。」
月姫さんが声をかけてくる。
「ちょ!月姫さん!変なこと言わないでください!」
仲良さそうだな。この二人。
あれ?昨日の傷が痛くない。治っている?
変だ。そんな軽い怪我じゃなかったはずだ。でも、傷を負ったことを二人は知らない。今は黙っておこう。
そういえば、毛布もかけられている。
「毛布かけてくれました?」
「うん。光ちゃんが。」
やっぱり優しい子だ。思いやりもある。
「ありがとう、光。」
「い、いえいえ。」
「光ちゃん、何回も掛け直してくれてたよ。」
「ちょっとー!」
なんだか微笑ましいな。光が来てくれてよかった。今までは二人ぼっちだったから。
光は家に帰り、これからの準備をした。俺と月姫さんは少しこの町を観光した。
いろんなものを食べ、いろんなものを飲み、いろんなお店へいった。
月姫さんが観覧車に乗りたいと言い、俺たちは観覧車に乗った。
夕日が町にかかり、少しの高揚感と、少しの感傷的な気持ちが込み上げる。
こういうの、初めてだな。
「こういうの、初めてだな。」
びっくりした。俺の心でも読んだのかと思った。
「私、勉強ばっかりで遊びに行ったりしてこなかったから。」
夕日に照らされた月姫さんは、どこか儚げで、俺の胸をざわつかせた。
なぜか今日でお別れのような気がしてしまったからだ。そんなわけないのに。
出会ってまだそんなに経っていない。でも、過ごした時間なんか関係ない。
今日まで一緒にいて、いろんな経験をしてきた。
今ならわかる。その日々が大切で、かけがえのないもので、何より
月姫さんが俺にとって本当に大切な人なんだと。
世界では理不尽な被害に見舞われている人がいる。今こうやって一緒に居れるのは、
奇跡みたいなものかもしれない。これから先、もっと大変な目に遭うかもしれない。
それでも、いつかこの事件が終わったら、また一緒にここに来たい。またいろんなものを食べて、いろんなものを飲んで、いろんな店を見て。
まだまだたくさん、月姫さんと思い出を作りたい。
そして、みんなにも、幸せな思いをしてほしい。
だから、必ず捕まえる。これ以上みんなの幸せを奪わせない。
「これからたくさん、遊びに行きましょうね。」
「うん。」
宿に戻り、それぞれの部屋で今日は休んだ。明日にはこの町を出る。
次は西地区。距離もかなりある。長旅だ。
必ず帰ってくる。やつらに決着をつけて。
また基地のコーヒーを飲みに帰るんだ。




