2話
目が覚めると、俺は基地の病室にいた。
生きてた。昨日は敵の本体と思われるやつと対峙して、やられたんだよな。
誰が助けてくれたんだ?
体を起こすと、そばで月姫さんが俺のベッドに伏せて寝ていた。付き添ってくれてたのか。申し訳ないな。
「蒼!」
月姫さんが起きた。心配そうな顔をしている。なんだか胸が痛む。これは勝手に動いてこんなことになった罪悪感からか、心配かけてしまったことからか、その両方か。
「すいません。月姫さん。」
ポスッ。
月姫さんが布団の上から俺を叩く。
「もう!心配したんだから!勝手にどっかいっちゃだめだよ!」
怒っているが、その表情と言葉から相当心配してくれたのが伝わる。
その表情を見て、胸が熱くなる。誰かからこんな感情を向けられたのは、
施設にいたとき以来だと思う。月姫さんとはまだ付き合いも短いし、言ってしまえば
ただの職場仲間。月姫さんが俺をどう思ってるかはわからない。でも、俺は月姫さんと同じ班で本当によかった。
「心配してくれてありがとうございます。それと、付き添っててくれて。」
「あたりまえでしょ!大事な仲間なんだから!」
月姫さんはもうっと頬をふくらませている。なんだかかわいらしい。
「ここまで運んでくれたのも月姫さんですか?」
「運んだのは私じゃないけど、あそこで見つけたのは私。蒼、全然帰ってこないし、連絡も返ってこないから。班長権限で端末のGPSを調べたの。そしたらそこでの滞在時間が長かったから、おかしいなって思って行ったの。」
班長権限でGPSも見れるのか。まあ別にいつも見れるようにしれもらっていいんだけど。
「そしたら向かう途中で何かあったって騒ぎになってたから。まさかって思ったら蒼がすごい奥の方で倒れてたから。もう、びっくりしたよ。」
「俺そのときまでよく生きてましたね。」
「すぐ治療室に行ったからね。あぶなかったんだから!」
運がよかった。というか、月姫さんのおかげだ。全部。
「あらためて、ありがとうございます。月姫さん。あなたがいなかったら、
俺は今ここにいません。」
俺は頭を下げる。月姫さんからの応答が無く、俺は顔を上げる。
見ると、月姫さんの瞳が潤んでいる。
「絶対いなくなるなんてだめだから。わたしがいるから。」
その言葉の重みから、月姫さんの過去になにかあったのかもしれない。
いつか聞けたらいいな。俺も月姫さんの力になりたいから。
「月姫さんには、俺がいますから。」
俺と月姫さんは笑いあう。必ず守りますから。もっと強くなって。
「核心には迫りませんでしたが、やつらの中の実力者に遭遇しました。」
俺は昨日のことを月姫さんに伝える。
「恰好は黒いローブを着ていて顔はフードで完全に隠れていました。対峙して感じましたが、やつは相当強いです。それに、今まで見たことない能力で身体能力もかなり高いです。」
思い出すと悔しさがこみ上げる。不意打ちが無ければ、なんて言い訳だ。俺たちの戦いは、よーいどんで始まることの方が少ない。俺はまだまだ弱い。
「それとやつは武器を使っていました。人よりも大きい大剣で、俺の炎を切って、いなしていました。やつがトップの可能性も十分あるかと。」
「逆に言えば、やつがトップじゃなきゃ、もっと強い敵がいるということになるね。」
そうだとしたら、かなり手ごわい。警察もかなりの人員を割かなければいけない。
「蒼がくれた情報をもとに分析して、さらに調査が必要だね。」
「はい。俺も今日寝れば、明日には動けます。」
「無理しちゃだめだよ。だから、戦闘は避けて、わたしと一緒に行動してもらうからね。」
「了解。」
昨日はあの後月姫さんは基地にいろいろ手続きをしに行き、俺はずっと寝ていた。
基地の医療技術がすごいのか、ダメージはほとんど無い。戦闘はまだわからないが、そのへんのやつらとなら問題なくやりあえる。
「よしっ。」
病室のカーテンと窓を開ける。雲一つない快晴。風も心地いい。
この間はやられたが、被害は俺にだけでよかった。
勝つまでやる。犯罪者どもに負けるなら、死んだほうがましだ。
この仕事を選んだ時に覚悟は決めている。
ぜってえ牢屋にぶち込んでやる。
俺は制服に着替え、病室を後にした。
ロビーに着いた。月姫さんとの待ち合わせにはまだ早い。
ロビーの吹き抜けに天窓から空の光が差し込んでいる。白く明るく、なんだか元気になるし、気分もよくなる。
俺は売店でコーヒーを買う。ここのコーヒーは外のお店にも負けないくらいうまい。
警察官は無料で飲めるのもありがたい。
「あの。」
売店のスタッフに声をかけられる。
「はい?」
なんだ?特に接点はないはずだが。
「お怪我、大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとうございます。もう大丈夫です。」
「よかった。いつもあのかわいくてきれいな方といっしょにきてくださるのに、昨日は彼女だけで元気もなかったので。」
よく見てるな。けっこうこの基地には人は多いし、俺もまだ所属してそんなに経ってないのに。
「そうだったんですか。」
「はい。彼女、以前から一人でよく買いにきてくれていたんです。そのときはすごい静かで、あんまり話すこともなかったんですけど。でも最近お兄さんとくるようになって、すごい笑顔が増えて、明るくなったなあって思ってたんです。」
そうなのか。そういえば、俺は月姫さんのことをまだそんなに知らない。
いつからここにいるのか。なんのためにここにいるのか。それに、能力もまだ知らない。
「それと。」
スタッフさんがもじもじしながら続ける。
「いつもおふたりを見てて、その、とても素敵だなあと思いました。おふたりが話しているところや、何気ないところでも、いい人たちなのが伝わって。」
「月姫さんは本当にいいひとです。ふだんは厳しいときも、もちろんありますけど、
仲間思いで、思いやりがあって、優しいです。」
「やっぱりそうなんですね。なんだかうれしいです。彼女が今楽しそうで。」
「月姫さんに伝えときますよ。」
いやいや、と手を振っている。そうやってお客さんのこと見て、思ってくれるのも素敵なことだと俺は思うけど。
「それに、お兄さんもです。いつも彼女にコーヒー熱いんでお気をつけてとか、蓋を開けてあげてるところとか、ほかにも素敵なところたくさんあります。」
そんなの普通じゃないのか?まあ悪い気はしないけど、過剰評価じゃないかな。
俺がお礼を言うと、ちょうどむこうから月姫さんが来た。少し三人で話して、月姫さんのコーヒーも買って、俺らは調査に行った。
「どうかおふたりは、これからもここにコーヒー買いに来てくださいね。」
スタッフさんの表情と声色がさっきまでと違った。伝えようとしてくれていることがわかる。そう思ってもらえることがうれしい。
「もちろん、これからも毎朝来ます。」
スタッフさんは笑って見送ってくれた。
「昨日あれから少し調べてみたの。それで、私のたどり着いた答えなんだけど。」
「はい。」
月姫さんが話す。おそらく奴らの組織は相当な規模で壊滅に追いやるにはかなり時間がかかること。そして、おそらく拠点がいくつかあること。そして。
「やつらが回している薬物がどんどん改良されている。今の薬物でも最低だけど、おそらくさらに最低なものを作ろうとしているんだと思う。」
なるほど。今の薬物を広めるのが目的じゃないとすると、回して実験台にしているのか?あり得る。それを見て改良して完成形にしようとしているのか。
「くそやろうどもが。」
今わかっている情報だと、この薬物を使うと能力に目覚めるらしい。だが、それは人によるとのこと。でも、能力が無い人からしたら、試したくなるだろう。きっと大勢が。俺もそうだと思う。そして、その薬物を使用した人は、能力の発言に関わらず、全員1月以内で死に至る。ピーク時よりは減ったが、手法を変えていまだ流通している。まずはその流通を止めたいが、そうするには大元をつぶさないと意味がない。
「それでね、この先にある町にやつらの一部が出入りしている情報を見つけたの。まずはそこをつぶすよ。」
「了解。」
目的の町に着いた。基地から1時間ほど離れているところで、俺らのいる新明町を小さくしたような感じだ。
「俺、初めて来ました。」
「蒼は新明からほとんど出たことないもんね。」
たしかに。基本いつもの仕事でもおれらの管轄は新明町だしな。
「ここは新明に似てるけど、基本的に新明より荒れてるから注意してね。すぐ喧嘩したりしちゃだめだからね。」
「わかってますよ。」
保護者か。まったく。
コンクリートの建物が多いが、けっこう全体的に古びている。ひと昔前のような雰囲気だな。みんなそのへんで好きに飲み食いしたり、店のテラス席かわからないが、この時間でもたむろしている人が多い。それに、通り過ぎる人全員ちらちら俺らを見てくる。なんだかやな感じだ。
「せっかくだし、とりあえずなんか食べる?」
「月姫さんがおなかすいてるなら食べましょう。」
「じゃあ少し食べようかな。ここはね、ハンバーガーが有名らしいよ。」
「へー。」
正直新明は栄えているから何を食べてもうまい。だからそれになれてると期待外れになりそうだが、月姫さんが少し楽しそうだからまあ、いいか。
俺と月姫さんは一番人気のビッグバーガーにした。思っていたよりもうまい。ソースはかかっていないが、野菜はシャキシャキでみずみずしく、肉は本来のうまみがでているし、パンの部分は少しかりっとしていて、それらのバランスがすごくいい。これはハマりそうだ。
「うまいです。」
「ね、食べてよかったでしょ?」
そう言う月姫さんを見ると、バーガーより顔が小さく、どこかおもしろいがそれすらも絵になると思った。
「お姉さん、そいつとデートしてんの?」
見るからにがらの悪い男が話しかけてきた。ナンパか?
「そうですよ。すごく楽しいです。」
月姫さんは動じずに言う。その言葉に少し胸が鳴る。
「へー、そうなんだ。でも俺ならもっと楽しませられるよ。だからお前、ちょっとこの子貸してよ。」
慣れてるな。それに、勘だが悪い人間のにおいしかしない。
「てめえなんかには、何があってもわたさねえよ。」
俺は相手をにらむ。キレたのか、相手が俺に近寄ってくる。すると、まわりから仲間がぞろぞろ出てきた。10人くらいか。暇なんだな。あるいは、なにかやってるな、こいつら。
「おまえ、なまいきだな。」
「俺が敬意を持ってんのはひとりだけだからな。」
「クソガキが。じゃあ力づくでその女もらってくわ。」
「できもしねえこといってんじゃねーよ。」
相手はキれ、俺に拳を振るう。遅すぎる。俺は顔だけ動かしてかわす。
「おせえな。おっさんだからか?」
「うるせえよ!」
まわりのやつらにも合図し、全員で俺に向かってくる。
「月姫さん、店の中に入っててください。すぐに終わらせます。」
「大丈夫なの?油断しないでね?」
「了解。」
月姫さんは店の中に入り、隠れた。まったく、この町のやつらは平気でこんな人目に付くとこで喧嘩すんのか?めんどくせえ。
通行人は悲鳴を上げながら逃げる。離れてくれてよかった。
「死ねっ!」
喧嘩をふっかけてきたやつが鉄パイプを振り回している。俺はそれをつかんで止める。
「こんなところで暴れんじゃねえよ。」
「関係ねえだろ!」
相手は鉄パイプを振りほどこうとするが、離さない。
「力ねえのな。」
相手はかおを真っ赤にしてキレている。俺はつかんだパイプを引き寄せ、相手をよろめかせる。引き寄せた勢いを利用し、回し蹴りを相手のあごにいれる。相手は泡をふいて倒れた。それを見た仲間たちはどよめいている。
「次、こいよ。」
俺がそう言うと、全員いっせいに飛び込んできた。
ウィーン。
「あ、お疲れさま。」
「おまたせしました。いまここの警察に引き渡し終わりました。」
「あんないっぱい居て無傷なのはさすがだね。」
「そりゃあ、一般人相手ですから。少し時間かかりましたけど。」
「ちょうどよかったよ。はい、これ蒼の。」
月姫さんはデザートにケーキを食べていた。俺のもちゃんと用意してくれてる。ショートケーキ。俺が一番好きなケーキだ。
「ありがとうございます。」
うまい。それになぜだかショートケーキを食べると気分が上がる。
「さっきの人たちから何かわかった?」
俺は感じたことを話す。
「おそらく、ただのチンピラではないです。バックに何かがいます。その指示か、命令か、何か企んでいるのを感じました。」
「なかなか良い感覚してるね。」
月姫さんが含みのある笑みを浮かべる。
「彼らは今の私たちの目標の傘下に当たるギャング。メインは女性をさらってその女性をだしに女性の恋人や家族なんかを脅してお金を巻き上げたり、女性を富裕層にアテンドしてお金を回収しているの。メインは目標にお金を回すこと、そのお金を使ってやつらの薬物の改良や資金に充てているの。だから、まずは私たちの基地から近いここをつぶす。蒼も女性が被害にあうのは見てられないでしょ?」
なるほど。月姫さんは全部調べてわかっていて、わざとさっきのやつらをさりげなく煽って自然に接触したのか。これなら怪しまれない。
「月姫さんがここを真っ先に選んだ理由がもうひとつ。俺の予想ですが、ここが一番理不尽に一般の被害者をだしているからですかね。」
月姫さんは少し驚いている。
「正解。よくわかったね。」
「俺が知ってる月姫さんなら、優先すべき理由をそう考えて選択しているかなって。」
「考える力の成長がすさまじいね。」
「誰の部下だと思ってるんですか。」
少し照れくさそうにしているのが可愛い。そういえば、月姫さん最近表情豊かだな。
「今日の夜、行くところあるから一旦宿に行って備えよう。」
「わかりました。」
昼のギャングのバックにいる奴らの組織は、新宿町という繁華街にいる。不定期に集会を開いているらしい。そこで、昼全員が一般人と揉めて、やられたとなれば必ず集まるはずだ。月姫さんはここまで計算して動いていたらしい。さすがだ。
「私はこの間と一緒で遠距離から対応するね。蒼はいつも通り前線でお願い。証拠だけ押さえたら即確保で。」
「了解。」
俺と月姫さんは別々に別れ、持ち場へ向かう。
夜の街、という言葉が似合いすぎるほどそういう店がたくさんあり、この時間でも賑わっている。正直、町にいる人全員怪しいやつに見える。カタギではないだろうな。
向かう途中、ずっと声をかけられる。キャッチだ。いかがわしいサービスのお店で今ならサービスするとのこと。新明では違法だが、こっちでは統制されていないのか。
これは後で報告だな。俺は奥へ奥へと進んでいき、裏路地の地下にあるバーに入った。
はたから見ると、普通のバーだ。ダーツやビリヤードもある。
「いらっしゃい。」
バーテンダーは強面でガタイもよく、客を見定めるタイプの接客をしている。
「一人で。」
「どうぞ。」
俺はカウンターに座る。ここまでは普通のバーだ。客の数はそんなにいない。
「お任せで。」
「かしこまりました。」
バーテンダーは慣れた手つきでドリンクを作る。その様を見ていると、素直にすごいなと思う。バーの見えないところに色々ドリンクを保管しているようで、無駄なものは客側からは見えない。
「お待たせしました。」
スッとドリンクを差し出された。出されたものは黒いカクテルだ。
「こちらは?」
「ブラックルシアンでございます。」
グラスを軽く回し、香りから確認する。コーヒーの香りにアルコールの匂い。
コーヒーが好きな俺からしたら、興味を惹かれる一杯だ。
「このカクテルを作られた理由は?」
「スーツの袖口から、かすかにコーヒーの香りがしました。こぼされて香りがついた、もしくは、普段からコーヒーを良くお飲みになるかのどちらかかと。私の予想では、おそらく後者かと。であれば、お口に合うかと。」
「なるほど。」
「はい。」
「ちなみに、このカクテル言葉は?」
「優雅なひと時を、でございます。」
「素晴らしいお気遣いだ。」
バーテンダーは頭を下げる。品のある方だ。
「ただ、それが本当だったらな。」
俺は出されたカクテルを周りに掛け飛ばし、能力を使う。
アルコールにより、少しの俺の青い炎でも十分燃え上がる。燃え広がった炎は、店の出口を塞ぎ、視界も悪くする。
周りにいた観客、バーテンダーは全員仲間だ。おそらくここに来る客をカモにしていたんだろう。
「この酒、薬が入ってんな。コーヒーによってもちろん香りは違うが、明らかに異質な匂いが混じっている。」
俺の言葉を聞きながら、敵は体勢を整えている。
「それと、このカクテル言葉、同じような黒いカクテルの別の言葉だ。優雅なひと時を、はブラックベルベット。ブラックルシアンのカクテル言葉は強敵、困難。これはお前ら仲間内に知らせるための酒だろ?そもそもこんなカクテル言葉の酒を一見の客に普通は出さねえしな。」
「お若いのによくご存知で。」
「自慢の上司のおかげで、こちとら酒には詳しいんでね。」
「羨ましいですよ。」
後ろにいた敵が俺に向かってくる。ここなら周りの被害も関係ない。
俺は腕から炎を放つ。能力は無いのか、あっさり倒れる。
その炎を利用して、別の敵に急接近して上から炎を纏った踵おとしを喰らわす。
昼間に能力を使わなかったからか、警戒が薄い。
「まさか、能力持ちだとは。」
バーテンダーが言う。口調からするに、ほんとに警戒していなかったようだ。
「バーテンダーとしての腕は確かだったみてえだな。どこで道を間違えた?」
バーテンダーは初めて表情を崩す。やってることは最低だが、こいつにも事情があるんだろう。もったいねえ。
バーテンダーは銃を構え、何発も放つ。能力が付与されている。一応備えはあったか。属性は雷だな。弾のスピードも速い。
俺は炎の勢いを活かして回避する。弾の軌道からして、慣れていないし、躊躇しているのがわかる。
「薬物を入れた酒、今まで何人に出してきた?」
「覚えていないな。もう何年も経つんでね。」
「そうか、じゃあダメだ。」
足に炎を溜め、一気に踏み込み、相手の元へ飛び込み、上段蹴りを打ち込む。
バーテンダーは躱せるはずもなく、そのまま気を失う。
「牢屋で悔い改めろ。」
棚に飾られている酒が落ち、割れて倒れたバーテンダーに掛かる。
ラベルにはリデンプションと書かれていた。
バーカウンターの横に、扉がある。俺はその扉を開け、中へと進んでいった。
扉の中は、地下へと繋がっている。結構広いようだ。途中、部屋があり、そこにも何人か敵がいたが、取るに足らなかった。恐らく、能力を持つ者はあまりターゲットにしていなかったんだろう。警備が甘い。
結構な時間歩いた気がする。いつまで続くんだ、と思っていたら、明らかに不自然ででかい扉が現れた。何かあるとすればここだな。
俺は扉を蹴破る。中を見ると、敵が大勢いる。こんなところの地下には不自然で不可解な広さの間。そして、待ち構えていたかのような人員の配置。
「お前が侵入者か。」
奥の方から声が飛んでくる。
「こんなとこで集まってるとか、お前らゴキブリかよ。」
周りのやつらは笑っているもの、怒号を放つもの、黙っているものとバラバラだ。
「なにもんだ。何が目的だ?」
ボスと思われるその男は短髪でガタイがよく、只者では無いことがわかる。
「決まってんだろ。お前ら全員一人残らず捕まえに来たんだよ。」
「警察か。一人で来るとか、馬鹿か?」
「お前らくらい、一人で十分だ。」
「昼間、うちのやつに手ェ出したのもお前だよな?」
「お前、嘘の報告されてんぞ。先に手出したのはてめえらからだよ。統率できてねえな。」
「そうか。まあいい。」
空気が変わる。
「ここで死んでけ。」
その言葉を合図に、敵が一斉に向かってくる。能力持ちも何人かいるようだ。
めんどくせえ。無駄に人数多すぎるしな。
「蒼炎、解放。」
俺は腕から炎を噴射し、中央の空間へ飛ぶ。
「蒼炎の雨。」
俺は両腕の炎を拡散させ、真下にいる敵に放つ。衝撃と煙が舞う。
俺は炎を止め、下に降りる。
立っているのは、ボス一人。
「お前、名前は?」
「蒼。特殊警察、月班の蒼だ。」
「そうか。俺は大だ。てめえに出会う最後の男だ。」
大は巨大なハンマーを手に取り、向かってくる。
俺は拳に炎を込め、振りかざす。大のハンマーと俺の拳がぶつかる。
流石に重い。長くは耐えられない。
俺はそのまま拳から炎を放ち、距離を取る。
「俺のハンマーに対抗するとは、なかなかやるな。」
大は余裕そうにハンマーを担ぐ。
「その青い炎も初めてみたぜ。」
「俺の炎は特別だからな。」
「だろうな。じゃなきゃ俺のハンマーで潰れてるぜ。」
大はハンマーを振り、地面を削り、瓦礫を飛ばしてくる。
ただハンマーを振り回す馬鹿では無いようだ。大は繰り返し、ハンマーを振り、瓦礫で俺の視界と自由を奪う。くそっ。めんどくせえ。
「よそ見すんなよ!」
大は上からハンマーを振り下ろす。俺は咄嗟に両腕から炎を出す。
上からの勢いがある分さっきよりも重い。これはまずい。
「おいおい!そんなんで耐えられんのか!?」
俺の足元が崩れて、バランスを崩す。
ドゴオーンッ!
ギリギリ逃れたが、エネルギーを使いすぎている。長期戦は分が悪い。
ハアッハアッ。
呼吸が整わない。大はあんなハンマーを振り回してるのに、全然平気そうだ。
こいつ、強いな。ここを任されるだけのことはある。
「どうした?もうへばったか?」
大はブンブンとハンマーを回している。
「こんなの、日々のトレーニングに比べりゃぬりいよ。」
こっちから仕掛ける。
「蒼炎の槍。」
炎をなるべく絞ってスピードを上げて放つ技。大はハンマーを振り、打ち返してきた。ダメだ。ハンマーが厄介だ。距離を詰めないと。
「お前、炎は良いが、まだそんなに戦闘経験ねえな。技が単調すぎるぜ。」
悔しいが、やつの言うとおりだ。訓練は毎日してきたが、能力を使った実践はまだ数えるほどしかない。能力を使って訓練をするのは危なすぎるからだ。
「もういいよ、お前。」
大はハンマーを上空へ投げた。俺は視線を奪われる。その隙に、大が飛び込んでくる。接近戦。俺は構えたが、大は俺の前で飛び、ハンマーをキャッチして振り下ろす。しまった!反応が遅れた!俺は炎を出したが、そのままハンマーを喰らう。
「少しは期待したが、つまんねえな。」
大はハンマーを肩に背負い、背を向ける。俺はハンマーを喰らった。
そのはずだが、ダメージは無い。どこも、全く痛みがない。
俺は自分の手を見る。手が、炎そのものになっている。噂で聞いたことがある。
能力は、それぞれ覚醒段階がある。
まず1つ。能力に目覚める時が第一段階。基本、限られたものだけがこの覚醒を
体験する。
そして2つ目。これは能力が使えるものでも限られたものしか起きない覚醒。
それが、自身の能力との融合。1つ目の覚醒では、人がみんな持つ能力を形にし、放出できることを指す。2つ目は、自身の肉体が、その能力そのものになる。
つまり、俺の肉体が炎になることができ、物理的ダメージを負わなくなった。だが、噂によると、能力の攻撃は通じるらしい。
「待てよ。」
大は立ち止まり、俺の方を振り向く。俺が全く攻撃を喰らっていないことに驚いている。
「てめえ、なんで無傷なんだ?」
大は目を見開いている。動揺している。
「お前のハンマーなんか効かねえよ。あんだろ?お前にも能力が。」
ハンマーだけでも大は強いが、能力があるはずだ。俺の直感がそう言っている。
「良いねえ、お前。まだ楽しめそうだ。」
なんで俺に2つ目の覚醒が起きたかはわからない。でも、これならまだ戦える。
大がハンマーを構える。さっきまでとは違い、ハンマーがバチバチと音を立てている。黄色い雷を纏っている。雷属性か。それを喰らったら流石にダメージを負う。その前にこっちから仕掛ける。
「蒼炎、解放。」
俺自身の体が炎そのものになるとなれば、戦い方の幅も広がる。俺はこの空間に炎を広げる。
俺は体を炎の状態にし、広げた炎に紛れる。
「こいよ。打ち返してやる。」
大はハンマーを構える。無駄だ。なぜだか今は負ける気がしない。
俺は炎の中を移動し、大の目の前に移動する。そこで、広げた炎を一気に集める。
「蒼炎の閃。」
右腕に集めた炎。それは大きくはないが、密度が高い。
大の腹に多いきり打ち込み、大は叫びながら飛んでいく。
壁まで飛んでいき、衝撃で壁が崩れ落ち、大に降り注ぐ。
「立てよ。お前はこれじゃくたばらねえだろ?」
大が瓦礫の中から立ち上がる。相当ダメージは負っているようだ。
「そう来なくっちゃなあ!蒼!」
大は雷を俺に放つ。雷の特性には速さがある。躱すのが遅れ、俺は喰らう。
くそ。やっぱり手強いな。俺は飛ばされ、上には大がハンマーに雷を纏い、振り下ろしてくる。
俺は全身を炎に変え、躱す。あぶねえ。そのままの勢いで俺は蹴りを繰り出す。
能力を込めた本気の蹴りは、大のハンマーを粉砕する。
「ちっ!」
大は強い。今までの敵の中でも1番に。でも、今は負ける気がしない。
大が雷を拳に纏い、飛んでくる。全力だ。
なら俺も全力で受けてやる。
「蒼炎の奥義。」
右腕に意識を集中させる。蒼い炎が澄んでいき、空のような、海のような水色になる。
「神聖な蒼炎。」
俺の蒼い炎と、大の黄色い雷がぶつかる。力の押し合いになり、衝撃と煙が舞った。
技の衝撃で瓦礫が散乱している。
「お前、強えな。」
大が言う。倒れたまま、動けないようだ。
「いずれ最強の警察になる男だからな。」
「ハッ!なら仕方ねえ。俺の負けだ。」
大は満足げだ。勝ったのか。俺が。
「大、お前を逮捕する。」
俺は大に手錠を掛け、事前に登録していた端末の転送システムを使う。
大はそのまま、牢に転送された。
「こちら蒼。任務完了。」
俺は月姫さんにそう伝え、その場にもたれ込んだ。




