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16話

京地区までは二時間ほどで到着した。今回の道中は敵もいなく、無事に移動出来た。

おそらく今回西地区を制圧した事と、京地区が元々治安が良いことが関係しているだろう。それに、俺らが京地区に行くことは予想出来ないはずだ。


「うわー!すごーい!」

光が上を見上げて言う。

京地区の入り口には大きな鳥居があり、そこからしばらく桜の木が並んでいる。

季節に関係なく一年中桜の花が咲いているそうで、その美しさに視線を奪われる。

街並みも古き良き和風な建物しかなく、ここだけ時間が止まっているかのようだ。

ダメなのはわかっているが、旅行気分にどうしてもなってしまう。

それほどまでに、ここは素敵な場所だ。

「圧巻だな。」

「はい!私ここに住みたいくらいです!」

「気持ちは分かるけど、あんまり気を抜きすぎないようにね。」

「はーい!」

そう言う月姫さんも、いくらか気分が高揚しているのが分かる。


新明地区など他の地区ではコンクリートの建物が主流だが、ここは全部木造だ。

ビルなども無く、町にとても統一感が感じられる。

ここにいる人たちも、明るく話している店の人らしき人もいるが、

みんな品がある。いつか旅行でゆっくり訪れたいな。

「せっかくだし、少しお茶でもしようか。」

「はーい!賛成です!」

ああは言っても、やっぱりこの二人も楽しみたいんだろう。

俺たちは団子屋に入った。お茶と団子が名物で美味いらしい。

俺たち三人は同じものを頼んだ。

三色団子にお茶。お茶は香りでその辺のとは違うのが分かる。

団子は柔らかすぎず、程よい弾力で食べ応えがある。美味い。

二人は店員さんと楽しそうに話している。聞くと、ここの人は

地元民か他所からきた人か見たら分かるらしい。

食べ物屋さんや観光地などおすすめを教えてくれている。やっぱりいい町だ。

「蒼、イベントがあるんだって。出てみたら?」

「イベントですか?」

「そう。なんでも毎年やってるらしくて、剣術や体術、もちろん能力を使っても

よくて、誰が一番強いか競う大会らしいよ。」

「へえ。でも、そんな大会に余所者が出れるんですか?」

俺らの話を聞いていたお店の人が説明してくれる。

「昔はここの人だけだったんだけどね。最近では何人かまでは他の地域の人も

出れるようになったんだよ。まあ出たがる人なんてほとんどいないし、大体は招待された上の人たちの知り合いだけどね。」

確かに。こんな魅力がたくさんある町で、わざわざ力だめしにくるようなやつは

そういないだろう。俺も見たい気持ちはあるが、出たいとは思わない。

「その大会、優勝したら例の最強の剣士と戦えるらしいよ。」

「いや、俺別にバトルジャンキーじゃないんですけど。」

「でも、そこで認められれば協力関係になれると思わない?」

まあ確かに。言いたいことは分かる。

なんでもその人の家系はここを取り仕切ってる剣士の一族で、どの世代でも

そこの家の剣士が最強らしい。そして今の剣士は歴代最強と。

「せっかくだし、出てみない?大怪我は運営がさせないみたいだし・蒼ならいけると思うんだけど。」

月姫さんはなんだか楽しそうだ。俺はどうするべきか、光の方を見る。

光はスポーツ観戦や歌手のライブに行くかのように目を輝かせていた。

「いいですね!私、たくさん応援します!」

こうなったら仕方ない。多数決で負けてるし。それに、目的にも一番近い道だ。

「わかりました。その代わり、負けても文句なしですよ。」

「もし蒼が負けたら警察引退だね。」

「そしたら俺ここで暮らしますよ。」

店員さんが笑っている。

「ちなみに、大会っていつからですか?」

「明日からだよ。運が良かったねえ。」

店員さんは笑いながら俺の質問に答える。

明日だと?随分急だな。

「ちょうど良かったね。」

「ちょうど良かったのか?」



どうやらこの辺のお店で外から来た大会参加者を集めているらしく、エントリーなどの手続きはやってくれるとのことだった。

「しかも朝はええ。」

「今日は早めに休まないとね。」

月姫さんと光はウキウキだ。まあ少し俺も楽しみではあるが。

そんなこんなで宿に着いた。

前回の西地区とは違い、本当に宿って感じだ。

小さいが趣があって良い。これで温泉があったら最高だ。

「今回は無理言ってここにお願いしたの。ここは観光地としても有名だから、

なかなか宿が取れなくて。」

「すごい素敵です!ありがとうございます!」

「ありがとうございます。」

俺たちは中に入り、部屋へと向かう。

「あれ、部屋は?」

「ん?ここだよ。」

「その、まさか三人一緒ってことですか?」

「そうだよ。何、蒼は嫌なの?」

嫌ではない。急で宿を取るのが難しいことも分かる。でも流石に

何日も女性二人と同じ部屋なのはいかがなものかと。

周りを見るが、どうやらそもそもここの宿には一部屋しか無いみたいだ。

「いえ。ありがたいです。」

「変態。」

適当に返した俺の言葉に食い気味に突っ込まれた。なんか、月姫さん変わった?


夜。俺たちは食事を済ませ、それぞれ自由に過ごすことにした。二人は一緒に

温泉へ。俺は散歩をして川沿いの桜の木の下でのんびりしていた。

夜の藍色の空に綺麗な桜が映える。川にも反射して桜が映り、幻想的に感じる。

他の地域では春先にしか咲かないため、観るにしてもすごい人だかりだが、

ここではずっと咲いているためか、全然人がいない。

この夜桜の下で、月姫さんと光とのんびりするのもいいな。二人にも教えたい。

周りに人がいないのを確認し、俺はそっとタバコに火をつける。

雰囲気があるせいか、いつもよりタバコがうまく感じる。

お昼に二人と花見もいいな。

月姫さんはお酒を飲んで、光は桜はずっとすごい、綺麗って言って、みんなで笑って。

楽しいだろうなあ。


タバコを吸い終わり、火を消していると、周りから鼻を啜る音が聞こえる。

そんなに寒くないのに。誰かいるのか?

俺は辺りを見渡す。

少し離れたところに誰かがいる。

遠目だが、目元をなん度も拭っている。

泣いているみたいだ。

何かあったのか?

職業病か、外で誰かが泣いていたり困っていると、つい気になってしまう。

俺はそっと近づく。

木のかげに隠れるように座っているその人は、セーラー服を着ている。うっすら街灯に照らされているだけでも分かる綺麗な長い黒髪。白く光る綺麗な肌をした顔。

高校生だ。こんな時間にこんなところで一人でどうしたんだ?

俺は不安に感じられないよう、正面に行き、声をかける。

「どうしたんですか?」

俺が話かけると、その子はビクッとし、さっきまでの泣いているそぶりを止める。

女の子は何も答えない。まあ、こんな時間に外で話しかけられても答えないよな。

「安心して。他の地区から用事があってきた警察ですから。何か困っているなら聞きますよ。」

俺がそう言うが、彼女は何も答えない。困った。

このまま放って帰ってもいいが、何かあったら心配だ。ましてやこんな若い、まだ子供をこんな時間に一人にしておくのは良くない。

「俺は何もしないから安心してほしい。でも、こんな時間にここで女の子を一人にさせておくのは心配だ。だから、俺はその辺で寝てるから、じき帰るなり何かあったら俺を呼ぶなりしてください。」

俺はそう告げ、背中を向けて下いた方に向かう。


「待って。」

後ろから静かにこぼれ出たような声が聞こえた。

俺は足を止め、振り返る。

白い肌に映える大きくて綺麗な黒色の瞳がこちらを見つめる。

年下だが、とても綺麗な子だと思った。少し残るあどけなさが、年相応で美少女という言葉がぴったりな子だ。この夜の空と桜も、とても映えていて綺麗だと思う。

視線が合う。かなり泣いたのか、目が少し赤い。

実際に見ると、胸がモヤモヤする。

まだ子供なのに、こんな時間に一人で泣いてしまうほどのことがあるのかと。

親はいないのか?いるとしたら、なぜ探しにこない。

俺は憤りを覚えたが、今は堪えた。今はこの子を一人にしないことが大事だ。

「なんか飲みますか?」


俺は近くの自販機で二人分飲み物を買った。俺はコーヒー、彼女はココア。

「どうぞ。」

「ありがとう。」

俺は少し距離を空けて隣に座る。

彼女はココアを両手で握り、飲まずにいる。

俺はコーヒーを飲みながら彼女が話しだすのを待ったが、なかなか話さないので

俺から話しかけた。

「何かあった?」

俺は言うが、彼女はまだ黙っている。

俺からなんか話すか。そうしたら話しやすく感じるかもしれない。

「ここは桜が綺麗だね。来た甲斐がある。」

少し間をおいて彼女は話す。

「お兄さん、どこから来たの?」

「俺は新明地区からだよ。そこはあんまり自然がないからここが羨ましいよ。」

風で舞う花びらさえ綺麗に思う。ちなみに新明はあんまり桜の木がない。

「随分遠いね。都会だから羨ましい。」

「俺からしたらここで住んでる人の方が羨ましいよ。いつか住むかゆっくり観光したい。」

「今回はすぐ帰っちゃうの?」

「仕事の関係でここに来たからね。一週間もいないかな。」

「そっかあ。」

何か思ったのか、少し曇った顔をしてまた静かになる。

少しして、話す決心ができたのか、彼女が話し出した。

「ちょっと将来のこととか、家のことで悩んでた。」

高校生っぽいから進路に悩む時期か。家のことはわかんないけど。

「見ず知らずの他人だけど、せっかくのご縁だから、よかったら聞かせて。」

少しして、また彼女が口を開く。

「家が結構厳しくて。私はやりたいことがあるんだけど、きっとダメって言われる。

でも、このままだと私後悔するなって。怒られるし、断られるのはわかってるんだけど、諦めきれないの。」

少しずつ彼女の声が弱くなる。それほどこの子にとっては大事なことなんだろう。

親はそんなに厳しいのか。それぞれの家庭で方針や事情があるから他人の俺は口出しできないが、それでも何かこの子の力になりたい。

「そっか。」

俺は一呼吸おいて続ける。

「俺は親がいないからわからないけど、君の気持ちが一番大事だと思うよ。君の人生は君の思うままに歩んでほしい。親が大切で親も君のこと大切だと思ってると思う。親に説得してもダメかもしれない、それでも何か方法はないか、考えて君に後悔しないでほしい。」

俺は思ったことをそのまま伝えた。親がいない俺が言っていいことかわからないが、

この子の様子を見ると、結構厳しい家庭で育ってきたのが分かる。結構いいとこの

家庭なのかもしれない。

「親、いないの?」

彼女は俺の目を見て言う。

「うん。記憶も一切ないよ。俺は施設で育てられたんだ。」

「親に会いたいって思わない?」

「うーん、考えたことないなあ。あまり人と深く接したこともないし、俺は自分の

境遇を受け入れてるから。」

「そっか。」

「でも、今なら少し会ってみたいと思うよ。どんな人なんだろうって。

施設で育ててくれた人はもう亡くなっちゃったんだけどね。」

「お兄さん、大変だったんだね。」

大変か?幼い頃からだから特になんとも思わないけど。

でも。

「そんなことないよ。でも、人は会いたい人には会えるうちに会った方がいいとは思う。いつ誰が居なくなっちゃうかわからないから。時間かかってでも、この世界にいるなら会えるんだから。」

少し、施設で俺を育ててくれた人を思い出す。しばらく忘れてたんだけどな。

「実はね。」

彼女が俺の方に体を向ける。

「私も親がいないの。どこかにはいるんだけど、どこかわからなくて。

今は親戚とかの家に私はいるんだけど、親に会うのを反対されて。」

彼女はまた泣き出してしまった。それほど、想って悩んでいるんだろう。

「ゆっくりでいいよ。話してくれるなら待つし、言いづらかったら無理しないで大丈夫だから。」

彼女は鼻を啜り、涙を拭いながら言う。

「ありがとう。それでも私は親に会いたい。一緒にいたい。小さい頃、ここに連れてきてくれたことを今でも覚えてるの。綺麗な桜の下で親と手を繋いでここを歩いて、

ご飯を食べたの。両親とも優しくて私を大事にしてくれてた。なんで離れなきゃいけないのって、いつも考えちゃうの。でも、家の人は反対するし、どこにいるかも全然わかんない。それでも会いたいよ。」

目頭が熱くなる。今日初めて会った名前も知らない子だ。それでも、胸が締め付けられる。

どうしてこの子がこんな思いをしなくちゃいけないのか。

そんなことになってしまったのか。

「俺が手伝うよ。」

「へ?」

「俺は警察だし、みんなに捜索してもらえる。俺ももちろん探すよ。」

「いいの?」

「もちろん。君はまだ子供だ。たくさんわがまま言って言いし、甘えていいんだよ。

君が我慢してそんな悲しい思いする必要ない。俺が協力する。」

俺がそう言うと、彼女は俺を見る。

その目からは涙が溢れているが、初めて笑顔になった。

「ありがとう。お兄さん。」

笑顔がとても愛らしい。さっきまで暗い表情しか見てなかったが、笑顔の方が似合う。綺麗な顔立ちとのギャップがすごい。可愛い子だな。

「俺は蒼。もう少しここの地区にいるけど、何かあったらいつでも新明基地に連絡してね。」

「うん!」

自然と俺も笑顔になる。この笑顔を失わせたくない。この子は何も悪くないんだから。



俺は彼女を家の近くまで送って行った。家は遠くないらしく、割とすぐに近くに着いた。

「ここで大丈夫。」

「わかった。家まで気をつけるんだよ。」

「うん!わかった!」

じゃあ、と俺が言い、彼女は控えめに手を振る。それに俺も振り返す。

俺は宿に向かって歩き出す。

「あの!」

彼女が俺を呼び止める。

「ん?」

彼女は手をいじりながら、もじもじしている。

「また、会えますか?」

何か少しでもこの子の力になれたのかな。そうだったら嬉しい。

「もちろん。また会えるよ。」

彼女は今日一番の笑顔を見せてくれた。綺麗な容姿だが、

本当に可愛らしい子だ。

俺はもう一度手を振り、彼女と別れ、宿に向かった。

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