15話
「蒼さーん?」
名前を呼ばれ、俺は目を覚ます。
目を開けると、目の前に光がいた。昨日と違う服を着ている。
もう支度を済ませたのか。早いな。
そういえば、俺は気づいたら寝てしまっていたようだ。
制服のままだが、きちんと布団が掛けられている。
寝る前の記憶があまりない。光と話していたことは覚えているが、
そのまま寝たのか。
「おはよう、光。」
「おはようございます!朝ごはん出来てますよ!」
ベッドの枕元の窓からは眩しいほどに朝日が差し込んでいる。
白く光っている街並みを見ると、昨日の戦闘が夢のようで、ここにただ旅行に来たように感じる。制服で寝たからか、少し暑く感じる。
体を起こしてリビングらしき部屋の方を見ると、テーブルにご飯が並べられている。
「おはよう、蒼。」
「おはようございます。」
「よく眠れたみたいだね。体は大丈夫そう?」
「はい。ありがとうございます。二人は大丈夫ですか?」
「私も光ちゃんも大丈夫だよ。無事治って無傷だね。」
良かった。俺の方も少し体が痛むが、問題ないだろう。
俺はベッドから出てリビングの椅子に座る。
マグカップに入ったコーヒー。俺のだけブラックで、二人のはカフェラテみたいだ。
さらにはスクランブルエッグにベーコン、サラダも添えられていて、
別のさらにはクロワッサンがある。
「理想の朝ごはんすぎる。」
俺がそう言うと、月姫さんは笑い、光は不思議そうな顔をしている。
「蒼、寝ぼけてるの?そんな、あほそうなこと言う人だったっけ?」
あれ?変だったかな?俺は思ったこと言っただけのつもりなんだけど。
俺のいない間に用意してくれたマグカップ、俺の好きなブラックコーヒー、
ご飯はたまたまかも知れないが、俺の好物ばかりだ。
「朝からこんなに作ってくれたんですか?」
「月姫さんと一緒に作ったんです!事前に蒼さんが好きそうなものは買っておいたので!」
「ほとんど光ちゃんが作ったんだけどね。私はパン焼いてコーヒー入れただけ。」
光は朝から元気そうで、月姫さんはあくびをしながら話している。
俺が寝てる間に申し訳ないと思うけど、なぜか喜んでいる自分がいる。
「ありがとうございます。いただきます。」
『いただきます。』
コーヒーはホットだが、熱すぎず、ぬるくもなく、猫舌の俺でも飲めるちょうどいい温度だ。クロワッサンはサクサクでパリパリ。パン屋で買ったみたいにちゃんとしている。スクランブルエッグも柔らかく、ベーコンもちょうどいい。
朝から幸せな気分になる。そういえば、女の人の手料理とかいつぶりだ?
全部うまい。おかわりしたいくらいだ。
「光って料理できるんだね。」
何気なく思ったことを言う。
「ああー!まさか、また子供扱いしてるんですか?」
光は頬を膨らませている。
「いや、なんとなくイメージで。」
「言っておきますけど、家事は全般できますからね!だからお二人のお世話は私に任せてください!」
「この朝ご飯も美味しいし、頼もしいね。」
「そうですね。これなら毎食楽しみだ。」
俺と月姫さんが素直に褒めると、光は顔を赤くして俯いている。
『あ、照れてる。』
俺と月姫さんが同時に言う。
すると、光の顔がますます赤くなる。
「急に褒めるのは、ずるです。」
光は褒められるのが苦手なのか。なんだか可愛いな。
俺はご飯を食べた後、急いで風呂に入り、制服に着替え、二人と一緒にホテルを出た。
西地区の支部に着いた。今日は昨日の任務の表彰式があるらしい。
俺たちは受付の人に案内され、奥の講堂で待機していた。
講堂はところどころ飾り付けがされており、壇上には花も置かれている。
俺らは壇上の下のすぐ横に座っている。訓練学校の卒業式みたいだ。
続々とここの警察官が入ってくる。そのままそれぞれの席に座るかと思いきや、
次々に俺らの方へ来て、握手や挨拶をされた。どうやら、俺が今回の任務の
ヒーロー的な話になっているらしい。それに、俺らがこの西地区のためにわざわざ
助っ人に来たというような感じで話が広がっているようだ。
「蒼、モテモテだね。」
「茶化さないでくださいよ。二人だってちやほやされてたじゃないですか。」
月姫さんが悪い顔をしている。相変わらずだ。
「なんだか疲れちゃいました。」
光はぐったりしている。気持ちはわかるぞ。
俺らが談笑していると、式が始まった。
内容は今回の任務の結果報告。無事、西地区にいた奴らを全員確保し、こちらは怪我人はいたが、死者がゼロということだった。そして怪我人も月姫さんをはじめ、医療班のおかげで皆軽傷で済んだとのこと。
そして、俺の活躍が掻い摘んで話され、俺らを表彰するとのことで、式は終わった。
しっかり表彰状も俺ら月班と、個人全員に贈られた。
光は明らかに嬉しそうだ。
「声でまず一つ、地元に報告できる結果が残せたな。」
「はい!私、とても嬉しいです!次はもっと活躍できるように頑張ります!」
「一緒にな。」
「はい!」
そう話す俺と光を見て、月姫さんも笑っている。結果としては大成功だしな。
式を終え、ロビーに着いた。そこで月姫さんが真剣な表情で口を開く。
「今回は二人のおかげで予定よりも早く、無事成功できたよ。ありがとう。」
月姫さんはこういうとこちゃんとしている。でも、俺らだけの力で成功できた訳じゃない。先を見据えないと。
「月姫さんを含め、いろんな方の力があったからです。ありがとうございました。」
俺がそう言うと、一緒に光もお礼を言い、頭を下げる。
「実はね、次の目標の前に寄りたいところがあるの。ここの地区の隣なんだけど。」
「まあ予定より早く終えたんで、いいんじゃないですか?俺は賛成ですよ。」
「私も、お二人に賛成です!」
「ありがとう。念の為、長居はしないつもりだから。」
確かに。次々と奴らの拠点を潰しているのは良いが、相手もどこかで仕掛けてくるかも知れない。油断はできない。
「行くのは京地区。もともと寄るつもりだったの。」
京地区。聞いたことがある。
京地区は昔ながらの和の歴史を重んじていて、今もそれが中心だと。
特に刀を使う侍文化が特徴で、かなり強いらしい。
そして、その侍が強いこともあり、警察は居なく、自分たちで地区の秩序を守り、自警団のような組織で地区を守っているらしい。
その強さは本物で、よそからの悪者はすぐに成敗されるため、そもそもよそからの悪者は近寄らず、治安はすごい良いらしい。
実際、今回俺らが狙っている薬物の被害も京地区だけは被害が無い。
「寄る理由は、協力関係を築くためですか。」
月姫さんの眉毛が上に動く。察しが良いな、という意味だろう。
「そう。もともとは私と蒼二人の予定だったしね。蒼がここまで強くなったのは嬉しい誤算だったけど、相手はそれ以上に強い可能性が高い。」
確かに。未だ奴らの底は見えない。
「京地区に歴代最強と言われている剣士がいるの。その人に会って、話をするのが目的。さすがに仲間になって常に一緒には来てくれないだろうけど、この人が味方なら戦力としては十分になる可能性がある。」
そんなに強い人がいるのか。それに剣士。侍とか刀を使う強い人は周りにいなかったから興味がある。どんな人なんだろう。
「出発は明日。今日はこの後予定もないからゆっくりしよう。明日からもそこまで
カツカツなスケジュールじゃないから安心してね。」
俺と光は返事をし、三人で西支部を後にした。




