13話
工場内もだいぶ荒れている。
倒れているのはほとんどが警察。
本当に大規模な作戦だったんだな。
人員の数が半端じゃない。
俺は道なりに進んでく。マップがないからわからない。
ダダダダダダダッ!
死角から銃が飛んでくる。
そういえばこういう建物内での戦闘は初めてだ。
厄介だ。
周りに仲間がいる分、能力を使うと巻き込んでしまう。
ゴオオオッ!
今度は前から炎の攻撃が飛んでくる。
俺は炎で相殺する。
やりずれえ。
こっちに誰か強い仲間がいれば。
いるとしたら奥の方か。流石にここで全滅はないだろう。
「蒼炎星。(ブルースター)」
俺は炎を小さな球体にして敵に飛ばしていく。
ここにいる奴らはこれで十分。
俺はどんどん奥に進んでいく。
だいぶ進んだ。
やはり奥に行くほど人が多く。まだみんな戦っていた。
工場の作りもなかなか複雑で、いまいち慣れない。
一紫さんから証拠現場の場所を聞いとけばよかった。
それに鉄の壁や扉が多く、エネルギーで周りの状況を読みずらい。
ここは?
ここだけ誰もいない。不自然に静かだ。
俺は扉に手をつき、中のエネルギーを調べる。
中での争いは無い。
でも、誰かいる。
俺は扉を開け、中に入る。
壁に沿うように、水槽のようなものが配置されている。
薄緑色の灯りが照らすこの場所は、かなり広い。
工場と言える場所ではない。
中に入ってわかった。このオーラ。俺は会ったことがある。
「よう。遅かったな。」
「大事な用事があってな。」
黒いローブ。だがフードはおろしている。
やつはこちらに振り向き、俺らの視線が合う。
黒い髪に白い肌。思っていた顔つきとは違う。年も俺と近そうだ。
「特殊刑事課の蒼だ。お前を逮捕する。」
「西地区幹部の彗だ。相手してやるよ。」
沈黙。お互い出方を伺っている。
雷を使えば正直負ける気がしない。
でも、こいつとはまだ前回の決着がついていない。
「蒼炎閃。」
「水虎。」
俺の炎と彗の水がぶつかる。
前回はほとんどの攻撃が水に飲まれ、相手の優位がほとんどだったが、今回は違う。
ぶつかった攻撃は、彗の前で消える。
「なるほどな。」
彗は呟く。
ザーーーン!
壁に沿って配置されている水槽の水が動き出す。
水は意思があるようにうごめいている。
備えられていたか。まあこいつらの本拠地だからな。
「悪いが、負けるわけにはいかないんでな。」
「好きにしろよ。」
水は宙に舞っているもの、床を這って動くもの、かなりの量だ。
「水戦。」
前方のあらゆるところから無数の水の攻撃が飛んでくる。
これは、なかなかきついな。
俺は攻撃が届く前に炎で相殺する。
数が多く、それぞれの攻撃範囲も広い。
気は抜けない。
それに、水が際限なく湧いてくるせいで終わりが見えない。
めんどくせえ。
「蒼炎、流星。」
こっちも数で応戦する。
蒼炎がいくつも、何度も俺の周りから溢れ、彗の方めがけて飛んでいく。
すごい音と衝撃だ。
炎で水が霧散し、視界が悪くなる。
瞬間、彗が懐に現れる。
「水鋸。」
ボオッ!
ギリギリ足から炎を出し、回避する。
だが、少し抉られてしまった。
ハア、ハア、ハア。
俺は膝をつく。
普通の刃物で切られるよりダメージがでかい。相性の悪さもあるのか?
血が止まらない。
こいつは能力の扱いが上手い。
ローブを着たやつでも実力差は結構あるな。
「よくかわしたな。」
血が流れ続ける。
「思ったより遅かったからな。」
「強がんなよ。その傷じゃ、長くは持たねえ。」
確かに。徐々に身体機能が低下していくのがわかる。
そろそろ終わらせないとまずい。
俺は立ち上がる。
視界が少し霞んでいる。
意地張らずに雷を使った方がよかったか。
二人の顔が思い浮かぶ。
月姫さん、光。
そうだよな。
無駄な意地張って、また二人に心配かるわけにはいかない。
「本気でいく。終わりにしよう。」
「終わるのはお前だがな。」
さっきよりもさらに多い水。やつもまだまだ本気はこっからか。
二人の顔を思い出すと、落ち着くし力も湧いてくる。
かなりのダメージのはずだが、今は痛くない。
彗が攻撃を放つ。
「奥義、水獄。」
この水量、この場所ごと壊れるな。
「蒼炎奥義、蒼空。」
俺の体から炎が全方向に一瞬で広がる。
彗の水は俺の技に触れた瞬間、消えてなくなる。
さっきまで炎と水で溢れていたこの場所に、何もなくなる。
蒼空は防御の奥義。一紫さんとの修行で考えた技だ。
この技は人には効かない。
エネルギーを纏った能力にのみ反応し、燃やし尽くす。
彗は何が起こったのか理解できていない。
あるいは、俺の技に驚き、呆然としている。
お互いの距離は離れている。
この距離なら、俺の方が速い。
終わりにしよう。
「瞬雷。」
俺は指を鳴らす。
一筋の小さな稲妻が彗に一瞬で届く。
彗は当たった自分の部位を見る。
何もダメージは無い。
瞬間、大きな稲妻が彗に疾る。
バリイッ!
何もなくなったこの場所に、蒼白い光が炸裂する。
彗は倒れる。
俺は静かに歩いて彗の元へ行く。
まだ意識はあるようだ。
「強くなったんだな、お前。」
笑っている。その顔には、あまり悔しさや、怒りといった感情は見られない。
「みんなのおかげでな。」
「そうか。」
なぜか嬉しそうだ。
「ここにきた時、わかったよ。お前のオーラが前回と比べものにならないくらいだったから。俺は勝てないと。」
そうだったのか。自分のオーラは、俺にはまだよくわからない。
それに、実力差がありすぎると、そもそも感じ取れないから。
「彗、お前を逮捕する。」
俺はそう告げ、手錠をかける。
「ここの地下に、お前の目的の工場がある。」
彗が言う。なぜそれを俺に明かす?罠か?
だが、俺の直感が言う。こいつは今までの奴らと違う。
理由はわからないが、そこまで悪いやつだと思えない。
「残念だが、ここに例の薬のレシピは無い。レシピがあるのは、第一工場だ。」
嘘をついているようには見えない。あとで二人に相談しよう。
「あとは、頼む。」
そう言って、彗は気を失った。
頼む?敵である俺に、何を言おうとしたんだ?
こいつは、やはり今までの組織の人間とは違うのかも知れない。
レシピが無いのなら、この工場を破壊する。
俺は彗をこの広場の外に運んだ。お前にはまだ聞くことがある。
ズキッ!
傷が痛む。間に合うか?また倒れて任務完了なんてごめんだ。
俺は地下に降りる。
長い階段。時間がない。俺は雷になって降りた。
相当長い距離だった。これじゃあ、外部にはバレない。
俺は扉を開ける。結構重いな。
赤暗い灯りがいくつかついている。
中を見るが、そこまで広くない。
それらしい機械?マシーン?のようなものが一つだけある。
横にはダンボールがいくつか重ねられている。
テープを剥がし、中を開けると、それらしい薬物が入っていた。
これか。
これが、おれらが探し求めていたもの。
ついに、明確な進歩を得られた。
だが、俺の頭の中は薬物を見たことで被害者の顔が浮かび、怒りが湧き上がってくる。
同時に、これで少しはみんなが報われるという安心感もある。
ここで一人で考えたってどうしようもない。
冷静になれ。
悪いやつにここの、この薬物が流出してしまったら二次被害につながる。
何もかも燃やす。おそらく俺らが欲しいヒントになるようなものは、もう無い。
俺は大まかに周りを見る。
レシピらしき書類もなければ、この薬物以外何も無い。
こいつらも、情報が漏れないように徹底してたかもな。
「蒼炎解放。」
俺の体もそろそろやばい。エネルギーもほとんどない。
これを放ったら、雷ですぐに二人のところに戻れる。
これで終わりだ。
「神聖な蒼炎。(ブルーノヴァ)」
ドガアーーーーーーン!
ドオーーン!
あちこちで轟音がする。
蒼い炎は地下深くにあるここから、夜空に向かい流れる。
瓦礫が崩れ落ち、爆発が起きたり、電気設備がショートしたりしている。
届け。
月まで。
パラパラッ。
細かな瓦礫が落ちてくる。
赤暗かったこの場所に、白い月明かりが差し込む。
俺はタバコを咥え、火をつける。
あっという間だったけど、ここにきてから連戦だったな。
一般の敵と対峙。その次は幹部の炎使い、空気の能力者。
そして、彗。
今思えば、修行したとはいえ良く全員に勝てたな。
まあ前半の二人は、月姫さんと光と再会できることに舞い上がって、
後先考えずに能力全開だったからな。
結果的には良かったが、ちゃんと考えよう。これからは。
「そろそろ行くか。」
俺はタバコを踏み潰し、火を消した。
バチイ!
地上に帰ってきた。
まだ少し戦闘は続いているようだが、大きなオーラは感じない。
それに、さっきの俺の技でメインの工場は崩壊している。
俺の炎も見ているだろう、じき戦闘は終わる。
俺は医療班がいるところまで歩く。
ここはこの工場しかないエリア。
周りには道路と等間隔に生えている木々くらいしか無い。
不思議だ。
あれだけ戦闘があったのに、それが夢や映画だったように静かだ。
満月が照らすこの道は、なんだかいい雰囲気だなあと感じる。
横を見れば海。
こんないい場所で、あんなものが作られていたんだよな。
勿体無いし、やるせない。
いつかここが違うもので有名になったらいいな。
結構歩いた。
医療班の車両がたくさん止まっている。
ここか。
エネルギーを読む。
二人とも一緒だ。
俺は二人のエネルギーを感じる車両に行く。
「蒼さん!」
「蒼!」
二人はすぐ俺に気づいた。良かった。二人は無事だった。
俺が口を開く前に、光が突進して抱きついてくる。
「よかった。ほんとに。よかったあー!」
光は泣き叫ぶ。変わってねえな。子供っぽいけど、それだけ今日まで長い間
心配してくれたんだもんな。
俺は光の頭を撫でる。
さらに大きな声で泣き出す。
痛い痛い、締めるのが強い。
「おかえり。蒼。」
光の後ろで月姫さんが言う。
ああ、やっと戻って来れたんだ。
長い年数は経ってないけど、毎日一緒にいて、毎日聞いてきたその声。
穏やかで、落ち着いていて、どこか優しさを感じる月姫さんの声。
「ただいまです。」
俺は涙を堪え、そう呟いた。
「蒼さん!お怪我が!」
光がそう言い、あたふたしだす。
そうだ。ここにくるまで気張って来て、再会に気が緩んで一気に痛みも増してきた。
痛え。気は保てるけど、治療が必要だ。
「私に任せて。」
月姫さんが寄ってくる。
「いいんですか?」
俺は聞く。
まあさっき話してくれたから、もう俺らには隠す必要ないのかも知れないが。」
「当たり前でしょ。そのために私が居るんだから。それにここではもう隠して無いしね。」
そうなのか。なら良かった。
能力を隠して戦場に立つのは月姫さんも気疲れするだろうから。
光は俺を支え、横にして休ませてくれる。
「ありがとう、光。」
「はい!」
月姫さんは俺の胸に手をかざす。
「能力解放。月の光。」
そう言うと、月姫さんの手から月の色をした光が溢れる。
俺の傷は少しずつ痛みが和らいでいき、傷も塞がっていく。
すごいな。結構重症だったのに。
「これで大丈夫そう?まだ治らない?」
「もうほとんど痛みもないです。ありがとうございます。」
「良かった。」
月姫さんはほっとしている。
「月姫さん、蒼さんと別れてからここでずっと負傷者の手当てをしてくれてたんです!」
そうだったのか。大変だっただろうに。
「蒼のおかげだよ。蒼が私を治してくれたから。」
「恩返しですよ。俺が先に治してもらってますから。それに、それがなかったら
俺じゃ何もできなかったですしね。」
「確かに。じゃあ私のおかげか。」
そういえば、月姫さんはこんな感じだったな。
俺は思わず笑う。
「そうですね。」
月姫さんも釣られて笑う。
「皆さんのおかげですよ!本当にすごいです!」
光が言う。
「私は、何も力になれなかったですけど。」
そう付け足し、暗い顔をする。
俺は光の手を取る。
そんなことない。この場にいたみんなのおかげで勝てたんだ。
「俺が一人でいる時、戦ってる時も、月姫さんと光のことを想ってた。
二人のことを想うと、しんどくても頑張れたよ。
だから、少なくとも俺が頑張れたのは、光がいたからだよ。ありがとうね。」
そう光に伝える。普段恥ずかしくて言えないような言葉も、今日は伝えたい。
本当に二人がいなかったら、俺はダメだから。
光はまた俺に抱きつく。
「ずるいですよおー!」
よく泣くな本当に。妹がいたらこんな感じなのかな。
「二人は随分仲良しだねえ。」
月姫さんはまるで親だ。
光は支部に到着するまでずっと泣いて、俺から離れなかった。




