12話
「ほんとに色々ありがとうございました。」
「おう。よくこの短期間で身につけたな。」
「まだ一紫さんほどじゃないですけどね。」
一紫さんとの修行を一通り終えた。
体もだいぶ慣れ、自分でもわかるくらい強くなった。
「今日は特別に、蒼の食べたいものなんでも作ってあげよう。」
「いいんですか!?じゃあ、ビーフシチューで!」
一紫さんの料理はどれもうまいが、ビーフシチューが一番好きだ。
「はいよ。少し休んでな。できたら声かけるから。」
「ありがとうございます。」
そう言って、一紫さんは料理の支度をする。
俺は風呂に入り、少し寝た。
「ごちそうさまでした!」
「はいよ。」
やっぱりうまい。これなら毎日でも飽きなそうだ。
「そのビーフシチューは、妻と何回も改良を重ねた自慢の逸品なんだ。」
「そうなんですね。だからこんなにうまいわけだ。」
一紫さんは、前より明るくなった。過去の話をするときも、
まだ辛そうだが、思い出を振り返るように、優しく、暖かく話すようになった。
少しは何か力になれただろうか。
ジリリリリリッ!
こんな遅くに電話?
一紫さんは表情を変え、電話に出る。
何か話している。ただの世間話では無さそうだ。
電話を終え、俺を呼ぶ。
「実は機密事項で教えてくれなかったんだが、今支部から連絡があって、
作戦は今日、今かららしい。」
「え?」
そんな。早くないか?確かここに来る時、月姫さんの想定では二、三ヶ月くらいだって。
「それでな。私も応援を頼まれたんだ。戦力は多いに越したことはないと。」
それだけ危険な作戦なんだ。でも、一紫さんは。
「すいません。俺、行きます。」
「そうだな。」
一紫さんは迷っている。それはそうだ。まだ心の傷は癒えてない。
「大丈夫ですよ。今の俺がいたら、問題ありませんから。」
俺はそう言い。笑顔を見せる。
「そうだな。ほんとに。」
「はい。落ち着いたら、挨拶に来ます。ほんとにありがとうございました。」
俺はそう告げ、頭を下げる。
表に出て、余っていたバイクに乗る。もしかしたら、一紫さんの警察時代のやつか?
素材などが俺のと似ている。
「気をつけてな。」
そういう一紫さんの表情は、まだ何か悩んでいるようだ。
もしかしたら。
「もし俺の修行の成果が気になったら、見に来てください。
とびっきりでお見せするんで。」
俺はそういい、笑顔を見せる。
そのままアクセルを回し、俺は進む。
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蒼、君は本当に不思議な子だ。
こちらの心を暖かく包むように、言葉を紡いでくれる。
それが君の本心で、素直に伝えてくれるから、何度も目の奥が熱くなったよ。
あんな修行、普通の人なら耐えられない。
耐えられたとしても、会得できるのは限られたほんの一部の者だけだ。
君は本当にすごい。君なら、きっと。
ビーフシチュー。あれは妻の好物だ。
妻を喜ばせたくて、何度も何度も隠れて練習して、
ほんとは一人で改良を重ねてきたんだ。
君のように、食べたらとびっきりの笑顔をいつもくれたんだ。
少し、思い出に浸れたよ。
ありがとう。蒼。
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もうすぐ着く。みんなよりもだいぶ到着が遅くなった。
前を見ると、戦闘が起こっているのがわかる。
エネルギーでわかる。
光。
光がそこにいる。
着いて見ると、警察はほとんどが倒れている。
幹部がいる。おそらく、三人。
これは最初から全力で行くしかねえな。
ドゴオオオオオオオオオン!
ものすごい音と、悲鳴が聞こえる。
見ると、光がいる。
目の前には黒いローブの男。
「能力、解放。」
バチイッ!
俺は光を抱え、敵から離れる。
「お待たせ。」
光は顔を手で覆っている。
俺の声を聞き、手をゆっくりどかす。
「約束、守ったよ。」
そう言うと、光が目を開け、俺と目があう。
「蒼、さん。」
「よかった。光が無事で。」
光は涙を流し、俺の首に抱きつく。
「痛い痛い。」
「遅いですよお!ずっと信じて待ってたんですからね!」
「ごめんね。」
そうだよな。ごめん。
でも、ありがとう。
「もう大丈夫。今度こそ、ちゃんと守るよ。」
俺はそう言い、光の頭を撫でる。
「お前が蒼炎か。」
黒いローブの男が言う。
ずいぶん暴れてくれたな。
今日も、これまでも。
「光、影に隠れてて。」
俺はそう言い、光の手を一瞬ぎゅっと握る。
「ええ!?は、はい!」
手を握ると、蒼い雷が光を包む。
「これで大丈夫だから。」
「いちゃついてんじゃねえぞ!」
黒いローブの男は炎を放ってくる。
範囲は広い。純度も高い。でも。
「ぬりいな。」
俺は炎を放つ。
相手の炎は俺の炎に飲まれ、そのまま相手も飲み込む。
「うわああ!」
修行の成果。炎の純度は上がり、速度も威力も大きさも、今までの比じゃない。
「くそ!」
動揺している。ここまで俺が強くなっていると思わなかったんだろう。
それに、オーラでわかる。
こいつは弱い。今の俺には。
そして、月姫さんは工場の上の方にいる。
すぐに行きます。
「悪いけど、お前に構ってやるほど暇じゃねえんだ。」
相手は大技を繰り出している。
ちょうどいい。これで終わらせる。
「八岐大蛇!」
相手の炎はこの工場を飲み込むほど大きい。
でも、純度が足りない。
「蒼炎、無月。」
相手の炎を俺の炎で包む。
その中を通り、俺は相手の下から蹴り上げる。
「グッ!」
相手は宙にまう。
「ゴミはちゃんと持って帰れよ。」
無月を相手に目掛けて放つ。
「蒼炎、双月。」
勢いよくもう一つ大きな球体の炎を放ち、二つをぶつけ、加速させる。
そのまま相手は避けきれず、蒼い月に飲まれる。
「そのまま夜空の塵になれ。」
俺は光の元へ戻る。
「すごいです蒼さん!みんな手も足も出なかったのに!」
よかった。いつもの光だ。相変わらず、眩しい笑顔をしている。
「そりゃ俺には光と月姫さんがいるからな。いいとこ見せねえと。」
「やっぱりかっこいいです!」
どんどん胸の奥が熱くなる。
ずっと心配だった。
ずっと会いたかった。
やっぱり、二人は特別に大切だ。
今、すげえ嬉しい。
「月姫さんはあっちだな?」
「はい!上から攻める部隊です!」
オーラが弱くなった?月姫さんが危ないのか?
「光、少しだけ待ってて。この雷があれば何も効かないから。」
「わかりました!月姫さんをお願いします。」
「了解!」
俺は雷になり、すぐに飛んでいく。
ここに大きいオーラがある。
見ると、黒いローブ。
敵はあいつか。
月姫さんは倒れている。
月姫さんがやられたのか?
能力はわかんねえけど、あの月姫さんが?
不安はすぐに消え、今までにない怒りが込み上げてくる。
殺す。
バチイイイッ!
相手は月姫さんになにか攻撃を仕掛けていた。
関係ねえ。全部燃やしてやる。
俺は月姫さんの前に降りる。
同時に、炎を柱のように放つ。
相手の見えない攻撃のエネルギーは、燃えて消える。
「蒼?」
「月姫さん!」
月姫さんがボロボロだ。どうして。こんな。
「すいません遅くなりました。」
月姫さんは笑顔で首を横に振る。
「ううん。ごめんね。蒼がいないと、私、やっぱりだめみたい。」
その笑顔は、安心か、再会の喜びか。
くそ!ここまでなるまで気づけねえなんて。
もう少し早ければ。
でも、今更後悔しても仕方ない。
「もう大丈夫。すぐに終わらせます。」
相手は宙に浮いている。おそらく風か。それよりも強力で特殊な空間系。
関係ねえ。殺してやる。
「絶。」
エネルギーの変化でわかる。
おそらく空気を操っている。
やはり風系の特殊。
上から空気で押し潰してくるのがわかる。
「蒼月。(ブルームーン)」
火力の高い蒼月が相手の攻撃を燃やし尽くす。所詮はエネルギー。
力の差。こいつの攻撃も燃やせる。
「蒼雷。」
俺は一瞬で相手の背後に回る。
そのまま雷を纏った蹴りを食らわせ、さらにそのまま蹴りから雷を放つ。
早すぎて相手は地面に引き寄せられたかのように、工場内部の地面に叩きつけられる。
俺はすかさず雷になり、一瞬で敵の目の前に移動する。
右手に雷を纏い、ありったけを放つ。
死ね。
「蒼雷の雨。」
纏った雷だけでなく、俺の体から溢れる雷が絶えず降り注ぐ。
相手は完全に気を失った。
俺はそのまますぐに月姫さんの元に戻る。
「すぐに治療を。」
「ありがとう。」
俺は月姫さんを抱え、光の元へ行く。
光は月姫さんを見て、ショックを受けている。
「月姫さん!」
二人で月姫さんを寝かせる。重傷だ。
何か方法はないか。
「医療班は?」
「ここで待機していた班はやられてしまいました。もう一班は一キロ先です。」
雷になって動けばすぐだ。でも長距離の高速移動に月姫さんは絶えられるか?
「蒼、雷も使えるようになったんだね。」
「理由はわかりませんが、最近です。それより手当を。」
何か方法はある。考えろ。今までの経験を思い出せ。
何かあるはずだ。
「蒼、ここに来る前、傷隠してたでしょ?」
ここに来る前?
水の使い手と戦った時か。月姫さんにバレてたのか。
でも、なんで今そんな話を?
「あれ、私の能力で治したの。自分には使えないんだけどね。」
そうだったのか。
と言うことは、月姫さんは回復系の能力。
これも希少だ。聞いた事ない。
「それでね、蒼に隠してたことがあるの。蒼を特殊刑事課に入れることを
上が許可した理由。それはね、蒼が特殊な能力だからなの。」
俺も特殊なのか?確かに能力を二つ使えるが、たまたまじゃなかったのか?
「可能性の話だったの。蒼は炎の能力じゃなくて、一度自身に掛けられた能力を
記憶して、それを使える能力なんじゃないかって。そして、それは本当に蒼の能力だった。だから、私の能力もすでに記憶しているはず。」
そうなのか。確かに俺の能力に説明がつく。
と言うことは、俺が月姫さんの能力を使えるかもしれない。
「やってみます!」
必ず助ける。俺が、月姫さんを。俺だって少しは月姫さんの力になりたい。
「イメージしてみて。月の光を。」
月の光。あくまで俺の想像、知識の範囲だ。
月。
夜空に浮かぶ月。
そういえば、昔施設の絵本にあった。
月は全てを知って優しく照らし、月の光は、全てを癒す。
俺の手から月の光のような、星のようなエネルギーが出る。
それは月姫さんの傷を癒やし、回復させた。
「できた。」
「蒼は本当にすごいね。私はできるようになるまで、半年かかったのに。」
「月姫さんがいたからですよ。」
「そうかもね。」
いつもの月姫さんに戻った。顔色も良い。よかった。本当に。
「すごい。」
光は驚きで唖然としている。
「ありがとう。蒼。」
「いえいえ。これくらい、これから何度だってやりますよ。」
俺ら三人は笑い合う。本当にみんな無事でよかった。
「蒼の能力、きっとこれからもっと色々できるようになるよ。
だから、もっと強くなれる。」
「かっこいい能力ですね!」
「任せてください。」
残るは幹部があと一人。他は大したこと無い。
俺が決着をつける。
「最後、俺が行ってきます。二人はこのあたりの人の救助。終わり次第、医療班のもとで待機していてください。」
光は、私も行きますと言おうとしただろう。
月姫さんが割って入る。
「了解。任せたよ。」
「はい。絶対帰ってきます。今度はすぐに。」
「うん。」
「約束ですからね!」
俺は工場の中へ進む。
夜が明ける前に、みんなで帰るんだ。




