未来への灯り
今、生徒会の議題は僕の案から学園祭へと完全にシフトしていた。後2日で学園祭が始まるのだから、当然だろう。僕のクラスメイトも、自分たちの教室の展示に向けて大忙しで動いている。狙った通りのタイミングだ。一度話をしておいて、その後で再度細かく話を進めていく。一度議題に挙げた限り、頭のいいやつならば文化祭のことと並行して考えておくこともできるだろう。
その間に僕は、僕ができる準備を着々と進める。学園祭という一大イベントならば、水面下での行動が取りやすい。
「それではみなさん。明日の前夜祭からのお仕事お願いします。」会長が言い、みんなが頷く。
まっすぐ帰ろうと歩いていくと、下駄箱にもたれかかっている1人の少女を見つける。向こうもこちらに気づき、手を上げる。僕も小さく手を上げ、近づいていく。
「こんなところでどうしたの?亜美。」その問いに、彼女は少し顔を赤らめながら、
「翔と一緒に帰ろうと思って…」と答える。
「学園祭前で部活もないし、1人で暇だったでしょ?待たせちゃったね。」
「いいよ全然!私が勝手に待ってただけだし。」少し焦ったような口調で、彼女は言葉を返す。
「じゃあ行こうか。」
「うん!」そして、僕たちは歩き出す。僕は自転車だが、彼女は電車で学校へと来ている。一つ隣の町に住んでいるらしい。行ったことはないが、何やら冬になると祭りがあるらしいので、是非来てほしいと亜美に言われた。
「それにしても、こんな時に学園祭をやる学校って珍しいよね。」今の季節は7月、普通の相場は9月の終わりから10月、遅くて11月半ばくらいなのだ。進学校なのもあり、夏休みは勉学に集中してほしいということだろう。
そう考え、そのままそれを亜美にも伝える。
それにしても、さっきから亜美の様子がおかしい。少しだけだが、ずっと顔が赤いのだ。
「顔、赤いけど大丈夫?熱とかない?」僕の問いかけに、
「あ、あぁ大丈夫だよ。ちょっとね。」そう言って、目を逸らす。いつも相手の目をみて話をする彼女からは少し考えられないような行動だ。
亜美の体調を心配するような言葉をかけるが、僕は、彼女が今何を考えているのかを知っている。コミュ力があるやつからないやつまで、多くの人間と関わり合っているのにはもちろん理由がある。
そして、今僕が学校内で友達である必要がある人間、主に亜美と誠二、真琴だ。この3人は、クラス内でも大きな影響力を持っている。つまり、僕がクラス内で存在感を出すために必要な存在。この3人が僕を頼ることによって、他のクラスメイトも僕との関わりを持ちやすくなるのだ。
そこから作られたコミュニケーション、僕にとっての情報網の中で、僕は一つの情報を手に入れている。それは、“斎藤亜美は暁翔が好きだ”ということ。
絶対の確証が持てるまで動くつもりはなかったが、最近の亜美をみていると、確実だとわかった。そして今日、彼女がとる一つの行動、それは━━━━━━
「翔、ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな。」
きた。僕はこの話の内容を知っている。
人々の往来が少ない駅の改札の前、自転車を片手に見送ろうとしていた僕を振り返り、亜美は言う。
頷き、僕は話の続きを待つ。
ふぅ、と1つ息を吐き、彼女は僕の目を見つめて口を開く。
「私と……付き合ってください!」そう言って、亜美は頭を下げて手を伸ばす。
少しの間をとって、僕は自転車をカチャリ、と自立させる。
進みでて、その手をとる。
「こちらこそ、こんな僕でよければ。」
顔をあげた彼女の目からは、喜びと幸せの感情が溢れている。
そのまま抱きついて来た彼女の背中に手を回し、軽く抱擁する。
木の葉が音も立てずに舞い、僕たちはここが公衆の面前であることに気づく。それを見ていた数人から、小さな拍手が起きている。
いつの間にやら、人が集まって来ていたらしい。その場は別れることにして、僕は改札を通り過ぎていく彼女を見送る。
姿が見えるギリギリのところで手を振った彼女に、手を振りかえす。満足そうに、亜美は改札の奥へと姿を消していく。
カチャリ、と自転車のスタンドにかけたロックを外し、僕は自転車を引いていく。
それと同時に、電子音が聞こえる。ポケットからスマホを取り出し、メッセージを確認する。差出人は亜美。
『さっきは突然ごめんね。本当に嬉しい。これからもよろしく!』というものだった。僕は、『学園祭は一緒に回ろう』と返信を飛ばす。
すぐに既読がつき、可愛らしくOKと書かれたスタンプが返ってくる。
当たり前にこんなことをしているが、数百年前、スマホというものを開発した人はすごい人間だとつくづく思う。500年経ってもなお、スマートフォンというこの形状が、連絡手段や色々なことをやれるものとして最も適しているのだ。
後何年このままなのかはわからないが、そんなことは今どうでもいい。
ついに、僕の計画が大きく前進する。
それだけが、ただただ僕の心の中に喜びとして残っていた。
2日後、学園祭当日━━━━━
僕のクラスのテーマは、“宇宙“だった。もちろん、宇宙というものは研究され尽くしている。まだまだ未解明な部分はあるが、新しい発見というのはここ最近一切出て来ていない。世の中の目が、宇宙よりも不老不死やタイムトラベルに向いているのもあるかもしれない。
そんな中で企画された宇宙というテーマ。宇宙についての情報を並べるとか、部屋の中を真っ暗にしてそれらしいライトをつけるとかそんなちゃっちいもんじゃない。
教室中の空気を抜き去り、真空空間を作る。つまり、教室を宇宙空間にしてやろうというのだ。もちろん、真っ暗なだけでは面白くないため、星々も作る必要もある。
人工太陽を設置し、それに伴って光を反射するシートをくっつけた球体を作る。それにプログラミングを施し、できる限り本当の星と同じ動きをするようにした。
宇宙服も自分たちで作った。宇宙服の作りも、昔と今では全く異なるのだろう。服さえ着てしまえば、普通の人間だろうと宇宙へ行くのは容易だ。事実、宇宙旅行なんてのは今の世界では当たり前に行われている。だから、学園祭で宇宙を作ると言っても反対はされないのだ。
自分のシフトが終わり、僕は亜美との待ち合わせ場所へ行く。すでに、僕と亜美が付き合い始めたというのはクラス内では広まっている。隠すよりも大々的に発表してほしい僕としては、都合がいい。
階段を降り、自販機のところで亜美の姿を見つける。
「はい、お疲れ様。」そう言って、彼女は1本のミルクティーを手渡してくる。僕の好みまでバッチリ把握してきている。他の人の彼女というのもこういうもんなのだろうかなんて思いながら、礼を言ってそれを受け取る。
亜美の好きなオレンジジュースを買おうと思ったら、すでに彼女の手の中にはそれが見えている。まぁ、他のところで何か買えばいいだろう。
「ほら、早く行こうよ!」そう言って、腕を掴まれる。
「小腹が空いたころでしょ?何か食べに行こうか。」僕が言うと同時に、亜美のお腹が力ない音を出す。少し恥ずかしげにしながらも、亜美は僕の歩に合わせてついてくるのだった。
「学園祭も終わりだね。」寂しそうな目をしながら言う亜美の横で、僕は屋上からグラウンドを眺めている。教師たちが、最後に打ち上げる花火の準備で目まぐるしく動いているのがよく見える。屋上は立ち入り禁止で鍵がかかっているが、それは生徒会特権のマスターキーを使えば然程問題でない。
「ねぇ、翔?」
「どうしたの?」そう答えて亜美の方を見ると、すでに彼女の視線は僕に向けられていた。
「学園祭が終わっても、仲良くしてくれる?」その目からは、少しの不安がある。
その理由はおそらく、学園祭のロジックによるものだろう。学園祭の前に交際を始めたカップルというのは、学園祭が終わると同時に別れるものも多い。亜美が、告白したタイミングが悪かったかもしれないと感じているという話も耳に入って来ている。
「大丈夫だよ。僕が亜美と付き合うことを決めたのは、単に亜美の顔がいいとかそういう話じゃない。この数ヶ月、短いと言えば短いかもしれないけど、亜美が他の人のために色々頑張っているのを近くで見てきた。そんなふうに他の人を思いやることができる亜美が好きだからだよ。」笑みを作って、僕は答える。改めて好きだと言われたからか、亜美の顔はみるみる赤くなって僕から少し目を逸らす。
「私も……本気で翔が好きだよ。」亜美がそういうと同時に、1発の花火が打ち上がる。各自の教室から見ている者、外まで見に来ている者の歓声が上がる。
それは、学校で打ち上げるようなおもちゃの花火ではない、とても大きく、明るい花火に見えた。
「ただいま。」夜の8時、僕はいつもと同じ時間に家に帰ってくる。
「おかえり。お風呂沸いてるよ。」いつも通りの、僕ではない人に向けられた言葉に頷き、自室へ入る。
マンションの一室といっても、うちは結構広い。母の部屋もあるし、僕の部屋も、父の部屋だってある。もちろん、父の部屋はもう使われていないのだが。
部屋にあるテレビをつけると、見知った顔が映っている。
「えー、我々国民自由党といたしましては、そのような発言はしておりません。」そう口にしているのは、現在与党である国民自由党総裁、埠頭健太郎。今している話は、タイムマシンの話のようだ。正直言ってしょうもない、どちらでもいいような話をいつまでも言い合っている。
日本時空間管理局、略してJTMS(Japan Time Manegement Station)は日本におけるタイムマシンの発明、それができたらどうするか、その他時間の研究なども進めている、時間関係の全てを任せられている日本の組織だ。さらに世界的に見ると、世界時間管理局、略してWTMS(World Time Manegement Station)というものもある。あくまでも、JTMSはWTMSの下にあるということだ。
ニュースを垂れ流したまま、僕は一冊の本を開く。
“世界征服阻止計画”━━━━━━
僕の父が作った、そして父がこの世から消される理由になった本。僕の家族をぶち壊した本であり、僕の母親を壊した本でもある。
そして………僕の全て。今一度、その本の内容に目を通す。
現在は2501年。この計画を完遂するためには、2510年までしか時間がない。
……………あと9年。その間に、絶対にやり遂げる。
父の意思を継いで、僕が、この手でやり切る。
こんにちは、というよりもこんばんは!でしょうか。羽鳥雪です。
最近、もう一つ投稿している作品、『◯◯は最強になれるのか』が重要な局面に入ってきているのがあって、こちらの更新が遅れてしまっています。
この作品は、最なれが完結するまではゆっくり書いていくつもりですので、ご理解のほどよろしくお願いします!