危ない火種
「確かに受け取った。」
そう言って颯が手紙をポケットに入れようとしたところを、三笠が止める。
「そんなことしたらくしゃくしゃになるって。」と言って自分のカバンの中に颯のぶんも一緒に丁寧にしまう。
めんどくさそうな顔をしながらも、どこか嬉しそうな顔をしている颯を見つつ、僕は椅子に座る。
「それにしても、何で学校なんだ?」
「この後ちょっと用事があるんだ。
ていうか、学校じゃなくてもいいって言っただろ?」
こちらが悪者にされそうだったので反論しつつ、僕は深く椅子に座り直す。
「僕に関しては完全に不法侵入かな?」
ニヒッと笑いながら言う三笠に、俺が許可を出したんだからいいだろうと颯が返す。
生徒会長としての力はだいぶ持っているらしい。
そりゃあ、教師からしたら反発して殴られたりチンピラたちを引き連れてこられても困るもんな。
「なんだ?その失礼そうな目は。」
眉を顰めてこちらを見つめてくる颯から視線を外し、僕は話を変える。
「それで、梶谷の式には行くのか?」
「まぁ、実の兄が言っているならいいだろ。
組の連中がどこまで俺を嫌っているかにもよるがな。」
そこだけが面倒なポイントだと言いたげに、颯は大きなため息をつく。
「僕は颯が行くなら行こうかな。」と呑気な三笠が椅子を前後に揺らしている。
本当に、いつの間にやら距離が縮まった。
「とりあえず、今日2人とやらなければいけないことは終わった。
後30分くらいは時間があるが…何かするか?」
「何かするって言っても生徒会室になんて何も………」
そう言いながら辺りを見回した三笠が、ボードゲームとトランプを見つける。
「トランプなんて久々だなぁ。せっかくだしやろうよ!」
そんな三笠の言葉に反対する理由もなく、僕たちはトランプを開けてババ抜きを始めるのだった。
時間になって解散した後、僕は1人校舎裏である人物を待っていた。
その相手は、昨日梶谷との話にも出た狩野奈津子。
今日は朝一番から部活の練習のために学校へ来ていると調べがついている。
だからその帰りの時間を狙ってここへ来て、学園祭準備中に交換した連絡先からメッセージを送った。
そして今、そのメッセージに既読がついて2分もあれば着くという短い内容の文が送られてくる。
ぶっちゃけた話、この行動は計画にいい影響を与えない。
ただ、全てを悪い方向に持っていくだけじゃない可能性もある。
その可能性と自らの力を信じて、僕はこの手を打った。
時間ぴったりに、待っていた人物が現れる。
「どうしたの?
夏休みなのにわざわざ学校に来てまで話って。」
亜美や真琴とは違う、独特な空気感。
しかし、彼女はクラス内で強い立場を持っている。
元々のクラスからのコミュニティをそのままにしていることは明白だが、強い立場の仕組みには違和感がある。
仲がいい人、信用できる人が多いわけではなく、言い返してくる人間が少ないと言った方が正しいだろう。
学園祭の準備の時にもあったが、自分と自分の友達が作業量を減らしたいと言った時に反対する人間はほぼいなかった。
結局それは余裕がある人たちの分業で終わらせることになり、真琴や誠二が異議を訴えようとしていたところを、僕が止めた。
梶谷から情報が出ていなかったこともあって、女子側との問題を極力回避したかったからだ。
真琴との対立も可能性の一端として考えていたため、どちらを選ぶかは賭けだった。
ただ、賭けに勝つ確率は7割をオーバーしていたわけだが。
「急に呼び出してごめん。
ちょっと聞きたいことがあってさ。」
「あたしのこと?」
「いや、同じクラスの竹野原仁美さんについて。」
その名前が出た瞬間、彼女の顔が少し曇る。
いつも学校で過ごしている僕が急に彼女の話をするとは思わなかったのだろう。
「仁美ちゃんとは時々話をする程度だからあんまり詳しくないんだよね……
でももちろん、わかる限りは協力するよ。」
明るすぎるほどの濁った笑顔で、彼女は言う。
「僕が聞きたいことは一つ。
なんで彼女に対していじめをしているか。」
“いじめ”という言葉を聞いて、狩野が眉を顰める。
「そんなこと言われたら、流石にスルーできないんだけど。
証拠とかなんかあるわけ?」
「竹野原さん本人に体育祭の時に言われた。
今から告白するけど、本気じゃないから聞き流してほしいと。
理由を聞き出すのに時間がかかったけど、昨日初めてそれを話してくれた。」
「…………………」
この場でその事実を聞くことはできないため、彼女は口ごもる。
「認めるなら今だよ。
この話は、もう颯……生徒会長にし終わっている。
知っていると思うけど、彼はバックに暴力団みたいなのを持っているくせにいじめを嫌う変人なんだ。」
だんだん、狩野の顔が曇っていく。
「わかった……何が起きたのか説明する。」
何が起きたのか説明する?その言い回しに疑問を覚えつつも、僕はその話を聞く。
ざっとした内容は、自分は脅されていじめの助けをされられている。
ただ、その脅してきている相手の名前は教えられない。
その理由は、自分も危険を被る可能性があるから。
本当はやりたくないが、仕方なく竹野原へのいじめを行った。
いじめの元凶はいろんな相手に脅しをかけており、うちの学校内外に強い力を持っている。
今回の話は黙っておくから、僕にも黙っていてほしいということだった。
普通に考えて、信用できるわけがない。
ぽっと出の言い訳であることは確実だが、ここで詰め寄っても証拠がないためこちらとしても打つ手がない。
とりあえず引き下がるしかないわけだが、後ろに誰かがいるという話を録音している。
次は逃さない。
どちらの道に逃げようとしても、その道はすでに潰しきられている。
「そっか………狩野さんも辛い目にあっているのにこんなこと言っちゃってごめん。
竹野原さんには、できる限りうまく伝えておくよ。
狩野さんから言うのは辛いだろうから。」
こう言ったところで、狩野が連絡を取ることは確定している。
自分のことを僕に話したと考えるならもっと強い口止めをしようとするのは当然だ。
あらゆる道を潰した上で、僕は狩野を最大限利用する。
竹野原を救った上で狩野を利用できる方法が、最高の結果につながることは分かりきっている。
だが………果たしてうまくいくのか。
そこだけが心配の種であり、僕が狩野に話をするのを躊躇っていた理由だ。
さて、第二プランを始めよう。




