違うような同じ場所
「電気落とすぞー!準備いいかー?」
「オッケー」
「こっちもだいじょーぶ〜」
「じゃあいきまーす!」
教室内の準備が整ったことを確認し、誠二が電気を消す。
「うぉ!」
各々わかっていたことではあるが、いざその時が訪れるとなると声を漏らす生徒も少なくない。
「よーし、それじゃあ入ってきてくれ。」
その掛け声と共に、扉が開かれる。
学園祭まで残り3日となったことで、僕たちは肝試しの最終チェックに入っていた。
「この場所は、大昔に戦に出て行った侍が死んだ場所です。
その怨念は今も消えることなく、この場所で次なる死人を待ち侘びているのです。」
ありがちな設定ではあるが、この場所の説明をする役割を受け持つことになったため、淡々と仕事をこなしていく。
「それでは、行ってらっしゃいませ。」
そう言って客に扮したクラスメイトを先に進むように誘導して僕の仕事は終了となる。
生徒会の仕事も当日はあるためになるべく少ない仕事にしようと思ったが、いつでも抜けられる仕事となると案内役くらいしかないものだ。
スケジュール的には問題ないため、予定外の問題が起きないことを願うばかりだ。
「順調そうだな。」
小声で横から話しかけてきた誠二に、頷きを返す。
それぞれがそれぞれの役割に対して向き合って練習してきたため、十分様になっている。
ただ、本格的になり過ぎてしまったため高校生以上を対象としてのみの出し物になってしまったが。
「みんな楽しそうだね。」
「あぁ、お前も楽しそうだ。」
そう呟いた誠二の言葉にふっと笑みを浮かべる。
確かに、楽しかったかもしれないな。
そう思った時、教室の暗闇の先から悲鳴が聞こえてくる。
同じクラスメイトが客となっても怖がるレベルか。なかなかだな。
「学園祭の出し物としてはクオリティ高すぎるんじゃないか?」
「うーん、でもこれくらいやった方がインパクトあるし。ちょうどいいんじゃない?」
「まぁ、それもそうか。それにしても、やっぱり翔の立体映像技術すごくないか?
去年はちょっと勉強すればできるようになるとか言ってたけどな。」
「小学生の頃からやってるからね。
でも、機材とコツさえあればそうでもないよ。
プログラミング技術があればどうとでもできるし。」
別に誇張するつもりなどなく思ったことをそのまま言ったが、その話をした僕を尊敬するように見てくる。
前のあの会話はどこへやら、今はただの友達として接してくれているらしい。
2人でゆっくりとした時間を過ごし、最終チェックが終わりを迎えた。
それから3日、学園祭当日。
今年の出し物も問題なく大成功に終わって、去年も立ったあの場所に僕はいた。
1年の時よりも最近の方が記憶に残る出来事が多いと思っていたが、ここ最近は1年前よりも遥かに早い速度で過ぎ去っていた。
今年はクラスが変わった山田悠斗と久しぶりに話をしたことや、今年の文学園祭はどういう風になるかと由花さんにメッセージを送ったことなど、色々とあったにはあった。
だが、そんなこととは比にならないほど大きな穴が、僕の心の中に空いている。
1年間の思い出を辿るかのように、最近は過ごしてきたような気がする。
去年と同じならば、今この場所には彼女になったばかりの亜美も一緒にいた。
告白してからたった数日で、学園祭が終わったからといって別れを切り出されるのではないかと心配していた彼女の顔が、鮮明に思い出される。
あの時は100%純粋な気持ちで言ったわけじゃなかった、好きだという言葉。
それを聞いて顔を赤くした亜美。
………久々に、話をしたい。
そんな思いが頭の横隅を通り過ぎ、スマホを出して更新されていない“亜美“と書かれたメッセージを開いて指を止める。
もう、使い物にならないんだったな………
小さく息を吐き、そろそろ花火が上がる時間だと思い出す。
太陽の光が落ち着いて夜が姿を現し始める中、静まり返った屋上に大きな音が響く。
「な、なんだ。
翔かよ!」
乱暴に扉を開けた先から出てきたのは、手を繋いだ誠二と真琴だった。
ここ最近の文化祭準備の間に、今までよりも関係を発展させてきたらしい。
僕としても友達2人が恋人として仲良くなって行くのは嬉しい限りだ。
「ビビったぞ。誰か先生がいるのかと………」
「大丈夫だよ。去年もここにいたけど先生来なかったし。
それじゃあ、僕は戻るよ。」
そう言って僕は誠二たちとすれ違う。
「い、いいのか?お前も花火見にきたんだろ?」
真琴と2人きりで過ごせる時間と同じくらい、僕のことを気にかけてくれる。友達思いがすぎるというものだろうか。
「僕は花火がちゃんと打ち上がるかの確認をしにきただけだからね。
誠二が見ててくれるなら大丈夫でしょ。」
真琴から見えない角度でグッドサインを見せ、扉の前まで来る。
「翔がせっかくああやって言ってくれてるんだからさ。」
真琴の声に、誠二も動いて花火が見えるところまで歩いていく。
愛する人と去年見た花火の音を背に受けながら、僕は屋上を後にして電話をかけるのであった。




