デートin遊園地
高校2年生となったことで今までと少し環境は変わったが、僕がやることは大きく変わらない。
生徒会での発言力はあるし、クラス内、もっと言えば学級内くらいでの発言力は確保されている。周囲からは、亜美を失ったのにも関わらず立ち直ったということもあって色々な感じ方をされているだろう。
しかし、今までの計画に大きな変更を加えなければいけないことは確かだ。
「なぁ翔。お前、この前の話どうだ?考えてくれたか?」
「この前の話。とは。」
「とは。じゃねぇよ。
覚えてんだろ?昨日の話なんだからさ。」
成績の付け方やそんな話をしているだけで授業中は授業中なのだが、隣に座る誠二は僕とずっと話をしている。
まぁ、窓側かつ後ろの席なのが救いといったところだろう。新学年早々に担任が席替えをしようと言い出さなければ、僕は教壇の目の前だったのだから。
余談だが、今年の担任は去年と同じ新島先生だ。僕のメンタルケアという面が関係しているのではないかと思ったりもしている。
そして、誠二の言う昨日の話というのは、真琴と誠二のデートについてだ。
ついこの間デートに行ったばかりで疲れているため、デートなんて2人でイチャイチャしてキスでもしておけばいいじゃないかと言いたいが、そうも言えない。
普段陽気な2人も、逆に2人だけの空間になると奥手なのだ。その件に関しては誠二と真琴のそれぞれから相談を持ちかけられたことがある。
…………青春ってやつか。
2人でどこかへ出かけるのは?と聞いたところ、
『どうやったら真琴が楽しんでくれるデートができるんだ!?』と聞き返された。ぶっちゃけわからん。
じゃあ真琴が好きなものを食べにいくっていうのはどうだ?と言ったところ、
『真琴の好きなものが違ったらどうするんだよ!女子って相手に変な目で見られないように好きな食べ物を変えるんじゃないのか!?』と言い返された。ぶっちゃけ知らん。
で、誠二が出した結論が、
『わかった!じゃあ、ダブルデートでどうだ!!』だった。
僕も大概だが、誠二も真琴のこととなると昔のバカっぽさが戻ってくるくらいに一生懸命だ。とても微笑ましいのだが、僕を巻き込むのはやめていただきたい。
白石元会長と付き合い始めたと言ったのがミスだった。最初驚いていた誠二は今はなんとも思っていなさそうだが、真琴がどう思っているかは定かではない。内心、少しくらいは僕への嫌悪感や怒りがあってもいいだろう。
亜美への好意はたった数ヶ月で消えてしまったのかと言われてもおかしくない。だが、そこは安心して欲しいのだが……そんなこと言ったらまためんどくさい話になる。
「で、どうなんだよ!」
机の端を掴んで勢いよく顔を近づけてくる誠二を宥めつつ、
「とりあえず由花さんに許可は取った。
今までにない経験だから楽しみにしている。だとさ。」とありのままを話す。
「ふっ。やっぱり会長だ。
俺のことをしっかりと知ってくれている。」
そんなことを言ってうんうんと頷く誠二を横目に、僕はため息をつく。
デートプラン考えるのもめんどくせぇんだよ。と心の中で呟くのだった。
待ち合わせの駅前、まだ太陽も登ってきている中という早い時間に、僕は1人で立っていた。時刻は朝8時。休日に高校生が早起きなんて異常だと思いつつも、その現実を受け入れる。
結論から言うと、僕はデートプランの作成を丸投げ……否、戦術的委託したのだ。
『ダブルデートということなんですが、誠二はどうも真琴に楽しんで欲しいらしくて……
僕は由花さんに楽しんでもらえればそれでいいので、女性陣が楽しく過ごせるプランをどうか考えてみてください!』
『翔くん……それはつまり丸投げしようということじゃないですか?』
『いえいえ、そんなことは……ありますね。』
あ、あったわ。ちゃんと丸投げしていた。
昨日の会話を思い出しながら、僕は1人であれこれ考える。デートで彼女がきた時にスマホを見ているというのはあまりよろしくないという話を聞いたため、時間を潰す方法を探していたのだ。
他に時間が潰せそうなものは…と思っていると、遠くから人影。
「お待たせしました……と言っても、まだお2人は来ていないみたいですね。」
いつものスイレンの髪飾りをつけた、水色を基調としたいかにも清楚感抜群のコーデ。今の透き通るような季節にもってこいな服装だ。
少しだけだが高さのあるハイヒールを履いているため、いつもよりもほんのちょっと目線が高い。
「すごく似合ってますね。特にこの辺とか━━━━」
即座に彼女のコーデの分析を終えた僕は、彼女の服装を褒めちぎる。純粋に僕には持っていないようなファッションセンスがあるとも思ってもいるからだ。
それから程なくして、誠二と真琴が2人で姿を見せる。
しかし、一定の距離を保ってお互いに顔を合わせてはいない。
流石に1対1のデートが難しいと言うだけはありますねといった顔を、由花さんは向けてくる。僕も、これほど2人が素直になれないとは思っていなかった。
2人とも少しだけスポーティな服装をしているのは、今日の行き先が関係しているのだろう。逆に考えると、僕の彼女の服装は攻めているとも取れるかもしれない。
「遅くなりました。」僕たちに向かって誠二が少しだけ頭を下げる。
「全然。私たちも今さっき来たところです。ね、翔くん。」
「来たの3分前くらいですからね。」と話を合わせる。
別に5分くらい遅れたところでキレるつもりは毛頭ない。約束時間より前に来ている時点で、時間のことで怒ることなんてないのだ。
「それでは、行きましょう。」
そう言って歩き出す由花さんの腕に、自然な形で僕の腕を絡める。こちらを見て彼女は微笑んだが、やはりその笑顔は僕が求めているものとは違う。
しかし、この僕の行動には大きな意味がある。
実際、後ろの2人は僕と由花さんの姿を見てどうしようかと探り合っている。
この後はすぐに電車に乗るため、今この場から手を繋いだりすることはないだろう。
その考え通り、後ろを歩いてきた2人は距離感を変えずに電車に乗り込んだ。
「…………じ、地獄だ。」
電車から降りた直後、僕は誰にも聞こえない言葉を漏らした。
誰1人として一言も発さない地獄の空間から抜け出したことによる安堵だ。流石に行き先でもこのままだとは思いたくないため、抜け出したということにしておきたい。
ちなみに、由花さんが今日のデートスポットに選んだ場所は遊園地だ。
千葉にある超大型遊園地で、作られてから3年と日は浅いが、誰も行ったことがないということで逆に良かったのだろう。
遊園地の目の前まで一本の電車が走っているため、来るのにも苦労はしない。
「それでは、どこから行きましょうか?」
私の仕事は一旦終わりだと言うように由花さんは僕たちを見回す。
「俺はジェットコースターに行きたい…かな。」
「私は観覧車…」
めちゃくちゃぎこちなさそうにしながら、2人はそれぞれ行きたい場所を言う。
「由花さん、この遊園地に夜までいるっていうことでいいですよね?」
「はい。夜ご飯を最後に食べて帰るので、解散は8時半〜9時くらいだと思います。」
「だったら、観覧車は夜の方がいいんじゃない?」
この遊園地は9時まで開いているため、できる限り時間ギリギリの方がいいだろう。おそらく夜景もいいはずだ。
「そっか、確かに。」
短く答える真琴を見て、なんだかやりにくさを感じる。
ダブルデートが正解だったのか誠二に問い正したい気分だ。
そこから、誠二が行きたいと言ったジェットコースターに乗り、コーヒーカップとか言う回る椅子に座り、立体映像館に行きと午前中の時間はすぐに過ぎ去った。
とりあえず、午前は終わったか………
レストラン(もちろん料金は僕と誠二持ち)に入り、僕たちは食事をしていた。
別にそこまで高いわけではなく、高校生のデートスポットとして人気な理由も頷ける。
その中で僕が感じたこと。それは、遊園地というのは一体いつから存在したのかということだ。
遊園地、ジェットコースター、コーヒーカップ。
僅か10数秒の間に何度も何度も車が回転する装置を作り出した先人の知恵は恐ろしい。
現代科学技術を持ってして、映像だけの臨場感ではなく実際に乗ることができることから、昔から人気は根強く残っているということであるのは確実だ。
電力、磁力、インターネット。
使っているものは数100年前と大差ない。
一部の力が最新技術として世に出てきてはいるが、ぶっちゃけた話、一般国民として生活しているだけの人間に高度技術なんてものは必要ないし、国民をそれを求めてはいない。
パソコンの発達、スマホの発達。それくらいは当たり前のように求められてきたのだろう。
身の回りの暮らしが楽になる分には嬉しいが、そのために大きなリスクを取ったりはしない。
核による技術面の発達も、たったの100数十年で終わった。
しかし、発達自体は終わっても、一切使われていないかと言うとそうではない。世界の国の中には核兵器を保持する国があり、原子力発電所を持つ国もある。
地球上に大量に存在している水というものをエネルギーに変えられるのではないかと言われているものもあるが、それは放置されている。
人々がこれ以上の技術発展に興味を示していないこと、世界の国々の間で“急速技術発展考慮“という考えが2100何年かに生まれ、“世界技術発展抑止条約”というものが作られたからだ。
内容は単純で、このままだと技術の発展凄すぎるよね、地球への影響考えないといけないね。だから対応できることが確実な状況まで技術の発達速度を制限しようよ。ってことだ。
ちなみに、発案国は中国。
当時の中国は、アメリカや日本との競争にだんだんと負け始めていた。技術力の不足、資金の不足、その他諸々の事情。
そこで思いついたのだろう。
自分たちを上げるのではなく、周りを下げればいいのだと。
発案するときは多分誰も乗ってくれないと思っていたようにも思えるこの条約は、意外にも世界に受け入れられた。
純粋に地球への影響と技術のバランスがとれていないように考えられていたこと、そして世界への先進国のアピール。
中国からしたら、各国が裏で技術発達のための措置をとり続けていることくらい予想済みだ。
それでも他国が大っぴらに行動することができなくなるのは大切だろう。
日本とアメリカは、中国の案に即座に乗っかったくせして裏では技術の発達に勤しんでいる。
量の中国、資金のアメリカ、技術の日本。
多少の間はできたり埋まったりしつつも、ここ300年はこんな感じらしい。
一歩遅れて欧米諸国やアフリカ大陸の先進国たち、ロシアが追従してきている。
日本が今持っている最高技術を使って本気で遊園地を作った場合、どんなレベルのものができるのだろう。
今目の前に料理を持ってきた全自動ロボットより高性能なものが出て来るのだろうか。
はたから見たら絶対に考える必要のないことを考えつつ、運ばれてきたステーキを口に運ぶ。
美味さは普通としか言えない。
というか、今の時代においてこれはとてつもなく美味いと思える食事の方が少ない。機械を使って作っている場合、ほぼ同じ味になるからだ。
だから昔ながらの味を再現していたりするところの方が美味しいと感じることはよくある。日本人に和の心というものがあるのは本当だろう。
………こうした1人での悲しき独白も、再び訪れることになった地獄のせいだ。
いい加減飽きてきた僕は、無理やりに思考を覚醒させる。
いつまでもそわそわとしている誠二と真琴にイラつきさえ感じながら、僕は再び肉を口に運んだ。
昼食を食べ終わってからも、あまり変わらない状況が続いた。
アトラクションを回り、お土産を買い、何も進展することなく夕飯が終わっていくのだろうと思っていた時。
夕飯に行く前にトイレに行きたいと言って場を離れ、出てきた僕を待ち伏せていた誠二が言う。
「ま、マジでどうすればいいんだこれ。」
頭を抱えてうずくまるその姿を見て、僕はため息をつく。
「あのなぁ、2人ともずっとビクビクしてんじゃん。
手くらい繋いだらいいのに。流石に由花さんみたいにくっつくのは難しいかもしれないけどさ。」
やれやれと思いながらそう言うと、
「それができたら苦労しねぇんだ!お前亜美と最初にデートした時どうやったんだよ!」と強烈な反論がくる。
亜美との初デートに関しては、大変申し訳ないが覚えていない。
文化祭を一緒に回ったというのはデートと言えるだろうか?それを考えるのが精一杯のレベルだ。
今となっては真剣に初デートに臨みたかったと思っている。だが、それは今できることじゃない。
「なんていうか…亜美が猛烈にエスコートしてくれてたからなぁ。
ぶっちゃけ任せっきりだった。」
無難な答えを伝える。
「な、なぁ。キスとか……さ、したらどう思われるかな………?」
まだ手も繋げていないと言って嘆いていた男の唐突なキスをしたいという告白に、僕は驚く。
「どうだろう。僕は亜美にしてもらった時嬉しかったよ。」
その回答は、かえって誠二を迷わせたらしい。
体を震わせて頭を掻きむしっている。
「大丈夫だ。まだ時間はあるさ。」そんな僕の一言に、誠二は顔をあげて何度か頷く。
夕飯が終わり、僕たちは最後に観覧車に乗っていくことになった。
時間は予定よりも遅れそうだが、深夜に帰るわけじゃないのだから十分大丈夫だろう。
「2組に分けて乗りましょうか。」
今日ずっとダブルデートを仕切っていた由花さんが、ここでもその力を発揮する。
おどおどしている誠二と真琴の2人を観覧車に押し込み、その後ろの車に僕たちは乗る。
先に2人を乗せないと、結局乗らずに終わってしまうのではないかという考えを持ったのだろう。いい判断だ。
「翔くん、今日のデートどうでしたか?言われた通りの感じで私なりに作ったプランだったんですが……」
やはり誠二と真琴のことが気になるのか、そんなことを聞いてくる由花さん。
「正直、あの2人があそこまで緊張しているとは思いませんでした。
でも僕は2人とも楽しんでくれたんじゃないかと思いま━━━━━━」
すでに中心を過ぎ去り、後は降りていくだけの観覧車。
遊園地のネオンが淡く光っている幻想的な景色の先に映った光景を見て、僕は笑みをこぼす。
「どうしたんですか?」横から覗き込んでくる由花さんを見て、目配せする。
その光景を由花さん本人も見て、思わず両手で口を押さえる。
細くなった目元から、嬉しさや喜びが表れている。
なんでこの人はこんな顔をすることができるのだろうか。
僕が隣にいると、そんな顔を本気でできるほどに心が軽くなるのだろうか。
その顔は今まで僕が見てきた、いや。多くの人間が見てきた顔とも違う一面を持っている。
心の奥底で、何かが震える。
あぁ、大丈夫だ。
僕の思いは変わらない。
今ここで、その感情を爆発させることはない。
自分の心に言い聞かせ、僕は笑顔を作る。
やればできんじゃねぇかよ。
長々と見ていいものじゃないと思いはしたが、大切な友の初口づけを見て、僕は今さっきの感情を薄れさせて喜んだ。
その時、
「私たちもしますか?」という唐突な由花さんからの問い。
少し悩むような時間をとってから、
「ごめんなさい……まだそんな覚悟というか勇気が持てなくて………」と断りを入れる。
あの時に感じた彼女の温もりは、今なお僕の中に強く熱く残っている。
次にあの温もりを感じることができるのはいつになるのだろうか。
長ったらしい人生の中で短期決戦をしようにも、そのせいであれを蔑ろにすることはできない。
だからこそ、僕はあの一瞬の感覚を呼び起こしながら目を瞑る。
いつか再び出会った時も、まだ僕を好きでいてくれるか?という質問を、遠くにいる彼女に投げかけてみるのだった。
こんにちは、羽鳥雪です!夏はあっついですが夜の涼しさを感じたり感じなかったりの最近、いつの間にやらもう20話目前ということで、本当にいつの間にやらです(語彙力皆無)。
8月後半も頑張っていきますので温かい目で見ていってやってください!




