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力の真髄

鋼鉄の扉を開け、颯は先陣を切って中へ入る。

一体、どれだけの軍勢が待ち構えているのか、こっちの味方は何人なのか、皆目見当もつかない。

「よう、時間通りに来たな。」

そう言って1番奥に置かれている金属に座っているのが、おそらくボス。

ここにくるまでに、極龍組については大まかにだが調べておいた。

組織のトップに君臨する、梶谷秀羅。シュウラと言う今まで聞いたことない名前から、なんとなくだが力強さを感じた。

5人の参謀、そこからさらに下へと枝分かれしていく組織図があり、総勢で1万を超える数となる。それも、あくまで東京内の話だけだ。

東京外の勢力、協力関係にいる組織まで含めれば、その数は計り知れない。

しかし、この場にいるのは3人の相手のみ。

3対3。暴力団同士の争いにしては、ありえないような異様な光景。

この空間の空気は流れを止め、息を潜めている。

周囲の金属から、冷たい空気が伝わってくるような感覚。

「さて、それじゃあ、最初は俺からだ。」そう言って、颯は前に出る。颯が前に出る?

「お前が一番手か?知っていると思うが、俺は1番最後にしか戦わないぜ?」

「あぁ、1番最後はそこにいる暁翔ってのがやる。」

「へぇ…ま、俺は楽しめれば構わねぇよ。」

あからさまにボスっぽい存在と戦うのは僕だと告げられる。

勝手に巻き込んでおいて、1番大変そうな役回りを僕に押し付けるというのは、どうにも認め難い状況だ。

まぁ、やるしかないんだろうが。

リーダーの梶谷が両脇に控えていた右側の方に指示を出す。そいつが頷いて、こちらに向かって歩いてくる。

僕と三笠、梶谷ともう1人の手下に見守られながら、戦いが始まる。


開始から3分で、一試合目は決着がついた。

颯のテクニカルな動き、それでいて手足のリーチを活かしたような戦い方に、僕は感心する。

路地裏で戦った時は本当にこいつが強いのかと思ったが、その理由がわかった。

単純に、広いところの方が動きやすいと言うことだろう。

あの細い路地裏での喧嘩は、体格的にも不利ということだ。

そんな僕の思考によってこの戦いが止まるわけもなく、2人目の戦いが始まる。

結果は、敗北。それも1戦目の相手と同じくらいの惨敗だ。

今にも倒れそうになりながらも、自分の足で立って三笠は戻ってくる。

「よく頑張った。」颯からのその一言に、頬を緩めて倒れ込む。

そっと三笠の体を支え、颯は壁にもたれさせる。

その一連の流れを見守りつつ、玉座から戦場へと歩み出す王者に目を向ける。

「さぁ、始めようか。」

「一応言っておくが、僕はあんたを本気で殴ろうなんて思ってない。」

「そうかい、そりゃぁありがたい話だなっ!」

そう言った刹那、梶谷は僕の上にいた。

繰り出される踵落としを左手のみで受け止める。

一瞬、驚いたような顔をする梶谷が、そのままもう片方の足で蹴りを放つ。

姿勢を低くしてその蹴りを躱し、左手を足から離して横へと跳躍する。

威力が完全に殺された踵落としは、何も起こることなくただ地面に着地する動きへと変わる。

「なるほど…弟が勝てないわけだ。」

「弟?」

唐突に放たれたその疑問を隠すことなく、僕は尋ねる。

「聞いてなかったのか?

俺と高切颯は実の弟だ。」

………そういうことか。

すぐに納得する。

「腐っても兄弟、そう言うことだろうな。」

自分たちのことを嘲笑し、梶谷はわずかにだが笑みを浮かべる。

腐っても兄弟、腐ってもの部分に何があったのかはわからないが、この2人が兄弟であることの確かな証拠となるものを、僕はもう知っている。

「まぁ、そんな昔話はしなくてもいいだろう。」

自分で始めたはずの話を打ち切り、梶谷は拳を握って突っ込んでくる。

しかし、次に飛んできたのは拳ではなく蹴りだった。

ブラフ。

多くのやつは、この攻撃がフェイクであると気づかないだろう。

蹴りを繰り出す時の足の動き、その一瞬で行動を把握し、懐に入り込む。

片方だけになったその足を掴み、少し力を入れる。

颯よりも大きな体は、たった少しの力によって軽々しく投げ飛ばされる。

ガシャンと音がなり、金属がまとめられていたところに梶谷が飛んで行ったことを理解する。

「俺より背も低くてひょろっとしたやつに投げ飛ばされたのは、これが初めてだぜ。」

巻き上げられた埃を含んだ唾液をその場に吐き捨てながら、彼は立ち上がる。

ただ、これでは━━━━━

「消化不良だ、と?」

僕の思考を理解したように、梶谷は言う。

「確かに、お前はつえぇ。

今のお前の考え、このままやっても勝てるがそれじゃあ俺が楽しくないんじゃないかって思ってんだろ?

一応、俺はこれでも東京中の暴力団のトップなんだがな………敵に本気を出すのを考えさせられるほどナメられるとはな。」

苦笑しながら言う梶谷に

「別に、ナメてるわけじゃない。

純粋に、僕があんたにどんだけの力を出せば勝てるか考えてただけだ。」と答える。

「そうかよ。だったら一つ言わせてもらおう。

━━━━━本気でこいよ。」

その言葉に、僕は言い返す。

「来るのはそっちだろ?

出させてみろよ━━━━━本気を。」

駆け出した梶谷が投げた金属のパイプを、僕は握りしめて折る。

その動作の間に、梶谷はすぐ近くまで迫っている。

このパイプによって、自分と僕との距離をうまくはぐらかした。

つもりかもしれないが……

真っ二つになって落ちていくパイプを蹴り飛ばし、それは梶谷の顔に向けて一直線に弾き飛ばされる。

咄嗟に腕で身を守ったその体にの下に、潜り込む。

やっていることは、直前の相手の行動と同じだ。

下から突き上げられた拳を、梶谷はギリギリで回避する。

避けながら、その行動の流れで回し蹴りを繰り出してくる。

それが僕の背中に直撃するも、受け流しながら体を捻る。

同時並行で、地面を蹴り上げる。

僕の体は宙に浮き、繰り出された回し蹴りはすでにどこにも当たっていない。

まぁ、死ぬことはないだろ。そう心の中で呟く。

着地と同時に、片足でバランスを取って蹴りを放つ。

見事腕で防いだものの、その一撃を受けた梶谷の体は吹っ飛んでいく。

壁にぶつかり、少しだけ苦痛の表情を浮かべた瞬間、すでに目の前まで迫っていた僕は拳を繰り出す。

梶谷の口から声が漏れ、彼はその場に倒れ伏す。

この一発をもって、今回の争いに決着がついた。





「イッテェな……」

あれから10分、梶谷は頭を摩って立ち上がった。

タフと言うかなんというか…本当に兄弟って感じだな。

僕の放った本気の一撃を受けてなお、たった10数分で意識を取り戻すのだ。なかなかだろう。

僕がこれだけの力をつけた理由を学力と合わせて語ってもいいのだが、梶谷が口を開く。

「この勝負、俺たちの負けだ。

………暁翔、だったか。俺たちはあんたの下につく。

よろしくな。」

何度感じるのか、やはり兄弟だと感じる。

潔さ、全勢力でやり合えば楽に勝てる勝負で3対3で決闘をするという公平さ今日この場に来た時から、兄弟だと言われればそうだと思える要素が詰まっている。

そういくつも暴力団に囲まれていたら問題しか起きなさそうなため勘弁したいところだが、ここでの繋がりはいつか活きることがあるかもしれない。

「少しだけ、2人で時間をもらえないか?」

そう言って、梶谷は歩いていく。それについて、僕は歩き出すのだった。






その夜、僕は光り輝く街を、展望台から見つめていた。

正直言って、僕は誰かのために何かをするということを本気でしたことはない。

こんなことを今になって考えるのは、今までの人生において知ろうとしていなかったものと関わることになったからだろう。

僕が学力と肉体の二つを極めようとした理由は単純。

目的を達成するためには、必要不可欠な力だったからだ。

どんな状況になろうとも、1対1の戦いに決着をつけるのは、暴力。

武術から射撃。あらゆることをイメージし、実践し、着実に力をつけた。

自分の人生を捨てる覚悟で挑んだことに、死ぬことの恐怖なんてものは感じない。

颯や梶谷などを相手にしても平常心を保っていられるのは、そういうことだろう。

学力に関しては、昔から行き過ぎな英才教育を受けていた。

『いつか、横に立って支えてほしい。』何度か、父はそんな言葉を溢した。

勉強だけをやれと言われ、ただひたすら勉強だけに打ち込むことができたかは疑問だ。

僕の場合、そこに楽しさを見出せていたことが大きいと感じている。

この現代の技術発展においても腐らない能力、政治的能力や心理的な能力。本来なら中学生として過ごす期間に得た力。

同等かそれ以上に重宝される力に、プログラミングという分野がある。

材質さえあれば、プログラミングによって物質生成すら可能であるという話を聞いた時、僕は興奮した。

そして、楽しそうだと思った。

そのために必要になってくるのは、計算能力や図形と言った理系能力から、プログラムを構成するための言語力、語彙力などだ。

プログラミングの知識をつけるために、その他の勉強をする。あくまでもその過程に、勉強があった。

父の意思を継いで始めた計画を達成する。その過程に、鍛錬があった。

それだけのこと。

それだけのことであるが、常人ではとてもたどり着けないような域まで僕は極め続けた。

この血の滲む努力を身近で見ていてよく知っている人間は、この世に2人。

しかし、僕が求めているのは過程ではない。

どれだけ綺麗事を並べようとも、結果を残す前に目標を諦めざるを得ない状況になってしまえば、人生は簡単に無に帰す。

かつての父がそうだったように。


終わりよければ全てよし。誰が作ったのか、大昔のこんな言葉は僕の中で強く根を張っている。

高校生活も、同じように過ごすと思っていたんだがな……

小さくため息をつき、空を見上げる。

綺麗な満月が、この地球に生きている命は小さいと言いたげに浮かんでいる。

あの月でさえ、今は人間に管理されている。そう考えると、少し恐ろしくなってくるが、申し訳ないが僕は宇宙に興味を抱いていない。

僕が興味を持っているのは、宇宙なんていう人間が手を出していい領域ではないのだ。

━━━━━いや、そう言ってしまうと、僕の興味を持っているものも人間が手を出してはいけないものかもしれない。

宇宙についてどうこう考えるのはやめにしよう………どうせ、興味を持つことはないのだから。

視線を落とし、自分の手を見る。

よく似た兄弟に言われた言葉が、僕の中で同時に反芻する。

『力があれば、なんでも守ることができる。それが、俺が力を欲した理由だ。』

『誰かを守る力ってのは、誰かを傷つける力かもしれねぇ。だから俺は、この力以外で、誰かを守れるようになりてぇって思っただけだ。』

あの2人も、今の僕と同じように握りしめた拳を見てそう言った。

「力っていうのは、誰かを守るためにあるってか……」

━━━━━1人の、大切な少女の顔が思い浮かぶ。

「残念だが、俺はそうとは思わない。

力ってのは何かを護った先のためにあるもんだ。」

本音を漏らし、俺━━━━━ではなく僕はその場を後にする。

本当に大切なものを護ることすら力は、持っていても無駄なのだという強い意思を持って。

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