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過去との決別

次の日、担任の新島先生が僕と誠二と真琴を連れて教室を出た。

「大変言い難い話だ。しかし、これが現実であることに変わりはない。」

自分に言い聞かせるようにして、担任は言葉を紡ぐ。

「今日の早朝…斎藤の家で火事が起きた………」

その言葉に、全員の目が見開く。

「そ、それでどうなったんですか!?

亜美の親は無事なんですよね!?」

誰よりも前のめりに先生に問い詰める誠二を、真琴が少し治めようとしている。

「斎藤の親は……両親とも……亡くなった………」

おそらく、本人も理解が追いついていないのだろう。

途切れ途切れの言葉で、担任は僕たちに言う。

「何で火事が?今の時代で火事が起きることなんて、ほとんどないと思うのですが。」

僕の冷静な問いかけに、先生は少し驚きながらも答える。

この状況でどれだけ焦ったところで、僕にどうにかできることはないのだ。冷静を装っていた方がいい。

「はっきり言う。

斎藤の両親が亡くなった理由は、自殺だという判断が警察から来ている。」

「自殺…ですか。」

「自殺をした理由に関しても、わかっている。

斎藤が電車事故で死んだことによる深い悲しみ、いつまでも原因がわからないもどかしさ、それが両親の心を蝕み、命を絶ったそうだ。」

そんな理由を聞かされ、僕たちは言葉を失う。

1番衝撃を受けていた真琴は、1年を通して親とのつながりもあったのだろう。口元を抑え、涙を流している。

僕は涙が流れることなく、その話を聞き終わる。

今までよりもはるかに時の流れがゆっくりになっていることを感じながら、僕は前を向くのだった。






それから先、僕は学校生活に向き合った。

2年生になった時からやらなければならないことは山ほどある。それに向けた準備期間でもあり、それと同時に亜美のいない環境に慣れるための時間でもあった。

そして、その時………3月、3年生が卒業式へと出向く時期が訪れる。

生徒会として卒業式に出席する僕もまた、緊張した空気感の中で椅子に座る。

校長の話、来賓の話が時間通りに進み、一部生徒の表彰。3年生全体の卒業証書授与は、各教室で渡されるため、卒業式はそこまで長くない時間で終わる。

デジタル化が進んでいるとはいえ、この卒業証書というものは、いつまで経っても紙のままだ。

この学校だけでなく、日本国中で紙の状態が続いており、ネットの意見の多くは「紙にしておく必要性はない」、生徒の意見の多くは「卒業式の後、卒業証書を持って写真を撮るのが思い出に残ると思う」といった具合だ。

いつまでも紙の形を残していることに古い時代の産物だという人間も少なくないが、「卒業式の時にどうせ一緒に写真を撮ることができる人がいなかったから悔しいだけだろ」というコメントに、思わず笑みが溢れたことがある。

卒業式が終わってから1時間、各クラスでの最後のホームルームを終えるチャイムが校内に鳴り響き、生徒会メンバーは門で家族写真を撮影したい人たちのためにそこへ向かう。

その間、僕はある人に呼ばれてある部屋へと向かっていった。

「先輩方はみんな写真を撮りにいってますよ。

行かなくていいんですか?」

その部屋に入り、奥に座る人物へ言葉を投げかける。

「はい。ここでこうして過ごすのも、最後ですから。」

そう言って、生徒会室の1番奥、生徒会長席に座る白石会長は顔を上げる。

「翔くんとも、しばしお別れですね。」

「しばし…?」

「あら、翔くんも大学は私と同じところに行くんじゃないんですか?」

「会長ってどこに行くのか秘密って言ってませんでしたか?」

「そういえばそうでしたか。基本的に難易度は高いですが、翔くんなら十分いける大学ですよ。」

「新東京国立大学、ですか。」

「そういうことです。」

新東京国立大学………それまで東京大学が日本一の難易度を誇っていたが、たった10年と少しで東大を超えた、新東大言われる学校だ。

「ちなみに、私が行く学部は━━━━━」

「政治専攻。」

会長よりも先に答えた僕に、彼女は目を丸くする。

「わかるんですか…?」

「まぁ、なんとなくですけどね。」

新東大には、他の大学とは大きく異なる部分がある。それがその、“政治専攻学科”。

読んで字の如く、政治についての知識、教育を受けるための学科。

しかし、今となっても、この学科を出た者が政治家になることは珍しい。その理由は、この学科の入学難易度。

未来の政治家を生み出すための学科であるため、偏差値は90オーバー。逆を言えば、この学科に入学、卒業したと言うことは、選挙において大きなメリットになる。

しかも、一年あたりにこの学科に入れるのは、30人と決まっている。

定員割れによる入学は不可、最低限定められたボーダーを突破しない限り入れないため、その年の生徒の人数が0になることも、可能性としてはありえないことではない。

実際、少し前の政治専攻の入学者数は10人ほどだったと聞いたことがある。

代々の政治家家系という人間が受験することが多いものの、結局は落ちているということだ。

国の機関でありながら、権力の影響を跳ね除けられる。日本に存在する、頭いくつ分か飛び出たとんでもない学科と言えるだろう。

そこに白石会長が受かったということか。

一年生にして全国模試満点を取る天才、そして僕という外れ値を除けば、全国1位ということになっていた前の模試。十分受かる可能性はあったということか。

素直に感心しながら、会長との雑談に花を咲かせる。




「さて、そろそろですね。」

10分ほどの短い時間の後、会長は席を立つ。

名残惜しいわけでも、心残りがあるわけでもないだろうが、彼女はその細い指で何度か椅子を撫でる。

「次の会長に指名する人はもう水谷先生に指名してあります。副会長は、前に約束した通りあなたです。

別にあんな約束がなくとも、少なくとも副会長、周りからの反対がないなら翔くんを会長にしてもいいと考えていましたが…」

「途中参加の僕が2年生で会長になったんじゃ、反発が起きてもおかしくないですから。」

「そういう謙虚で翔くんらしいところは、亜美さんがいなくなってもやっぱり変わらないですね。」

そう言って、彼女は頭を下げる。

「ごめんなさい……こんな時に言う言葉じゃなかったですね…」

「いえ、大丈夫です。彼女のことを忘れることはできませんが、少しずつ、過去から離れなければいけませんから。」

僕は会長に顔を上げるように言う。

「誠二が、僕に言ったんです。

時間は前にしか進まない。けど、心は後ろに置き忘れたものを何度でも迎えに行けるって。

もう、心で取りにいける物は取り返し尽くしました。だから、大丈夫です。」

遠くを見て、あの時の光景を思い出す。

「………最後に、少しだけ私の話を聞いていただいても構いませんか。」

「会長の時間があるなら。」

「手早くと行きたいところですが、これに関しては私も初めての経験でして。

お時間をとらせてしまうかもしれません。

本当はもっと早く伝えたいことだったのですが………私の心が弱いばかりに、10分も時間をかけてしまいました。」

少し、会長の体が震えているのがわかる。

「翔くん━━━━━私と、お付き合いしていただけませんか?」

その言葉が、空虚な僕の心に放たれる。

2人しかいない部屋の中、彼女が放ったその言葉だけが響く。

たった10秒にも満たない静寂の時間が過ぎ去り、何か言わないとと感じたであろう彼女は口を開いて言葉を紡ぐ。

「また前の話で申し訳ないのですが、翔くんと2人で話した時、私が言ったことを覚えていますか?」

僕からの答えを聞く前に、彼女は続ける。

「私は亜美さんの代わりにはなれませんが、翔くんの傷を癒したいと言いました。

できるだけ近くで、あなたを助けてあげたかった。」

息を整えながら、会長は続ける。

「もしも、私たちが同じ学年、同じクラスだったら、もっとできたことがあったかもしれません。ですが、それは仮定の話でしかない。

私に、あなたを助けさせて欲しい。

今なお心の奥底に抱えている絶望を、私に晴らさせて欲しい。

そう、強く思いました。」

静かな時間が、2人の間に流れる。

「そして、気づいたんです。なんで自分がそんなことばかりを思っているのか、その理由に。

━━━━━━私は、あなたのことが好きになってしまったみたいです。」


その言葉を聞いて、僕は自分の過去を思い出す。

亜美の祖母が亡くなった時、僕は亜美に少しでも楽になって欲しいと願って行動した。

そこで、気づいた。

それまでのいろいろな感情の整理がつき、僕が亜美のことを本気で好きだということに。

「私は今まで、恋愛というものを経験してきませんでした。

誰かを好きになることも、それこそ、本気で興味を持つこともありませんでした。

でも、あなたは違った。

いつもまっすぐで、誰かのことを1番に考えている。」


その言葉を、僕は心で否定する。

いつもまっすぐに生きれてなんかいない。

亜美の件も、僕の過去も。ずっと、自分を1番に考えてきた。


「どれだけ苦しんでも、誰かのために前を向いている。」


誰かのために前を向いているわけじゃない。自分を隠すために…自分の何かを失くさないために、誰かのためを装ってきた。


「そんなあなたのことが………翔くんのことが好きになったんです。

━━━━━私と、お付き合いしていただけませんか?」


たった数ヶ月前、亜美にも言われた言葉。

目的の達成のための一つのピースとして、成功を確信していた計画。

そして、その後に訪れた大きな気持ちの変化。

亜美という1人の少女を本気で好きになり、計画のために利用したことを後悔したあの時の強い気持ち。

日々の学校生活の中で、彼女から知らず知らずのうちに受けていた恩恵。

そんな記憶が蘇ってくる。


「…………僕と似てますね。」

そんな言葉を、口から漏らす。

誠二や真琴からは、反感を買うかもしれない。しかし、周りからの反応、反発よりも、大切にしたいことが僕の胸には確かにあった。

そして、僕は一呼吸開けて言う。

「こんな僕でよければ、よろしくお願いします。」


「本当に……いいんですか?」

次に、会長から出た言葉はそれだった。

「もちろん。正直言って、僕の心にはまだ大きな穴が空いています。

時間をかけて埋めていきたいと思っていますが、どれだけかかるかは分かりません。」

「大丈夫です。私も、協力しますから。」

彼女がそう答えた時、乱暴に扉が開かれる。

「ここにいたのか!早くしないと最後の集合写真の撮影が始まるぞ!」

そう言って慌ただしくしているのは、確か3年の教師。つまり、会長の担任と言うことだろう。

「もう少し一緒いたかったですが……仕方ありません。

それでは、またすぐ会いましょう。翔くん。」

少しだけ頬を赤らめて、会長はそう言う。

「はい。由花さん。」

その言葉を聞き、一瞬驚いた顔をしつつも満足げに微笑んで、彼女は担任について部屋を出ていく。

その後ろ姿を見送りながら、僕はさっき言った言葉を、口から出して反芻する。

「心で取りに行けるものは取り返し尽くした………か。」

その言葉を残し、僕も生徒会室を後にした。

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