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大きな一歩

花火から1週間と少しが経ち、月曜日。

テスト週間が来るため、直近では最後となる生徒会活動が行われる。

白石会長と僕だけは別途仕事が残されているが、テスト前2週間のこのタイミングが、ひとまず生徒会活動の終わりとなる。

「まず、新たな生徒会メンバーの紹介をしたいと思います。」

白石会長がそう言い、僕を見て小さく頷く。

頷き返し、僕は席を立って扉を開ける。

その先から現れた人物の姿を見て、生徒会室がざわめきに包まれる。

この人物の生徒会入りの件を知っていたのは、僕と会長のみ。

誠二にすら教えていなかったため、彼からは困惑の視線が送られてる。

一旦それを無視し、その人物に部屋へ入るよう伝える。

「それでは、自己紹介をよろしくお願いします。」

会長からの優しい声のあとで、その人物は口を開く。

「新しく生徒会に入ることになった、高切颯だ。」

短くそう言った彼に、周りのメンバーは不安と不信を募らせているだろう。

なぜこんな奴が生徒会に入ることになったのか、自分たちの仕事に支障をきたすのではないか、暴力事件には巻き込まれたくない。そんな思いを各々が抱えていることを、表情から読み取る。

「それでは、席にお座りください。」

会長からの指示で、1番近くにあった空いた席に座ろうとしたところで、僕h動く。

自分の席を引き、そこに高切の席を入れる形で、椅子を入れ替える。

「翔くん、どうしたんですか?」

微笑みを消すことなく、会長は首を傾げる。

「僕の尊敬する先輩を、1番末席に座らせることはできませんから。」

「学年の差があることはわかります。

ですが、翔くんはこの生徒会において優秀な生徒です。そんなあなたが席を譲るほど、彼は優秀と言えるのですか?」

この生徒会に推薦で人を入れるためには、会長の許可が絶対条件。つまり、会長は高切を認めたということになるが、今の彼女の言い回しからは、あまり高切の実力を知らないという雰囲気がする。

冷静な生徒ならこの微妙な雰囲気に気がつくかもしれないが、あいにくとこの場にいる者たちは高切の生徒会入りということに衝撃を受け、そんなことを考えている暇はない。

それを理解した上で、高切の力を僕に語らせるように打った芝居。

前に提案した計画は大成功をおさめ、今は評議会がどのようにして進めていくかというのを考えているところだ。

その実績を持つ僕が認めるということは、高切は本当はすごい生徒なのではという考えを周りに持たせることに繋がる。

「高切先輩は、普段は横暴というか暴君のような感じで君臨していますが、その裏ではこの学校に対して結構いろいろな恩恵を与えてくれています。

先輩が制圧した暴力団の中には、この学校の生徒に対してよからぬことを考えていた集まりもあったようなので。」

実際にそれに似た被害を受けた白石会長がいる中でこの話をするのもどうかとは思ったが、高切がいい人間であるということをアピールするためにはもっとも手っ取り早い方法だ。

会長には心の中で謝りつつ、特に表情を変えない彼女を見て、もう終わったことだと割り切っているのではないかという感覚を覚える。

「なるほど……それは確かに、大きな功績ですね。

それでは、改めて席にお座りになってください。」

そう言って、会長は話を進める。

それにしても、今日の会長の編み込みになっている髪には、前に僕がプレゼントしたあのスイレンのヘアピンが付いている。

気に入ってもらえたみたいでよかった。

そう思いながら、僕はその日の生徒会活動に耳を傾けた。






活動自体が終わったあと、僕と白石会長の2人だけは生徒会室に残ったままだった。

「評議会からの連絡は1週間後らしいですね。」

「はい。

その日に僕と会長が水谷先生に呼び出され、話をするということみたいです。」

僕が言ったことに何か不備があったのか、会長の顔が少し曇る。

「2人でいる時は名前でいいのに……」

ぼそっと呟いたその言葉を聞かなかったことにして、

「どこか間違っていましたか?」と問いかける。

「いえ、少し考え事をしていたもので。」

申し訳なさそうにして、それじゃあ閉めましょうかと言って鞄をとる。

僕も頷き、2人で部屋を後にするのだった。





職員室に鍵を戻し、そのまま会長と共に下駄箱まで行くと、いつもの人影を見つける。

「それでは、次の仕事の内容はお伝えしましたので、あとはよろしくお願いします。」

その人物を視界に捉えると、白石会長はすぐに僕の横を離れていく。

「わかりました。」そう答えて、後ろ姿を見送り、歩き出す。

「待っててくれたんだ、亜美。」

そこにいた人物、亜美に声をかける。

「うん!

今日はいつもより早く終わるって言ってたから。」

「そっか。ありがとう。」

手早く靴を履き替え、制服で手を払ってから亜美の手をとる。

「最近、翔ってちょっと積極的だよね。」

そう言って、亜美は笑う。

積極的……?

亜美が何を言っているのか理解するために、脳内時間で数分以上の時間を要する。

積極的に亜美に接したと自覚を持って行動したことはない。

ことはないと思っていたのだが………

なぜか、自分の感情に対して疑問が生まれる。

積極的?僕が?亜美に?

僕の中で、亜美は自分の立場を確保するために利用できる人間だ。

あのノートにもそう書いた。

亜美から嫌われないよう、利用しやすくなるように色々なことをやってきた。

しかし━━━━━

花火を見に行ったとき、ショルダーバックをあげようと思った時、それを嬉しそうに受け取った亜美を見た時、そして今、自分から彼女の手を取った時…………

喜ばせたかった。

しかしそれは、この後亜美のことを利用しやすくするためだったのか?

ただ単に、純粋な気持ちで喜んで欲しいと思ったんじゃないか?

わからない。

この感覚、感情。

これは………なんだ?

今まで感じたことがない、誰かに対して感じたこの気持ち。

それが今、僕の心の中にくっきりと根を張る。

根は見えるのに、その花がなんなのかがわかない。

その気になれば、葉や根だけでその花がなんの花なのかくらいは言い当てられる自負はある。

しかし、これは違う。

言い表すなら、今まで発見されていなかった新たな花。

僕の人生の蓄積にも、知識の蓄積にも当てはまらない、そもそも図鑑に載っていない物。

これは………なんだ?

その言葉が再び心に響いた時、

「どうしたの?」という声によって僕は現実に引き戻される。

ハッと見開いた僕の視界に、心配そうに覗き込んでくる亜美の顔を見る。

「あ、あぁいや、なんでもないよ。」

そう言って、僕は反射的に目を逸らす。

なんで目を逸らした…?

今までは亜美の目をまっすぐ見つめ返してもなんとも思っていなかったはずなのに。

付き合い始める少し前、互いの目をどっちが長く見つめていられるかなんていうゲームをした時も、1分といかないくらいで亜美は耐えきれなくなっていた。

なんとも思っていない人間の目を見るだけなんて、何時間でも続けられると思っていた。

でも、今は違う。

人生における、高い壁にぶつかっている感覚がある。

それと同時に、感情とは全く違うところで、他の感覚に体が反応する。

頬に、少し温かい感触が走る。

「へ?」

自分でも本当かと思うほど素っ頓狂な声が、僕の口から出る。

「ふふっ。

隙ありだね、翔。」

嬉しそうに目を細める亜美を見て、僕は何が起きたのかを理解する。

それとほぼ同時に、その言葉が亜美の口から出される。

「キス……嫌だった?」

そういえば、付き合い始めてからもずっとしていなかった。

タイミングを図ってと思っていたが、結局そのままにしていた。

いや………僕がミスを恐れていた?

おそらく亜美が喜ぶと思っていた。

しかし、しなかった。だが……できなかったのか?

先ほど考えていたことが、一気にフラッシュバックする。

「大丈夫…嫌なんかじゃないよ。」

回らない頭の中で、僕が捻り出せた言葉はそれが精一杯だった。

「よかった〜!」と言って、亜美は安堵する。

一旦、考えるのは後にしよう。

ずっと頭の中に残っていそうな疑問だったが、これ以上亜美に心配をかけないためと考えると、なぜかスッと飲み込むことができた。

駅の前で深く抱擁し、僕は亜美とまた明日と言って別れた。




「なぁ翔?

お前次のテストはどうなんだ?」

そう言って話しかけてくるのは、風間誠二。

亜美との関係に疑問を持った次の日の昼休み、今日はいまだに亜美と話せていない。

わからないことは理解できるまで追求することも大事だが、わからないものはわからないと割り切ることも大事だと思うことにした。

「テスト?

ちょっと心配なところもあるんだよね。誠二は?」

「俺は多分だが余裕だ。

多分だが。」

繰り返される多分という言葉に疑問を思えるが、まぁ大丈夫だろう。

普段はアホっぽいキャラをしている誠二は、実は結構頭がよかったりする。

生徒会に入って活動することができるくらいだしな。

「お二人さん…助けてください……」

そんな会話をしていたところに悲痛そうな顔で入ってきたのは、真琴だった。

「ど、どうしたんだ?」

なんとなく予想していた僕と違い、誠二は困惑を表している。

「勉強を教えてほしい……そういうことだよね?」

「そういうこと!

てことで、教えてくだせぇ。」

先ほどの申し訳なさと悲痛さはどこへやら、急に笑顔を見せてくる。

「どうだ?翔。」

「え?僕?」

「そりゃあそうだろう。

だって真琴に教えるのは翔だぜ?」

「へ?」

そんなこと聞いていない。

なんでそうなるの?という感覚しかない。

「あったりまえだろ。

お前がやらなかったら誰がやるんだよ!」

そう言って僕の背中をバシバシ叩く。

「うーん……僕は生徒会の仕事もあるからなぁ…」

「いいじゃん!教えてあげなよ。」

断りのルートへと話を持っていこうとしたところで、声が割り込んでくる。

「亜美…」

今日初めての会話に少しだけドキドキしつつも、

「まぁ、しょうがないか。」と応える。

「うわ〜やっぱり超可愛い彼女のお願いは聞いちゃうってこと?

悲しくなってくる。」

「そんなに本気で思ってないだろお前。」と横から誠二が突っ込む。

「じゃあ、私も一緒によろしくね!」

「……………へ?」

2人のやり取りを微笑ましく眺めていた僕は、突然に言い出されたその言葉を聞き、なぜ亜美が勉強について口を出してきたのかを理解する。

「それ亜美が僕と一緒にいたいだけじゃん…」

「正解!」

ピンポーンと言うように手で丸を作り、彼女は気づく。

真琴と誠二からのジトっとした目にハッとし、顔を赤くしてそそくさとその場から撤収していく。

「やっぱり、亜美って可愛いよね〜

ね、誠二?」

「おいおい、本人の彼氏が目の前にいるんだからそう言うことを俺に聞くなよ。」

「へ〜やっぱり亜美のこと可愛いって思ってるんだ?」

「いやそう言うことじゃねぇよ!」

…………………

この2人、このまま付き合った方がいいんじゃないか?

そう思って考えを口に出すと、

「こいつと!?ないない!」という全く同じ答えが同時に返されるのだった。






テストまで後2日というところで、僕たちは学校の自習室に来ていた。

1週間も毎日同じところで勉強していると慣れてくるな。

「はぁ、結局1週間も付き合わされた……」

不満そうに、向かいに座った誠二がため息をつく。

「そりゃあ、僕だけに全部を押し付けて逃げるのは許されないよ。」

「こんなことなら真琴の話を2人で拒否しておけばよかった。」

そう呟いた誠二に、真琴がゲンコツを喰らわせ、誠二は机に顔を埋める。

「はいはい、早く始めよう。

勉強会も今日で終わりなんだから。」

「えー?明日はやってくれないの?」

「明日は生徒会の仕事があるからね。頑張って自分で勉強して。」

「んーじゃあ誠二、よろしく。」

「はぁ?そもそも俺は教える係じゃn」

言いかけた瞬間、真琴に胸ぐらを締め上げられ、

「誠心誠意教えさせていただきます。」と強制的に言わされる。

まぁ、そこいらの男子よりはるかに強そうな真琴に詰め寄られたんじゃ、そう答えるしかないわな。御愁傷様と心の中で呟き、教科書を開く。

「どうかした?」

深刻そうに何かを考えている亜美に聞くと、

「誠二と真琴って付き合ってるよね?ていうかもはや夫婦だよね?」なんて言葉を放り込む。

全くもって同意見だと思っていたら、デジャヴのように2人は声を揃えて言い返してくる。

「まったく…類は彼女を呼ぶとはよく言ったもんだ。」と誠二が呆れる。

「何その言葉。」バカ真面目に聞き返した僕を見て、もう一度呆れてため息をついてくる誠二。

そんな勉強会は最終日ということもあって、ほとんど勉強をすることもなく終わってしまった。






次の日の放課後、僕と白石会長は呼ばれた場所に時間通りに来ていた。

「早速だけど、これが評議会から送られてきた書類だ。」

なぜか落ち着きがなさそうな水谷先生がその資料を渡し、僕と会長はそれに目を通す。

その内容は、僕が考えていたものとほとんど同じものだ。

しかし、一つだけよくわからない文章が存在している。

白石会長も、その一文を見て硬直している。水谷先生の落ち着きがない理由とも思われる文章、それは━━━━━

「文部科学大臣との対談ですか…」

そう、ただの一般高校生が文部科学大臣と直接会うと言うのだ。

それに加え、もう一つ。

「総理大臣との対談………!?」

やっと理解が追いついたというように、白石会長が声を上げる。

「な、なぜかは学校側もよくわかっていないのだが…

総理大臣と文部科学大臣との対談を行うらしい……」

僕も、この件に関しては驚きしかない。

一国の首相が、高校生たちと会って話をしようと言うのだ。

現内閣総理大臣……埠頭健太郎。

少し前にテレビでタイムマシンのことについて問われていた、国民自由党総裁でもある。

だが、これはチャンスだ。

あの男に直接会うことで、多少なりとも繋がりを持てる。

今まで心の中にあった火種が、一気に燃え広がってくる。

対談は…1ヶ月後か。

面白い。

まだまだ計画は途中だが、会ってやろうじゃないか。

思わず笑みが溢れた時、

「翔くん?」と声をかけられる。

「え?あ、はい。」

そうだった。水谷先生の話を聞いている最中だということを忘れていた

そう思って急いで視線を上げると、そこに先生の姿はない。

「先生なら、先に出て行きましたよ?」

怪訝な目でこちらを見ているのは、白石会長1人。

「私たちももう行きましょうか。

明日はテストですし。」

そう言って、会長は出入り口に向けて歩いていく。

確かな高揚を胸に閉じ込め、僕も続いて部屋を出る。

「1ヶ月後と言えば、ちょうど全国模試がある時でもありますね。」

「模試の方が早いとはいえ、そう言えばそうですね。

白石会長はどこを受験するつもりなんですか?」

「秘密です。

でも、もちろん模試は受けます。翔くんも受けたらどうですか?」

模試か…

受けることで全国的に見た自分の力を理解できるというのは悪くない。

やってみようか。そんな思いが芽生えた時、会長の口からとんでもない言葉が飛び出す。

「もしも模試で翔くんが私よりもいい成績を出せたなら、何かお願いを一つ聞いてあげましょう。」

もしも模試というギャグに突っ込んで欲しいのかどうかはわからないので無視しつつ、その内容に僕は興味を示す。

「お願いを一つ、とは?」

「なんでもいいですよ?

ご飯を奢るとか、前みたいにデートに行くとか、生徒会長にしてほしいっていうのはできるか分かりませんけど…

私ができそうなことならなんでもいいです。」

なんでも、か。

白石会長に勝つという随分難しそうな条件ではあるが、報酬は申し分ない。

だが…

「僕が会長よりも成績が低い場合はどうするんですか?」と問いかける。

会長のことだ。一方的に好条件を出すような人じゃないはず。

楽しみたいということかもしれないが、だとしたら賭けという形のほうが面白いと感じるようなタイプの人だ。

「流石ですね、翔くん。

私が求めることは━━━━━━」

「━━━━━━っ!」

「どうですか?

私としては、こちらからの賭けの条件はなんでもいいのです。

私がやりたいことはただ一つ。あなたの本当の実力を見せていただきたいというもの。」

「僕の本当の実力?」

「やはり、とぼけて逃げられるのですね。」

「……………」

「それで?勝負しますか?」

「分かりました。いい勝負になることを楽しみにしておきます。」

そして、1ヶ月後に大きな二つのイベントを抱えることとなった。




翌日、学校はテスト一色に染め上げられた。

そんな日の昼食、僕は久しぶりにグループで時間を過ごしていた。

「はぁ〜あと2教科……死ぬ。」

「おいおい、さっきのテスト30分くらい経ったところから寝てただろ?」

「え!?い、いや…寝てないし。」

「流石にテスト中に寝ることはないんじゃないの?」

そう言う僕を見て、お前は真琴をなんだと思ってるんだという目を、誠二がむけてくる。

「いや、寝てたよ?」

冷静な亜美の笑い。

「お前…寝てたのか?」

「う…ごめん。」

「久しぶりに翔から怒りを感じたな」

「まぁ、毎日勉強会したんだから結果が出れば文句は言わないよ。」

「相変わらず優しいやつだな。

亜美といるときもこんな感じなのか?」

僕が作ってきた弁当を美味しそうに食べていた亜美に向かって、誠二が話を振る。

「ほぇ?」

何を食べたのか見ていなかったためわからないが、ちょうど口に食べ物を入れた亜美が急いでそれを食べ切る。

「翔は翔だよ。

付き合う前も今も、ずっと同じ優しい人。」

「そうか、それはよかった。」

何度か頷く誠二を見て、真琴が口を開く。

「ていうか、誠二ってこの一年で結構変わったよね。

最初はもっとバカだったじゃん?」

「黒歴史を掘り返すみたいに言わないでくれ。

あの頃はなんとかクラスに馴染もうと必死だったからな。」

さらりと流す誠二を見て、こいつも大変だったんだなと改めて感じさせられる。

「そろそろ後半戦が始まるぞ。準備だ準備。」

文句垂れ垂れだった真琴だが、何も変わらないので諦めてテストに臨むのだった。





それから数週間、相変わらず亜美への感情は変わることなく、全国模試の受験の日を迎える。

どうやら、申し込みをすれば学校で受験することができるらしく、結果も1日で算出してくれるらしい。

流石、今時のデータ収集能力は素晴らしいと言ったところだろう。

そんなことを思いつつ、ほぼ全員が3年生の休日の学校に入る。

僕と会長の戦いにおいて重要になってくるのは学年ごとの順位ではなく、純粋な受験者全員の全国順位。

初挑戦の僕に対し、会長の前回の全教科の順位は全国8位。

普通の人からしたら、そもそもが1年と3年ということも相まって、一方的な勝負になると感じるほうが多いだろう。

試験管が、試験開始の合図を出す。

亜美の顔を思い浮かべながら、僕は心の中で呟く。

「さぁ、ミスが許されないゲームのスタートだ。」





「あれ?翔。どこ行くの?」

次の日の昼、弁当箱の入った袋を開けている亜美に声をかけられ、僕は立ち止まる。

「ごめん、ちょっと用事があるんだ。

すぐに戻ってくるから待って━━━━━」

「その必要はありませんよ。」

いつもの空き部屋に、声が響く。

後ろのドアから姿を現したのは生徒会長、白石由花。

「わざわざ出向いていただいてしまったみたいですみません。」

「いえ、そもそもこちら側から言い出したことですからね。」

不意に、笑みが溢れる。

会長も、不敵な笑みを浮かべている。

「亜美さんもいることですし、ちょうどいいでしょう。」

そう言って、会長は封筒から一枚の紙を取り出す。

僕も同じ色の封筒から中身を取り出す。

「私と翔くんは賭けをしていたんですよ。」

話の内容がわかっていない亜美に向けて、会長は説明を始める。

「翔くんが勝ったら、私はできることならなんでも一つ言うことを聞く。

私が勝ったら、翔くんを卒業まで私の好きにさせていただく。

もちろん、これだけを聞けば翔くんのほうが不利に感じるかもしませんが、なんでも一つというのは無期限のお願いでもいいということです。

それこそ、私の人生の全てを翔くんに捧げるということだとしても。」

怪しげな目で、会長は説明を終える。

突然すぎる話に、亜美は口を開いて硬直している。

「さて、説明も済んだことですし、結果を見ましょう。」

会長から差し出された試験結果の用紙に書かれているのは、各教科の詳細な成績。

しかし、そんなものはどうでもいい。

大切なのは、総合の全国順位。

それが書かれているところを探し出し、僕は笑みを浮かべる。

「全国3位…ですか。」

今年は、小学生の頃に数々の学問でメダルを手にしている天才と呼ばれる人物が、高校1年となったことで参戦している。名前だけなら、多くの人間が耳にしたことがあるだろうというほどだ。

小学4年生の時点で、俗に言う国際科学オリンピック全15の分野で全てメダルを獲得。

中学1年生で15の分野のメダル全てが金になったと世間に取り上げられた。

いくつもの学問の大会で優勝、現在日本に存在する天才とはそいつのことだろう。

先ほどネットを確認したとき、全国模試も1位だったと高らかに発表していた。

文句を言われること無き全教科満点。

つまり、1位の枠は必ず潰れるということを、悔しながらも今の学生たちは教えられている。

全国模試の難易度が上がった後、もう20数年と言われているが、未だ満点は0人。

天才によって達成された偉業はとてつもないものかもしれないが、今までの経歴からしたらごく当たり前のレベルだろう。

高校3年生までの全範囲が出て、その上大学の予習のような問題が出る問題を高校1年生が解いている時点ですごいことだが、僕にとっては知ったことじゃない。

そんなことを思いながら、僕は自分の紙を裏向きにして差し出す。

「亜美さんも見られますか?」

「え?私が?」

「もちろんです。この結果次第では、翔くんとあなたの間に数ヶ月の溝ができてしまうかもしれないのですから。」

その言葉を聞いて、ハッとしたように亜美は両手で口を塞ぐ。

『好きにさせてもらう』その言葉の意味が、ただただ生徒会の仕事の増加や自分の苦労の負担を減らすということに対してのみ働くことではないということ、僕との関係が大きく変化させられてしまう可能性があるということを、ついに理解したといった様子だ。

亜美の目が、焦点を合わせなくなっている。

「大丈夫です。強制的に別れろなんてことは言いません。

私が何かを言えるのは翔くんだけで、亜美さんに対しては何もできませんから。」

そんなことを言われても安心できないのか、身体を小刻みに震わせながら僕の隣に立つ。

「それでは、準備はよろしいですか?」

白石会長は、亜美からの返答も待たずに用紙を裏返し、順位が書かれているところに視線を当てる。

それと同時に、笑みで結ばれていた口が、だんだんと開いていく。

僕との関係が危機に瀕していると理解し、結果を受け止めきれないと感じたのか、亜美は目をぎゅっと瞑って座り、縮こまっている。

長く続く沈黙。

それに耐えきれなくなり、亜美がうっすらと目を開く。

「しょ、翔……?」

亜美の顔を眺めてずっと待っていた僕をまっすぐ見て、彼女は呟く。

目元には、少しだけだが涙が溜まっている。

この後の自分たちの関係に怯える亜美の頭に、手をのせて撫でる。

「ごめんね、勝手なことをして。」

本来なら、最初に亜美にも相談すべきだったかもしれない。

相手は、その天才と言われている1人の人間を除けば全国2位ということだ。ましてや1年と3年。勝負にならない。

亜美はそう思っているだろう。

その時、ついに事態を飲み込んだ小さな声が耳に届く。

「こんな………ことが?」

それは、亜美から発せられた言葉ではなく、白石会長のもの。

「全国………1位?」

その言葉を最後に再び沈黙が訪れる。


「え?」

今にも泣き出しそうな声で、その沈黙を破ったのは亜美だった。

暁翔の名前の下に書かれていた全国順位、1の文字。

その下に続く全教科の点数、100の列。

顔を上げると、現実ではない何かを見るように、会長は目を見開いている。

「翔…ほんとなの?」

震える口から出された亜美の言葉に、僕は頷いて答える。

「よかった……よかった………!」

泣きながら抱きかかってくる亜美をしっかりと受け止める。

今回の模試、亜美には後でしっかりと謝罪しよう。

一時的とは言え、僕のために苦しい思いをさせてしまったのだから。

確かな勝利の実感はないため、亜美への申し訳なさが、ただ強く、心に残っていた。

僕の計画も、それと共に大きな一歩を踏み出した。

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