番外編『宮本さんと風間さん㉕』
久喜原びすけっとが平屋に入って数分後━━。
ガシャン、という大きな音と共に、窓ガラスが外へ向かって砕け散る。次いで、食器のような物が外へと飛び出してきた。
カウンセラーが身を縮こませる目の前で、
━━━ガンッ、ガンッ、ガンッ
と、まるで解体工事のような激しい騒音が平屋の中から聞こえてくる。
久喜原びすけっとは一時間経っても戻って来なかったら警察を呼べと言っていたが、これは今すぐにでも通報するべきではないか? 彼が迷っていると━━
ふいに、物音がしなくなった。
カウンセラーは緊張した面持ちで、意味もなく平屋の玄関前を凝視する。そのまま五分が経過したが、家はしんとしたままである。
━━━どうする?
カウンセラーが冷や汗を拭っていると、
「・・・う、うん・・」
という、かすかな呻き声がした。車の後部座席に寝かせておいた久喜原立夏が、ゆっくりと身体を起こしているところだった。
彼女はしばらく頭を抑えるような格好を見せていたが、ふいに目を大きく見開くと、
「! びすけは!?」
と言って、車内から飛び出してきた。
カウンセラーは、久喜原立夏を慌てて制止し、
「駄目です、奥さん!! 危険ですから!!」
「でも、娘がっ!!」
二人が言い争っていると、
唐突に、玄関の引き戸がガラリと開いた。
「・・・」
久喜原びすけっとは無言で玄関先に立っていた。その身体は所々が汚れていて、いくつか打ち身のような痕も見える。
久喜原立夏はカウンセラーを突き飛ばし、娘へと駆け寄る。
「びすけ! びすけ!」
久喜原立夏は顔を真っ青にし、娘の身体に異常がないか確認する。それをされるがままにされながら、
「・・・大した怪我はしてねーから大丈夫です」
と、憮然とした声で言った。母親はそんな娘の両肩を掴み、
「何があったの!? アンタ、大丈夫なの!?」
と、泣きそうな顔で訊く。
久喜原びすけっとは、母親から目を逸らすように視線を下に向けると、
「フツーに負けて、フツーにボコられてしまったのです・・」
と、消沈した声で言った。
それを聞いて、久喜原立夏の身体からほんの少しだけ緊張が抜ける。
負けはしたものの、五体満足で帰ってこれたならそれでいい。
久喜原立夏はそう安堵しかけたのだが、ふと、娘の背後に何かがあることに気付く。
大型のゴミ袋ほどの大きさの、頑丈な麻製の布袋だった。
その袋は大きく膨らんでおり、明らかに何かが入っていた。口を縛っている紐は、久喜原びすけっとの手に握られている。
「・・・びすけ。アンタそれ、何持ってんの?」
嫌な予感を覚えつつ、久喜原立夏がそう訊くと、娘は更に憮然とした表情で、
「久喜原が負けた『奴ら』です」
と、答えた。
※※※
※※
※
「ぶっちゃけ殺される一歩手前までいったのですが、『コイツら』の中の『話が通じる奴ら』に助けてもらって、何とか命は勘弁してもらった感じですね。・・・ただ、その代償として━━」
━━━自分たちを預かれ。
そう、言われたのだそうだ。
それを聞いた久喜原立夏は、「はぁ!?」と、大きく顔を歪める。
「アンタが負けるようなレベルのモノを預かるとか、そんなん出来るわけないでしょうが!? ウチは由緒正しいお寺や神社じゃないんだからね!?」
「んなこと言っても、家に置く以外方法はねーんだから、持って帰るしかねーのですよ」
「ダメよ!! 元あった場所に返してきなさい!!」
「それをやったら『コイツら』は手当たり次第に人を呪い、恨み、祟って殺すようになるですよ?」
久喜原びすけっとは無表情にそう言った。その目は「それでいいのか?」と、問うていた。
「・・・」
久喜原立夏は沈黙する。娘のことを案じる母親としては、他の人のことなんてどうでもいいと答えるべきなのだろう。
だが彼女は善人であり、他人を犠牲にする生き方が出来ない人だった。
「・・・分かったわよ」
久喜原立夏は唇を強く噛み締めた後、そう言った。
「・・・でも、少しでもアンタが危ないってなったら、その時は、例えどんなことがあろうとも、私が『それ』を海に捨てるから」
いいわね、と、久喜原立夏は娘の肩を掴みながら、強い眼差しで宣言する。
久喜原びすけっとは、無言で頷く。
━━━と、同時に、麻袋がガチャガチャと騒がしく動き始めた。
「・・・何?」
久喜原立夏が、気味悪そうに訊ねる。娘は鬱陶しそうに麻袋を見やりながら、
「無理矢理押しかけるような形で居候になろうとしている分際で何を言ってやがるこの野郎って感じですが、『ご迷惑はおかけしませんので、お世話になります』だそうですよ・・」
と言って、しんどそうにため息を吐いた。
※※※
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※
色々と納得がいかないことが多いが、とりあえず話はまとまったので帰ろうとしたところ、
「帰る前に、ヤマじぃに電話しろなのです」
と、久喜原びすけっとが言い始めた。ヤマじぃとは無論、ヤマさんのことである。
何でよ、と久喜原立夏が眉根を寄せると、娘は口の端を吊り上げ、
「ヤマじぃには普段世話になってるですからね。たまには手柄を立てさせてやるのです」
と、言った。
━━━その後。
平屋の隣にある児童養護施設から、手にワッパを嵌められた施設の経営者が、複数の警官に囲まれながらノロノロと出て来た。
罪状は殺人。平屋に住む老婆を殺害した容疑である。
「この家に住んでいた婆さんが、金をしこたま溜め込んでるっていうデマを信じて盗みに入ったところ、婆さんと鉢合わせしてそのままグサリ・・ということらしいです。『コイツら』が言うには」
久喜原びすけっとはそう言って、顎で麻袋を指し示す。
それを聞いたヤマさんは、「・・そうかい」と、何とも言えない表情で頷く。
久喜原立夏から「とにかくちょっと来てください」と連絡を受けたヤマさんは、仕事がまあまあ忙しかったにも関わらず、無理矢理時間を作って久喜原親子の元に駆けつけていた。タバコを吹かしながら暇そうにデスクで競馬新聞を読んでいる刑事など、ドラマの中だけの存在なのである。
ヤマさんは忙しかったことなどおくびにも出さずに、いったい何の用だいと訊ねると、久喜原びすけっとはおもむろに児童養護施設を指差し、
「あそこに殺人犯がいるからとっ捕まえて欲しいのです」
と、とんでもないことを言った。
ヤマさんは「はぁ?」と言った後、母親である久喜原立夏を見やる。彼女は誠に申し訳ございません私にもよく分かってないんですという表情をして首を横に振った。隣にいる知らない初老の男性も似たような表情をしていた。コイツ誰だと思いつつ、ヤマさんは再び久喜原びすけっとに視線を戻すと、
「いや、捕まえろったってなぁ・・。証拠も何もねぇのにそんなことは出来ねぇよ」
と言い、頭をかいた。すると、
「証拠なら必要ないですよ」
久喜原びすけっとは、何故か不敵な笑みを浮かべた。
「さっき『試し』でやってみたことが上手くいったみたいですから。・・・そろそろ、自分からゲロしにくると思うですよ」
彼女がそう言った、直後のことだった。
児童養護施設から、一人の男性が転がるようにして飛び出してきた。施設の経営者だった。
その尋常ではない姿を見るなり、ヤマさんは駆け出していた。何があった、と声をかけるより前に、その男性はヤマさんの服をすがるように掴むと、
「人を・・人を殺してしまいました!!」
と言い、土下座するような格好で泣き始めた。そして、
「逮捕してください・・今すぐ私を逮捕してください・・でないと、でないと・・」
それ以上は言葉にならなかった。
施設の経営者はガクガクと身体を震わせ、何かに対して許しを乞うように、組んだ両手を頭に掲げていた。
明らかに、『何か』にひどく怯えていた。
それが何かは分からない。
ヤマさんは複雑そうな表情で久喜原びすけっとを見やる。
彼女はニッと笑うと、子どもらしいピースサインで応えて見せた。
それを見て、ヤマさんは「はぁ・・」と、ため息を吐く。何が何だか分からないが、きっと自分の理解を超えた話なのだろう。なら、これ以上は考えても無駄である。
長年、そういう事件にちょいちょい巻き込まれてきたヤマさんは、軽く頭を振ってスマホを取り出した。
※※※
※※
※
殺人を自白した施設の経営者がパトカーに乗せられていくのを見送りながら、久喜原びすけっとは「それにしても・・」と、肩をすくめる。
「動機が『施設の運営が苦しくて金が欲しかった』とか、後味の悪い話ですよね。日本が貧しくなっているのをまざまざと見せつけられているみたいで、次代を担う久喜原は嫌になってしまうのですよ」
久喜原びすけっとは、小学生らしからぬスレたことを言った。
そんな彼女を、ヤマさんは苦笑しつつ見つめ、
「びす坊は幽霊やら何やらを視る眼はあるが、一番肝心の『人』を視る眼はまだまだだな」
と言い、彼女の頭を軽く撫でた。
「? どういうことですか?」
不思議そうな顔をする久喜原びすけっとを、ヤマさんはくつくつと笑いながら見ていたが、ふいに真面目な顔つきになると、
「アレはな、そんなタマじゃねぇよ。目を見りゃ分かる」
と、言った。
━━━その後。
捜査により、施設の経営が苦しかったのは事実であるが、その主な原因は経営者の散財であることが判明する。
金の使い道は、ギャンブル、先物、女というお決まりのパターンで、それらの資金は、公金や遺族年金の横領によって賄われていた。施設の運営に困ってやむなく盗みを働いた、などと情に訴えかけるようなことを言っておきながら、蓋を開けてみればこの様である。ヤマさんの人を見る目は確かであった。
男の犯行は非常に悪質であると判断され、捜査は重箱の隅を余さずつつく程に徹底的に行われた。
その結果、強殺や横領だけでなく、施設の子どもたちを海外に売り飛ばそうと画策していた形跡まで発見され、容疑者は更なる重罪を課されることとなる。
番号で名前を呼ばれるタイプの別荘に放り込まれた後、彼は同房のヤクザに紀元前の敗戦奴隷の如く虐め抜かれることになるのだが━━それはこの物語とまったく関係ないので割愛する。
ただ━━
その元・施設の経営者は五十手前の男だったのだが、収監された頃には七十を超える老人にしか見えない程に老け込んでいた。
そして、一切の上告もせず、収監後に仮釈放の申請すらしなかった。その理由を、彼は周りにこう話していた。
━━━自分は一生、刑務所暮らしをする。しなければならない。でないと・・
その先を、彼が続けることは終ぞ無かったという。そこまで話すと、彼は決まってガタガタと震え出し、身体を丸めるようにして蹲ってしまうからだ。
彼が『何』をそんなに怯え、『何』に対してそんなにも怯えているのか━━それは、永遠の謎となってしまった━━
※
この事件をきっかけに、久喜原びすけっとは『立場』を得ることになる。
『立場』とは、小説やドラマなどに出て来る、警察が解決出来ない難事件をすいすいと解決してしまう、名探偵やアドバイザー的な『立場』のことである。
久喜原びすけっとは生まれ持った霊能力とバケモノじみたフィジカル、そして、見た目からは想像もつかないIQ160という天才的な頭脳を駆使し、警察が匙を投げた事件を、付き添い役のヤマさんと一緒に、次々と解決していった。
結果、彼女は土井山警察署内で一目置かれる存在になり、警察が久喜原家をピンポンしてくる回数は大幅に減少した。そして、児相や役場の方に関しても、初老のカウンセラー(実は結構偉い立場の人)が口添えしてくれたおかげで、市の職員が久喜原家をピンポンしてくる回数も大幅に減少したのだった。
あくまでも『大幅に』なので、依然として久喜原家は定期的にピンポンされていたが、久喜原立夏はそれなりに穏やかな日々を取り戻すことが出来た。しかし━━
『土井山警察署には、クレイジーオカルトロリを相棒にしている、色々な意味でやべぇ刑事がいるらしいぞ』
との噂を立てられてしまい、苦虫を百万匹噛み潰したような顔をしたヤマさんに、
「・・・定年のゴールテープが見えてきた年齢でよぉ、こんな犯罪臭のする噂を立てられるのは御免被りてぇんだが・・」
と、クレームを入れられ、宮本静佳と一緒にゲリラ豪雨に見舞われた鹿威しのようにぺこぺこと頭を下げ続ける羽目になってしまうのだった━━。
※※※
※※
※
━━━軽い余談となる。
二人して鹿威しになる中、久喜原立夏が「これはもう頭を下げるだけではいかん。九州の女として土下座せねばならんど」と訳の分からないことを言い始め、「応ッ!」と頷いた宮本静佳と一緒に土下座しようとしたところ、「待て待て待て」とヤマさんに止められる。
「頼むからやめてくれや・・。俺ぁもうこれ以上へんな噂を立てられたくねぇんだよ・・。あと、九州の女は関係ねぇだろ・・」
そうヤマさんに諭され、二人して申し訳なさが限界突破した顔でトボトボと帰路につく中、
「あのダボ娘・・。ホント、どうにかならないものかしら」
と言って、久喜原立夏は「はぁぁぁ」と、深いため息を吐く。
宮本静佳は引きつった笑みを浮かべながら、
「だ、大丈夫だって、りっちゃん! びすけちゃんも、たぶん中学生くらいになったら、好きな男の子とか出来て、普通の女の子らしくなるって、きっと!」
と、言った。
「・・・」
それを聞いた久喜原立夏は、ジトーとした目で宮本静佳を見やる。
「え、な、何・・?」
彼女がそう訊くと、久喜原立夏は目を逸らし、
「・・・いや、アンタがそれ言うんかいって思って」
と答える。ぐうの音も出なかった。
「あー・・でも、真面目な話、好きな男の子か・・好きな男の子・・。恋のひとつでもすれば、確かにあのダボも、ちっとはマシになるかもしれないわね・・」
でもなぁ、と、久喜原立夏は腕を組む。
「あのダボを受け入れてくれる心の広い持ち主で、常識があって色々な部分がちゃんとしている超絶優良物件の男の子なんて、そうは━━」
と、言ったところで、久喜原立夏は「ん?」と首を傾ける。そして、しばらくして突然、
「いるじゃん!!」
と、目を輝かせる。宮本静佳は何となくオチが読めていたが、一応「誰のこと?」と訊ねてみる。すると、久喜原立夏は案の定、
「サブ。あの子が、その条件にぴったりじゃん!!」
と言った。
宮本静佳は苦笑いを浮かべる。
「ウチのダボは顔だけはいいからね。うまいこと中身を見せないようにしつつサブに紹介すれば、ワンチャン・・」
久喜原立夏があーでもないこーでもないと、悪質な詐欺のようなことをぶつぶつ呟いているのを横目に、宮本静佳は、
(りっちゃん。三郎くんはね、確かにりっちゃんの言う条件をすべて満たしているし、顔も超絶イケメンのウルトラ優良物件だけど、三郎くんの隣にはね、顔以外が全てマイナス方向に吹っ飛んでいる、エキセントリックの権化みたいな姉妹が住んでいるのね。だからね、顔だけでね、あの子の心をね、何とかするのはね、絶対にね、無理だとね、思うんだよね)
などと考えていたのだが、目をキラキラ輝かせながら二人をくっつける算段をあれこれ妄想している幼馴染の姿を見て、お口にチャックをしたのだった。
(・・・でも冗談抜きで、びすけちゃんを三郎くんに引き合わせるのは良いアイディアかもしれないなぁ・・)
みかん畑三郎は、宮本静佳の目から見てもよく出来た男の子である。
誰に対してもそつのない態度で接するし、桜川姉妹に鍛えられているので奇人変人の扱いもお手のものである。
ただでさえ桜川姉妹という重石がいるのに、この上更に久喜原びすけっとという重石の面倒をお願いするのは大変気が引けるのだが、あの子ならOKしてくれるだろうし何とかしてくれるだろうという、ブラック企業の経営者も真っ青な無責任な信頼感を宮本静佳はみかん畑三郎に対して抱いていたのである。いい迷惑この上なかったが、みかん畑三郎はそういう星の下に生まれてきた子どもだった。
(今度、ニャンちゃん撫で撫でしに行く時に三郎くんに会ったら、それとなくお願いしてみようかな・・)
横でゴムと針がどうのこうのとぶつぶつ呟いている幼馴染を無視しつつ、宮本静佳は唇に手を当てながら「んー」と思案していた。
━━━後年。
みかん畑三郎に脳を焼かれた久喜原びすけっとは、毎日のように彼のトゥイッターのDMに「今日の久喜原のおぱんつなのです」と、日毎に並べれば万国旗に見えなくもないカラフルな下着の写真を送りつけてくるようになった。そのトゥイッターのアカウントは、彼が愛媛野伊代香を引退した後に作った個人的なアカウントであり、ごく限られた人にしか存在を教えていないものなのだが、ごく限られた人の選に漏れた久喜原びすけっとは何故かこれを嗅ぎつけてフォローしてきた。みかん畑三郎は何か怖かったが、放置するのも何か怖かったのでフォロー返しだけはしておいたのだった。思春期真っ只中のみかん畑三郎はDMに気付かないフリをしつつ時折チラチラと久喜原びすけっとの万国旗画像を盗み見ていたのだが、『流石に元・同僚をそういう目で見るのは違うよな』と我に帰り、彼女のアカウントを静かにブロックした。
その後。
相互フォローでなければDMは送れない仕様になっているはずなのに、何故か『久喜原2nd』というアカウントが彼のアカウントにDMを送りつけてくるようになった。ブロックもどういうわけだか出来なかった。ブロック出来ないんなら仕方ないよねと、みかん畑三郎はちょっとだけドキドキしつつ『久喜原2nd』のDMを覗いてみたのだが、予想に反し、彼女が送ってきたのは履くタイプの万国旗の画像ではなく、愛媛野伊代香━━みかん畑三郎がいい感じに写っている画像集だった。容量が軽く3GBくらいあった。みかん畑三郎は小首を傾げ、もしやこれは嫌がらせの類いで、久喜原さんは僕の反転アンチになってしまったのだろうかと少しだけ悲しい気持ちになったが、画面をスクロールした先にあるメッセージを見てゾッとする。
『この画像なんだと思いますかぁ? 答えはぁ、久喜原が今まで下段寒風摩擦で使ってきた愛媛野くんの画像集なのですぅ〜。久喜原の下段は判定よわよわなのでぇ、愛媛野くんの判定が馬並みに強くて白い飛び道具にキャンセル可能な大足を容赦なく差し込んできてくれてもいいのですよぉ? 愛媛野くんに大足連打からの中足コンボされるだけでぇ、久喜原は10:0で何も出来なくなっちゃうのですぅ//』
メッセージにはそのように書かれていた。
みかん畑三郎はこの世のありとあらゆる理不尽やら何やらを背負った苦行僧のような顔をして、久喜原立夏と宮本静佳にそのメッセージを見せに行った。
「立さん・・。これは流石に、顧問弁護士さんと警察にお話するしかありません・・」
みかん畑三郎がそう言うと、二人は即座に土下座し、「あのクソダボは私が九州の女として責任を持って処分しますので、訴訟と警察沙汰だけは勘弁してください!!」「押忍ッ!!」と言って、地面に額を擦り付け始めた。みかん畑三郎は鬱陶しそうな顔をして「やめてください。あと、九州の女とか関係ないでしょう・・」と言い、久喜原立夏の肩にポンっと手をやった。そして、
「子どもの頃からお世話になっている人が土下座するのを見るのって、精神的にかなりキツいんですよ・・。もう分かったから、やめてください。弁護士さんにもお巡りさんにも言いませんから。・・・あと、宮本さん。押忍って何ですか、押忍って? ひょっとして、僕のことを舐めてるんですか?」
と、軽くキレ気味で怒られた。二人のいい年齢した女性は、正座で「すいません」と謝ることしか出来なかった。
更にその後。
久喜原びすけっとを犬神家方式で山に埋めた帰り道、久喜原立夏と宮本静佳は立ち寄った居酒屋でヤケクソ気味にジョッキを傾けながら、娘が初めて解決した事件のことを思い出し、
「あの頃の方がまだマシだった・・」
と、述懐する羽目になるのだが━━それはまだまだ遥か先の話である。




