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第28話 sideアルバートの思惑(策略と困惑)

 卒業記念舞踏会が開催されるまでの間、クリスに会えない苛立ちを押さえながら、兄上が起こした事件の証拠を集め、過去の女性関係の後始末の経緯も全て辿り、証言も何件か得られた。

 私は王太子になりたいわけではなかった。兄上が少々女性にだらしがなくても、結婚して落ち着けばそれでいいと思っていた。

 その考えを改めたのが、今回のマリア・ジョーンズの起こした事件だった。彼女を手引きして王都に戻し、光魔法の教師にしたのも、生誕記念舞踏会に招き入れたのも兄上だった。今でもクリスを気に入っていた兄上は、マリア・ジョーンズが私に執着していることを知っていて、わざと学園にひき入れたのだ。

 クリスとの仲が少しでも拗れればいいというほんの出来心、浅はかな考えだったのだろう。結果、マリア・ジョーンズは暴走しクリスを攻撃しようとして私を害する形となった。

 牢獄に会いに行った時、マリア・ジョーンズはまだ私に執着していた。

「アルバート殿下、私を助けてください。あなたを愛しているのは私だけです」

 目は虚ろで、自分に愛を囁く彼女は壊れてしまっている。兄上が彼女に関わらなければ、こんなことにはならなかったのに、兄上は二度も彼女の心を踏み躙った。

「助けたいのですが、あなたを王都に引き戻し、舞踏会の招待状を渡した犯人が分からないとここを出すことが出来ません」

「アルバート殿下は私を愛していますよね」

 そして、3度目は私が踏み躙る…

「ええ、愛しています、助けたいので知っていることは全て教えてください」

 マリア・ジョーンズは虚ろな目で微笑んで、彼女が知っていることはすべて話してくれた。私はお礼を言って彼女に決別を宣言する。

「教えてくれてありがとうございます。お礼に真実をいいます。私が愛しているのはクリスティーヌだけです。あなたのことを愛したことは一度もない。彼女を害そうとしたあなたを私は許せません。二度と会うこともないでしょう。さようなら」

 マリア・ジョーンズは声にならない叫び声のようなものを上げ、牢獄の壁に頭を打ち付けだした。慌てて看守が止めに入ったが、私はそんなマリア・ジョーンズを一瞥してその場を去った。

 それから一か月後彼女は自ら命を絶った。新聞には病死として発表したが、まさかクリスが新聞を読んでいたとは知らず、その件を聞かれた時は自分が責められている気がした。


 兄上の全ての罪を暴いて、父上に書類を提出した。流石に父上もここまで罪が多いとは思っていなかったようで、書類を見つめながら重い溜息をついていた。

 王太子になる意向を伝え、兄上の王位継承権剥奪は決定されたが、ここで問題になったのがロード侯爵家に対する扱いだった。ジョセフィーヌ嬢には何の落ち度もないのに、兄上と共に婚約者として責任を問うことは出来ないし、そんなことをすればロード侯爵が反旗を翻すかもしれない。

 仕方なく兄上が婚約破棄を申し出るよう、罠を仕掛けることにした。兄上に恨みを持つデミオ男爵令嬢を味方に引き入れた。彼女の姉は王宮で侍女をしていたが不運にも兄上に襲われ、それがきっかけで彼女の姉は婚約者に捨てられた。姉は心を病み今も療養していると言っていた。療養にかかる費用、賠償金も用意して兄上を罠にかける提案をした。兄上を憎んでいた彼女は喜んで提案に乗ってきた。

 しかし今度は、兄上がジョセフィーヌ嬢に婚約破棄の提案をしているのに、ジョセフィーヌ嬢が首を縦に振らない。不審に思って接触すると、彼女には彼女で思惑があるのだと知った。

 彼女は兄上と婚約する前から思いを寄せる相手がいた。彼女の家庭教師をしていたその男性は、子爵家の次男でとても彼女を娶れる身分ではなかった。

 お互いに惹かれながらも、13歳のジョセフィーヌ嬢にはどうすることも出来なかった。そこに兄上との婚約の話だ。以前から兄上の女性関係の噂は知っていた彼女は、いずれ婚約破棄されると思い、兄上の婚約者になった。婚約破棄された貴族令嬢は、傷もの扱いされまともな縁談は来ない。そうなれば、思いを寄せる子爵家の次男と添うことも可能だと考えたようだ。

「婚約破棄はしたいのです。でも、誰も知らないところでしてしまえば、お父様がその事実を隠してしまうかもしれません。そうなれば今までの我慢が無駄になってしまう…ですから、ぜひギルフォード殿下には卒業記念舞踏会で婚約破棄を宣言していただきたいのです。皆の目にとまれば、さすがのお父様も無かったことには出来ませんから」

 デミオ男爵令嬢にその事を伝え、兄上が婚約破棄を宣言するように働きかけてもらった。ジョセフィーヌ嬢がいじめをしている。階段から突き落とされた。と泣きついたらしく、兄上はその事を信じて怒っていたようだ。根は悪い方ではないのだ。今まで悪い行いを正しきれず、結果として許してしまっていた父上や周りの人間にも責任はあったと思う。私もその中に含まれるのだろう。


 思惑通り婚約は破棄され、予定外に王位継承権剥奪まで宣言されてしまった。クリスは驚いていたが、これで彼女を守れると内心ホッとしていた。

 ダンスを終えて彼女を外に連れ出し、事の経緯のみを伝えた。私がしたこと全てを話せば、クリスの心が私を拒絶しそうで、正直に話す気にはなれなかった。

 王太子になることも、彼女の負担になるだろうと思っていたが、婚約破棄前提の話をされ、疲弊して余裕のない私は、少し意地が悪くなってしまったのだと思う。

 拙いと気づいた時には、クリスが真っ青な顔で蹲ってしまっていた。

「いや、いや、ここにはいたくない」

 クリスが震える声でそう言うと、彼女の体が光に包まれた。

「クリス!!」

 焦って手を伸ばしたが、その時にはもう彼女の姿は忽然と私の前から消えてしまっていた。

 慌てて腕にはめていたバングルを触る。彼女とお揃いでつけている魔道具は、いくつかの機能が付与されているが、お互いの場所を確認することも出来た。

「……は?隣国??」

 バングルの指し示す光は、隣国の王都だった。まさか、一瞬で隣国の王都まで移動したというのか…そんなこと、現在の魔法技術では不可能だ。短距離であれば、可能な魔法使いもいるだろう、それでもこの距離は不可能だった。

「クリス…」


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