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とある王子のラストチャンス〜ハッピーエンドになる為に①

「っっ!!どっっうわぁぁぁあああーー!!」

静謐なる王宮に響き渡るは、1人の少年の叫び声。

アーノルド・クライブ(10)

聖クライブ王国の王太子だ。

「どっどうしましたか殿下!!」

部屋の外で執事の声がする。

「もっ問題ない。少し…夢見が悪かっただけだ。朝食の準備を頼む、今日は…自室でとりたい。」

「かしこまりました。」

ドアの向こうの気配が遠ざかる。

俺は飛び起きた状態のまま手で顔を覆った。


悪夢も悪夢、超級の悪夢だった。

寒気が抜けない…俺は吹雪の中で凍死したはずだった。

俺は失踪した婚約者のラフィニアを探して国中の修道院を訪問していた。

今年の北部は稀に見る寒波で既に死者も多く出ていた。

そんな所にラフィニアがいるわけないと皆は言ったが…もし居たら?

もし愛しのラフィニアがそこにいたら?

死んでしまったら??


耐えきれない…そんなの無理だ。

そんな風になるくらいなら死んだ方がマシだ!

…なんて言って無理やり馬車を走らせたら、吹雪にあい馬車が立ち往生、馬車に居ても死ぬって事で外に出たが…真っ白な世界でどうする事も出来ず…あの時俺に付いてきた者たちには謝っても決して許されないだろう。

情けない俺の我儘に付き合った挙句に一緒に凍死とか…悲劇にもならない。


俺はベットから降りると机の引き出しに入れたスキルを書いてもらった紙を確認した。

俺のスキルは【依依恋恋】【改過自新】そして【最終好機】


「やっぱりな…ない。【最終好機】ラストチャンスがない。」


スキル欄には2つのスキルしか記載が無かった。なるほど、やっぱり夢じゃないな。


俺には謎の記憶がある。

どちらもゲロ吐く程のバッドエンドな記憶だ。

1つ目の記憶は愚かな俺が救いようのないくらいアホな「ラフィに焼きもち焼いて欲しいな大作戦」を決行…愛しのラフィを慰める間もなく作戦は大失敗し、何故か修道院に行くラフィ…そして結末は…北部の大寒波での食糧不足と風邪の大流行。

多数の死者が出た。


そして…ラフィがその中の1人となったのだ。


俺は訃報を聞いて直ぐに自室にあったナイフで首を切った。

彼女のいない世界なんて生きてたってしょうがなかったから。

彼女を追い詰め死に追いやった俺は、彼女と同じ天国に行くことはないだろうな。

地獄行きはいいんだが…

なんとか年1でいい、ラフィを見ること叶わないだろうか…なんて思いながら幕を閉じた。


はずだった。



気がついたらスキル鑑定の翌日の朝だった。

昨日の記憶も残っている…兄上にバカにされた記憶だ。

俺には3つ上の兄上がいる。

隣国の皇女に一目惚れし婿養子になるんだと王太子の座をポイ投げする変わり者。

そんな兄上が俺のスキル鑑定の儀式に顔を出し俺のスキルをみて

「うっわ【依依恋恋】だって。知ってるぞこれ別名ストーカースキルだ。」

「なんだよ!うるさいな!!一途って意味なんだよ!俺はラフィニア一筋なの!兄上だってカレンディア様のストー「おい!カレンの名前を呼ぶんじゃねぇ」ほら!ストーカーじゃないか!」


うんうん、覚えてる。兄上とギャアギャア騒いでたっけ。


「それにしても弟よ。この【最終好機】ってなんだ?神官、このスキルの説明が欲しいのだが」

「はいはい、、あぁ【最終好機】と書いてラストチャンスと読むようですね。…初めて見るスキルです。効果がわかったら是非ともご報告頂ければ幸いでございます。」

神官はそう言うと頭を深く下げ、儀式の間から下がって行った。


そして俺は不思議な数年を送ることになる。

いつも何処かで…思うのだ「これ知ってる…」と。繰り返しているような…気がする。

勉強が少しだけ楽になった。

なんせもう一度行っているから…気の所為かもしれないが。

飲み込みが早くなった。



仲間たち(将来の側近候補)を知っていた。

「殿下、殿下の御学友としてーー」

「知ってる…宰相の次男のシルベスターと近衛団長の息子のラオルと外交の得意なミッドガル公爵の三男のテオドールだろ…」

「殿下!ご明察でございます。私めがお伝えする前にお調べになっていたとは!」

調べてなんかない…知ってただけだ。

あれ…じゃあ…あれは…正夢?


嘘だろ…どうしよう…どうしよう!!


アホうな俺はそこでようやく焦りだしたのだ。

スキル鑑定のあの日からもう4年もたっていた。



「そーだ!嫉妬させてやろうぜ。殿下、いい作戦思いついた!彼女とは性格真反対の明るくて元気なタイプの女の子とわざと仲良くしてさ?そしたら彼女だって流石に焦るだろうし、あの態度も改めるかもしれない!」

そうだ、これを言い出したのはラオルだ。

「確かに、彼女の冷徹過ぎる態度は目にあまります。少し揺さぶってみるのもいいかもしれませんね。」

これを言ったのは、シルベスター。

「ちゃんと趣旨を説明してさ!協力してもらうんだよ。彼女に焼きもち妬かせたいから偽の彼女役やってくれませんかー?って。報酬も渡してさ。そうすれば変な後腐れもないし?」

ラオルがさもいい事閃いた!との顔で俺に提案してきて…

「…本気になられると婚約に支障をきたしますからね。」

そうそう、ちょっと引き気味ではあったけどテオドールも反対はしなかった。

「ね、殿下!良いと思いません?これくらい感情豊かな子の方が殿下のタイプなんですよーってさ。彼女に少しでも伝わったら……可愛く見つめてくれるかも知れませんよ?」

確かに可愛く見つめられたかった。

でも俺は知っている…だってこの作戦は…


「俺、丁度いい子見つけて、実はもう偽彼女の件お願いしてるんですよ!ね、殿下やってみましょう!」

あれ?俺に拒否権って実はない?!???


そこから先は知っての通りの地獄行き…

多少の変化と言えば彼女の退場が卒業パーティから中庭での断罪へと変更され…

ってか断罪ですらなかった気がする。


あの日俺は男爵令嬢リリィの報告を中庭で聞いていた。

「ノル先輩、聞いてください!とうとう彼女、私の制服を破いてきましたよ!ほら見てくださいスカートの所!」


はしゃぎながらスカートの先を指すリリィ。

…何度か愛称のノル呼びをやめて欲しいと伝えたのだが

「愛称で呼んでた方がより親密だと勘違いするはずです!」

と言って止めようとしなかった。


疲れた俺はそのままにすることにした。

スカートが…なんだって?

切り裂かれたと言っていたが、その破れ方は手で切り裂いたとかではなく…なんかこう釘かなんかに誤って引っ掛けて破きましたと言わんばかりの裂け方だった。

本当にラフィがやったのだろうか…

「ねえ、殿下?教科書の件もあるし、今回のスカートの事も加えてラフィニア様を揺さぶって見るのはどうでしょうか?」

「揺さぶるとは?」

「殿下、私、提案があるんです!殿下の卒業パーティの日に皆の前で彼女を断罪するんです。皆の前で彼女が私にした事を話せば、あの仮面のような彼女も泣いちゃうかもしれません。でもそこはすかさず殿下が優しくフォローするんです。やった事は仕方がないと、そんなに俺が好きならばもっと態度で示して欲しかったと。罪は許すからこれからは素直になって欲しいとそうお伝えしてお慰めすれば、彼女だって殿下のお優しい心に触れて改心すると思うんです!」


あぁこの話が出たのはこの中庭でだったか…

そんな事をぼんやりと考えていた時だった。


「殿下、お話がございます…」


鈴の音のような声が響き渡る。

彼女だと直ぐにわかった…あぁなんて綺麗な声。俺のラフィは声まで綺麗なんだ。


「婚約を破棄して頂きとうございます」



なんて…なんて言ったんだ?



そこから先はあんまり覚えていない。

ここ数年目も合わせてくれなかったラフィニアが俺の目を真っ直ぐ見据えながら…

淡々と婚約破棄の理由を説明していた。


素行不良の自分では殿下の傍に相応しくないと力説するのは愛しの彼女。

今までの事は悪かったとリリィにあっさり詫びると、婚約破棄となり申し訳ないから、自戒の為に修道院に行くことだけを告げ…

俺のラフィニアはその場から去っていった。


茫然自失となる俺にシルベスターとテオドールが「おい!追いかけなくていいのか?!」とガクガクと揺さぶりながら言っていたが言葉が脳に染み込まない。


なんで…どうして?彼女が死んでしまうまで…

いや死の決定打となったあの卒業パーティまでまだ数ヶ月の猶予があったはずだ。


その間になんとかこう…有効な手をうって彼女の断罪回避と北部行きを阻止したかったのに…どうしてこうなるんだ!!!


揺さぶられること数十分…俺はやっと意識を取り戻し、急いでスカーレット公爵家に行った。

彼女ともう一度直接話をする為に。

なのに…


「いないだと…!なんで!だって彼女は…ラフィニアは学校から出ていったんだぞ!?」

「お嬢様から迎えが欲しいとの連絡は受けておりません…まだ学校内にいるのではないでしょうか?」

「そんなはずない。彼女が出ていった所を見ていた者がいるのだ!彼女を出せ!隠していても無駄だぞ!」


俺は焦っていた。

夢が…夢が現実となってしまうことを!


「すっ直ぐに確認を…暫しお待ち頂けないでしょうか!」

執事が焦り始め、公爵家は騒然となった。


そのあとは生き地獄だった。


来る日も来る日も、俺はラフィを探し続けた。

なんとなく…彼女が俺と同じ夢を見たのではないか?と思い北部を除く地域の修道院から探し始めた。

記憶があるなら寒波の酷くなる北部には行かないと思ったのだ。

だけど一向に彼女は見つからなかった。


「殿下…もしかしたら修道院に行っていないのでは?」

シルベスターがそう呟いた。

「…彼女は修道院に行くと言っていた。彼女が俺に嘘をつくはずがない。」


探しても探しても見つからない。

彼女がいない。

俺の…俺の愛しのラフィ。


すべての修道院を探した。

残るはあの北の修道院だけだった。


「殿下!無理だって!近年にないくらいの寒波が北部を襲ってる!食料だって配給出来なくて…死人も出てるような地域なんだぞ!」

ラオルがそう言いながら必死で俺を止めてきた。

「殿下、こんな時に北部に行ったら…殿下のお命だって…」

言いづらそうにテオドールもそう呟いた。


「俺一人でいく。もし…ラフィニアが北部にいて…死んだりしたら、俺はもう自分を許すことが出来なくなる。」


北部行きには、シルベスターとテオドールが付いてきてくれた。

ラオルは修道院以外に居るんじゃないか?

と王都に残って引き続き捜索してくれるらしい。各地にいる騎士団に連絡しラフィニアに似た人物を見なかったか照会をかけてくれるそうだ。

なんともありがたい。

俺は大寒波のもう吹雪の中食料を持ってシルベスターとテオドール、数人の護衛騎士と共に…


雪に呑まれて命を消した。


吹雪の中俺はひたすら全ての人に謝っていた。一生懸命に彼女を探してくれているラオルに。

アホな俺について行く事を選んだが故に命を消そうとしてるシルベスターとテオドールに。

変な役を演じさせ、この後の人生が困難なものとなるであろう男爵令嬢のリリィに。

そして…子供のような精神故に一向に素直になれなくて、どうしょもない策ばかりこうじた末に思いも伝えられぬまま死ぬ無様な男に好かれた君に。


あぁラフィ。大好きだよ。

愛している。


たったこれだけの言葉がどうして俺は言えなかったんだろうね…もし…もしやり直すことが出来るのなら、今度は素直になると誓うよ。

どんなに恥ずかしくたって君に俺のすべての気持ちを伝えるんだ。


――【最終好機】使用しますか?――


あぁ、最後だもんな。

そういえばあったなぁ不明スキル…使うよ。

使う。そう言えば最後までどんなスキルかわからなかったなぁ…


……ラフィ……

会いたいよ、ラフィ…


……

………

……………


「っっ!!どっっうわぁぁぁあああーー!!」

嘘だろ、マジで!!?

最終好機って…ラストチャンスってそーゆー事?!?




とある女神さまの呟き


「あら、そんなに好きなの?じゃあ、今度は思いを伝えて悔いのないようにね。ハッピーエンドになりますよーに。」


2回目

「コイツ、ほんとポンコツですわね…」

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