とある公爵令嬢のハッピーエンド〜ほら?言ってごらんなさい?
「ノルド様〜見てください!噴水です!あ!!お花も咲いてるー綺麗です〜」
昼休みの一時を裏庭にてゆっくりと過ごすってお話だったはずなのに??
目の前で繰り広げられるのは殿下と天真爛漫な少女の寸劇。
殿下の手を引きながら、噴水に向かって小走りに走り出した彼女は眩い程の笑顔だが、私には全て作り物のように見えた。
「お、おい!転ぶぞーリリィ?」
なんて悠長な口調で笑うは、騎士団長の息子ウェザー伯爵家がラオル様。
ここには他にも宰相のご子息であるシルベスター・アノー侯爵子息や、
側近候補兼御学友として控えているテオドール・カザロフ公爵子息もいるが、2人は複雑な表情だ。
私はその表情をまじまじと観察していた。
なるほど、この2人はこの状況がよろしくないということを正しく判断出来ているのね。
サアァァアー
爽やかな風が吹き抜ける。
彼女の声がキラキラと小花に溢れる裏庭に響き渡った。
殿下の手を引きながらはしゃぐ彼女はとても可愛らしく、私はそれを冷めた目で見ていた。
そしてその視線を殿下へと移す……今頃焦っているだろうと思うと内心笑ってしまう。
学内では王太子としての仮面を完璧に貼り付け優雅に振る舞っているが、いざ2人きりになると子犬が主人に甘えるように私への好意を全面に出してくる。
あの姿は……王宮と我が公爵家の中だけの話なので、ここにいる皆は彼の本当の姿を知らないのだろう。
手を引かれる彼は完璧な笑顔で
「リリィティア嬢、そんなに走っては危ないよ?」
と優しい声で窘めていた。
私は知っている。
そんな優しい声音で話していても心の中では――
「違うからね!俺はラフィ一筋だからね!勘違いとかしてないよね!?俺は嫌だよ!もう沢山だから!君に勘違いでサヨナラを告げられるのはもう耐えられないからね!」
「……ふふっ」
ほらこの通りだ。
人間とは不思議で、長年に渡る重苦しい愛の告白を積み重ねた結果、ちょっとやそっとじゃ動じなくなってきた。
ポッと出の小娘が必死に粉掛けようと、何処吹く風だ。
一応?怪訝な眼差しで見つめてはいたが、内心は殿下の内心を考えて笑いそうになるのを堪えるのが大変だったくらいだ。
今日は朝から準備していた――だって学校が休みのこの週末に絶対に言い訳をしに来ると思っていたから。
案の定、朝から使いの者が来て午後に伺うから家にいて欲しいとお願いされた。
「ほらね、やっぱり」
予想が当たってニッコリと微笑む私を、これまた暖かな顔で見でメイド達が見ていたのは……
恥ずかしいので気が付かないことにした。
「それにしても、コルビー男爵令嬢はお元気な方ですのね?」
「……元気?元気で済ましていいものじゃないだろう。大声を出すな、走るな、触るな、愛称で呼ぶなと散々、散々言ったのに聞きやしない。元気!で片付けられる範疇は超えてるよ。」
そういってため息をつく顔は本当にげんなりしている。
いつもなら、お気に入りのこの庭園でのお茶となれば綺麗な花と私を見ながらヘラヘラとしているのに。
「あら、案外楽しんでご一緒されているのかと思ってましたわ」
「冗談じゃない!ってラフィ?!さっき誤解してないって言ったよね!?」
「 ちょっとした皮肉ですわ。本気ではないので心配無用です」
慌てふためく彼を見ると、学内で見せる立派な面との違いに思わず笑いたくなる。
彼の、こんな姿はきっと私だけのものだ。
あの夢の私には無かった――私だけのモノ。
――あの小娘には絶対にあげたりはしない――
「ねぇ、殿下?殿下の側近候補の皆様は彼女のあの振る舞いについてなんと仰ってますの?」
「あぁ、シルベスターとテオドールは頭が痛いと言っていたよ。彼等も思うところがあるみたいで注意はしているらしいんだ。だけど一向に直らない」
「あの方に何か言っても無意味でしょう。労力の無駄かと。」
私だって何度か注意した。今も『前回』も。
「それにしても、不思議なのはウェザー伯爵子息の態度ですわね。ほかのお二人はきちんと状況を把握なさっているのに。ご紹介されたご本人が一番無頓着など…いくら騎士輩出の名家としてのお色が強く、貴族社会に疎いと言っても限度があります」
「わかっている……このままだとラオルは側近候補から外されるだろう。俺も周りをよく見るよう促しているんだがーーいわく、今は殿下と、お近づきになれて嬉しく気持ちが抑えられないだけだと。そのうち落ち着くから見守って欲しいと言われたよ。あと……」
あと?………???
あら?何やら言いにくそう。
「アーノルド、私たちに隠し事は無しです。」
私は貴方に言ってない事がありますが
《聞かれて無い》
から言わないだけなので――あしからず。
ほら、、
「ほら?言ってごらんなさい?」




