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とある少年少女のエンディング

とある少年・少女の物語。

「ーーーーっっきゃあああ!!」

劈くような悲鳴が響き渡る。

「どっどうしましたお嬢様!?」

ノックもなくいきなり開くドアを見るとそこには

「マーシャ……」

そこには4年前に辞めた侍女がいた。


「はい、マーシャでございますよお嬢様。はーびっくりしました。何があったのかと思いましたよ。どうしました?怖い夢でも見られましたか?昨日は星の神殿でのスキルの儀式でしたから、お疲れでしたものね。緊張から夢見が悪くなりましたか」


スキルの儀式って……それは10歳になったら受けるやつよね。

え?10歳?私は……私は17歳だったはずなのに……


ふと手を見るとその手は小さく私の知っている自分の手では無かった。

鏡を見るとそこにいたのは幼い……10歳の私。


「時が巻き戻った……?それとも夢……?私は悪夢を見ただけだというの?そんな事、そんな事ない。あんなにリアルな夢、ありえない。」


夢でない、夢でないとするならば、私は備えなくてはならない。

7年後私は心をズタズタに引き裂かれぼろ雑巾のように捨てられる。

両親からも、弟からも、友人だと思ってた皆からも、そして……婚約者からも。


※※※


俺には大好きな婚約者がいる。

可愛くて綺麗で頭も良くて最っっ高の婚約者だ!

プラチナブロンドの長い髪はサラサラで日に当たるとキラキラと輝くし、肌は白くてシミひとつない。零れんばかりの大きなエメラルドグリーンの瞳に俺はいつも釘づけなんだ。


―――でも面白くない。


だって彼女は冷たくていつも俺の事なんて見てもくれない。

いつからだろうか、彼女が俺を瞳に映さなくなったのは。

いつからだったんだろう……名前を呼んでくれなくなったのは。

ニコリとも笑わない彼女に苛立ち、俺はつい噛み付いてしまう。


「おい、お前いつも笑わないな。可愛くない。もっと愛想良くできないのか?」


「おい、お前といるとその無愛想が移ってしまいそうだ。」


「おい、お前よりあの男爵令嬢のほうが愛嬌もあって可愛いぞ。見習ったらどうだ?」


ちょっとでもこっちを見て欲しくて、俺は彼女に酷いことばかり言った。


本当は知っていたんだ。


妃教育で感情のコントロールをする事、無闇に感情を出さないように指導されてた事なんて。でも、でも俺がいいって言ってるんだから!


……俺の前くらいは声を出して笑ったり、拗ねたり……泣いたりして欲しかった。

酷いことを言えば、君のその鋼の心も少しは揺れるんじゃないかって……そう思ったんだ。


でも君は最後まで君のままだったね。


※※※


まるでこの先の未来を見たかのような夢だった。

私は婚約者の王太子殿下に酷くなじられる日々を送りながら、貴族が通う学校へ入学。

殿下の態度は変わらないまま、彼には好きな人ができる。


男爵令嬢でありながら下町育ちで、貴族社会に慣れておらず、天真爛漫な笑顔を振りまき、全身で愛を伝えてくるようなそんな子だった。

ピンクブラウンの髪にメリハリのある体。


健康的で眩しかった。


…それに引き換え日焼けをする事なんて以ての外、何処に行くにも侍女が日除けの傘をさしてくれるので私の肌は病的に真っ白。

髪もプラチナブロンドといえば聞こえはいいが、見方によれば老婆のような白色、体つきは華奢で凹凸は少なめ……そりゃ殿下もそっちに行きたくなるよねと変に納得していた。


それでもこの婚約は王命でもある。

国のトップと我が公爵家との決まり事。

そう簡単にどうにか出来ることもなく、私は貴族学校を卒業したら殿下と結婚せざるえない。

私だって憂鬱なのだ、私の事を毛嫌いしている殿下からしたら耐え難い苦痛でしかないだろう。


だから私は見て見ぬふりをした。


この学校の中だけでも……殿下の好きにしたらいいと。

子供である……学生であるこの少しの時間に思い出を沢山作って欲しかった。

毛嫌いする私との結婚を、その思い出を胸に何とか乗り切ってくれたら良いと思ったのだ。


それなのに……殿下は私を断罪した。


しかも貴族学校の卒業パーティでの中で。

私は……私は皆の前で吊るし上られたのだ。

一体なんの?なんの罪が?

と困惑する私に殿下は言った。


いわく、私は男爵令嬢を虐めていたと。

制服を引き裂き、教科書を捨て、友達が出来ぬようにと良くない噂を流したのだとか。


制服引き裂き?教科書を捨てた?

それは預かり知らぬ事である。

友達ができないのは……それはそうだろう。

殿下とその周りにいる名だたる名家のご子息たちと仲良さげにしていたら。

ご令嬢たちからは嫉妬の対処となり冷たく無視され、その他のご子息たちは下手に絡んで王家が出てくる色恋沙汰に巻き込まれたらと距離を取られたのだ。

そんなの私も知っていた。

観察してれば分かることだし、親切な人はイロイロと教えてくれたりもした。

それなのに……殿下達は知らないのね。


※※※


貴族学校に入る時に……誰が言い出したのだろうか……

「そーだ!嫉妬させてやろうぜ。殿下、いい作戦思いついた。彼女とは性格真反対の明るくて元気なタイプの女の子とわざと仲良くしてさ?そしたら彼女だって流石に焦るだろうし、あの態度も改めるかもしれない!」


「確かに、彼女の冷徹過ぎる態度は目にあまります。少し揺さぶってみるのもいいかもしれませんね。」


「ちゃんと趣旨を説明してさ!協力してもらうんだよ。彼女に焼きもち妬かせたいから偽の彼女役やってくれませんかー?って。報酬も渡してさ。そうすれば変な後腐れもないし?」


「本気になられると婚約に支障をきたしますからね。」


「ね、殿下!良いと思いません?これくらい感情豊かな子の方が殿下のタイプなんですよーってさ。彼女に少しでも伝わったら……可愛く見つめてくれるかも知れませんよ?」


その言葉で俺は落ちたのだ。彼女に……可愛く見つめて欲しい!!……今思うとなんて愚かなのだろう。


※※※


とても……とても惨めだった。

パーティ会場には人、人、人。

助けて欲しくて友の顔を探し見つけても、スっと目をそらされた。

微かな希望を胸に1つ下の弟を見つけると、腕を組みまるで断罪されて当然かのように蔑んだ目を向けてきた。


あぁ……ここには誰も居ないのだと。


私の味方なんて誰も居ないのだと察することが出来た。

なんて惨めで愚かなのだろう。

私には最初から何もない。

何も……なにもなかったのだ。


「殿下、承知したしました。その罪を背負い償っていこうと思います。罪ある身の私が殿下の傍に居ることは叶いません。本日をもって殿下との婚約は破棄とさせて頂ければと思います。殿下、長い間私の為に要らぬ気苦労をさせ大変申し訳ありませんでした。…そちらのご令嬢とどうぞ仲良く。」


私はそう言うと綺麗にお辞儀をしてその場を去った。



追ってくる者は誰も居なかった。



※※※


……どうしてこうなったのだろう。

彼女が去った後の会場は水を打ったような静けさで、誰も何も息を吸う音すらも無かった。


偽彼女役の男爵令嬢から「殿下っ!効果覿面ですよ!彼女からちょっとした意地悪をされました。」と破られた教科書や制服を見せられた。正直、あの冷徹な空気の彼女が私の浮気にそんな苛烈に反応するなんて思ってもなくて、俺は喜びながら報告を聞いていた気がする。


そして――――


「殿下?私、提案があるんです!殿下の卒業パーティの日に皆の前で彼女を断罪するんです。皆の前で彼女が私にした事を話せば、あの仮面のような彼女も泣いちゃうかもしれません。でもそこはすかさず殿下が優しくフォローするんです。やった事は仕方がないと、そんなに俺が好きならばもっと態度で示して欲しかったと。罪は許すからこれからは素直になって欲しいとそうお伝えしてお慰めすれば、彼女だって殿下のお優しい心に触れて改心すると思うんです!」

言葉に押されて俺はその作戦を許可してしまった。


会場にいた多くの同級生達に俺たちが彼女にちょっとしたイタズラをすることを伝えていた。彼女の弟である公爵子息にも説明し彼女の心を開くためにちょっとした芝居をするから許して欲しいと伝えてあった。


「姉様は家に居てもあぁなのですよ?感情のコントロールの件は知ってはいますがやりすぎです。一度ガツンと思い知ればあの堅物も少しは可愛くなるでしょう。それにしても教科書を破ったりしてたのですか……姉にそんな一面があるとは知らなかった。そんなふうに歪んだまま感情を発露させるくらいなら一度怒られ己を見つめ直した方がいい」


そう彼女の家族にも伝えて万全の状態でやった三文芝居だったのだ。

彼女が少しでも戸惑ったり泣いたりしたら即座に俺は駆け寄り慰めるつもりだった。


それなのに――――彼女は最後まで彼女のままだった。

彼女は去った。

俺との決別を言い残して。


俺は……俺はとんでもない間違いをしたのではないだろうか……


※※※


パーティから帰ると早く帰ってきた娘に驚いた両親たちから、何があったのかと詰め寄られた。

私は知らぬ間に殿下の想い人に虐めをした事になっていたと説明し、思い合う二人の為に身を引いたと伝えた。


「なっっなんて事をしたんだ!この婚約は王命、お前ひとりで何とかできるものでは無いのだぞ!それなのに格下のお前が皆がいる前で殿下に……婚約破棄などとっっ恥を知れ!!」


……思いっきり頬を打たれた。


親に手を上げられた事などなくて驚きを隠せない。

この人たちはいつも私の事など見えて無いのかと思っていた。

たまに声を掛けられれば妃教育の進捗をきかれるくらい、そしていつも「殿下と仲良くするのだぞ」で会話は締めくくられる。

同じ動作を繰り返すブリキ人形かと思っていた。人形では無かったのか……。


2日もしないうちに、私は北の修道院に入れられた。

そこは少し問題のある貴族令嬢が入れられる監獄のようなもので、気候の厳しい北部は雪が降り積もり馬車でないと行き来出来ない。

逃走不可の檻だった。


その年、私は滅多にない寒波に襲われた北部で風邪を拗らせ、1人寂しく命を消した……




「最悪……そこらの小説もびっくりのバッドエンド。目もあてらんないわ」





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