宮野葵と九条満の話
九条満の美術館で二人がたまたま遭遇した会話
「これはこれは。意外な客が来たもんだなぁ。本にしか興味ねぇ嬢ちゃんかと思ってたわ」
「……ずっと本を読んでるわけではないです」
「そうか、そうか。嬢ちゃんが絵に興味持ってくれたかぁ。いやー、嬉しいねぇ」
ニヤニヤする九条さんに私は飾られている絵画を見る。
「あー。悪いな、嬢ちゃん。意外だったからよ」
「別に」
「いつも一緒にいるメンバーはどうした?」
「……いない」
意外だな、という九条さんに私は受付の人に渡されたパンフレットを見る。
確か……。
「『魅了された人々』の絵を気に入ったのか?」
「いえ、九条さんと初めて出会ったことを思い出しただけです」
「……あの件については、本当に悪かったな」
「別に」
目を逸らさないで見ている『魅了された人々』の絵画は、1人の人間に対し好意的な意味で見ている男女達。
たくさんの男女に見られている人物は、目線に気付かない。
むしろ、その人達の視線に気付いていないのかもしれない。
描いた人は何を思って、作品として描いたのだろうか。
「……その絵、モデルがいるらしいぞ」
「モデル?」
「あぁ。身近にいるやつを絵にしたって教えてくれたな。誰だろうな」
教えてくれたっていいだろうに。
そう答える九条さんに、私は何も言わずに見つめる。
「……九条さん」
「ん? どうした、嬢ちゃん」
「こちらの絵って、まだあるんですか?」
「おー、あるある。よく知ってるな」
「……なんとなく、あるような気がして」
きっと相手は気付かないだろうなと思い、同じ人が描いた絵画を見るが見当たらない。
「楽しみにしている所、悪いがその絵はまだ完成してねぇんだ」
残念だ、と分かりやすい反応をしている九条さん。
「九条さんが買い取った訳ではなく?」
「あぁ。未完成だとよ」
「……そうですか」
「気に入ったのか?」
「……そうなのかもしれませんね」
「ふーん」
興味なさげに答える九条さんに私は他の作品でも見ようかと歩く。
「見ていた絵、嬢ちゃんみたいだな」
「……私から見たら」
「ん?」
「いえ、何でもないです」
不思議そうにする九条さんは私の後を着いてくる。
「……何で着いてくるですか?」
「いやー、嬢ちゃんの気に入る絵があるかねぇと思っただけさ」
「そう……」
私は特に気にすることなく、飾られている作品を見る。
時々、九条さんから作品についての説明を軽くしてくれたりもする。
仕事で忙しいはずなのに。
最後まで着いて来た九条さんにまた声をかけられた。
「なぁ、嬢ちゃん。美海は元気だったか?」
「……いつも通りでしたよ」
「そうか……」
「会いに行かないのですか?」
「いや、会いに行く。大事な……友人だからな」
何処か、遠くを見ている九条さん。
「おっと、そろそろ帰らねぇと親がしんぱいするんじねぇか?」
「……そうですね」
「お、今日は素直じゃねぇか」
頭を撫でる九条さんに、私は払いのけ。
「帰ります」
「おお。またな、本好きの嬢ちゃん」
手を振る九条さんに私は頭を下げて家へと帰った。
『魅了された人々』の絵画については、九条満をモデルにして描いてます。
理由は秘密です。