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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第三章

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人生とはままならぬもので

 子供達と和解し別れを告げて、僕達は再び従魔師テイマーギルドへと足を向ける。


「オロチ、さっきはごめんね」

『ぬ? 何がだ?』

「子供達のフォローを優先して、君に我慢をさせたから」


 オロチは『ああ』と息を吐くように呟き『別に』と続けた。その表情を窺い見れば怒っているようにも見えるし、何も気にしていないようにも見える。けれど、少なくとも上機嫌という表情でないのは間違いない。


『多少不快ではあったが小僧たちも最後にはきっちり謝罪したからな、主のやり方は間違ってはいなかったのだろう。子供というのは浅はかではあるが素直で憎めない』

「うん、そうだね」

『だがこれも、俺様が人語を話せれば起こらなかった問題でもあるのかと思うと、俺様も古老のように人の言葉を学んでみるべきなのかと考えてしまうな』


 少しばかり神妙な顔でオロチがそんな事を言い出したので「その気があるなら教えるよ」と僕は頷く。

 オロチは今まで人と関わる生活をしてこなかった、恐らく人の知識は古老や他の魔物達から聞くだけであったのだろう。

 魔物が僕達「人」をどのような存在だと考えているのかは分からないけれど、お互いの言葉が理解できずにすれ違う事もあったと思うのだ。そう思うとやはり言葉でのコミュニケーションというのはとても大事な事なのだ。

 オロチは人の言葉を理解しているけど、オロチの言葉は相手には伝わらない、けれど今日、僕を通して子供達と意思の疎通がはかれた。それを考えた時オロチも何か思う所があったのかもしれないな。

 子供達と別れた後は多少視線は感じたものの、無事にギルドへと辿り着く。従魔師ギルドは冒険者ギルド程賑わってはいなかったのだが、僕達がギルドに足を踏み入れた瞬間、冒険者ギルドで感じた視線とはまた違う視線が僕に注がれるのを感じた。


「あ~!!! スライムキング君だ!!」


 唐突な大声に僕が瞬間ビクッと身を竦ませると、受付の向こう側からギルド職員が一人にこやかに駆けてきた。

 その人は僕達の家に来訪した際、周りが皆オロチを観察をする中、一人だけライムをぷにっていた女性だ。年の頃はまだ十代後半か二十代前半くらいでずいぶん若く見える。


「今日は、どのようなご用件で!? 君が来訪の際にはすぐに呼ぶようにと言われているので、支部長呼んできますね!」

「え、あ、そんな、すぐに帰りますから!」


 僕はオロチの従魔登録のための提出書類が欲しかっただけなので、その歓待ぶりに慌ててしまう。


「君が噂のスライムキング? 後ろにいる亜人はスライムには見えないけど」


 職員さんが駆けて行ってしまうと、今度はギルドに居たお客さんが僕に声をかけてきた。その人は30代前半くらいの女性で、ボンキュッボンのたいそう魅力的なスタイルをした美女だった。まさかこんな所で、こんな美女から声をかけられるなんて思っていなかった僕は少し緊張する。だって、彼女の見た目は確実に僕のストライクゾーンなのだ。

 それにしてもまさかと思うが、僕の『スライムキング』の通り名は従魔師の間で広く知れ渡っているのか!? なんだか少し恥ずかしいぞ!


「噂のスライムはこちらです、ライム」


 僕はローブの内ポケットで大人しくしていたライムを掌に乗せて見せると、その女性は「特別なスライムには見えないけれど」とライムのぷにぷにボディを指で突いた。ライムを見た人、皆一度はこれやるよね。やりたくなる気持ちは分からなくもないけれど。


「でも、この王冠は噂通りだな。何処で見付けたスライム?」

「あ、シュルクの街の近くの草原です」


 「ああ、あそこか」と、彼女は頷き「でも、そんな特殊個体が生息しているなんて聞いた事もないのに」と首を傾げた。


「それで、そんなスライムキングが連れているその後ろの子は? ずいぶん立派な姿をした亜人だけど、やっぱり特殊個体なのかな?」

「どうなんでしょう、特殊と言えば特殊ですけど……」

「タケル君、よく来たね! 待ってたよ!! ああ、マチルダも来ていたんだ!」


 駆けつけた従魔師ギルドのルマンド支部長は遠慮もなく僕と彼女の間に割って入ってくる。

 まぁ、恐らく彼が待っていたのは僕ではなく、オロチの方だと思うけど。その証拠に僕に声をかけながらも視線はオロチから離れない。

 そんな興奮気味のルマンドさんは置いておいて、彼女の名前はマチルダというのかと僕は心のメモ帳にその名を刻む。


「ルマンドさん、こんにちは。今日はオロチの従魔登録に冒険者ギルドへ行ったら、書類不備ですと追い返されてしまったので、提出書類を作ってもらおうと思って来ましたよ」

「え、書類不備?」

「はい、大型魔物の登録をするには従魔師ギルドの証明書が必要だとか言って、職員さんに追い返されてしまいました」

「その時、従魔師ギルドの職員証見せました?」

「え、見せてませんけど……」

「そういえば言ってなかったか、申し訳ない! その書類、職員証を提示すれば提出しなくても登録できるよ」


 なんてこった! そんな話は聞いてないぞ!(二回目) これではとんだ無駄足じゃないか!

 けれどルマンドさんが僕に平謝りするものだから、僕は怒りの矛先を向ける場所がなく溜息を吐くしかない。


「せっかく従魔師ギルド(ここ)まで来ましたし、後学のために本来はどんな書類が必要なのか教えてもらってもいいですか?」

「はい、いいですよ。こちらへどうぞ。あ、良かったらマチルダも来るかい?」

「いいのかい?」


 ちらりとマチルダさんが僕を見やる。僕は一向に構わなかったので、どうぞと頷くと、彼女は僕達に付いて来た。

 僕がルマンドさんに連れて行かれたのは、相変らずたくさんの檻が積まれたギルド裏の建物。大小さまざまな檻が置けるようにだろう、スペースはかなり広く取られているその場所で「それでは失礼しますね」と、ルマンドさんはオロチの身長を測り始めた。


『あ、なんだ? 何をする?』


 戸惑い顔のオロチだったが、ルマンドさんの手際はとてもてきぱきとしていて、身長の次はメジャー片手に手足などの各部位の採寸をしてメモしていく。

 ルマンドさんは一通り亜人姿のオロチの採寸を終えると、次に「では元の姿に戻ってもらっていいですか?」と、にこりと笑みを浮かべた。


「お、いよいよ本体のお出ましか」


 僕達に付いて来てオロチの採寸を見守っていたマチルダさんが興味深そうにオロチを見やる。彼女も恐らく従魔師なのだろう、やはり魔物の事となると気になってしまうのだろうな。

 そんな興味本位の視線に晒されながら、身体のあちこちを勝手に採寸されたオロチは少し機嫌が悪そうな表情を見せていたのだが、渋々といった感じで元の姿に戻って見せた。

 オロチがドラゴンの姿に戻るとルマンドさんは瞳を輝かせたのだが、マチルダさんはぽかんと口を開けたまま固まってしまう。


「なぁ、私は夢でも見ているのかな?」

「夢じゃないですよ! 凄いでしょう! 彼はタケル君の従魔なのです。ああ、何度見ても素晴らしいです。この爪の艶といい太さといい立派ですよねぇ、この逞しい腕に黒光りする鱗も堪りません!」


 全く興奮を隠せない様子のルマンドさん、それに対してマチルダさんは「私は聞いていないぞ」と、困惑顔だ。


「驚かせようと思って黙っていましたので当然ですね」


 全く悪びれる様子もないルマンドは「はい、では測っていきますよ~」とドラゴン姿のオロチの採寸を嬉々として行っていく。


「君、ドラゴンなんて何処で……」

「あ、その扉の向こうですよ」

「君自身が選ばれたのか!」

「選ばれたというか、成り行きですね。彼のお爺さんに彼を預けられたというか、頼まれごとの見返りに期限付きで従って貰う事になっただけなので」


 僕がマチルダさんに事の次第を説明すると、彼女は「君はとんでもないな」と複雑そうな表情で「私も特殊生体保護職員をやって久しいが、君みたいなのは初めてだ」とそう言った。


「マチルダさんも特殊生体保護職員なんですね!」

「まぁね、私は昔から魔物に好かれやすい体質でね、この職業は天職だと思っている。だけど、君みたいに本当に特殊な魔物を保護した事はないよ。私はせいぜい少し珍しい魔物を保護して楽園に送り込む程度だ」

「はは、謙遜謙遜。マチルダは凄いんだよ、彼女が一番最初に従えたのは、あの神獣フェンリルだからね」

「フェンリル!?」


 僕が言葉を発するより先に声を上げたのは僕の後ろで控え目に立っていたロイドだった。


「フェンリルって、そんなに凄いの?」

「当たり前だろ、空の覇者がドラゴンで、水の覇者がリヴァイアサンなら、大地の覇者はフェンリルって言われるくらいの魔物だぞ。気位が高くてむやみに人を襲ったりしないから神様みたいに祀っている所だってあるくらいだ」


 ああ、それで神獣なんて呼ばれているのか。まだ見た事はないけれど、とても興味深いし見てみたい。そんなフェンリルを従えるなんてマチルダさんって凄いな!

 僕が尊敬の眼差しを彼女に向けると、マチルダさんは苦笑して「その辺は少し誤解があるんだ」と、そう言った。


「私はフェンリルを従えていた訳じゃない、フェンリルは私の親で兄弟なんだ」

「? 親で兄弟? フェンリルが……?」


 僕が小首を傾げるとマチルダさんは笑みを浮かべて「私はフェンリルに育てられたのだよ」と、そう言った。

 曰く、彼女はフェンリルの暮らす聖なる森に捨てられていた捨て子だったらしい、親の顔も覚えていない赤子の頃に捨てられて、そんな彼女をフェンリルは我が子のように育てたのだそうだ。


「ちょうど母フェンリルが子を産んだばかりだったみたいでね、そのついでに育てられた、だから彼等は私の従魔じゃなくて家族なんだ」


 ああ、いいな。そういうの何だか素敵だ。

 僕も今までライムを家族だと言い張ってきたけれど、そんな僕を生温い瞳で見る人は多かった。魔物は魔物で害でしかなく、従魔師はそんな魔物を従えるという点では僕と感覚は近いけれど、金勘定をしたり研究対象であったり、そういう興味でしか彼等を見ていないのだなと思う事は多々あった。

 けれど彼女は彼等を家族と呼ぶのだ、それは僕の感覚ととても近い。


「僕もライムの事は家族の一員だと思っています、同じですね!」

「うん、そうだな。君にはやはり素質がある、ルマンドが気に入る訳だ」

「だろぉ! 僕の見る目はいつだって確かだよ!」

「はは、間違いないな。さすが私の見込んだ旦那様だ」


 ん?


「僕の見る目があるのは君を見出した時に既に証明されているからね、奥さん」


 んんん?? 旦那様に奥さん……?


「あの、もしかしてお二人って……」

「ああ、そうだった。紹介が遅れたね、彼女は僕の妻のマチルダ、ついでに受付に居たのは僕達の娘だよ」


 まさかの支部長の奥さん!! ってか、従魔師ギルドは家族経営か! いや、他にもスタッフは居たけれども……それにしても、マチルダさんは人妻か……


「そういえば、うちの娘が君のスライムをずいぶん気に入っていてね、良かったらこれからも仲良くしてやって」

「え、ああ、そうなんですね」


 確かに彼女はオロチになんて目もくれずライムをぷにっていたものな。ライムが愛されるのは嬉しいけど、何やら複雑だ。


「どうだい少年、なんならうちの娘と付き合ってみるかい?」


 マチルダさんが僕の肩を抱いて、少し嬉し気に耳打ちしてきた。ってか、肩! 胸が当たってる!


「えっと……」

「娘は君より年上だろうけど、二つ三つくらい気にならないだろう?」


 まぁ、確かに! 僕が見た目通りの年齢だったらね! 彼女は恐らくまだ十代後半くらいか、だけど僕のストライクゾーンにドンピシャだったのは娘さんよりお母さまだったよ!


「タケルはああいう子が好みなのか?」


 平静を装いつつも、少しだけ声に不機嫌を滲ませたロイドがぼそりと呟いた。いや、僕の好みは娘さんよりお母さま(以下略)だけど、そんな事を真っ正直に言ったら修羅場待ったなしだよ、絶対に言えない!


「僕はまだまだ未熟者で、誰かとお付き合いするには早すぎると思うので!」


 僕はマチルダさんの腕から逃げ出して叫んだ。世の中は色々とままならないよな、とほほ。



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