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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第三章

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酒は飲んでも呑まれるな

 楽しく飲み始めてしまったアランとオロチ、仲良くなれて良かったよと思う一方でそんな二人を眺めて少しだけ眉を顰めているのはルーファウス。


「ルーファウス、なんでそんな難しい顔をしてるんですか?」

「いえ、これは私の勝手な感情なので……」

「何か少しでも気にかかる事があるなら我慢せずに言って欲しいです。誰かが何かを我慢してする共同生活はあまり良くないので」


 僕の言葉にルーファウスは「そこまで深刻な話ではありませんよ」と苦笑する。


「私の中ではドラゴンというのは倒すべき悪、もしくは関わってはいけない魔物という考えでしたので、こうもあっさり打ち解けるアランは度量が広いのか、考えなしなのかどちらなのかと考えていただけです」

「ドラゴンは倒すべき悪、ですか」

「別にタケルが連れて来た彼を悪だと言っている訳ではありませんよ! ただ世間一般の考え方は恐らく私とさほど違いはないかと」


 ああ、確かにそうかもしれないな。だからこそ古老のドラゴンは絶滅寸前の同胞を保護して欲しいと僕に依頼してきた訳だしね。


「ドラゴンって凄く強いですから怖いと思うのは当たり前ですよね、魔物と対話ができるだなんて誰も思ってもいないでしょうし、食べられる、殺されるって思ったら反撃したくなる心理は僕にも分かります。だけど今日僕は二匹のドラゴンと話をしてみて全く対話ができないなんて事はないなと思いました。それどころかドラゴンは喋れないだけでこちらの言葉の意味は理解していますし、恐らく知能レベルは僕たちとほとんど変わりない。それなのに一方的に忌み嫌われるのはやはりどうかと思うので、僕は彼らに協力できる事を嬉しく思ってますよ」


 ルーファウスは僕の言葉に耳を傾け「度量の広さではアランよりもタケルの方が上でしたね」と、ふっと肩の力を抜く。


「ドラゴンを従魔になんて始めはどうなる事かと思いましたが、この様子なら何も問題はなさそうです。アランのあの様子、シュルクでの生活を思い出しますよ」

「あはは、あそこでは皆で毎日宴会してましたもんね」


 僕が初めて暮らした西方の街シュルク、冒険者が集うシェアハウスは毎日賑やかで連日連夜の宴会はもはや当たり前の光景だった。毎日飲んだくれていてこの人達大丈夫なのかな? なんて思う事もあったけど、アレはアレでとても楽しい思い出だ。


「なぁ、ルーファウス、せっかくの新人歓迎会だ、今日はお前も飲め!」

「はい!?」


 アランがグラスを片手にルーファウスの方へと寄ってくる。


「お前は酒癖が悪いだけで、意外と飲める奴だってのを俺は知ってんだからな」

「私は自ら飲酒はしないと自戒しているのですから放っておいてください」

「それは承知の上で、今日は無礼講だから飲めと言ってるんだ」

『そうだそうだ、こんな美味い飲み物を自戒する意味が分からん、飲めるのならば飲めばいい』

「ちょ、アラン! オロチまでそういう事言わないの!」


 お酒が入って少し強引になっているアラン、そしてかなり陽気になってしまっているオロチは豪快に笑いながらついに酒瓶から直接酒をラッパ飲みし始めてしまった。


「オロチ、何やってんの!?」

『じじいは常日頃からもう一度美酒を味わいたいなんて口癖のように言っていたが、これは納得だ。酒というものは美味い! 飲めるのに飲まないなんて愚の骨頂だ』


 いかん、これは確実に飲ませてはいけないタイプの人間に飲ませてしまった気がする。オロチは人間ではないけれど、これは絶対酒に溺れるタイプだ。


「オロチ、お酒は適度に嗜む方がいいんだよ」

『あん? 俺様に口答えか?』


 いやぁぁー! 目が据わってる、これオオトラになって気が荒くなるやつだろ!? ドラゴンに暴れられたりなんかしたら手に負えなくなるぅ!!!


「僕は君の雇い主です! 体調管理も僕の仕事、これ以上の飲酒は許しません!」


 僕はオロチの手から酒瓶を取り上げる。まぁ、取り上げたその瓶は既に半分ほどまで減ってたけど。

 僕とオロチがそんな攻防を繰り広げている傍らではアランとルーファウスも「飲め!」「飲みません!」の攻防を繰り広げていた。酒瓶を取り上げられて不服そうなオロチはそんな二人を見て『こいつ等はいいのか?』と不満気だ。


「良いとは言い切れないけどオロチは飲みすぎ。酒瓶一本ラッパ飲みとかあり得ないよ。その前にグラスで何杯も飲んでただろ、飲み過ぎ厳禁」

『…………』


 オロチが黙った所で、アランとルーファウスの方はルーファウスが折れて「では一杯だけですよ」とグラスを受け取ろうとしたその瞬間、オロチが動いてルーファウスの座っていた椅子の後ろから腕を伸ばし、ルーファウスを羽交い絞めにした。


「は?」


 目を白黒させるルーファウス、オロチは無言でにやりとアランに視線を向ける、それを察してかアランが僕から酒瓶を奪ってルーファウスの口に突っ込んだ。なんか絵面が卑猥! なんて、言ってる場合じゃない!!!


「ちょっとアラン何してんですか!?」

「今、そいつと意思の疎通がはかれた気がしてな」


 そう言ってルーファウスに無理やり酒を飲ませながらアランはけらけらと笑っている。これ完全にアルハラだよ!


「二人とも、世の中にはいくら酔っているからと言えども、やっていい事と悪い事があります! 捕縛!」

「え?」

『なんだこれは!?』


 僕の声かけと共に光の輪が宙に現れ、それがアランとオロチを拘束し、きつく締め上げた。

 光の輪を解こうとオロチは暴れるが魔力で練られたその光の輪がそう簡単に外れる事はない。本来は盗賊なんかの捕縛に使う魔術だけど、文句なんか言わせない。


「二人はそこでしばらく大人しくしてなさい! ルーファウス、大丈夫!?」


 酒瓶の半分ほどを無理やり一気飲みさせられたルーファウスの顔色がおかしくなってる。机に突っ伏すようにぐったりしている彼は元々色白なのだが、完全に血の気を失って青白い、それは自分の魔術を自分で食らって死にかけた、あの時の事を思い出す。


「ルーファウス、ねぇ、しっかりして!」

「タ、ケル……?」


 けれどあの時とは違ってどうやらルーファウスの意識はあるようで、弱々しくはあるけど僕の名を呼んでくれてホッとした。それこそ急性アルコール中毒は怖いんだ、死んでしまう場合だってあるものを他人に無理強いなんてホント駄目だよ!


「良かった、気持ち悪くないですか? 大丈夫? 今水を……」

「タケル、タケル……行かないで」


 僕が台所に水を取りに行こうと踵を返そうとしたらルーファウスが僕の腰にぎゅっとしがみついてきた。


「お水持ってくるだけなんで、少し待って……」

「いやだ!」


 ふるふると首を振るその仕草がずいぶんと幼げだ。ぎゅうぎゅうときつく僕を抱き締めるルーファウス、ちょっと苦しい。よくよく見ればルーファウスの耳元から首筋にかけて段々に朱が昇ってきている。


「僕を置いて行かないで、僕をもっと愛してよ!」


 嫌だ嫌だと首を振りながらこちらを見上げたルーファウスの瞳が潤んで見えた。


「大丈夫ですよ、すぐに戻ってきますから、ね」

「駄目です、嫌です、絶対に離さない」


 まるで駄々っ子のようになってしまった彼を見た瞬間、あ、もうこれは手遅れだと僕は悟る。ただでさえ僕への執着が強い彼なのに、こうなってはもうお手上げだ。

 泥酔したルーファウスは泣き上戸で、そして赤ちゃん返りとでも言えるような甘え方をしてくる。そんな己の醜態を悔いていた彼はこの三年間お酒に口をつけなかったというのに……

 僕はぎゅうぎゅうと抱き締める腕を緩めず泣き続ける彼の頭を撫でる。困ったな、こうなっては寝付くまでルーファウスは僕を離しはしないだろう。


「タケル、俺、水持ってこようか?」


 場の雰囲気に飲まれて完全に空気のようになっていたロイドがおずおずと僕に声をかけてくる。僕はそれに「ありがとう、おねがい」と頭を下げた。


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