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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第二章

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僕は猛獣使いではありません

「タケル、やったな!」


 観覧席から僕の元へと駆けてきたロイドと僕はハイタッチ、これからは更に受けられる依頼の幅が広がるぞ。


「それにしてもお前のライムは相変らず意味が分からないな」


 アランが僕の肩の上に乗って伸び縮みしているライムのむにむにボディを指で突く。


「そんな特殊個体のスライムが懐くほどタケルには人徳があるという事でしょう」


 人徳……ううん、それは何か違う気がするな。ライムと出会ったのは本当にたまたま偶然だし、僕は運が良かっただけだ。


「保護者の方々は先程の戦闘を見ていてもあまり驚かれないのですね」

「それはまぁ、タケルのする事だしな」

「彼は私の愛弟子ですので」


 スラッパーの言った言葉にアランはもう慣れたというような表情だし、ルーファウスは何故か誇らしげだ。これは褒められていると思っていいのだろうか?


「正直、私はそちらの剣士の少年はともかく、こちらの坊ちゃんが試験をクリアできるとは思っていませんでした。試験に自信がありそうでもなかったですし、年齢もEランクに挑戦するには幼過ぎる」


 あれ? そうなの? 


「当ダンジョン城は誰にでも楽しめるダンジョンをコンセプトに運営をしておりますので、挑戦をすると言うからには止めるつもりはありませんでしたが、いつでも救助に迎える準備を整えておりましたのに、全くの予想外でしたよ」

「私は勝てない勝負をタケルに勧めるような事は致しません」

「はい、全くその通りでございましたね。お見それいたしました。ところで、そちらのお坊ちゃま、名前は『タケル』様でお間違いないでしょうか?」

「あ、はい、そうですけど……」


 スラッパーがぐいっと僕の前に顔を突き出す。ビン底眼鏡の奥の瞳が、また値踏みするようにきらりと光った気がして、僕は数歩後退る。なんかこの人怖いよ。


「自己紹介が遅れましたが、実は私、ダンジョン都市メイズの冒険者ギルドのギルドマスターを務めさせていただいているのですが――」


 え? は? ギルドマスター!? なんでそんな人がこんなとこで働いてんの!?


「タケル様、あなたには指名手配がかかっております」


 スラッパーの言葉に反応して、ルーファウス、アラン、ロイドの三人が顔色を変えて僕を庇うようにして前へ出た。


「おおっと、すみません! 話は最後まで聞いてくださいね。指名手配とは言っても坊ちゃんが犯罪者ではない事は分かっています、正しく言えば捜索願いでしょうか、見付け次第速やかに本部に連絡をという通達が……」

「どうやら既に冒険者ギルドには教会の手が回っているようですね、全く煩わしい事この上ない!」

「本当だな、あ~あ、せっかくダンジョンを満喫できると思っていたのに、とんだ無駄足だ」


 ルーファウスが僕の身体を抱き上げる。これは転移魔法で逃げる気なんだろうな。アランとロイドは臨戦態勢で、そんな僕達を見たスラッパーは「ちょっと待ってください!!」と声を張り上げた。


「話は最後まで聞いてください! 私は坊ちゃんを通報するつもりはありません! それよりも、あなた方にはやっていただきたい事がありまして!!」

「あ?」

「皆さんもご存じの通り現在このダンジョン城の核はまだ見付かっておりません。ここダンジョン城は娯楽施設となっていますがダンジョンである事には違いなく、私共も常に危険と隣り合わせで業務に携わっております。日々ダンジョンは拡大を続け下層からは危険な魔物が湧いてくる事もあるのです。我が街はこのダンジョン城を観光資源としていますので、これ以上危険な魔物が増えるのは望むところではございません、そこで提案なのですが、彼の通報を控える代わりにこのダンジョンの核を見付けだし、これ以上の拡大を防ぐための封印を施してはいただけませんでしょうか!?」


 スラッパーが逃してなるものかと言わんばかりの勢いで一気に用件をまくし立てる。それはつまり、僕達にこのダンジョンの拡大を止めてくれってそいう事?


「捜索願の出ているタケル様と同行しているのはAランク冒険者のルーファウス・ホーリーウッド様、ルーファウス様は核の封印に関しては第一人者だと聞き及んでいます、是非私共にお力添えを!!」


 お? なんか知らない情報が一気に増えたぞ。ルーファウスが核封印の第一人者? しかもホーリーウッドって、名字? ルーファウスが名持ちなんて聞いてないんだけど、名持ちは貴族だけなんじゃなかったか?

 そんな事を考えて、ルーファウスを見上げたら眉間に皺を刻んだルーファウスが険悪な表情で「ちっ」と舌打ちを打った。

 ガラが悪くなってるよ、ルーファウス。綺麗な顔が台無しだよ。


「最初にお断りしておきますが、私は核の封印の第一人者になった覚えはありません。確かに昔何度か封印に付き合った事はありますし、手順は一通り把握しているつもりですが主導していたのは私じゃない。あの時も私はただの手伝いでした」

「ですが、当時のメンバーが没されている今、その方法を知るのは貴方だけなのでは!?」

「彼等の弟子なり子息なりに伝承はされているでしょう? 買いかぶりはやめてください。あと、私はホーリーウッドとは既に縁を切ってます、その名で呼ぶのもやめてください」


 ルーファウスの返答にスラッパーはルーファウスがルーファウスである事を確信したのだろう、懇々と懇願の姿勢で言葉を続ける。


「御子息様方には既に依頼を試みましたがすげなくお断りをされております……もしくは依頼料を支払えば一度見に来てやってもいいと仰っていただけたのですが、当ギルドには御子息様の満足のいく金額の準備ができなかったのです。ですからギルドマスターである私自ら商売に勤しんでいるのですが、まだまだ依頼料には届かず、けれど日々ダンジョンは広がり続け……」


 なんか色々と理解できた気はするな。僕はもう一度ルーファウスの顔を見上げると、相変らずルーファウスは眉間に皺を刻んで憮然とした表情のままだ。


「ねぇ、ルーファウス。スラッパーさん、すごく困ってるみたいですよ」

「それは、そのようですね。ですが、それとこれとは別問題です。依頼というのなら受けるのもやぶさかではありませんが、彼が持ち掛けているのはタケルを人質にとった脅迫と同じです、私はそんな脅迫者に屈するのは……」

「おおおお、お待ちください! 私は決して脅迫をしたつもりはありません! 確かにご助力いただければ非常に、非っ常~に! 助かるのですが! 助けてくれないのであれば通報するとかそういった意味で言った訳ではないのです! これはあくまで対等な交換条件と言いますか、もしご依頼お受けいただけるようでしたらメイズでの皆さんの生活は全て保証させていただきます!」


 慌てたようなスラッパーが更なる条件を提示してくる。


「お、それは助かるな。元々俺はダンジョン攻略には挑むつもりだったしな」

「アラン、この方の言う事を真に受けるのですか? そんな事を言って私達を監視する腹積もりかもしれませんよ。教会の連中がここに来るまでの時間稼ぎだったらどうするんですか? それにダンジョン核を私一人で封印できるかどうかは怪しいものです。私は本当にそれに関しては補佐しかした事はないのですから」

「そこはそれ、核を見付けていただくだけでも結構です! 核を見付けられれば新たな策を練る事もできますので!」


 ルーファウスを逃がしてなるものかと畳みかけるスラッパー、本当に必死だね。それだけこのダンジョン城の状況があまりよろしくないという事でもあるのかもしれないけれど。


「だってよ。良いんじゃねぇか? もしこいつがでたらめを言っていたとしても、お前はいざとなったらタケルとすぐに逃げられるだろう?」

「それはまぁ、そうですが」

「だったら、少しくらい手伝ってやってもいいんじゃねぇか? 生活の面倒を見てくれるって言ってんだし、こいつ等のスキルアップにダンジョンはうってつけだし? タケルだって少しは落ち着いた生活したいよな?」


 それはまぁ、そうだね。本当に彼がこの街の冒険者ギルドのギルドマスターで教会への通報をしないでくれるというのなら、僕としてはこそこそ逃げ隠れする生活をしなくて良くなるからとても助かる。

 そんな事を思いながら僕がルーファウスの顔を窺い見ると、アランの言葉に少し考えこんだ風のルーファウスはしばらくの沈黙の後、大きくひとつ溜息を零した。


「まだ全面的に貴方を信用した訳ではありませんが、今言った事に嘘偽りはないと貴方は神に誓えますか?」


 スラッパーは「はい、それはもう!」と、大きく頷く。


「でしたらそれを契約書として起こし正式な手続きを踏んでください、私は依頼としてそれを受けましょう。その契約書には魔術による誓約を付けさせていただきます」

「魔術による誓約、というと契約不履行の場合……」

「場合によっては命でもって賠償していただく、という事です」


 瞬間、スラッパーの顔が青褪めたのだが、しばらくの沈黙の後彼は「分かりました」と声を絞り出した。

 なんか、その誓約滅茶苦茶怖いんですけど! しかもスラッパーさん、その条件で受けちゃうの!?


「代わりと言ってはなんですが報酬金の要求はしません、どのみちダンジョンアイテムを売りさばいた方がお金にはなるでしょうしね。ただ必須条件としてメイズでの私達の生活と安全の保障、そしてタケルに関する情報一切の秘匿をお願いしたのですが、可能ですか?」

「おおお、それはとても有難い! ええ、ええ、そのくらいの事、いくらでもお約束いたしますよ!」

「安請け合いですね。ですが、もしその誓約が破棄された場合は貴方自身にそれ相応の代償があるという事だけは重々覚えておいてくださいね」


 冷たい瞳でスラッパーを一睨みするルーファウス、綺麗な顔をそのままに凄まれるとめっちゃ怖い。ルーファウスが実力のある冒険者だって事は周知の事実だから、スラッパーもびしっと背筋を正す。

 さっきルーファウスが彼をただ者ではないと称してたけど、ルーファウスの方がよっぽどただ者じゃないよ。敵じゃなくて本当に良かった。


「それでは正式な取り決めはまた後日、今日は仮契約です」


 そう言って、ルーファウスがスラッパーに掌をかざすと、その掌から淡い光が放たれスラッパーの身の内に潜り込むように消えていった。


「今の何ですか?」

「言った通りの仮契約です。ただ現在まだ契約内容が正式なものではないので、タケルに関して不都合があった場合のみの発動とはなりますが、彼の命は私の掌の上、という感じでしょうか」


 え、怖っ!

 冒険者ギルドが教会から僕への接触を退けてくれると言うのなら僕にとっては願ったり叶ったりだけど、その願いが他人の命の上に成り立ってるとか滅茶苦茶怖いんですけど!!


「お願いですから殺したりはしないでくださいね! 僕が教会に見付かったとしても殺される訳じゃないんですから、そこだけは履き違えないでくださいね!!」

「坊ちゃん……」


 スラッパーが感極まったような顔で僕を見ているけど、これは自分の為だから! 他人の犠牲の上に成り立つ自由なんて僕の望む所じゃないから!


「タケルは優しいですね」


 僕を褒めるように綺麗に微笑むルーファウス。だけど、その笑みの底が知れなくて少し怖いよ。


「そんな優しげな表情で人を脅すような事をするルーファウスは少し怖いです。いつものルーファウスでいてください。僕はいつものルーファウスの方が好きです」

「人というのは簡単に裏切るものなのですよ、特にまだ親しくもない間柄であれば尚更に……」


 そのルーファウスの言葉には何やら実感がこもっていて悲しくなった。エルフは人より長命で、ルーファウスは僕の知らない長い人生を生きている。もしかしたら過去にそんな裏切られる経験もあったのかもしれないけれど、他人を全く信じられないのは悲しい事だ。

 酔っぱらって「置いて行かないで」と縋りついてきたルーファウスの姿を思い出す。きっと長い人生楽しい事ばかりではなかったのだろうというのも分かるのだ、だけど、だからこそ、そんな悲しい物言いを彼にはして欲しくないとも思うのだ。

 僕はルーファウスの頬を両手で挟んで彼の瞳を覗き込む。


「ルーファウスはどこの馬の骨ともしれない子供だった僕にも最初から優しかったじゃないですか! 僕はアランとルーファウスの二人に出会わなかったら今ここにはいなかった、もしかしたら野垂れ死んでた可能性だってあったんだ。僕はそんな二人に感謝してるし大好きだから、僕なんかの為に人殺しなんてさせられません。そんな事をルーファウスにさせるくらいなら、僕は今から自分の足で教会に出頭します」

「な……」

「エリシア様は僕を神子にしたいだけで、命を取ろうってわけじゃないはずです、だから等価交換みたいに命を差し出させるのはダメ。分かるよね、ルーファウス」


 笑みをたたえていたルーファウスの口元がきゅっと下がって、見つめていた視線がそらされた。けれど僕を抱く腕の力はますます強くなって、それでも彼は「分かりました」と頷いた。

 ルーファウスがもう一度スラッパーに掌をかざすと、先程の淡い光が彼の体内からぽわんと出てきてルーファウスの手元に戻って来る、けれど今度はその淡い光が糸のように細くなりスラッパーの腕にまるで生き物のように巻き付いた。


「ですが、仮契約だけはさせてもらいますよ。命までは奪いませんが……まぁ、あとは分かりますね?」


 スラッパーはルーファウスの言葉に自身の腕を撫でてこくこくと頷いた。

 淡い光を放ちながら巻き付いたその光の糸はスラッパーの腕に紋を刻む。あれはどういう契約なのだろうか? まぁ、命を奪うものではないというなら許容するしかないのかな。そもそもこれはルーファウスが僕を想ってしてくれてる事だからこれ以上無下にはできない。


「まるで猛獣使いだな」


 アランがぼそりと零した一言に「誰が猛獣ですか」とルーファウスは怒る。だけどその言葉、何となく分からなくもないよなぁ。

 ルーファウスにはやろうと思えば何でも出来てしまう実力があるだけに、暴走させないように気を付けないといけないなと僕は思った。



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