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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第二章

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お風呂で泳いではいけません!

「本物のお風呂だぁ」

「そりゃあそうだろ」

「もう何でもいいや、入りましょう! 久しぶりのお風呂、嬉しいなぁ」


 こちらの世界に来て初めてのお風呂だ。40年の人生の中で二か月間も風呂に入らない生活なんて初めてで、僕は立ち昇る湯気に興奮を止められない。

 今はもう僕も洗浄魔法をマスターしているので毎日清潔感は保っているつもりだけど、それでも物足りない気持ちはずっとあった。

 やっぱり風呂は大事だよな!

 僕ははやる気持ちを抑えられずにポイポイと服を脱ぎ捨てていく。


「え、ちょ……タケル!?」


 ロイドが慌てたように声を上げる。


「なに?」

「服、全部脱ぐのか……?」

「風呂に入るんだから当たり前だろ? ライムもお風呂入る?」


 僕のローブのポケットから出てきたライムからの『おふろってなぁに?』という問いに「ん~あったかい水溜まりかなぁ」なんて答えたら『はいる~!』とライムからは元気なお返事。

 ライムはホント何してても可愛いよな。癒される。

 勢いのまま下着まで下ろしたその時「ちょっと待った!」とルーファウスが大声を上げた。

 ルーファウスのそんな大声はあのスライム結界の事件の時以来なのでちょっとビックリして顔を上げたら、ルーファウスはがばっと僕の身体を自身のローブで包む。


「タケルは危機感がないと思っていましたけど、想像以上でビックリですよ! 全裸で入浴とか何考えてるんですか!? あなたには恥じらいというものが無いのですか! というかそんな恰好、襲ってくださいと言ってるようなものですよ!!」


 え? あれ?


「タケルは世間知らずだとは思っていたが、自宅ならともかく公共浴場は水着着用が基本だぞ」


 アランにまで呆れたように言われ、ロイドは真っ赤になってそっぽを向いている。

 え……そんな話聞いてない。あ! だから大浴場は混浴なのか!

 突然のカルチャーショック、そういえば日本の銭湯に外国の人が入る時には全裸で入る事に最初は抵抗を感じるって聞いた事がある。


「そういう事は先に言ってくださいよ!!!」


 僕は真っ赤に赤面して下げた下着をぐいっと引き上げる。この世界は魔法で身体を綺麗にできるから風呂の文化が僕の感覚とは違うのだ。そりゃあ、そういう文化の中に暮らしている人の前で、突然脱ぎだしたら驚くよね! ごめんなさい!


「とりあえず、水着はそこに置いてありますので着替えてください。いくらグループ風呂だと言っても全裸は許しませんよ」


 僕は促されるように水着へと着替える、だけど水着……水着かぁ……


『タケル、しょんぼり? どうかしたの?』


 ライムが窺うように僕に問う。


「なんて言うのか、お風呂に来たつもりで間違ってプールに来ちゃった感じでさ、こう、なんか、違うんだよなぁ……」


 湯船につかる前から既に僕のテンションはダダ下がりだ。水着着用の有無だけの違いなのに、解放感が全然違う。


「タケルはそんなに裸で風呂に入りたいのか? 別に俺は裸でも構わないぞ。何なら脱ぐか?」

「な! アラン! それだけは絶対ダメですよ!!」


 アランが水着を下げかけて、ルーファウスが慌てて止める。そんなルーファウスの慌てっぷりにアランはゲラゲラと笑っているのだが、そんな彼の尻に僕はある物を見付けてビックリする。


「アラン、尻尾!」

「あ? 尻尾がどうした?」


 普段は服の下に隠れているので気にしていなかったのだが、アランには尻尾もあるんだ! 確かに熊耳が生えているのだから尻尾が生えていても不思議ではないのに、何故だかとても驚いた。

 僕はアランが半獣人だという事を理解していたつもりだったのだけど、改めてこうやって見てみるとアランは確かに獣人の血を引いているのだなと思うのだ。少しばかり毛深いアランの腕や足はもさもさしていて如何にもワイルドな大人の男だ。羨ましい。


「なんだよ、そんなにマジマジ見られたら照れるだろ」

「あ、すみません。だけど少し見惚れてしまって。僕もいつかアランみたいに立派な体躯になれるといいな」


 僕はまだまだ成長途中の自身のひょろひょろな手足を見やる。向こうの世界でも僕は決して逞しい身体つきはしておらず、言ってしまえば中肉中背の一般的なおじさん体型だったので、アランみたいな身体に憧れがある。

 ろくろく筋トレすらしていなかったので筋肉の付きも薄かったのだが、今から頑張れば、成人した頃にはもう少し逞しい身体が手に入るだろうか?


「お前は別に俺みたいになんてならなくてもいいだろう、魔術師なんだし」

「魔術師だろうと何だろうと、不健康な身体より健康的な身体の方がいいと思いません? 僕ももう少し筋トレ頑張ってみようかな」


 細い腕を曲げてみても盛り上がりを見せない上腕二頭筋、力仕事は魔法で何とかなってしまうけれど、それでも相応に筋力は必要だと思うのだ。そんな事を思って顔を上げたら、アランの背後でおずおずとこちらを窺い見るロイドに気付く。


「! ロイド君も意外と良い筋肉の付き方してる!」


 僕の言葉にロイドがビクッと身体を硬直させた。何だろう? 僕、そんなに驚くような事言ったかな?


「お、俺なんか全然まだまだだし」


 そんな事を言いながらロイドは逃げるようにそそくさと浴場の方へと足を向ける。すっかりアランの筋肉に見惚れてしまったけれど、ロイドの身体はやはり剣士なだけあって締まっている。

 まだ少年特有の線の細さはなくなってはいないものの、やはり付くべき所にきっちり筋肉が付き、無駄な脂肪のない身体付きは僕の目標とすべきところだ。

 アランと比べてしまうと自分の未来が想像できないけれど、うん、こういう感じの成長を目標に僕も頑張りたい。


「タケル、他人の身体をそんな風に不躾に観察するのはマナー違反ですよ」


 背後から手で目を覆われて注意を受ける。おっと、しまった、確かにその通りだ。


「すみません、そうですよ……ね」


 ルーファウスに目隠しされた手を外そうと顔を上に上げたら目の前に飛び込んできたのは日焼け跡もない真っ白な肌。長い髪を湯に濡らさないように結い上げて纏めているルーファウスのそのきめの細かい柔肌から僕は目が離せない。

 ルーファウスはいつもきっちり着込んでいるので普段は肌の露出がほぼ皆無と言っていい。けれど、そんな彼が服を脱ぎ去り現在彼は僕の背後に半裸で立っている。

 え? なにこれ? どこの女神様?


「タケル? っひあ!?」


 僕がぽかんとした顔でルーファウスを見上げていると、アランがルーファウスの背中を指でなぞった。


「アラン! 突然何をするんですか! 痴漢で訴えますよ!」

「いやぁ、お前は本当に背後から見ると男か女か分からんなぁ、と思ったらつい」

「つい、で勝手に触らないでください! だから風呂は嫌いなんですよ! そもそも他人の身体に無断で触るのは犯罪です!」


 ギャンギャンと怒り心頭のルーファウス。ああ、ルーファウスが風呂嫌いな理由、なんか僕、分かっちゃったかも。

 だってルーファウスのその姿はトップレスの女性にしか見えないのだ。確実に胸はないし、身長あるし、そこそこ筋肉付いてるのに、それでもぱっと見女性に見える。これでは男性からの好奇の視線を避けようがない。

 それにしてもうなじが綺麗だな、普段完全に隠れている場所なだけに、どうと言う事もない部位なのに何故だか見ていてドキドキしてしまう。


「まぁまぁ、怒るのはその辺にして、そろそろ風呂に入ろうぜ」


 アランに促され浴場に向かうと先に入っていたロイドが足だけを湯につけて、何だか心許なそうな表情をしている。


「ロイド君、どうしたの?」

「いや、俺、ホントに風呂って初めてだからどうしていいか分からなくて……」

「別にそんなに気を張る必要ないと思うよ。ここには僕達しかいないし、足だけじゃなく、ゆっくり身体温めなよ」

「でもな、この湯、意外と熱い……」


 そうなのかと思って腕を湯に突っ込んでみたのだが、そこまで熱いと思わなかった僕は首を傾げる。むしろ少し温いくらいじゃないか?


「普通こんなものじゃない?」

「そうなのか?」


 風呂に浸かるという習慣がないと、そんな風に思うものなのかな? やはりところ変われば文化も変わるな。

 僕はとりあえず湯を頭から被って持参した石鹸でわしわしと頭を洗う。ああ、久しぶりのこの感覚、気持ちいい~

 この世界、風呂がメジャーじゃないのも勿論なのだが、何でもかんでも洗浄魔法で綺麗にする習慣が根付いているものだから、石鹸自体も珍しい貴重品だったりする。僕が持っているこの石鹼も、用途的には洗浄よりも香り付けの要素が強く、香水と同じような扱いの商品だったので探すのにとても苦労した。

 ついでに言えば、控え目な匂いの物を探すのも一苦労で、見付けた時にはつい買いだめしてしまったよ。

 髪を洗ってそのままの流れで身体も洗ってすっきりさっぱり、ああ、やっぱりこれだよ、これ。洗浄魔法だけでは拭いきれない爽・快・感!

 

『タケル、あわあわ~』

「ライムも洗ってやろうか?」


 そう言って僕はもにもにとライムの体の上で泡を立てようとしたのだが泡は立たなかった。仕方がないのでとりあえず僕に付いた泡の塊を頭にそっと乗せたら大喜びだったので、良しとする。

 一通り身体を洗って湯船に入ろうとしたら、何故かアランが泳いでた。いや、確かに泳げる広さはあるけれども!


「何で泳いでるんですか!?」

「風呂は泳ぐものだろう!」


 断言された! 意味が分からないよっ!


「まぁ、広さにもよりますが、泳ぐ人は多いですよ。今回は貸し切りなので余裕もありますしね」


 まさかのルーファウスまで肯定意見。嘘だろ!?


「というか、風呂で泳がずにして何とする?」

「え? それは露天ですし、周りの景色を眺めながらゆっくり疲れを癒すとか……」

「年寄りくさいな」


 ぐさっ。


「そういう楽しみ方をする温泉というものも確かに存在はしますが、一般的に宿屋に併設されている大浴場なんてどこもこんな物ですよ。知りませんでしたか?」


 再びのカルチャーショック。なんか僕のイメージしてた露天風呂と違う! こんなの大浴場じゃない! ただの温水プールじゃないか!

 いや、でもこれはアレか? 温泉というよりはスパリゾート的な? 海外だとそういう方が主流だと聞くし、僕の固定観念の方が間違っているのか……

 気持ち良さそうに泳ぐアラン、僕だって今まで広い大浴場で泳ぎたいと思った事がない訳ではない。けれどそれはルール違反だから出来なかっただけで、ここではそれが許される。


「僕も泳ぎます!」


 飛び込むのはさすがに気が引けたので、ゆっくり湯につかって泳ぎだす。これ、意外と楽しいぞ。


「タケルは泳げるんだな」


 少し驚いた様子のロイド。湯船は手前が浅く、奥に行くにつれ深くなっているのだが、彼は浅瀬で所在無さげに座っていた。


「ロイド君は泳げないの?」

「泳ぎを覚える機会がなかった。シュルクの街には泳げる水場がなかったからな。街中にはやっぱりこんな感じの浴場があったけど、行った事ない」


 ああ、そう言われれば確かにシュルクの街には泳げそうな水辺は無かった気がする。


「一緒に泳いでみる?」

「えっと……」

「手を出して」


 両手を繋いでバタ足の練習から。最初は湯に顔をつけるのに抵抗感があったようだが、元々運動神経の悪くないロイドはすぐにコツを覚えて泳げるようになった。

 ちなみにライムはお湯に浮くようで、ぷかぷか浮いて遊んでいたので、少し大きくなってもらって浮き輪の代わりになってもらった。

 お風呂で泳ぐなんて今までした事がなかった僕だけど、温水プールだと思えばこれはこれで悪くない。

 ルーファウスははなから泳ぐ気がないようで、浅瀬で半身浴をしている。僕とアランとロイドの三人は童心に返り遊びまくった。それがあんまりにも楽しくて、つい時間を忘れてはしゃぎすぎ、結果……のぼせた。


「何をやっているんでしょうね、あなた達は」

「……面目ない」


 ルーファウスが起こしてくれた風魔法がそよそよと火照った身体を冷ましてくれる。風呂は癒しで疲れるが取れるとか言っていた僕だけど、今は逆に滅茶苦茶疲れてる。

 これはちょっと入浴としてはどうかと思う、だけど、すごく楽しかったな。



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