ルーファウスとタロウさんの関係
従魔専用のアイテムショップを後にして、僕たちは再び城内のお店を覗いて行く。ライムは購入した王冠を本当にとても気に入ったようで僕の頭の上で誇らしげに王冠を見せびらかすようにして伸び縮みを繰り返している。
すれ違う人達にはやはり笑われたりするのだけど、それももう今更だし気にしない。
「それにしてもライム、本当にそれすごく似合ってるね、だけど何でそれが良かったの?」
『だってこれ、元々ボクのだもん』
「? そうなの?」
『うん! 似てるだけかと思ったけど、ちがった! これボクの!』
? 意味がよく分からないな。その王冠型の指輪は中古で二束三文で売られていたものだ、それがかつてライムの物だったと言うのならそれは一体いつの話だ?
『むかし、むか~し、落としちゃったの。ずっと大事にしてたのに、すごくすごく悲しかったよ』
「それってどれくらい昔の話? そもそもライムの歳っていくつなのかな?」
『ん~? 分かんない!』
きっぱりはっきりのお答えに、僕は苦笑する。まぁ、そうだよね、ライムはあまり色々な事は考えてなさそうだし。
言動が子供のそれだから生まれたてのスライムだと勝手に思い込んでいたけれど、ライムは他のスライムの個体とは明らかに何かが違うし、実は数百年生きていたとしても不思議ではないのかもしれないな。
物は試しにライムを掌に乗せてこっそり鑑定をしてみる、するとそこに表示されていた鑑定結果に僕は思わず絶句した。
『ライム タケルの従魔で最古のスライムの一片、現在はビッグスライムだがキングスライムへの進化が可能 ―― ♡』
ちょっと待って、最古のスライムって何!? しかも一片って全くもって意味が分からないよ! そういえば今までライムの鑑定なんて一度もした事なかった! 実はライムってばスライム界のエリートだったのか!? 確かに少し変わったスライムだなとは思っていたけども!!
「タケル、どうかしましたか?」
「え? いや、何でもないです!」
鑑定スキルを発動したまま顔を上げたせいでルーファウスの横にもステータス画面が浮かんで見える。書いている内容は以前と同じ、だけど……あれ? なんか♡の中の色が少し違って見える……?
ライムの♡の中の色は真っ赤に染まっている、確か以前見た時はルーファウスとアランの♡の中の色は薄ピンクだったはずなのだ、けれどルーファウスのその♡の中の色はライムと同じ赤に少し青味を足したような濃い赤紫色に変わっている。
え? ナニコレ? この色、何か意味でもあるのか??
「タケル?」
もう一度名前を呼ばれて、僕は鑑定ウィンドウを慌てて閉じる。何だろう、あまり見てはいけないモノを見た気がしてならない。ライムのステータスもそうだが、ルーファウスのもだ。あの色の変化の意味がさっぱり分からない僕は努めて平静を保とうと笑みを見せた。
「大丈夫です。少し疲れが出てしまったのかも、ははは」
全く意味は分からないのだが、これはもしかしたら早急に♡の意味を調べた方がいいのではないか? 何というか♡なだけに、これは好感度に関係してる気がしなくもない。だけどもし、これが本当に好感度なのだとしたら盗み見るのは非常に罪悪感がある。それと同時にあの色の意味! なに? 何なの?
ライムが僕に好感度MAXで深紅の♡なのだとしたら、ルーファウスのあの色なに!? 赤紫ってどういう感情!?
普通にライムと同じで深紅の♡の方がまだマシだったよ、意味が分からな過ぎて怖い!
「タケル、疲れたようなら一度宿に戻りましょうか?」
気遣うように言われた言葉に僕は頷く。だけど僕はこの時まだ動揺していて気付いていなかったのだ、アランとロイドがまだ街に到着していない現状、宿に戻ると僕は完全にルーファウスと二人きりになってしまうという事に。
宿屋に戻った僕とルーファウスは現在部屋で二人きり。少しだけ居心地悪く感じていた僕だったのだけど、ルーファウスは僕を椅子に座らせ静かに僕の髪を櫛で梳いている。
この世界へやって来て二か月と少し、その間一度も切っていない僕の髪は現在肩下あたりまで伸びている。
僕は今まで髪を伸ばした事が一度もないので髪の手入れの仕方なんてもちろん分からないし、自分で縛るのなら適当に括るだけなので、こうやって毎日手入れをしてくれるのは正直とても助かっている。
たぶん自分一人ではこんなに丁寧に髪を梳く事もなかっただろうし、うっとおしくて切ってしまっていたと思うのだ。
僕の髪を梳くルーファウス自身の髪はとても長い、自分の髪の手入れだけでも大変だろうになんだか申し訳ないな。
「ルーファウスの髪って綺麗だよね、いつから伸ばしてるんですか?」
ルーファウスの髪は白銀色でとても綺麗だ、髪の長さも腰下くらいまであるのに絡みもしないし痛んでもいない。黙って窓辺に佇んでいたらそれこそ等身大の人形が立っているのでは? と錯覚するほどにルーファウスは浮世離れした見た目をしている。
まぁ、エルフが美形なのはお約束だから、不思議ではないけどね。
「いつからでしたかねぇ、物心ついた時にはもう伸ばし始めていたので覚えていないです」
そうなんだ。一体何年切っていないのかと聞いたら毛先はちょくちょく切っていると言うので、全く鋏を入れていない訳ではないらしい。
「魔力は髪に宿るって本当ですか?」
「昔は信じられていましたけど、どうなんでしょうね。タケルを見ていると、そんなのはただの迷信なのではないかと私も思い始めている所ですよ」
確かに僕はこの世界に来た時は普通に短髪だったけれど、魔力は相応にあったもんな。髪を伸ばしたら、あの括弧で隠蔽された魔力が解放される、なんて事もないだろうし。
「エルフの里でも魔術師を目指す子供は髪を伸ばすのが慣習でしたので、私は幼い頃から何の疑問も持たずに髪を伸ばしていました。そんな幼い私の髪をこうやって毎日梳いてくれた人がいるのです。なにせ私はタケルと違ってとてもやんちゃな子供だったので、いつも絡まり放題に髪が絡まっていましたからね」
「え、意外! ルーファウスにもそんな時代があったんだ!」
「エルフは確かに長命ですけど、私にだって子供時代はありますよ。もう昔過ぎて記憶も朧気ですけどね」
僕は改めてルーファウスって何歳なのだろうか、と首を傾げる。最初は鑑定スキルで覗き見てしまったウィンドウ画面に表記されていた数字が年齢なのかな? と思ったのだ。けれどそう考えた時、アランの86という数字がどうにも腑に落ちなかったのだ。
あの数字に該当する数字が何なのかと、自分のステータスを確認してみたら、各種スキルレベルを足した総数がそれにあたるのではないかと僕は気が付いた。
そう考えると僕のスキルレベルの総数は現在アランより少し上になるのだと思う。そう考えればルーファウスはやっぱり凄いのだなと改めて思わざるを得ない。
だって僕のステータスは神様が弄ってこの数字、それでも充分チートなのに、それの上をいくってよっぽどだよね。確かにスキル自体は簡単に会得できるけれど、そのスキルレベルを上げる事は簡単ではない。実際僕のスキルは二か月経ってもそれほど変化を見せていない。
会得したスキルが増えている分だけレベルの総数は上がっているけど、それだけで、どんな条件を満たせばレベルが上がっていくのか、僕にはそれすら分からないのだ。
「タケルは……」
ルーファウスが何かを言いかけ口籠る。
「ん? なんですか?」
「もし気分を害したら申し訳ないのですが、タケルは本当にタロウ・スズキの関係者、もしくは血縁関係ではないのですか?」
「え? なんでですか? それは何度も否定しましたよね? それだけは絶対あり得ないです」
そういえばルーファウスは以前にもタロウさんは僕のご先祖様じゃないのかと言った事がある。そんな事は絶対にあり得ないのに、何故ルーファウスはそんなに僕とタロウさんを結び付けたがるのだろう?
「そうですか」
「? まさかルーファウスまで本気で僕のこと聖者さまの生まれ変わりだとか言い出すつもりじゃないですよね?」
「いいえ、いいえ……ただ――」
またしてもルーファウスが口籠る。何かそんなに言い難い事でもあるのだろうか? 僕は僕で生まれ変わりでもなければタロウさんと面識だって全くないというのに。
「タケルの容姿は……タロウに、よく似ているので」
「え?」
ルーファウスの意外な言葉に僕は驚く。
それは一体どういう事だ? まさかルーファウスとタロウさんって面識があるのか? いや、でも、確かタロウさんってすごく大昔の人なんじゃなかったか?
「まさかとは思いますが、ルーファウスはタロウさんと会った事があるんですか?」
「幼い頃、少しだけですが」
まさかの! 本気でルーファウスって何歳なんだ!?
「ただ私があの人をタロウ・スズキだったのだと認識したのは随分歳を重ねてからの事でした、彼は私には何も語ってくれなかった。いえ、語った所で理解もできなかったのでしょう、それだけ当時の私は幼かったのです」
ルーファウスが瞳を伏せる。まるで何かを耐えるようなその表情に、僕の胸の内がざわりと揺れた。
「そんなに僕とタロウさんって似てるんですか?」
「タロウはタケルより随分年上でしたのでそっくり同じとは言いませんが、似ていると思います。髪の色も瞳の色も同じ、何よりその雰囲気と語り口調がよく似ている」
「もしかして、ルーファウスはタロウさんの事が好きだった?」
「え……」
「もしかして初恋、だったり?」
またしてもルーファウスが黙り込む。これ、もしかしなくても図星だろう。でも、なんだかそれを聞いて色々な事がストンと腑に落ちた。
だってずっとおかしいと思っていたのだ、何故ルーファウスが僕にここまで執着してくるのか。
そもそも僕なんてちょっと魔術が人より優れているだけのぽっと出のただの子供なのだ。そんな僕に大の大人が大真面目に好きだとか愛を囁いてくるなんて最初からおかしいと思っていた。まぁ、僕はそんな彼の恋心に便乗して今まで甘え倒してきた訳だけど。
「残念ですけど、本当に僕はタロウさんとは全くの無関係ですよ。そもそもこの容姿自体この世界に来てから手に入れたもので、僕本来の姿ではありませんから」
「そうなのですか?」
「はい。こっちの世界に来る時に神様が盛りに盛って造形してくれたおかげで、こんな美形になれましたけど、元の世界での僕の容姿は笑っちゃうくらい平凡そのものでしたよ。もしかしたらこの容姿は神様の好みなのかもしれませんね」
ルーファウスは以前タロウさんは異世界人だったと言っていた、だとすればこの説は我ながら信憑性が高い気がする。
それにしても、そうか……僕はタロウさんに重ねられていたのか。まぁ、そうだよね。僕なんかホント今まで全然モテた事ないんだから、こんな美形に無条件に惚れられるなんてあり得ない。それを本気にするなんて思い上がりもいい所だよ、はは。
「僕がタロウさんと完全に無関係だと分かってがっかりしましたか?」
「いえ、そんな事は……」
言葉では否定しているけど、何となくルーファウスの落胆の表情は見て取れる。初恋と言うものはとかく美化されがちだし、僕の初恋は保育園の先生だったからその気持ち、分からなくもないよ。
「タロウさんってどんな人だったんですか?」
「とても綺麗で、いつでも凛としている人でした。けれど時折見せる儚げな表情がとても印象的でしたね」
それって僕に似てるかな? 成長したら今の僕は確かに美形に育つと思うけど、儚げはちょっと違う気がする。何せ中身がこれだから儚げとは縁遠い。外身が似てるからってルーファウスは僕に夢見過ぎだ。
タロウさんの面影をそんな風に僕に投影されても今後は理想とかけ離れていくばかりで、将来的には失望待ったなしじゃないか。
これは早目に気付けて正解だったな、もしこれで僕が本気でルーファウスに想いを返したところで、理想とかけ離れた時点で破局の未来しか見えない。
いや、逆に考えればこのままほっとけば勝手にルーファウスは僕へのこの間違った恋情に気付くはず。僕が育つまで待つなんて言っていたけど、たぶんその頃には普通の友人関係になれてるんじゃないかな。
だったらこれからは無駄に色々悩む必要はないな。
「僕は育ったとしてもタロウさんにはなれませんよ」
「! そんな事、私は考えていません!」
「そう?」
「タケルが気分を害してしまったのなら、本当に申し訳なかったです、けれど私はそんな風に考えた事は一度も……」
「ない」という単語を発する前に口籠るルーファウス。うん、そういう所ルーファウスってほんと素直だよね。
「僕は別に気分を害したりはしてないですよ。それよりも逆に色々腑に落ちました。大丈夫です、これからも仲良くしてください」
気にするなとばかりににっこり笑ってそう言うと、ルーファウスはやはり複雑そうな表情だ。でもこれで分かった、僕はタロウさんに似ている事でここまでルーファウスに甘やかされてきたのだ、だとしたらこの甘やかしに浸かり過ぎては将来的に非常にまずい。
自立しなければと思いつつも今まで甘やかされるままに甘やかされていたけれど、ここはやはりきちんと自立の道を模索しなければ!
「僕、魔術師として早く一人前になれるようにこれからも頑張りますので、今後もご指導お願いしますね!」
「え……それはまぁ、はい」
今後ルーファウスとの関係をどうしたものかと思っていたけれど、何となく方向性が見えた気がする。これからはあくまでも師匠と弟子、あまり甘え過ぎないように気を付けよう。




