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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第二章

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人生には山も谷もあるもので

 僕たちが街の散策を終えて宿屋に戻ると、部屋には既にルーファウスが戻っており「遅かったですね」とこちらを見やって「アランは何処ですか?」と小首を傾げた。

 僕は冒険者ギルドでアランが昔馴染みと再会した事、そして二人で飲みに行ってしまった事を告げる。奥さんの再婚話は僕の憶測でしかないので、詳しくは話さなかったのだけど、ルーファウスはそれだけの話を聞いて呆れたように大きく溜息を吐いた。


「全くあの人は子供達を放って何をやっているのだか……ん? タケル、その髪飾り……」

「あ、これは――」


 僕はロイドに買ってもらった事を正直に話そうとしたのだが、ルーファウスの背後でロイドが慌てたように身振りで言うなと言う。何でだ?

 確かにルーファウスはロイドを目の敵にしている節があったが、そういうのは嫌だと率直に告げてからはルーファウスもあからさまな嫌悪感は出していないと思うのだ。けれどやはりロイドはロイドで何か思う所でもあるのだろうと思って、僕は適当に誤魔化す事にする。


「依頼料が入ったので買っちゃいました。これ、防御魔術が付与されているらしいんですよ、凄いですよね」


 僕の言葉にルーファウスはまじまじと髪留めを見やり、しばらく観察したのちに「タケル、つかまされましたね」と苦笑した。


「え? つかまされたって……?」

「その髪飾り、魔術の付与はされていません。魔石は本物なので一概に紛い物とは言いませんけど、言ってしまえば付与前の素材です。防御魔術を付与するのなら別途術師にお願いしないと」

「…………!?」


 嘘だろ、そんな事ってある!? まさか普通のお店でこんなに簡単に騙されるなんて思っていなかった僕はぽかんとしてしまう。でも僕たちは店主がそう言ったからその話を鵜呑みにしただけで、その事実に気付けなかった自分達のこれは自業自得とも言えるのだ。

 鑑定スキル、使っておけば良かった……


「あんの、クソ親父っ」


 ロイドが静かに拳を震わせ怒っている。あああ、落ち着いて、落ち着いて!!


「それにしてもその髪留め、私も同じような物を持っていますよ」


 そう言ってルーファウスが自身の鞄から大事そうにそっと出してきたのは、綺麗な布に包まれた髪留めだった。使い込まれているようで金具の光沢はなく、石も一部破損しているが、確かにそれは僕の髪留めとよく似ていた。


「これは以前、私の恩人がとても大事に愛用していたものなのですよ」


 余程大事なものなのか、ルーファウスはその髪留めをまたそっと布に包んでしまい込んだ。

 僕はそんな風に大事にされている髪留めを見て思う。確かに騙されてがっかりしたという気持ちがない訳ではない、けれど僕は自分の髪に留められたままの髪留めを撫でる。


「僕、この髪留め好きです」

「ん?」


 確かに防御魔術が施されている髪留めというのは付加価値的にとても魅力的だったけれど、これはロイドが僕に似合うと言って買ってくれたものだ。それを価値が無いものと決めてかかるのは違うと僕は思ったのだ。


「魔術が付与されていなかったのは少し残念ですけど、僕はこの髪留めが好きです。だから僕、この髪留め大事に使おうと思います」


 僕がにっこり笑ってそう言うとロイドは顔を真っ赤に染めて、ふいっと瞳を逸らした。そしてルーファウスは「それでいいと思うよ、よく似合っている」と笑みを浮かべて僕の髪を撫でてくれた。



 昔馴染みと飲みに行っていたアランが宿屋に戻ってきたのは夜半過ぎの事だった。というか、実際のところは何時に帰ってきたのかは判然としない、というのもトイレに起きた僕がべろべろに酔ったアランを見付けたのがその時間だったから。アランは部屋の外の扉脇に泥酔状態で潰れるように寝入っていて、さすがにここまで潰れたアランを見たのは初めてな僕は困惑した。

 アランはどちらかといえば酒は陽気に呑む方で、宴会の空気に酔って陽気になっている事はあっても、こんな風に潰れるまで呑む事は今までなかったのだ。


「アラン、こんなとこで寝ちゃ駄目ですよ。部屋に戻りましょう」

「んあ?」


 僕が寝落ちているアランの肩を揺さぶると、かなり酒臭い呼気のアランはそのまま僕に抱きつき倒れ込んできて、僕はアランの重みに潰されてしまう。

 アランは半獣人で元々かなり体格がいい。体長は恐らく2メートルを越えていて、がっしりした筋肉の付いたアランの身体に組み敷かれては子供の身体の僕にはどうする事もできやしない。


「ちょ……苦しい、苦しい! アラン起きて!」

「……んで……」

「?」


 アランが僕を抱き締めたまま何事か呟く声が聞こえた。


「な、んでだ、イライザ……なんで……」


 ああ、やはりアランがこんなに呑んだのは、奥さんの再婚がショックだったからなのだろう。アランはきっと奥さんの事を本気で愛していたのだろう。色々な事があって一緒に暮らせなくても、それでもアランは一途に彼女を想い続けていたのだと思うと何だか胸が痛くなる。

 アランはとても愛情深い人だ、見ず知らずの子供である僕を助けて見返りだって求めない、シェアハウスの仲間をとても大事にしていて、いつも楽しそうに笑い合っていた。きっとそんな彼の愛情は家族にだって同様に注がれていたはずで、離れていてもその愛情は変わらなかったと思うのだ。

 でも僕は、アランのその気持ちを理解しつつも奥さんの気持ちも理解できてしまう。もう王都には居られないと飛び出してきたアラン、付いて来なかった奥さんはどんな気持ちで彼を送り出したのだろう、本当はアランに行って欲しくないという気持ちもあったのではないだろうか? 奥さんだってきっと彼を待っていたと思うのだ。でもさ、やっぱり十年は長いよ……

 お金だけは常に仕送りしていたみたいだけど、それだけの繋がりでは繋ぎとめておけない感情だって恐らくあると思うのだ。

 アランに黙って再婚するなんて酷いひとだと奥さんを糾弾しアランを慰めるのは簡単だけど、そんな事を言える立場に僕は居ない。


「イライザさんは、アランより先に足を踏み出しただけなんじゃないのかな」

「? 足を、踏み出す……?」

「僕たちは今、旅をしてる。歩かなければ目的地には辿り着けないよ、人生だってそれと同じで立ち止まってたら何処にも行けない。だからさ、イライザさんは自分の目的地に向かって歩き出したんじゃないのかな?」

「自分の、目的地……」


 アランの腕が少しだけ緩む。僕はその隙をついて彼の腕から抜け出し、寝転がったままのアランの脇に座り込んだ。


「アランはさ、イライザさんと一緒に歩いていきたかったんだよね」

「……ああ、そうだな」

「だけど、アランの行きたい場所とイライザさんの目的地は長い時をかけて少しずつ変わっていってしまったのかもしれない。自分の目指す場所には立ち止まっていたら辿り着けない。だから、イライザさんは自分の道を、自分で選んで歩き出したんじゃないのかな……」

「…………」


 長い長い沈黙、僕は傍らに転がったままのアランの髪を撫でる。アランの髪はふわふわしていてとても触り心地がいい。

 廊下の窓から差し込む月光がうっすらとアランの影を浮かび上がらせるが、その表情までは判然としない。でも、僕はそれでいいと思う。

 やっぱり大の大人が弱っている所を他人になんて見せたくないよね。


「前から思っていたが……」

「ん?」

「タケルは年齢を、詐称してるだろう?」


 しまった、つい年齢の事なんか気にせずに普通に慰めてしまった……確かにこんな人生語る10歳とかどうかしてる。


「あ、はは……そんな事、ないですよ?」

「まぁ、別にタケルが何歳だろうと、誰が迷惑をこうむる訳でもないし、どうでもいいが」


 むくりとアランが上体を起こして、僕の隣に座り込み、その大きな掌で僕の頭を撫でて「ありがとな」と、そう言った。


「ルーファウスが僕に言ってくれたんですよ、もっと他人を頼れって。僕、そういうのあんまり得意じゃなくて、だけどアランもルーファウスもロイド君も皆僕に優しくて、だから僕、皆に頼っている分だけ自分も頼られる人間になりたいなって思うんです」

「お前はもう充分頼りになってるよ」


 そう言ってアランは僕を膝の中に引っ張り込み、僕の後ろ頭に顔を埋める。もしかして泣いているのかな? なんて思ったけれど、僕は何も言えなくて、アランの気が済むまでアランの腕の中で大人しく抱かれていた。



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