リーダーは君に決まりだ!
僕たちが暮らしていた街シュルクは大陸の西方にあった、僕たちが今から向かうのはそのシュルクから南方にあるダンジョン都市メイズ。僕は依頼の為に街の外へ出る事は度々あったがシュルク以外の街へ行くのは初めてだ。
ここで余談なのだが、冒険者ギルドというのは各主要都市に必ずといい程置かれていて冒険者が旅に出る時は旅の道程でこなせそうな依頼をこなしつつ旅費を稼ぎながら旅をするのが一般的なのだそうだ。そのため冒険者は各都市の冒険者ギルドで依頼の受託と報告ができ、必ずしも受けた依頼の報告を同一の都市で行わなくてもいいようなシステムが出来上がっているのだそうだ。
依頼情報はすべて登録されたギルドカードの中に収められており、職員が特別な魔道具で処理をすれば、今まで受けた依頼数や達成率なども一目で分かるようになっているのだ、ハイテク!
これ、ある意味魔道具はパソコンでギルドカードは電子カードみたいなものなのではないだろうか? これでカードに電子マネーなんか入れられるようになったら完璧だな、なんて思っていたら、そんな機能も付いているらしくて僕は更に驚いた。
「このカードの中にお金、入れられるんですか!?」
「正しく言えばギルドが預かってくれるんだけどな。階級が上がると依頼料もだんだんに上がってくるだろう? その場合受け取った金をそのまま受け取る事も可能だが、ギルドに預ける貯金という形にする事もできるんだ」
「硬貨は多いと重くなりますし、大金を持ち歩くと不埒者に襲われるリスクが上がりますからね。その点このカードが一枚あれば何処の冒険者ギルドでもお金を受け取れますし、預ける事も出来るのでとても便利です。けれどギルドカードの扱いはくれぐれも慎重に、紛失した場合はすぐに最寄りのギルドで再発行手続きを取らなければ、最悪全財産根こそぎ持っていかれる場合もありますのでお気を付けください」
なるほど、この冒険者ギルドカードは銀行のキャッシュカードと似たようなものなんだな。身分証でもあり、キャッシュカードでもある、これは落としたら大変だ。ちゃんと保管しておかないと。まぁ、現在僕のカードにお金なんて全く入ってないんだけどさ。
「まぁ、その話は一旦置いておいて今後の話を致しましょう。これからメイズに到着するまで、本来なら依頼を受けつつ旅をしていくというのが一番賢い旅の仕方なのですが、冒険者ギルドの仕組み上、タケルが依頼を受けるとその情報がギルド内で共有されてしまいます。ギルドはギルドで冒険者個人の情報を守る守秘義務というのは存在しますが、それはあくまで建前上、正式な手続きを踏めば情報は公開されてしまいます。ですのでタケルは今後しばらくほとぼりが冷めるまでは冒険者ギルドで依頼を受けるのは避けた方がいいと私は考えています」
ああ、そうなんだ。
確かにギルドのシステムでいくと僕が依頼を受けたらその情報は即座に全世界の冒険者ギルドで共有されてしまう訳で、それをエリシア様が正式な手続きを踏んで情報開示請求をしたら僕の居場所なんて即座に教会側にバレてしまうのか。便利な反面不便なシステムだな、いや、そもそも誰かに追われるような生活をするのが間違っているという話でもあるのだけど。
「ただこれもずっと、という話ではありません。冒険者ギルドへの情報開示請求は正当な理由がなければ跳ねつけられます、手続きも複雑で手間も時間もかかりますからそう頻繁に開示請求はできないはずです。エリシア様もそこまで暇ではないでしょうし、数年程度音信不通にしてやれば、恐らく諦めると私は思っています」
確かにルーファウスの言う事はもっともだ、でも数年……数年かぁ……
「でもそうしたら、僕は数年間はお金も稼げない上にランクも上げられないって事ですよね……」
生活が……僕の楽しいはずの冒険者ライフが開始早々座礁に乗り上げてしまった。どうするんだよ、これからの生活! まだルーファウスに立て替えてもらっている色々なお金も返せてないのに!
「まぁ、そういう事になりますね。ただタケルのその反応も想定内です、タケルは自分の力でお金が稼ぎたいのでしょう?」
「それはそうですよ、今だっておんぶに抱っこで甘えさせてもらってるのに、こんな生活じゃいつまで経っても自立できないじゃないですか! 僕は冒険者以外の職を模索しないといけない」
だけど僕が出来る仕事ってなんだ? 料理人? 接客業? せっかく魔法が使えるんだし、それを生かせるような仕事ができたらいいけど、こんな子供の姿ですぐに働ける所なんてあるか? いや、そもそも今からダンジョン都市に向かうって言うのに、その旅費すら稼げないなんて完全に詰んでるじゃないか!
「おいおい、タケルあんまり思い詰めんな。確かにギルドで依頼を受ければその情報はギルド内で共有されちまうが、それは個人の依頼に関してだけだ、パーティーで依頼を受ける分には代表者の情報が共有されるだけでメンバーに関しては共有されない」
「え……」
「パーティーでの依頼の場合、途中でパーティーメンバーが入れ替わるなんて事もありますのでね、代表者が取り纏めて依頼を受ける形になるのですよ。なので心配しなくても依頼を受けられますし、依頼を達成できれば実績として蓄積もされます、もちろん報酬はパーティーメンバーで山分けです」
「神様!」
思わずルーファウスとアランを拝んでしまった。これもやっぱりおんぶに抱っこではあるのだけど、稼ぎ口が確保されただけでも有難い。
「ただなぁ、俺達が依頼を受けると、どうしても高ランク依頼からやって欲しいってギルドの奴等から言われちまうんだよな。俺達はそれでも構わないが、タケル達には少しばかり荷が重い依頼ばっかりになっちまいそうでなぁ。前に俺の戦闘スタイルの話もしたろ? ルーファウスだけだったらともかくお前達に怪我させちまいそうで不安なんだよな……」
そう言ってアランが僕とロイドをちらりと見やる。パーティでの依頼というのを僕は今まで一度しか受けたことがない、そのゴブリン討伐依頼の時は代表者がロイドだったのだけど現在僕とロイドは階級が同じなのでその時は何も思わなかった。けれど、確かに代表者がルーファウスになるにしてもアランになるにしても僕たちとの階級差は大き過ぎる。
「あ、ちなみに私はあなた達とパーティーは組みません」
「!?」
しれっとルーファウスの爆弾発言、僕はショックで愕然としてしまう。
ここまでルーファウスには散々甘やかされてきた僕は当然今回だってルーファウスやアランが何とかしてくれると勝手に期待してしまった。なのにルーファウスは僕とはパーティーを組まないという。
確かに僕とルーファウスの間には大きな階級差があって、足手纏いにしかならないのは分かりきった事なのだ、ルーファウスが組みたくないのだって当然と言えば当然の事だった。なのに組む気はないと言われてこんなにショックを受けている自分にもビックリだ、僕は自立しなければと思いながら、心のどこかで彼に甘えきっていた事に動揺が隠せない。
一連の事を瞬時に考え青褪めた僕に、ルーファウスは「話は最後までちゃんと聞いてくださいね」と慌てた様子で僕の腕を掴む。
「何も私はあなたが嫌でパーティーを組まないと言っている訳ではありません、これはあの人を騙すための作戦です」
「あの人を、騙す……?」
僕がきょとんと首を傾げるとルーファウスはそのまま説明を続ける。
「少し考えれば分かる事ですが、私はあの街であなたを弟子にすると宣言していた、それはギルド職員にも伝わっています。そこであなたが消えて私も消えたら、当然私とあなたは一緒にいると彼らだって考えるでしょう、なので私はあなた達とは組まずに別の土地で関係のない依頼を受けて、しばらくの間各地を転々としようと思っています」
「それじゃあ、この先ルーファウスは別行動……?」
「いいえ、行動は共にします。離れる訳ないでしょう? 私はあなたをお護りすると言ったはずです」
そう言ってルーファウスがにこりと笑みを見せた。
「でも、さっき各地を転々とするって……」
「私、転移魔術が使えるのですよ。この魔術は自分が行った事のある場所なら何処へでも一瞬で行けます」
あ、そういう事か。
例えば僕たちがアランを代表者にパーティー依頼を受けている間、別の土地でルーファウスが依頼を受けていればアランとルーファウスは別行動を取っていると思ってもらえる。ルーファウスと僕が行動を共にしていると勘違いしてもらえれば、聖女様の目はそちらに向く、目くらまし! あれ? でも……
「ねぇ、今ふと思ったんだけど、ルーファウスはメイズには行った事あるのかな?」
「ありますよ、それがどうかしましたか?」
「ルーファウスがその転移魔術でメイズまで連れてってくれたら、僕たちわざわざ旅する必要なくない?」
これは僕にだけ都合のいい話だけれど、そうやって連れて行って貰えれば旅費を気にする必要がなく旅ができると考えたのだ。旅費を気にしなくても良ければ無理に依頼を受ける必要もないしとても助かる、けれど……
「……却下」
ルーファウスが急にスンとした表情で首を振る。
「え、でもさ、旅費も浮くし……あ、もしかしてものすごく大変? 魔力消費が激しいとか」
「それももちろん理由のひとつです、転移魔術は魔力消費が激しいので一日にそう何度も使用はできません、それに私の転移魔術は本来個人使用するもので多数を転移できる術でもありません」
「え? え? でもこの間は?」
僕は確かにルーファウスに抱っこされて街の外からシェアハウスへと帰還したのだ、だったら……
「タケルは小さいので抱いていけましたけど、アランのこの巨体を抱いて行けと? 無理ですよ、不可能です」
あ、ああ、そういう事か……確かにルーファウスの体格は魔術師らしく線が細くてお世辞にも逞しいとは言えない、そんな彼にアランを抱いて行けと言うのはさすがに無理がある。
「確かにタケル一人を連れて行くのであれば私は何処へだって運んで行けますよ、けれど……」
ルーファウスがちらりとアランとロイドの二人を見やる。うん、分かったよ、無理を言って申し訳なかった。
「まぁ、という訳で、今後このパーティーの代表者はお前だから!」
アランがポンっと傍らにいたロイドの肩を叩く。一瞬何を言われたのか分からなかったのだろう、ロイドが鳩が豆鉄砲をくらったような間抜け面でぽかんとしたあと、慌てたように「な、なんで俺!?」と声をあげた。
「理由は今全部説明しただろ? タケルは依頼を受けられない、俺が受ければ高ランク依頼になって大変、そんでもってルーファウスは別行動、必然的にお前が代表者になるしかない、な」
「勝手に付いてきたのですから、それくらいは役に立ってもらわないと。それとも今から帰りますか? お見送りはできませんが」
けらけらと笑うアラン、文句があるのなら帰れと言わんばかりのルーファウス、困惑した様子のロイドがちらりとこちらを見やる。
「ごめん、ロイド君、お願いしてもいいかな?」
「うっ……タケルは、俺でいいのか?」
「ロイド君さえよければ」
何故か微かに頬を朱に染めたロイドが「分かった」と、頷いた。
よっしゃ! これで転職は免れた! 危うく食いぶちを失う所だったよ、危ない危ない。
こうして僕たちはパーティーを組む事になった、近距離攻撃系二人、遠距離攻撃系二人で意外とバランス良いんじゃないかな?




