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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第二章

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42/212

そんな間抜けな死に方は嫌すぎる

 スライムの身体はなおも膨れ続けているのかルーファウスの張った結界にヒビが入り始めている。そのヒビの入った隙間から結界の外にいたスライムが入り込み、更にスライムの膨張は続き遂に結界は粉々に砕け散り光の欠片となって宙に消えていった。僕とロイドはそれを唖然と見守る事しかできない。


「これ、どうなってんだ……?」

「僕にもちょっと分からない、かな」


 僕たちは抱き合うような形で急にスライムの中に放り込まれたので、現在はロイドが僕を押し倒しているような体勢になっている。2人揃って事の展開についていけなくてそのままの態勢で硬直していたら、「これは一体どういう事ですかぁぁ!!!」という叫び声が外から響いた。

 声の主を見やればルーファウス、一体何処から現れたんだ?

 ルーファウスは僕たちが何を言う間もなく杖を構えて、こちらへ向けて攻撃を放つ、ロイドは僕を庇うようにとっさに覆いかぶさってくれたのだけど、待てど暮らせど衝撃はやってこない。あれ?


『このくらい全然へいき~』『ね~』


 という呑気な声が頭に響いた。見れば膨張したスライムの身体がぼよんぼよんと揺れている。けれど僕たちには全くのノーダメージ。


「くっ、これは一体何なんですか!」

「あ、あ、ルーファウスさん、やめて! たぶん大丈夫だか……」


 最後まで言い終わらないうちにルーファウスの次の攻撃がライム目がけて飛んでくる、けれどその攻撃は効かないどころか、あろう事かライムの表皮で弾かれてルーファウスの方へと跳ね返っていく。


「わぁぁぁぁ、ルーファウス!!!」


 自分の攻撃をもろにくらったルーファウスが崩れ落ちる。ライムは相変らず楽しそうに『平気平気~』『ね~』とか言ってるけど、そんな場合じゃないんだよっ!!


「ライムっ! 今すぐこの結界解いて!」

『え~?』『もういいの~?』『楽しかったのにぃ』


 口々に不満を漏らすスライム達だけど、目の前で倒れたルーファウスが動かないんだよっ! ルーファウスはどんだけ強力な魔術使ったの! そんでもってそれを跳ね返すってライムの身体は一体どうなってんだ!?

 ライムの身体がシュルシュルと縮んでいくのと同時に僕たちはライムの中から弾きだされた。僕はルーファウスに駆け寄って息があるかの確認する。

 呼吸……してない? 嘘だろ? 誰か嘘だと言ってくれ!


「ルーファウス! ルーファウス、目を開けて!! 死んじゃダメだよ!!」


 こんなまるで自爆みたいな方法で彼が死んでしまうなんてあり得ない、しかもそれが僕の従魔のせいだなんて彼の親御さんたちに顔向けができないよ。

 どうしよう……どうすればいい? こんな時、そうだ! 人工呼吸!!

 僕は自分のローブを脱いでルーファウスの頭から首の下に押し込んで気道の確保、鼻を摘まんで息を吹き込む、そして続けて心臓マッサージ、やってて良かった救命訓練! まさかこんな所で役に立つとは!

 何度かそれを繰り返していると、意識は戻らないもののルーファウスの息が戻った。安堵と共にへたり込む僕の元に「タケル! ルーファウス、大丈夫か!?」とものすごい勢いでアランが駆け戻って来た。


「何とか、息は……でも……」


 よくよく見ればルーファウスは酷い怪我を追っている。どんな魔術を使ったのか分からないけれど、ローブは避けて所々焦げ付いているし、手足も火傷だろうか赤く腫れあがっていく。

 やばいやばいやばい、これは絶対やばい。


「俺、エリシア様を連れてくる! 彼女なら聖魔法で何とかしてくれるはずだ!」


 あ……聖魔法。そうか、そうだよ! 聖魔法! この世界は魔法が支配する世界なんだよ、そして僕は聖魔法のスキルだって持っている! なんで忘れてるんだよ、僕の馬鹿!! ここでチート能力使わないで、いつ使うのさ!


回復ヒール! 回復ヒール!! もう何でも良いから治れぇぇぇぇ!!!!」


 僕の叫びと共に瞬間辺りから音が消えた。その後に自分から溢れ出る何かが辺り一面を覆いつくしキラキラとした光が大量に降ってきた。


「え……」


 それはかなり広範囲に広がり、不思議と空気が澄んでいくのを感じる。


「た、タケル……?」


 声に反応してルーファウスを見やれば、目をぱちくりさせているルーファウスが何事もなかったかのようにむくりと起き上がった。


「タケル、これは……?」

「よく、分からない、ですが……ルーファウスが、死ななくて、良かったぁぁぁぁ」


 ボロボロと涙が零れて止まらない。もし彼があのまま死んでしまっていたら、彼の死は僕の責任だ。もし万が一そんな事になっていたらと思うと背筋が凍る。

 涙が止まらない僕をルーファウスは困ったように抱き締める、良かったよ、ちゃんと心臓動いてる。


「おい、ルーファウス、タケル、何が起こった!? これは何だ!?」

「これは奇跡です……」


 僕たちが返事を返す前にアランの腕の中から誰かが目の前に降り立った。


「これはまごう事なき神の奇跡! 今の一瞬でこの地全てが浄化され、淀んでいたモノ全てが一掃されました。こんな奇跡に立ち合えた事を私光栄に思いますわ!」


 あ、なんか面倒くさい人来ちゃった……

 エリシア様が感極まったような表情でルーファウスの腕の中の僕に跪く。


「やはり私へのお告げは間違いなどではありませんでした。あなたこそが我が教会の、いいえ、この国の、この世界の、救いの神子様に違いありません!」

「………………」


 さすがに涙も引っ込んだ僕は、ルーファウスの腕の中で「違う」と首を横に振る。


「いいえ、私は奇跡を目の当たりにして更に確信を深めましたわ。あなた様は間違いなく、偉大なる初代聖者様の生まれ変わりです!」


 反論する気力もない僕はぐったりとルーファウスにもたれかかった。なんかよく分からないけどすごく疲れてる。


「大丈夫ですか、タケル?」

「僕、もう帰りたいです」

「そういう事なら帰りましょう、顔色が悪い」


 エリシア様はまだ何かを喋っているのだがそんな言葉はガン無視でルーファウスは僕の言葉を優先してくれる。


「大変申し訳ないのですが、タケルの体調が悪そうなので一足先に帰らせていただきます」


 そう言うとルーファウスは僕を抱き上げ、ローブを翻す。そういえばルーファウスの怪我もさることながら何故かルーファウスのローブも綺麗に直ってる。もう何でもいいから全部治れって念じたせいかな?

 風が吹く、まるでエレベーターに乗ったかのような一瞬の浮遊感、ルーファウスのローブがふわりと落ちると、そこはもう僕たちの部屋で僕は驚いた。


「え? あれ……?」

「転移魔術は初めてですか?」


 ……転移? そんなのもあるんだね、魔法ってホント便利だ。でもどうやってやるんだろう? これも複合魔術なのかな? この世界にはまだまだ僕の知らない魔法がたくさんあるなぁ。

 ルーファウスの腕から降ろされ僕は自分のベッドに腰掛け溜息を吐く。何だろう、本当にいつも以上に疲れている。こちらの世界にやって来てからこんなに疲れたのはあのゴブリン事件以来だな。


「そういえば、腕、平気ですか? 息とか、苦しくないですか?」

「私ですか? 私は全く問題ないですよ、むしろいつもより元気なくらいで」

「そう、それなら良かったです」

「それにしても、一体誰に襲われたのですか? 私の結界を破るなんてよほどの手練れとしか……」


 未だに誤解をしたままのルーファウスに一から事情を説明すると、ルーファウスは落ち込んだ、それはもうこちらが見てて可哀想になるくらいべこべこに凹んだ。


「まさか自分の早とちりで命を落としかけるなんて……我ながら浅はかすぎて穴があったら入りたい、むしろ埋まってしまいたい」

「まぁまぁ、結果無事だったので良しとしましょう」


 完全に落ち込みモードなルーファウスに僕は話を変える事にする。


「そういえば、結局見に行った魔法陣のようなモノは何だったんですか?」

「え……ああ、あれは壊れた転移魔法陣でしたよ、明らかに人為的に壊されていて何処と繋がっていたのかは分かりません。ですが、オークの爪痕が残っていたので恐らくタケルを襲ったオークはあの転移魔法陣で何処からか送られてきた、と考えるのが妥当でしょうね」

「一体何のために……?」

「それがすんなり分かれば苦労はしないのですけれどね」


 まぁ確かにその通りか、誰が何の目的でオークをこの地へ送ったのか。少なくとも友好的に送って寄越したなんて事はあり得ないのだけは確かだな。


「エリシア様は何故あそこに居たんですか?」

「ああ、それでしたら彼女は聖女様ですので闇の気配に敏感なのですよ。東の草原から闇魔法の気配を感じると仰られて、辿り着いたのがあの場所だったようですね。そして聖なる力で土地を浄化しようとしていた所を、丸ごとタケルが浄化してしまった、という感じでしょうか」


 タイミング悪っ!

 エリシア様があの場にいた事もだし、僕がうっかりライムを暴走させてしまった事も、ルーファウスを助けようと聖魔法を使った事も何もかもがタイミングが悪すぎた……


「エリシア様、僕が嫌だと言ったらこのまま引き下がってくれると思います?」

「まぁ、無理でしょうね」

「ですよねぇ」


 僕はまたしても大きな溜息を吐く。


「タケルはどうしたいですか?」

「正直に言うと逃げたい、です。聖者様とか神子様とか、そういうの本当に僕には向かないと思うので」

「いっそ本当に逃げてしまいましょうか?」

「……え?」


 ルーファウスの瞳が真っ直ぐこちらを見詰めている。


「別にこの街に固執する必要がないのであれば、何処へだって行けますし、私は何処にだって貴方をお連れしますよ」

「ルーファウスさん、本気ですか?」


 確かに僕はこの街に固執などしていない。けれどルーファウスはこの街に必要とされている人物だと思っている。後輩冒険者達に慕われ、頼りにされている存在で、なのにそんな人を僕のわがままひとつで振り回していいとは思えない。


「私は本気です。それと私の事はルーファウスとお呼びください、敬称は必要ありません」

「えっと、何を突然?」

「貴方は私の命の恩人であり、私と貴方は対等です、どうぞ遠慮なくルーファウスとお呼びください。先程はそう呼んでくださいましたよね?」


 え? そ、そう、だっけ……?

 そういえば彼が死んでしまうかもしれないと思った時には思い切り呼び捨てにしてた気がしなくもないけど。

 何だか色々考えているとただでさえ疲れているのに、余計に疲れがどっと増す。それと同時に僕の腹の虫がぐぅぅと間抜けな声をあげた。


「あ~……お腹、空きましたね」

「そうですね、休む前に腹ごしらえでもしましょうか。今日はタケルも小遣い稼ぎは止めてここで食事にしましょう。何か外で買ってきますよ」


 そう言ってルーファウスは部屋を出て行った。僕はこてんとベッドに横になる。なんか本当に疲れたなぁ……僕はただ平和に静かに暮らしたいだけなのに。



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