やはり装備は大事です
ゴブリン騒動から一夜明け、僕達がシェアハウスの大広間に行くとそこは朝っぱらから宴会会場だった。何故?
「そりゃあ、仲間が怪我をして意識がないってなったら目を覚まさせるために宴会するし、目が覚めればめでたいからやっぱり宴会はするだろう!?」
いや、まったく意味が分かりません。仲間の目が覚めて宴会はかろうじて分からなくもないけれど、仲間が目を覚ますように宴会ってどういう事? それ、絶対飲みたいだけだろ!
まぁ、そんな軽口を叩く冒険者さん達だが、実は夜を徹して僕の襲われた洞窟の調査をしてきてくれたらしく、帰って来たばかりだというのだから僕は頭が上がらない。
たぶん皆徹夜でテンションがおかしくなっているんだろうな、有難いけど早く寝た方がいいと思うよ。だけど何かと理由を付けて飲みたい面々はそんなのお構いなしみたいだ。元気だなぁ。
そんな呑気で陽気なシェアハウスの面々を後にして朝一番で向かったのは雑貨屋さん。何故雑貨屋なんかに来たのかと言えば、昨日僕の洋服がなくなってしまったからです。全部破かれて捨てられたからね! 僕は一着しか服持ってなかったのに!
この世界、基本的には既製服という物が存在しない。お金持ちは店で仕立てる事もあるそうなのだが、庶民は布を買って自分で仕立てるか古着を買うかのどちらからしい。
という訳で、僕は服を買いに来ました。せっかくの貯金がなくなりそうだよ。
僕は現在アランのシャツを一枚羽織った姿で、靴もないので抱っこです。パンツだけは昨日のうちにルーファウスが準備しておいてくれたのがせめてもの救いだよ。
ちなみに僕を抱いてくれているのはアラン。本当はその役目ルーファウスがやりたがっていたのだけど、何となく遠慮した。
というかぶっちゃけ今朝の事があって、僕自身がルーファウスにどういう態度でいたらいいのか分からなくて僕からアランにお願いしたんだ。ルーファウスは不服そうだったけど、僕にも色々思う所があるので察してくださいとしか言えない。
僕は雑貨屋で服を選ぶ。
「買うなら絶対長袖長ズボン、暑かったらまくればいいだけ、肌の露出なんて言語道断!」
昨日の事があるので僕の服の購入基準はデザインより機能と防御力重視、ここは絶対譲れません。
シャツに上着とズボンを二本、それに今まで履いていたのと同じようなショートブーツを購入したら僕の全財産は消えてしまった。杖の購入なんて夢のまた夢だな。
「それだけで良いんですか? 金額が問題なんだったら私が払うよ?」
「借金、ダメ絶対! ルーファウスさんには宿代も立て替えてもらってるのにこれ以上は甘えられません」
僕がルーファウスからの申し出を断ると、アランが「払いたいって言うんだから甘えておけばいいのに、こいつ意外と金持ってんぞ」とちらりとルーファウスを見やる。
「今回のドラゴン調査だって多少は金になったんだろう?」
「まぁ、金貨で数枚はいただきましたよ」
おお、金貨! という事は数万円か、多いのか少ないのかよく分からん。
「う~……でもダメ、借金良くない」
「お前のその借金に対する頑なさは何なんだ?」
だって借金って嫌な響きだろ。
返さなければいけない負債、それはとても重いものだ。踏み倒す術だってない訳ではない、けれどそれは自分の負うべきもので、自分の信用にも関わる。それを僕は嫌というほど知っている。
「っていうか、こいつはタケルに貢ぎたいんであって、借金にはならんだろう、なぁ?」
「そうですね、あなたは私の弟子ですし、弟子であるあなたの装備を一式揃える事は師匠である私の義務であると考えます」
嘘だぁ、師匠にそんな義務はないと思うよ。
「というか、君はまたそんな軽装備で魔物討伐に出るつもりですか。そんな装備で冒険に出掛けると言うのなら私は師匠としてタケルの街からの外出を禁止します」
「え、それは困る! 生活費が稼げない!」
「だったら大人しく師匠の言う事を聞きなさい」
そう言って、結局僕はロイドから貰ったモノより上等な皮の胴着と僕のサイズにピッタリなローブ、それに子供用の短刀をルーファウスに買ってもらってしまった。
「あとこれも持っていて、きっと君の役に立つ」
そう言って手渡されたのは斜め掛けのできる小ぶりな皮のショルダーバック。使い込まれた物なのか皮はくったりしているが、まだ全然使えそうな頑丈そうな鞄だ。
「お前、それって……」
「何ですか? そんなに幾つも所持していても仕方のない代物なんですから別にいいでしょう?」
「いや、でも、それ売ったら相当金になんだろう?」
「私の個人所有のアイテムに口出しされるいわれはありません、どうしようと、誰に譲ろうと私の勝手です」
んん? 何? このバックそんなに高価な代物なの? 見た目には普通の皮のバックにしか見えないんだけど、ブランド物か何かなのか??
意味深な言い合いの後、諦めたように息を吐いたアランが「それ、蓋開けて中を見てみろ」と、そう言った。
言われた通りに袋の口を覆うようにベルトで止められたバックの蓋を開けると、なんか中が異次元だった。
ぱっと見ただけでは底が見えない、手を入れてみても鞄の内布に手が当たらないし物を入れたら失くしそうなほど中が広い、けれど欲しいと思えば収納物が手元に出てきて超便利。
「あの、これどうなってんですか?」
「それな、ダンジョン産のマジックバック。見た目以上に容量大きいから色々突っ込んでおける優れモノ。あまり流通してる物じゃないから大きな声で言うんじゃないぞ、狙われるからな」
まさかの魔法道具か! これ絶対高価なやつじゃないか!
「こんなすごいの、貰っちゃって良いんですか!?」
「幾つか持ってるから問題ないよ。冒険に荷物はつきものだけど、こういうのはひとつあると便利だからね」
さすがAランク冒険者、こんなすごいアイテム幾つも持ってるってどういう事? しかも僕なんかにぽんとくれるなんて、なんて気前がいいのだろう。
「ありがとうございます! 大事に使いますね!!」
僕は鞄の中に今日買った諸々の商品を詰め込んだ。さすがマジックアイテムなだけにどれだけ入れても重くならない、これは本当に便利だ。楽しくてつい色々モノを詰め込みたくなってしまう。
でもこれがあれば持ち切れないからと諦めていた薬草採取が更に捗るぞ、やったね!




