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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章

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閑話:少年ロイドの青い春(後編)

 俺の小さくなった皮の胴着をタケルに譲り、タケルにスライム討伐依頼を受けさせた。ってか、こいつ小さいぞ、思ってたより全然小さい。俺がすでに着られないサイズの胴着なのに若干身幅が余ってる、小さいというか細いのか? 筋肉が無いのか? そうだよな、こいつ魔術師だもんな、ひょろひょろしてても不思議ではない。それにしても細すぎる気がしないでもないけど。ちゃんと食ってるのか心配になった。

 いっちょ前にスライムを前にして「よしっ!」と気合を入れてるタケルはやる気に見える。頑張れ頑張れ、討伐依頼はランクアップの為には絶対一度は受けなきゃならんのだからな。

 なんて、思っていたのだけど、いざスライムを前にしたらタケルはへにゃりとその場に崩れ落ちて「スライムが可愛すぎて討伐なんて無理」とか抜かしやがった。はぁぁぁ!? 


「だって、こいつ等可愛いだろ!? ちょっと食べ過ぎるだけで悪さする訳じゃないのに、何も殺さなくたって……」


 可愛いのはお前だよ! だけどそんな理由で討伐失敗なんてあり得ないからな! スライム抱き締めてんな! ってか、スライム共も完全にタケルを舐めきっているのかタケルの周りをピョンピョン跳ね回っていて逃げる素振りもないの何なんだよ! 俺の傍にはもう寄ってきもしねぇのに! 

 あ、そういえば討伐依頼って討伐対象の魔物をどうにかすればいいだけのはずで、もしタケルがこいつを従魔に出来れば依頼クリアできるんじゃないか?

 スライムだってこんなにタケルに懐いてんだし、こいつもしかしたら従魔師スキル持ってんじゃねぇか?


「そいつを従魔にすりゃ、一応一匹倒したって扱いにしてもらえるはず、確か」

「! それ、どうすればいい!?」

「どうって、俺、従魔師じゃないし、知らね。でも、なんかそいつお前にすっげぇ懐いてるみたいだし、こう、何とかすればできんじゃね?」


 俺には従魔師テイマースキルなんて無いからやり方なんて分からないのだが、思いつきで言った言葉にタケルが反応した。そして色々あって、本当にスライムを従魔にしてしまった。

 ってか、スライムが合体してどんどん巨大化してったのにはマジでビビった、あれ何だったんだ? あんなスライムの行動初めて見たぞ。

 スライムなんて弱くて役に立たないくせに食べるのだけは一人前で従魔になんてするもんじゃないとか聞くけれど、タケルもスライムも嬉しそうにしてるから、まぁいいか。

 そんなこんなでタケルと仲良くなったらBランク冒険者の疾風のアランさんに俺も稽古をつけてもらえるようになった。

 タケルは体術に関しては弱っちくてへっぴり腰ではあるのだけど、やる気だけはあるみたいで疾風のいう事はよく聞いている。疾風もそんなタケルが可愛いのか熱心に指導をしていて、まるで親子か兄弟みたいに見える。

 タケルって不思議だよな、気が付けばスルッと人の懐の中に入り込んでニコニコ笑っている。素直になれない俺は相変らず憎まれ口ばかり叩いてしまうけれど、今となっては弟分として可愛がってやろうという気持ちになっているのだから変な感じだ。

 タケルのスライムは『ライム』と命名されたらしいのだけど、俺達が稽古をしていると草原で時々巨大化している。ホントあのスライム何なんだろうな……

 巨大化したスライムが現れると、小さなスライムの数は減っていくのでもしかして食べているのか? 共食いなのか? 恐ろしい。恐ろしいけど、俺達Gランク冒険者の受けられる討伐依頼なんて数が限られている訳で、スライムが減ったら依頼が出なくなって困るんだよな。

 冒険者ランクのGランクからFランクへの昇格は実はさほど難しくない。Gランクというのが冒険者としてのお試し期間という事もあって、依頼を30件受注達成できればいいだけなので、真面目に依頼をこなしていれば一ヵ月もすればFランクになれるのだ。

 ただし、条件として討伐依頼と採取依頼をどちらも最低一回は受注達成していなければならない。俺達は二人ともその条件はクリアしているけれど、依頼数がまだ足りていない、だから昇格できない。

 俺は採取依頼があまり好きではないのでできれば討伐依頼を受けたいのに、Gランクで受けられる討伐依頼なんてスライムくらいしかなくて、そのスライムの討伐依頼が無くなると必然的に採取依頼をするしかなくなってしまいとても不満だ。

 スライムの代わりに最近はゴブリン討伐依頼も出ているのだが、ゴブリンはスライムよりも討伐難易度が高いのでGランク冒険者での単独討伐は受け付けてくれない。だからゴブリン討伐依頼を受けたければ誰かとパーティーを組まなければいけない訳だけど、スライムを倒したくないという理由だけで従魔にしているタケルがゴブリン討伐依頼を受けるとはとても思えない。

 誰か他にパーティー組める奴を探さないと駄目かなと思っていた矢先、何故かタケルがゴブリン討伐依頼を受けてもいいと言いだした。まさかタケルが積極的に討伐依頼を受けるなんて思わなかった俺はその言葉に即座に飛びつく。


「そうと決まれば依頼受けに行こうぜ!」

「え? 今から!?」

「こういうのは決めたらすぐに行動した方がいいんだよ、行くぞ、タケル!」


 タケルの気が変わらないうちにと俺達は依頼を受けてゴブリンが出るという東の草原へと赴いた。けれど東の草原へは始めて来たというタケルは終始ビクビクしている。俺はこの草原には何度も来た事があるが別段そこまで怖がるような魔物なんて出ないんだけどな。

 確かにホーンラビットやコカトリスは出るけれど、奴等はこっちが攻撃しなければ攻撃してくる事はない。ゴブリンだって俺様の剣技にかかれば楽勝……とそんな風に思っていたのだが、そんな俺の考えが間違っていたと思い知らされたのは、タケルがゴブリンに攫われた後だった。


「な!? え、タケル!?」


 「助けて」という悲鳴のような叫びと共にタケルの姿は伸びきった草の陰に消えてしまう。俺はそれにどうする事も出来ず、固まったまま動けない。そんな俺を叱咤するように同行していた疾風が「お前は街に戻って冒険者ギルドにこの事報告してこい!」と声をあげた。


「え、でもすぐに追いかけないと!」

「追いかけるのは俺が行く、あのゴブリンども連携が取れすぎてておかしい、万が一だが大規模なゴブリンの集落があったら俺等だけでは対処ができない、だからお前は応援を呼んでこい!」


 それだけ俺に指示するとそのまま疾風はタケルを追いかけるように草原の向こう側へと消えていった。


「大規模集落……」


 ゴブリンは一体一体は大した事のない雑魚なのだが、繁殖力が異常に高く数が増えると危険度が増す厄介な魔物なのだ。楽勝だと高をくくっていた俺は一気に青褪め、街へと駆け出した。

 どんな雑魚でも魔物は魔物、危険がない事なんてなかったんだ。タケルはろくな装備も持っていない。武器だって何ひとつ持っていないのに、俺がこんな場所まで連れて来てしまった。

 手が震える、怖い、どうしよう……タケルに何かあったら俺は一体どうすればいいんだ! 恐怖に脅えながらも冒険者ギルドに駆け込むと、受付には見慣れたシルバーブロンドの男性が一人、受付のギルド職員と話していた。


「あれ、君は……」

「友達が、タケルが、ゴブリンに……どうしよう、攫われてどっか連れてかれ――」

「!? 場所は何処ですか!」

「ひ、東の草原、今、アランさんが、追いかけてて……」


 俺の言葉に血相を変えた白銀の魔術師はすぐに踵を返してギルド職員の制止も聞かずにギルドを飛び出して行った。

 唖然とするギルド職員に俺は改めてアランさんからの言伝を告げる、すると職員も事態を察したのかすぐに各方面に手配を回してくれた。

 俺は震えが止まらない。楽勝だと思っていたのだ、こんな事になるとは思っていなかった、装備を整えてから出直そうと言ったタケルを鼻で笑いさえした自分を殴りたい。

 俺も捜索に加わろうと草原に向かおうとしたら、今は駄目だと止められた。Gランク冒険者が一人でうろうろしていて更に被害が拡大したら目も当てられないと言われてしまったら俺にはもう何もできない。

 俺は街の東門で彼等の帰りを待った。何も出来ずにただ待ち続けるのはとても辛い。なんで俺はもっと早くに冒険者にならなかったのだろう。なっていたら今頃はもうFランクに昇格していたし、きっと捜索にも参加ができた、そもそももっと俺がしっかりしていればタケルをこんな目に遭わせる事もなかったのだ。

 悔しい、悔しい、悔しい、自分の不甲斐なさが悔しくて仕方がない。

 永遠とも思える時間を待ち続けていたら、ルーファウスさんが自身のローブに包んだタケルを抱いて戻って来た。アランさんも一緒だ。それに他にも何人か女の人達もいる。

 ルーファウスさんの腕の中のタケルの顔は真っ白で、ローブから僅かに覗いた細く白い足にはくっきりと青痣ができていた。意識はないようでぐったりしているその姿はとても痛々しい。


「君、今回の当事者だよね? ちょっとギルドで詳しい事情聞かせてもらえるかな?」


 俺はすぐにでもタケルの容態を聞きたかったのに、その場でギルド職員につかまり事情聴取のためギルドに連行された。俺が自分の知る限りの話を職員に聞かせると、わりとすぐに解放されたのは幸いだった。

 今日は今から冒険者たちによって草原の大規模なゴブリン調査が行われる事に決まったらしい。もちろん俺みたいなペーペーは参加させてもらえない。

 俺はギルドからのその足でタケルが暮らしているという冒険者専用簡易宿泊施設に赴いた。さすがに冒険者専用なだけあって、冒険者が総出でかり出されてしまっては宿はとてもシンとしている。あまりに静かすぎて少し怖いくらいだ。

 受付の人に部屋を聞いて扉の前に立ったら、僅かに人の話し声が聞こえた。そこで俺の知った声が聞こえた気がして、俺は部屋の扉をノックする。

 返事も待たずに扉を開けて、目に飛び込んできたのはタケルの無事な姿で、不覚にも一気に涙が零れた。


「た、タケルが無事で、良かった。死んだら、どうしようって、俺、怖くて、ごめん、タケル、俺が無理やり、ゴブリン討伐なんか連れ出したから、怪我、本当に、ごめん、ごめんなさい」


 ベッドの上にちょこんと座っているタケルの手首にも足首にも青痣が見える。こんな細くて小さい子供に俺はなんて危険な事をさせたのか……


「わ、わ、わ、泣かないで、僕、大丈夫だから。ちゃんと生きてる、怪我だって大した事……」

「大した怪我ではありますよ」


 当の本人は相変らず呑気な笑みだが保護者はそうはいかないようで険しい表情をこちらへと向ける。

 分かってる、分かっています、ごめんなさい。もうこんな怪我絶対させません。誓ってもいい、こんなの俺の神経の方が持たないよ。

 タケルにはまだ安静が必要だという事で俺はさっさと部屋を追い出された。

 家に帰ったらうちの両親は草原の調査に呼ばれたようで家には誰もいなかった。ああ、一人でいるとさらに落ち込む。ホント俺って役立たずだ。

 タケルは明日冒険者ギルドで事情聴取だと聞いたので、明日ギルドでもう一度ちゃんと謝ろう、そしてこれからは俺があいつを守らなければ!

 でも、もしかしたらタケルに「もう一緒に冒険はしたくない」って言われるかも……先程の感じではそれほど嫌われた感じではなかったけれど、きっと嫌だよなぁ、俺、今までだってずっと感じ悪かったしさ。

 落ち込む、でも、でも、誠心誠意謝ればきっとタケルは許してくれる、たぶん……自信ないけど。

 ぐったり疲れた俺はその後飯も食わずに寝てしまった。そして、その晩俺はとんでもない夢を見る。


「ロイド君、ロイド君、見てこれ、すごく痛かった」


 タケルが俺の前に青痣だらけの腕を差し出す、その腕は本当に細くて白くて触れたら折れてしまいそうだ。


「こっちも、酷いんだよ、ほら」


 タケルはいつものショートパンツで、パンツから覗く太腿にも青い鬱血痕がちらちらと見える。それは白い肌と相まってとても鮮明な色をしていて痛々しい。


「ごめん、タケル本当に、ごめん」

「うん、だからロイド君はちゃんと責任取ってね」

「ん? 責任?」

「すっごく痛いからナデナデして?」


 そう言ってタケルは俺にずいっと近寄って来る。


「ロイド君がナデナデしてくれたら、痛くなくなると思うんだよ、だから、ね?」


 タケルがショートパンツの裾をたくし上げるようにその白い肌を晒す。

 いやいやいや、それはマズい、マズいだろ!?


「ねぇ、ロイド君、ナデナデしてよ」


 またしてもグイっと寄ってきて下から俺を見上げるタケルが可愛すぎる! 何だこの可愛い生き物、睫毛長げぇ……

 元々整った顔立ちをしているのは分かっていた、けれどこんな潤んだ大きな瞳に見つめられ迫られるなんて想像もしていない俺は慌てる。


「た、タケル……?」

「ロイド君は僕が嫌い?」

「い、いや、そんな事はない! そんな事はないぞっ!」

「だったら、ここナデナデしてよ」


 脚の付け根のきわどい場所に俺の手を誘導するこいつは誘っているのか? 天然なのか? 俺の心臓はバクバクと高鳴り収拾がつかない。


「ねぇ、ロイド君……」

「ま、待てっっ!!!」


 俺はベッドから飛び起きた。

 ヤバイこれ、なんだこの夢。時間はそろそろ陽の昇る時間、朝日がやけに目に眩しい。未だに心臓はバクバクとうるさく高鳴って収まらない、しかも自分の下肢に恐る恐る目をやれば、勃ってる……


「あ――うっそだろぉ……」


 いや、こんなの一時の気の迷い。タケル相手にそれはない、ないだろ、普通に考えて。タケルはまだ子供だぞ、それをそんな目で見るとかあり得ないって……

 自分に深く絶望しつつ、勃ってしまったものは仕方がない、俺はタケルの肢体を頭から排除しつつ己を扱く。

 こんなのは普通にある事で、男ならば誰にでも起こりうる自然現象だと頭では分かっている。けれど今日からどんな顔してあいつと接すればいいんだと、俺は己を扱きながら激しく途方に暮れていた。


 こうしてタケルがルーファウスに口説かれていた同時刻、タケルの知らぬところで別の恋愛フラグも立っていたのだが、当の本人は目の前の事に手一杯で、それに気付くのはまだまだ先の話。

 

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