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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章

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32/212

その後

「そもそも何でタケルは一人であんな危険な場所に取り残されていたのか、まずはその辺の話をじっくりと聞かせていただきたいのですが?」

「ええと、それはまぁ、話せば長くなるというか、こんな事になるはずじゃなかったと言うか……」

「私、ここを離れる前にあなたにはタケルから目を離さないように何度も何度もお願いしましたよね?」

「お、おう」

「で、それなのに何故、タケルはこんな怪我を負う羽目に!?」


 なんだか枕元が騒がしい。ここは一体何処だったか? 僕は一体……


「! ライムは!? っ、たぃぃ」


 がばりと飛び起きたら身体の節々が痛くてもう一度ベッドに沈む。ってか、ここシェアハウスの僕のベッドだ、僕、帰ってこられたんだ……


「タケル!」


 ルーファウスが慌てたように僕の顔を覗き込む、それに遅れてアランもその脇から僕の顔を覗き込んで「目が覚めて良かった」と、そう言った。


「良くないですよ! タケルのこの腕、こんな酷い青痣、痛々しくて見てられませんよ!」

「いや、それに関しては本当に悪かったって……」


 ルーファウスがアランをギャンギャンと責め立てる。けれど、まぁ、あの場合は本当に仕方がなかったというか、タイミングが悪かったというか、これはアランだけの責任ではないのでそんなに彼を責めないで欲しい。


「ルーファウスさん、僕は無事だったので大丈夫です」

「無事じゃないです、腕だけじゃないんですよ、こんな、こんなの……私が傍についていさえすれば……」


 ルーファウスが泣き出しそうに顔を歪ませ、まるで壊れモノを扱うかのように僕を抱き締める。本当に僕のことをとても心配してくれていたのだなと思うと何だか心が温まる。


「そういえばルーファウスさん、ドラゴンは?」

「誤認情報、ドラゴンはドラゴンでも地を這う土龍アースドラゴン、調査だけでほぼただ働きで帰ってきましたよ」


 アースドラゴンってドラゴンって名前に付いてるんだからドラゴンなんじゃないのかな? と思ったら、ドラゴンみたいな魔物ってだけでドラゴンじゃないんだってさ。本物のドラゴンには翼があって空を飛ばなければ本物のドラゴンとは言わないらしい。


「そういえばタケル、先程ライムとか何とか言ってましたが、それは一体誰ですか?」

「そうだよ、ライム! アランさん、ライムは!?」

「俺も分らん、お前を助け出した時には近くにはいなかったぞ」


 僕はざっと青褪める、逃げ出した所を見ているから死んではいないと思うが、もしかしたらライムはあの場に置き去りに……


「迎えに行かなきゃ!」

「いや、お前は無理するな。迎えに行くなら俺が行く」

「でもアランさんはライムの区別つかないですよね?」

「む、まぁ、それはな……」


 ライムの声は僕にだけ聞こえる。そしてライムの姿は他のスライムとほとんど変わらない。スライムは大体どこにでもたくさんいて、その中の一匹を探し出すというのはとても骨が折れる作業だと思う。


「ねぇ、タケル、ライムっての言うのは……?」

「僕の従魔のスライムです」

「従魔? スライムを?」


 ルーファウスが怪訝な表情だ。


「ライムは僕の大事な友達なんです、助けにいかないと!」

「スライムだったら、そこに居るけど……」


 ルーファウスが指差した先、部屋の窓硝子の向こう側べったり張り付くようにしてスライムが部屋の中を窺っていた。そのスライムは少し薄緑色をしているが、サイズは明らかにライムより小さい。


「ライム!?」

『う……うぇぇぇぇぇ、タケルぅぅぅ』


 ルーファウスが窓を開けるとライムはぴょんと僕の胸に飛び込んでくる。ライムは元々他のスライムより一回り小さな個体だったけれど、そのサイズは今までよりも更に小さく、僕の片手の掌に収まってしまいそうなサイズにまで縮んでいる。しかも今までライムの身体には程よい弾力があったのに、今日のライムはまるで力がなく液体のように緩んでいる。

 僕の胸元に引っ付いてプルプル震えているライムは余程怖かったのかずっとべそべそと泣き続けているけれど、何はともあれ生きていた事にはホッとした。


「その子が君の従魔?」

「はい、スライムのライムです。これでいてビッグ・スライムらしいですよ」


 僕の言葉にライムがまた身体を震わせる。


『ううううう、ボクね、ビッグ・スライムじゃなくなっちゃった、もっとたくさん大きくなって、ヒュージ・スライムになろうと思ってたのに、ただのスライムにもどっちゃったぁぁぁぁ』


 ライムが更に大きな声で泣き出した。やっぱりスライムの生態ってよく分からないな……


「ライム、ライム、落ち着いて。僕は別にライムがビッグ・スライムじゃなくてもライムが無事だっただけで嬉しいよ」

『でもぉ、ボクたち、タケルのお役立ちになれるかもって、がんばってたのにぃぃ、うぇぇぇぇぇ』


 僕がプルプルと震え続けるライムを撫でながら慰めていると、ルーファウスが「タケルはそのスライムと意思疎通が出来てるのかい?」と小首を傾げた。

 いつだったかアランとも同じような会話をしたような気がする。やっぱりスライムと意思疎通が出来るのって珍しいのかな?


「ライムとは普通に会話ができますよ。ほらライムももう泣かない。そんなに泣くと身体が溶けちゃうだろ。たくさん食べてまた大きくなればいいからね」

『うえぇぇぇ』

「スライムが……泣いてる?」

「あれ泣いてるのか? ただ震えてるようにしか見えないんだが……そもそもスライムって鳴かないよな? 口もないし」


 ルーファウスとアランが揃って怪訝そうな顔をしている。確かにスライムって透明なゼリー体に核だけで視認できる各種感覚器官はひとつもないもんな。

 どうやって見て、どうやって聞いて、どうやって喋ってるのか僕にだって分らない。それでも身体を震わせてライムが泣いているのは分かるので胸が痛い。

 その時、部屋の扉をコンコンと控え目に叩く音が響く。誰か来たみたいだ。


「あの……タケルの具合は?」


 部屋に顔を覗かせたのは少年剣士のロイド。僕がベッドの上で身を起こしているのを見るやいなや、だーっと涙を流して号泣し始めた。


「た、タケルが無事で、良かった。死んだら、どうしようって、俺、怖くて、ごめん、タケル、俺が無理やり、ゴブリン討伐なんか連れ出したから、怪我、本当に、ごめん、ごめんなさい」

「わ、わ、わ、泣かないで、僕、大丈夫だから。ちゃんと生きてる、怪我だって大した事……」

「大した怪我ではありますよ」


 ルーファウスが横から釘を刺す。でも命に別状はなかったんだからいいじゃないか。済んだことをいつまでも根に持ってもしかたなくないか?


「あの場にエリシア様がいたから今現在タケルは動けていますけど、彼女がいなかったらと思うとゾッとします」

「エリシア……様?」


 なんか聞いた気がする名前だけど、誰だっけ?


「ですが、彼女もあなたに助けられたと感謝していましたよ」

「あ、あの時、足を怪我してたお姉さん? 皆さん無事でしたか?」

「タケルのお陰で全員無事ですよ。ですがタケル、彼女達を助けたのは立派な行いですが一人で戦いに挑んだのは無謀もいい所、タケルは彼女達を助ける前に助けを呼ばなければいけなかった」

「でも、そんな事してる間にお姉さんたちに何かあったらって……」

「その男気には感服しますけれど、そういう事は自分の身を自分で守れるようになってからです」


 全く持って正論過ぎてぐうの音も出ない。僕はまだこの世界の事を知らなさ過ぎる。


「そういえばエリシア様がタケルの意識が戻ったら今回の事、是非礼をさせてもらいたいと言っていましたよ」

「別にそんなのいいのに……でも、エリシア様って周りの人もそう呼んでいましたけど、もしかして何処かの御令嬢なんですか?」

「ああ、そうか、君は知らないんだね」


 ルーファウスがひとつ頷く。


「彼女の名前はエリシア・グランデ、王都にある教会所属の聖女様だよ」


 聖女! うわぁ、やっぱりいるんだそういう人! しかも姓があるって事は貴族の御令嬢だ。


「それにしても王都の聖女が何でこんな辺鄙な田舎に来たんだろうな? ろくに護衛も付けてなかったんだろ? 無事だったから良かったものの、聖女様に何かあったら大事だったぞ」

「そこは私にもよく分かりませんが、私、王都に行って少し気にかかる事があったのですよ」

「気にかかる事?」


 ルーファウスが少し難しい顔をして話し出す。


「元々我が国グランバルト王国は王家と教会が密な関係にあります。王家の後継ぎは聖女と婚姻するのが習わしで、エリシア様もそれに倣い第一王子と婚約をしていたはずです。けれど調査のため国境へと赴いた時に第一王子も共に調査へと向かわれたのですが、何故かエリシア様とは別の女性を同伴されていたのですよ。しかも見るからに親密そうな素振りで、とてもあからさまでしたね」

「うわぁ、それって浮気か? 妾って事か?」

「連れていた女性も一応エリシア様ほど徳の高い方ではないにしても聖女ではあったそうなので、一概に浮気とも言い切れませんが、仮にも正式に婚約している女性がいてあの行動は少しどうかと思いましたね」


 ああ、それは確かに気にかかる。王子様一体何してんの? あんな美人のお姉さんが婚約者だってのに一体何が不満なのさ?


「まぁ、そんな訳で、こんな田舎でエリシア様を見付けた時には、絶対何かあるなとは思ったのですけど、下手な事を言うとロクな事にならないと思ったので敢えてスルーしました」

「それはたぶんルーファウスが正解だな。人の恋路になんて他人が口出すこっちゃねぇ、しかもそれが政権がらみじゃ余計にややこしくなる予感しかしない」


 何だかよく分からないけど、あのお姉さん、色々大変な人だったんだな。


「まぁ、タケルに一言謝辞を述べたいそうなので一度はお会いしなければならないとは思いますけど」


 「それでも今日一日は絶対安静です」と僕はルーファウスにベッドへと戻された。

 ロイドには「これからはもう絶対今日みたいな無理させないから」と何度も謝られ、ライムは僕の枕元で平べったく広がっている。どうやら疲れたのか寝入ってしまったようだ。

 今日は一日大変だったな……でも無事に生還出来て本当に良かった。今日一日あった事を思い返してみれば、もっと上手に反撃できる方法はいくらでもあっただろうにと思うのだが、まだまだ僕は何事も経験不足だ。

 この世界で生きていくために、僕はもっと強くならなければという思いを新たに僕は眠りについた。



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