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ファンタジーな異世界の人と出会いました

「なんだ坊主、獣人は初めてか?」

「お兄さんは獣人なんですか?」

「正しくは半獣人な。俺の父親が獣人族、熊部族のグリズリー種、母親は人族だけどな」

「半獣人……」


 おおお、いよいよもってファンタジーな人物に出会ったぞ! 僕の目の前でアランの丸い耳がぴくぴくと動いていて可愛らしい事この上ない。


「俺の名前はアラン、こっちはルーファウス、お前の名前は?」

「あ、武流です。鈴木武流」


 アランと肩を並べて歩き出したシルバーブロンドのお兄さんの名前はルーファウスというらしい。


「おや、君は名持ち? という事は貴族の子かな? スズキという姓はあまり聞かないけれど、どこから来たんだい?」


 なんと! この世界、苗字が有るのは貴族だけなのか? とするとあまり姓は名乗らない方がいいな、そもそも僕は貴族なんかではないのだから。

 ルーファウスは僕を見上げて僕に何処から来たのかと問いかけた。


「えっと……向こうから」


 僕は背後の森を指差した。するとアランが驚いた様子で「迷いの森から!?」と声をあげる。

 あの森『迷いの森』って言うのか……踏み込まなくて良かった。原っぱ方面に足を向けた僕の選択は正しかったんだ。


「タケルは何で迷いの森なんかに居たんだ? 家は街にあるんだろう?」


 アランの問いに僕は困ってしまう、どう説明したらいいんだろう。そもそも異世界から来たとか言って信じてもらえるだろうか? っていうか、それってこの世界の人に言っていい話なのかな?


「家は、ないです」

「この街の子じゃない……? じゃあ何処から?」


 僕はどう答えていいか分からず途方に暮れて黙って首を振った。


「分からないのか? ご家族は?」

「気付いたら森の傍に居たんです、それ以外はさっぱりで……」


 嘘はついていない、だって僕はこの世界の事を何も知らないし、もちろんここには家族だっていやしない。

 そういえばこの身体は前の僕の身体とは明らかにサイズが違うのだけれど、この身体の本来の持ち主が居たりするのだろうか? それともこの身体は神様が創造したものなのだろうか?


「記憶がないのか?」

「そういえば迷いの森には精神を混乱させる闇の魔力を持った魔物が住んでいるって聞いた事あるな」

「だとしたらタケルは迷いの森でそいつに記憶を奪われた?」

「可能性は否定できない」


 アランとルーファウスが、何となく納得できる理由を見付けてくれたので、僕はそのままその話に便乗する事にする。


「僕、これからどうすればいいんでしょう……」

「あ~とりあえず街の教会に行ってみるか。タケルのステータスを確認してみれば何か分かるかもだし」

「ステータス……?」

「そう、教会に行けば自分のステータスや個人の基本情報が確認できる。鑑定スキルを持っていれば教会に行かなくても見られるらしいけど、鑑定スキルはレアだからな」


 へぇ、そうなんだ。

 結局「ステータス・オープン!」を言い渋って、自分のステータスの確認をしていない僕は、どっちにしても見なきゃ駄目なんだなと諦めた。神様が色々補正しとくねって言ってたけど、どんな感じになってるんだろう?

 僕はアランに肩車されたまま、街への門を越えた。僕は通行証というか身分証を持っていなかったのだけど、アランが事情を説明してくれて教会で身分証の再発行を条件に仮の証明書を持たされた上で街へと入れてもらえた。

 僕一人だったら街にすら入れなかったかもしれないと考えると二人と一緒で本当に良かった。

 街の外で野宿なんて絶対嫌だ! だって街の外にはスライムがたくさん飛び跳ねているのだ、こちらから攻撃しなければ無害だとアランは教えてくれたけど、それでも服を溶かされたのはトラウマだ。それに僕は攻撃なんかしていない、一緒に行こうと一匹抱き上げただけだ。

 けれど契約もなしに仲間を連れていかれたら魔物だって仲間が攫われたと思うんだよ、とルーファウスに諭されて己の考えの浅はかさを思い知った。


「特にスライムみたいに弱くて群れで生活している魔物は仲間意識が強いからその辺はちゃんとしないとね」


 と、丁寧に教えてもらって手順は大事なんだなと僕は学んだ。


「そういえばタケルはテイマースキルを持っているの?」

「分かりません」

「なのにスライムを連れて行こうとしたの? 何のために?」

「……可愛かったので……」


 僕の返答にアランがぶふっと吹きだした。なんだよ、笑わなくてもいいじゃないか!


「タケルは世間知らずのお坊ちゃまみたいだな。名持ちみたいだし、本当に箱入り息子なんだろう。家族が心配しているだろうから早く帰してやらないとな」


 そんなアランの言葉に「僕って、そんなに幼く見えますか……?」と思わず僕は問うていた。

 正直、僕は現在の自分の年齢がよく分からないのだ。まだこちらの世界にきてから自分の姿をはっきりと見ていないし、どんな容姿をしているのかすら分からない。


「ん? 子供扱いは嫌か?」

「いえ、そういう訳じゃないですけど」


 子供だと思って肩車している相手が実は40過ぎのおっさんだなんて夢にも思っていないであろうアランには何となく申し訳ない気持ちになる。


「今までタケルはあまり子供扱いされてこなかったのかな? 貴族の子は幼い頃から厳しく躾けられると聞くし、大人と同じような振舞いを求められると聞いた事もある。そういえばタケルは言葉遣いがとても丁寧だよね」


 ルーファウスまでもが何やら僕に不憫な子供を見るような瞳を向けるので僕はとても居たたまれない。だって僕は正真正銘おっさんで、姿はともかく中身は子供ではないのだから同情されると逆に困る。

 ここは某アニメの名探偵のように子供らしくふるまうべきか!? だけど、僕の大人としての矜持がそれを邪魔する。某名探偵は大人の姿も高校生だが、こちらは40過ぎのおっさんだぞ、しかも結婚もしていないせいで子供が身近にいたのは遥か過去、今時の子供の生態が分からない……


「何か嫌な事思い出させたか? それに、もしかしてお前家出してきたとかそんな事……」

「それはないです!」


 黙ってしまった僕に気遣わし気なアランの言葉。僕は即座にそれを否定した。


「確かに僕の記憶はあやふやですが家族について嫌な感情は持ってないです……たぶん」


 僕はとっさに前世の家族の事を思い出す。僕は家族が好きだった。うん、好きだったと思う、たぶん……

 断言できないのは僕の中で少しだけわだかまるモノがあるからなのだが、けれど本当に僕は家族の事を嫌いだった事はないはずなのだ。

 最後の身内である母を亡くしたのは三年前、それから僕は天涯孤独の身の上で、どちらかといえば家族がいなくなって寂しいという気持ちしかない。

 だけど、それは本当に……?

 母の葬儀の時に去来した感情が僕の脳裏を掠め、僕は慌ててその想いを頭の中から追い出した。


「どうした、タケル?」

「何でもないです。それよりも教会ってまだ遠いんですか?」

「ああ、もうすぐだ。あそこの尖った屋根の建物、あそこが教会だ」


 僕がアランの指さす方に視線を向けると、そこにはいかにもな形をした真っ白な建物が立っていた。十字架こそ立っていないが、いかにも教会らしい教会にこれは分かりやすいなと僕は苦笑した。



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