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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章

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アランの意外な過去

 ロイドとの一件があった晩、部屋で「こっちに来い」と手招きされた僕はアランのベッドの上で膝の上に乗せられてぐりぐりと撫で回されていた。相変らずアランは距離が近い、これ、一体どういう扱いなんだろう……

 あ! スライム? 僕にとってのスライムと同じ!? 癒しかペットとしての扱いであるのならば僕も同じようにライムに接しているので、もはや何も言えない。


「ああ、ホントこの感じ懐かしい……」

「あの、アランさんって、もしかして年の離れた兄弟でもいるんですか?」

「ん~兄弟って言うか、娘がな……」


 娘!? まさかの子持ち!?


「アランさんって結婚してたんですか!?」

「ああ、まぁなぁ……王都で暮らしてる」


 衝撃的な告白に僕は言葉が出てこない。これは聞いていい話? 一人でここに暮らしてるって事は単身赴任? 赴任? じゃないな、だって冒険者は自分で活動場所を選べるし、王都にだって仕事はいくらでもあるだろう。

 だとしたら離婚? もしそうなら迂闊な事は聞けないぞ……


「そんな困ったような顔すんな、別に家族仲は悪くない。ただ俺が王都に居られなくなって出てきたってだけの話だからな」

「……なんで一人で?」

「嫁は王都生まれの王都育ち、田舎に移住なんて嫌だと言われてしまってな、元々俺が王都に居づらくなったのは俺の責任で俺の自業自得だから俺一人で出てきた。でも今もちゃんと仕送りはしてるぞ」


 思っていた以上に重い話が出てきて僕はどう返事を返したものかぐるぐると考え込んでしまう。


「タケルは別れた娘と同じくらいの歳だから、つい、な」


 そうか、アランが僕を撫で回すのは会えない我が子の身代わりだったのか。迷子になったら危ないからと抱き上げられたのにも納得だ。相手が娘ならばその辺はより気を遣っていただろうしな。


「会いに行かないんですか?」

「今更どの面下げて会いに行ったものやらって感じだな、王都にはまだ俺を忘れていない奴もいるだろうし、娘たちの生活を脅かすのもどうかと思うしな」


 生活を脅かす? 忘れていない奴がいるってどういう事だろう? 一体アランは王都で何をやらかしたのだろうか? 正真正銘冒険者であるアランは犯罪者ではあり得ない、けれど何か他人に迷惑をかけるような事をしたのかな……?

 僕が何も聞けずに黙っていると、アランはそんな僕に気付いたのかぽつりぽつりと話し出した。


「今日、俺の戦闘スタイルの話しただろ、王都にいられなくなったのもそのせいでな、一緒にパーティー組んでた仲間に大怪我させたんだよ。幸い一命は取り留めたがパーティーは壊滅、怪我をした仲間ももう二度と冒険者に戻れない程の大怪我だった。俺が狂戦士バーサーカー化したのは不可抗力だった、そうしなければ俺含めパーティー全員死んでいた可能性もあった、それでも仲間に怪我を負わせたのは俺だ『死ななくて良かっただろ』なんていくら俺が図太くたって職を失った仲間に言える訳ないよな」


 アランは僕を抱き締めたまま僕の頭に顔を埋めて大きく溜息を吐く。


「パーティーの仲間は誰も俺を責めたりはしなかった、だけど口さがない連中はいくらでもいて、俺はそこから家族を置いて逃げてきたんだ……はは」


 『逃げてきた』その言葉は自嘲を含む声色でアランの孤独を感じさせる。


「それからは仕送りしながら一人であちこち放浪したな、そんな旅の道中でルーファウスに出会って、ようやく最近俺は人と関わるのが怖くなくなってきた所なんだよ」

「そうなんですね……」


 人と関わるのが怖い。それは僕にも覚えのある感情だ。周りに人はたくさんいる、それでもそんな場所に居てさえ孤独は心を蝕んでいく。


「俺はなんで子供相手にこんな話をしてるんだろうな」


 自嘲気味に笑うアラン、その声にはいつもの元気がない。いつも場を盛り上げるタイプの陽キャの典型みたいな人だと思っていたのに思いのほか重い過去を背負っていたのだな。


「子供だって話くらいは聞けますよ。気の利いたアドバイスなんて出来ませんけど、それでアランさんの気持ちが少しでも軽くなるなら僕は聞きますよ」

「はは、タケルは年齢を誤魔化してんじゃないのか? なんだよその大人な返答、うっかり甘えちまいたくなるだろうが」

「僕で良ければ甘えてください」


 僕が年齢を誤魔化してるのは間違いではないし、騙しているという部分で後ろ暗い気持ちもあるのでこれくらいはね。

 まさかアランも腕の中で囲っているのが40過ぎのおっさんだとは思っていないだろうし、現在は可愛い見た目の僕だから、それで少しでも心が軽くなるのならばいくらでも甘やかしてあげるよ。いつもお世話になってるからな。


「はは、タケルがあともう10歳歳を重ねてたら惚れてたな」

「奥さんいる人が何言ってるんですか、不倫は絶対ダメですよ」


 そもそも僕はいくら可愛い顔をしていても男だという事を忘れてもらっては困る。アランは「真面目だな」ともう一度笑って「タケルにも覚えておいて欲しい事がある」と真剣な声音で僕の顔を覗き込んだ。


「ルーファウスは俺が正気を失ったらいつも水の中に沈めると言っていた、俺はその時正気を失っているからどうやってるかまでは分らないんだが、たぶん何かしらの水魔法だと思う。もし俺が手に負えない時はタケルも手加減せずに俺を殺すつもりで攻撃してくれ」


 あまりにも真剣な表情のアランに僕は頷く事しかできない。でも、もしその攻撃で本当にアランが死んでしまったらと思うと、僕にそれができるか少し不安だ。


「よし、いい子だ」


 僕の戸惑いを知ってか知らずかそう言ってアランは笑い、僕の頭をくしゃくしゃに掻き回した。その後は他愛のない事を取り留めもなく話していたのだが、そのうち僕を抱き枕にして彼はそのまま眠ってしまった。王都にいた頃にはこうやって娘さんを抱っこして寝ていたのだろうな。


『タケル、タケル、今日はこっちでねないの?』


 スライムのライムが僕のベッドの上でぴょんぴょん飛び跳ねている。

 抱き枕はどうかと思うけど、人肌って温かいんだよね……


「ライムもこっちおいで」


 アランの腕の中には僕、僕の腕の中にはライムを抱えて僕はその日眠りについた。



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