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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章

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19/212

Aランク冒険者は大変ですね

 そういえば、晴れてお金を手に入れた僕は異世界生活3日目にして居候生活から卒業する事になった。自立した生活へ一歩前進だ!

 とはいえ、相変らず部屋はアランやルーファウスと同じなのだけど。

 本当はお金を払って一人で六人部屋に移るつもりでいたんだよ、プライベートがほぼないって言われたけど、そこはそれ仕方がない、背に腹は変えられないしと思っていたんだ。だけど僕がそれを告げると、何故かルーファウスが強固に反対した。

 「タケルは自分の立場が全然分かってない!」って引き止められて僕は首を傾げる。

 僕の立場って何だっけ? ただのなりたて冒険者じゃなかったっけ? 自分でお金を稼げるようになったのだから、いつまでも居候などせず自立するのが筋じゃないのか?

 そんな風に思っていたら「私は君を私の弟子にすると決めたから!」と、ルーファウスに宣言されてしまった。


「弟子?」

「そう、私とタケルとの出会いは天が定めた運命だった、私はタケルを一流の魔術師に育てる事に決めたから!」

「おいおい、ルーファウス、何かおかしな物でも食べたのか? それとも酒も飲まずに酔っぱらってるのか?」


 アランが怪訝な表情を浮かべルーファウスを見ている。まぁ、僕もちょっとどうかしちゃったのかな? って思わなくもないけれど。


「君達は分かっていないな。魔術というものは元々学問だと言っただろう? そこに探求すべき真理があったら探求したくなるのが魔術師だ。タケルという存在は魔術の可能性を無限に広げる宝箱のようなもの! そんな君を手離すなんて私には出来ない!」

「……だそうだぞ、タケル」

「はははは、ルーファウスさん、大袈裟過ぎません?」


 乾いた笑いしか出てこない、ルーファウスって時々テンションおかしいよね。だけどそんなおかしなテンションのルーファウスに押し切られ、僕達は3人部屋に移る事になったのだ。

 3人部屋は6人部屋より値が張るけど2人部屋よりは安いとの事で、アランとルーファウスの浮いた分のお金で僕の宿泊費は一日銅貨1枚で据え置き、まずは一か月分ルーファウスが前払いをしてくれた。僕はルーファウスに返済していく形で正式に宿をゲットした。これも借金みたいなものだけど、ルーファウスが譲らなかったから有り難く申し出を受ける事にしたよ。

 僕を弟子にすると宣言したルーファウスはそれから依頼も受けずに僕に付いて回るようになった。この世界について右も左も分かっていない僕に色々な事を教えてくれるのはとても助かるのだけど、自分の仕事はしなくて良いのかな? と思わなくもない。けれどルーファウスはAランク冒険者だ、Dランクになれば家を建てられるくらいに稼げるようになるというのだから、僕みたいに忙しなく仕事をする必要はないのだろう。

 アランは僕達に付いてくる事もあれば、ふらりと一人で、もしくは他に誘われるようにしてちょこちょこ仕事に出掛けて行った。

 ルーファウスに一緒に行かなくていいのか? と問うと、自分達のように個人で活動している冒険者はそんなモノだと言われてしまった。

 冒険者と一口で言っても色々なタイプの人間がいる、数人でパーティーを組んで活動する冒険者たちもいれば、一匹狼で他人に頼らない活動の仕方をしている者もいるのだ、そしてアランやルーファウスはどちらかと言えば一匹狼タイプの冒険者であるらしい。

 僕は二人はパーティーで活動しているのだと思っていたのだが、別段そんな事もなく、一人で無理そうなら組むけれど、一人で大丈夫そうなら単体で依頼を受ける事も多いらしい。


「昔からそうなんですか?」

「若い頃は数人でパーティーを組んでいた事もあったよ、だけど歳を重ねて家庭を持ったりすると段々に冒険者を引退する者も出てきてね、結局私一人が残ってしまった感じかな、はは」


 少し寂し気に瞳を伏せるルーファウス。見た目は若い彼だが、そういえばエルフは長命だと聞いている。実年齢ははぐらかされてしまったが人族の年齢でいえばお爺ちゃんだと言われた事も思い出し、他人と生きる長さが違うというのは寂しいものだなと何とはなしに思う。

 酒に酔って「僕を置いて行かないで」と泣いていたルーファウスはもしかして今まで悲しい別れを幾つも経験してきたのかもしれない。

 置いて行かれる悲しみは僕にも分かるつもりだ。僕も家族とは死に分かれている、ずっとそこに居た人がある日居なくなってしまう喪失感は筆舌に尽くしがたい。


「一人じゃないですよ」

「え?」

「今は僕もアランさんもいるし、一人じゃないです。ルーファウスさんは僕を弟子にしてくれるんでしょう? だったら一通り魔術を学ぶまでは僕の方から付き纏いますので覚悟しておいてください」


 僕の言葉にルーファウスはしばらく瞳をぱちくりさせていたのだが、そのうち「そうだね」と柔らかく微笑んだ。



 ルーファウスと共に過ごして10日程が経った頃、いつものように冒険者ギルドへ向かったら、ルーファウスにご指名の依頼が来ているとカウンターのお姉さんが僕達へ告げた。

 依頼に指名制なんてものがあるのかと僕が驚いていたら「Aランク冒険者は数が少ないからね」とルーファウスは苦虫を嚙み潰したような表情だ。


「すみません、それって断る事はできませんか?」

「何か不都合がございましたか?」

「実は私、弟子をとる事にしたので、これからは自身の依頼は受けるのを控えて彼を育てる事に注力しようかと……」

「弟子、ですか?」


 カウンターのお姉さんが僕とルーファウスを交互に見比べている。そんなにまじまじと見られるとちょっと居心地悪いな。


「そのようなお話はお伺いしていませんでしたので、通常通りお受けしてしまっているのですが……」

「はは、ですよね。先に伝えておかなかった私の失態です。因みにどういった依頼ですか?」

「最近国境付近の山間部にドラゴンの目撃情報が相次いでいて、その為の調査、場合によっては討伐隊が組まれる事になるので参加要請です。Aランク以上の冒険者全員に王命としてかかった依頼ですので、よほどの事がない限り冒険者ギルドとしては拒否できません。ちなみに討伐依頼となった場合の褒賞としては国から白金貨100枚の提示があります」


 おおお、ドラゴン討伐! さすがAランクの依頼はスケールが違う! 国からの直接依頼、しかも噂の白金貨! 白金貨1枚百万円として一億か! 桁がおかしいな!!

 たぶんこれは依頼に対しての金額で個人で貰える金額ではないのだろうけど、それでも一億は凄い。Aランク以上の冒険者というのが一体何人くらいいるのか分からないが例え百人で割っても一人当たり百万円の仕事って相当だよ。

 いや、ドラゴンが暴れたら国が滅びると思ったら国家予算組んで討伐に向かうのもおかしな話じゃないのだろうけど。

 心の中で一人興奮している僕とは裏腹にルーファウスは更に渋い顔を隠さない。


「断るとか以前の問題でしたね……ほぼ強制じゃないですか」


 ルーファウスは大きなため息を零し渋々と言った表情で頷くと、くるりと僕の方を見やった。


「非常に不本意ですが、どうやら私は王都へと赴かなければいけないようです、しばらく不在にしますが君は無茶な行動はしないように」

「はは、大丈夫ですよ。アランさんもいますし、ルーファウスさんが色々教えてくれたので、僕ももうこの世界にはずいぶん慣れましたから」


 ルーファウスには僕が異世界から来た人間である事がバレている。過去に僕と同じようにこの世界へやって来た「スズキ・タロウ」さんと同じように、僕にも凄い力が秘められているのではないかとルーファウスは思っているようなのだが、今の所はそれ以上に突っ込んでくる事はない。

 というのも僕が異世界人だと知られた当初、監禁は嫌だ! というような事を口走った僕の言葉を真に受けたものか、どうやら時間をかけて僕の信頼を得る方向に彼は舵を切ったらしい。現在ルーファウスは完全に僕の保護者のような存在になっている。

 名目上ルーファウスと僕は師匠と弟子、だけどその実情はルーファウスがかいがいしく僕の面倒を見てくれているだけ。右も左も分かっていない僕の世話係みたいになっていて申し訳ない気持ちにならないでもないのだけど、とても助かっている。


「それにしてもドラゴン討伐って凄いですよね! さすがAランク冒険者、尊敬します!」


 僕の言葉に何故かルーファウスが死んだ魚のような瞳をしている。


「Aランク冒険者なんてそんな良いものじゃないよ、こういう時には問答無用で徴収かけられて、たかだか白金貨の1枚や2枚で命をかけろなんて、人の命をなんだと思ってんだかって話ですよ。しかも提示されているのは討伐依頼に変わった場合の褒賞、調査に関してはギルドから多少はお金が出るのかもしれませんけど実質ただ働きです」


 あ……確かに。

 高額報酬に目が眩んだけど命懸けでドラゴンと戦うとなったら100万200万じゃ安いよな。それにもし万が一命を落とした場合の家族への保障とかあるのかな? なんかそういう制度は無さそうだよね、この世界。

 だとしたら家族を養っている冒険者さん達はきっとこんな依頼受けたくないに違いない。

 ドラゴン討伐にはロマンがあるけど、現実的な事を考えだすと割に合わないと思い始めてしまった僕の気持ちは複雑だ。


「その点アランは能力自体は既にAランク相当だというのにBランクで試験を受けずに粘っているのはある意味賢い選択だと私は思いますね。無駄に頂点を極めようとしてしまった若かりし日の己の選択に後悔しきりです」


 ぶつぶつと呟き続けるルーファウス。アランはそういう意味でBランクなのかと意外な事実を知ってしまった。


「はあ、でも仕方がないですね。しばらく留守にしますがくれぐれも無茶は……」

「しませんって、分かってますよ。ご飯作って待ってますから、早く帰ってきてくださいね」

「ん……っ」


 安心させるように笑みを作って言ったら、何故かルーファウスが言葉に詰まって瞳を逸らした。僕なにか変な事言ったかな?


「どうかしました?」

「いや、何でもない。今日の君の護衛はアランに頼もう」

「いりませんって、大丈夫です」


 ここ数日僕は依頼を受けて変わらず街外の草原で薬草採取を続けているけれど、ここまで特に危険な目に遭った事はない。飛び回るスライムにもだいぶ慣れたし、同じことの繰り返しなら特別に何か起こる事もないはずだ。

 それにBランク冒険者のアランを護衛にって、そんなGランク冒険者ちょっとおかしいだろ。

 過保護過ぎるルーファウスをどうにか説得して僕は僕の依頼を受ける。今日も一日頑張ろう!



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